82話 ルーズベルトの苦悩 その2
ホワイトハウス会議室にて緊急軍事会議を行っていたが、その会議室のドアをけたたましくノックして入室する将官と従卒達が、会議中の大統領と幹部達に緊急報告を始めた。
「会議中、失礼します。大統領、火急の用件があり報告に参りました」
「うむ、報告せよ!」
「ハッ!我が陸軍基地の、、、、、」
「続いて海軍基地の、、、、」
「さらに陸軍航空隊の施設が、、、、、」
「加えて軍事工場等の施設が、、、、」
軍の従卒達は、日本軍の空爆が西海岸だけに限らず、アメリア国内中にある陸海軍、航空隊、海兵隊等の軍事基地を空爆で壊滅状態になり、さらに国内各地に点在する軍事兵器工場等も徹底的に空爆されて、施設の殆どが瓦礫の山に変わったことを幹部達に報告した。
「ホワイ?オー、マイ、ゴッド!」
「ガッデム!ニューヨークやボストンの基地までやられたのか?」
「東海岸沿いの海軍工廠や軍事関連の民間造船所は全滅らしい」
「五大湖沿いの工場も爆撃を受けたらしいぞ」
「あそこは戦車や軍事車両の製造工場があるんだぞ」
「皆、落ち着け!敵の空爆で慌てるのは理解出来るが、取りあえず静まれ」
「大統領!どうしますか?」
「どうするも、こうするもないぞ。軍事作戦のGOを出すのはワシだが、作戦の立案なり敵への対策なり戦術を練るのは軍人の仕事だろう?」
「それは確かにそうですが」
大統領と軍幹部連中が対策に悩んでいた時に会議室に別の従卒4名を連れた将官が入室してきた。
「会議中、失礼します。コチラ4名が順に現在の戦況を報告します」
「うむ、報告せよ!」
「ハイ、シアトル海軍基地、海軍工場、造船所等は全て全壊、サンフランシスコから委託されていた太平洋艦隊の半分の艦隊は、建造中のモノを含めて全て撃沈しました」
「なっ?!」
「続いて報告します。サンフランシスコの海軍工廠は全て全壊状態。ドックで建造中の太平洋艦隊の半分は全て破壊されました」
「さらに続いて報告します。大西洋艦隊がフロリダ半島ジャクソンビル東方約100km沖合の座標で敵潜水艦の攻撃を受けて、輸送艦を除いて全艦撃沈致しました」
「大西洋艦隊が全滅?アレには空母6隻と戦艦2隻がいたよな。それが全滅とは信じられぬ。
海軍長官!大西洋艦隊は世界最強の無敵艦隊ではなかったのか?」
「ハイ、大統領。確かにそうでしたが、一体どうやって撃沈されたのか?敵の魚雷なのか?」
「コチラに記載されているモノでは、輸送艦に救助された兵士の話では、魚雷ではなくロケット弾だったそうです。
また、コチラに書かれているモノでは大西洋艦隊に随伴する形で潜水艦部隊20隻が艦隊と共に同行していたそうですが、戦艦2隻が撃沈される前に水面に沢山の水柱が立ち、潜水艦部隊の定時連絡が全く無いことから全艦圧壊したと思われるとの内容です」
「海軍関係終了し、引き続き陸軍関係を報告します」
「了解、報告せよ」
「ハイ、シアトルが空爆を受けた後に、カナダバンクーバーから国境を越えて日本陸軍が侵攻し、現在ワシントン州、オレゴン州の州防衛隊が全滅し、両州共に州全土を占領されました」
「続いて報告します。
カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴが同時に空爆を受け、その後日本軍上陸部隊が海岸沿いから侵攻、上陸後にカリフォルニア州全土が占領されたとのことです」
「さらに続きます。
メキシカ国境から日本軍が侵攻、ツーソン、エルパソ両都市を制圧後、次に北上してアリゾナ州、ニューメキシコ州の両州全土を占領されました」
「さらに申し上げます。
メキシカ国境からメキシカ軍がテキサス州内に侵攻、現在サンアントニオにて我が軍と交戦中とのことです」
「な、何故だ。西海岸だけでなく北からも南からも容易に敵の侵攻を許したのか?陸軍長官!一体どうなっているのだ?」
「わ、私にも理解不能でして、早急に事態把握と収拾に努めます」
陸軍長官は、そう言って会議室を退室して陸軍省に向かった。
「大統領。カリフォルニア州全土が占領されたとのことですが、あそこには日系人収容所があったのではないですか?」
「司法長官か。捕まえた猿達を日本軍の弾除けに使おうと思っていたが、それは実現出来なかったな。ハハハ!」
「大統領。本気で日系人を人質で使おうと考えていたのですか?」
「そうだ、黄色い猿なんぞに人権なぞにあってたまるか!」
「そのイエロー・モンキーの軍にここまで攻め込まれているのです。
これ以上戦ったらアメリアの敗北は確実です。早急に和睦を結んである程度の領土の割譲を検討して宜しいのではないですか?」
「何だと?和睦だと?司法長官はそんなに弱腰なのか?我々が血と汗を流して勝ち得た領土をイエロー・モンキー共に何故譲らないといけないのか?」
「いえ、冷静に敵の戦力評価と我が軍の被害状況を考慮すると、我がアメリアは必敗します。それが故に早急にアメリアの領土が少なくならない内に和睦を結んでは如何と申し上げたまでの話です」
「ええい、少しうるさいぞ司法長官。大体戦争をやっているのは軍部だ。軍部が日本を必ず降伏させます。コテンパンに叩きのめすと言っていたのだ。
ワシはその軍部の発言を信じて開戦したのだ。
始めから負けることを分かっていたなら戦争なんかしないわい」
「しかし、大統領。貴男の人種差別政策で特に日系人を弾圧する差別的な扱いは、既に日本の本国に伝わっていると思いますよ」
「それがどうした?戦争で勝った者が負けた者を処罰するのは当然のことだ。
日本が敗戦すれば日本の軍部と政府関係者が捕まって処罰を受け、アメリアが負ければ、ワシを始めとする政府高官、軍上層部が捕縛されて刑罰を受けるだけの話。
特にワシが『レイシスト』であることは世界中の国々が知っていることで、敗北すれば極刑は免れまい」
「大統領、そこまで貴男に戦争責任の覚悟があることを知りませんでした。
先程から差し出がましいことを言ったことを平に御容赦願います」
「うむ、司法長官。君は正しい事をワシに告げただけのこと。
別に謝罪をする必要なないぞ」
ルーズベルトは司法長官が自分に諌言めいた意見を具申したことに対し、当人はこの戦争の状況を軍事的、政治的意図が掛かったフィルターを通した報告とは違い、一般市民の目から見た正確な論評を意見具申出来る司法長官を高く評価していた。
緊急会議が間もなく終了する間際、陸軍長官が陸軍省から戻って会議室に入室してきた。
ルーズベルトは、会議室に戻って来た陸軍長官に日本軍の迎撃対策を取るように指示していた。
「陸軍長官、生き残っている連邦軍、州兵等を集めて本土決戦の対策と指揮を君が執って欲しい」
「了解です、大統領!直ちに軍を再編成し、日本軍の迎撃に務めます」
ルーズベルトは、内閣メンバーと軍幹部に檄を飛ばして浮き立つ彼等の動揺を引き締めていた。
「(こんな調子で日本と戦争を継続して行けば、近い将来に死刑になるのは間違いなくワシかも知れないな。)」
ルーズベルトは、将来自分が処刑されることを想像し、不吉な独り言を呟いていた。




