81話 ルーズベルトの苦悩 その1
1942年7月10日 9:00
ホワイトハウス大統領執務室にて
「ま、まま、まずい、マズイ、不味い、実に不・味・い・ぞ!」
「落ち着いて下さい、大統領」
「コレが落ち着いていられるか!陸軍長官。
大体な、メキシカを攻略して石油を得るのが戦略目標だったはず。
それを行うはずの100万人以上いた陸軍部隊は何処に行ったのだ?」
「ハイ、それは日本軍の攻撃を受けてほぼ全滅したかと」
「それと、航空隊の爆撃編隊は一体どうしたのだ?コレも全滅なのか?」
「確か、カリフォルニア沖には『ヤマト』、メキシカ湾には『ムサシ』がいて、この2艦を爆撃編隊は空爆に行ったのだよな?」
「ハイ、両編隊共に返り討ちに遭って全滅してしまいました」
「長官、1つの爆撃編隊は爆撃機千機、戦闘機2千機の合計3千機で構成されていると先日説明したよな?
その編隊を1つの艦隊で迎撃することが可能なのか?」
「ハイ、まずランチェスターの法則では第1、第2法則共に敵艦隊が逆転勝ちすることは不可能ですし、仮に爆撃編隊が1/3の1,000機だとしても、敵艦隊を確実に撃沈出来るでしょう」
「それが3千機の爆撃編隊を1つの艦隊に全機撃墜されたわけか」
「そのとおりです、大統領」
「それと長官。漏れ聞いた話では『武蔵艦隊』に2個爆撃編隊6千機が空爆へ行ったらしいが本当なのか?」
「ハイ、その話は本当で、カリフォルニア沖で大和1隻に爆撃編隊が全機撃墜されたという噂を聞き、大事を取って2個爆撃編隊で武蔵艦隊へ空爆に行くように指示しました」
「な、何?大和1隻で1個爆撃編隊を全機撃墜しただと?」
「ハイ、その話は複数の兵士がパラシュートで脱出後、海に浮かんでいた時に敵の大和から救命艇みたいなモノを何個か放出し、我が軍の兵士を助けたそうで、話の信憑性から間違いないようです」
「フン、イエローモンキーが人助けの猿芝居か」
「その助かった兵士の話では、主砲は一切使用せずに単装砲が高射砲代わりで砲撃してきたが、その砲撃は百発百中だったとのことです」
「我が軍の高射砲は、航空機を百発百中撃墜出来るのか?」
「まず無理ですね。現時点では魔法の技術と言わざるを得ませんね。
艦砲で十数kmも離れた空を飛ぶ虫みたく見える点のような航空機に、砲弾を当てること自体が不可能ですし、もし当てようとして停泊中の状態でも必ず波の影響を受けるため、当たるのは偶然か神の悪戯でしょうね」
「うむむ、まずは艦砲の件は取りあえず了解した。問題は大和に搭載されていた戦闘機だ。コレは敵がハワイを攻めた時に使用されたプロペラが無いジェット機だよな」
「ハイ、そうです。生き残った兵士からの話では戦闘機はロケット弾を使い切ると、我が国の航空機に体当たり攻撃してきたそうです」
「ふむ、それは自殺行為みたいな特攻といえるが、その後どうなった?」
「敵戦闘機の主翼が我々の航空機の主翼や機体に当たると、味方機が次々と刃物に切り裂かれるようにバラバラになり、操縦不能状態で墜落しました」
「ば、馬鹿な。SFやファンタジー物語じゃないんだぞ。布や木じゃあるまいし、金属の機体が紙のようにスパスパと切れるものか?」
「私もこの話の真偽を現在確認中であります」
ルーズベルトは陸軍長官と会話で、以前に長官と話し合いをしている時に長官が持っていた日本製の懐刀の事を思い出していた。
「長官、そういえば以前に日本の小刀を見せてもらったことがあったな」
「ハイ、懐刀の事ですね」
「恐ろしいまでの切れ味だと記憶しているが、まさかこのような刃物が日本の戦闘機の翼に取り付けしていると思えんがな」
「大統領、いくら日本刀が切れ味が鋭く、仮に刃物を翼に取り付けして金属の機体を刃に当てたとしても、逆に日本側の航空機の方が華奢な分だけ、敵機がバラバラになると思います。
