66話 アメリア本土進攻戦略会議 その2
斉藤はアメリア攻略について、順に説明を始めていた。
・カナダ、メキシカ両国の空軍基地からB-1sによる先行戦略支援爆撃。
爆撃目標は、アメリア陸海空軍基地、造船所、兵器工場等。
・空爆後に西海岸地域を占領。
占領に当たる部隊はワシントン州シアトルを陸軍機甲師団が担当。
サンフランシスコ、ロサンゼルス両地域を海兵隊強襲揚陸部隊が担当。
サンディエゴ、メキシカ国境地域を陸軍機甲師団が担当。
・敵反撃の航空勢力は、B-17を主力とし、他にB-24、B-25、B-26の爆撃機総数合計約2万機とP-38 ライトニング、P-40 トマホーク、P-47 サンダーボルト、P-51 マスタングの戦闘機総数合計約8万機以上の航空部隊を情報省諜報部隊が確認。
・敵反撃主力の陸軍部隊はM3中戦車 リーグラント、M4中戦車 シャーマン、M5軽戦車 スチュアートの合計数約2万両、火砲関係はカノン砲、榴弾砲、高射砲、戦車駆逐車等が約1万門、他に迫撃砲等約2万門存在を確認。
・敵兵士数は、1942年時点で連邦軍陸軍が約500万人、陸軍航空隊が約50万人、海軍が約100万人、また州軍が人口の多い州で1個歩兵師団(約2万人)、少ない州で1個歩兵旅団(約1万人)で、州軍兵士数の合計約100万人であることを確認済。
・予備役等の兵士数と徴兵により増加数約250万人を現役兵士数に合算すると、約1,000万人であると予想。
「西海岸占領までは順調だと思いますが、内陸、東に進むに従って敵の抵抗が大きくなると予想しています」
「博士、この1,000万人の敵兵士数はかなり過大な数ではないか?」
「新日本が転移前の日本帝国の時は、中国に派遣した兵士数は約200万人前後です。前世界での帝国軍は合計約800万人の兵士数を動員しています。
アメリアの人口は、1940年当時で1億3千万人ですから人口に対する割合から1千万人の兵士数は決して過大評価ではないのです」
「だが、コレは爆撃を受ける前の兵器類と兵士の数だろう。基地と工場を叩けば半分程度にはなるのか?」
「少なくとも兵器類は半分以下になりますが兵士全てが基地に集合していませんので、闇雲に基地を攻撃しても爆弾の無駄使いです」
「ほおう、つまり敵が何らかの状況で部隊編成された時に一気に集中爆撃するわけか」
「ハイ、そのとおりです。私は人道主義者ではありませんし、軍略を提供している以上は日本という国家に忠誠を尽くしています。
オマケにアメリア国民の白人の大半は白人至上主義を唱え、有色人種を迫害して虐待する等の人種差別を一切止めません。
要するに彼等は建国、開拓と称して我々の想像を遥かに超えた殺戮、虐殺を繰り返して来た民族です。
それだけに血を流して勝ち得た領土が故に、国民総意で我々に反攻してくるのは確実だと思います。
その民族の兵士を一気に殲滅するためには何らかのイベントで集合している時が丁度良いのです」
「敵を一気に殲滅か。時折、博士の口から飛び出す台詞が空恐ろしく感じる時があるな」
「そうですか、次を説明します」
・日本軍が西海岸占領後、この地域を橋頭堡として東へ進攻する。
西海岸地域を占領だけに留まらず、アメリアの完全統治を目指すために上陸から3カ月間以上は占領統治に専念する。
その統治政策の結果により西海岸地域を補給基地とし、東に進攻する予定である。
・日本軍進攻前にアメリア軍は石油確保のためにメキシカに侵攻すると予想。
「博士、アメリア軍がメキシカへ侵攻する前に日本軍が進攻を開始すれば良いのではないですか?」
「それだと、差別民族の軍隊を一網打尽に出来ないじゃないですか」
「うわ!怖いわ、博士のその一言が」
「「「ワハハハハ!」」」
「冗談をさておき、本当にアメリア軍はメキシカ侵攻に集中するのか?」
「ハイ、そのためにも水面下で情報省諜報部隊が動いています。
アメリアの新聞社内にも諜報部隊がいて、世論の情報操作に努めています。
国民全体に石油が底を尽く事実を周知させて、その打開策はメキシカ国内の豊富な油田を確保すると」
「そんな情報操作で政府や軍隊が動くモノなのか?」
「アメリアは自由民主主義を売り物にし言論の自由を大事にしている国家であるので、マスメディアに左右されやすい国家であるといえます。
そのため石油確保のために軍が動かざるを得ないのですが、アメリア軍は絶対メキシカ軍に必勝せざるを得なく、勝利を掴むためには周到な準備が必要になると思います」
「その軍略を練る作戦幕僚にも情報省諜報部隊を潜入させており、その情報筋で大部