おそらく翼に刃を取り付けするのではなく、何らかの新技術を開発したのではないかと思います」
「フン、面白くないな。また日本の新技術か。
それより、我が国の航空機に搭載する新エンジンの開発はどうなのか?」
「正直言って、あまりはかどっておりません。それより、我が国の優秀な科学者等が国家存亡の危機を感じてこぞって国外亡命しており、その数が日増しに増加しています」
「亡命先は何処か?」
「英国とドイツです」
「むむむ、その件は後回しだ。取りあえずイエロー・モンキー共をアメリアの神聖なる国土を踏ませないためにも、水際で部隊を撃退するように」
「ハッ!」
陸軍長官は大統領の命を受けて、一旦陸軍省に戻り各幹部士官等に日本軍への対応に当たるよう指示を出していた。
1942年7月10日 10:00
再びホワイトハウス大統領執務室にて
「ドン、ドン、急用で失礼します」
「随分荒々しいノックだな、陸軍長官」
「た、大変です!」
「シアトルから西海岸、サンディエゴまでの軍事基地、軍事工場等が日本軍の空爆を受けました」
「な、何だと?現在シアトルとサンフランシスコの海軍工廠で建造中の太平洋艦隊は無事なのか?」
「その件は分かりかねます。海軍長官に聞いた方が宜しいかと」
「むむ、よし!各長官達と軍幹部を非常招集せよ。
緊急軍事会議を行うぞ」
「ハッ!直ちに」
1時間後、ホワイトハウス会議室にはアメリア軍幹部と各長官達が大統領の非常招集に応じ集まっていた。
「皆、忙しいところを集まってもらい御苦労だった。
ここに来てもらった理由は既に理解していると思うが、何故このような事態になったのだ?
我が国の軍隊は世界最強ではなかったのか?どうなのだ、海軍長官」
「ハイ、確かに日本と開戦する前までは我が軍は最強でした」
「ハワイ、アラスカ、フィリピン、グアム等の奪還はどうしたのだ?
オマケに東海岸への空爆を許すとは、一体どうなっているのだ?」
「大統領。日本軍との戦闘で生き残った兵士達の話では、日本軍の航空機、艦船等はレーダーに全く映らず、敵の姿が全く見えないそうです」
「敵の姿がレーダーに映らないのは、日本軍が妨害電波を出しているせいか?」
「いえ、妨害電波ではレーダー画面全体が白くなりますが、全く白くならずに味方機も映っていたそうです」
「ふむ、我が方のレーダーを無力化する何らかの手段があるのだろう。
問題は姿が見えない件だ。コレは一体どうなっているのだ?」
「この写真は昨年末にアラスカが空爆を受けた時に、オーロラを撮影していたカメラマンが、偶然日本軍の爆撃機が軍事施設を空爆していた時を撮影したものです」
「何だコレは?まるで爆弾が天から降ってくるみたいだぞ」
その写真は、B-1sが爆弾を投下しているところを写していた。
爆弾が上空から連続して落ちてくるならば超上空からの空爆と理解出来たが、その写真では何もない空中から突然爆弾が現れたところを撮影していたため、何処かに爆撃機が存在することを匂わせていた。
しかし、この時代はおろか現代社会でも光学迷彩を稼働させた飛行機を発見することは困難といえた。
「この写真を軍の科学技術陣に見せたところ、明確な解答を得られませんでしたが、おそらく爆撃機を見えなくするような何らかの新技術を使用しているのではないかとのことです」
「フン、また敵の新技術か。それより建造中の太平洋艦隊は大丈夫なのか?」
「その件については、現在情報を収集中です」
海軍長官は未だに奪還出来ないハワイ、アラスカ、フィリピン、グアム等について、肩身が狭い思いをしながら大統領に戦況報告しなければならないことは正直言って辛いことであったが、それは陸軍長官や海兵隊総司令官も同様のことであった。




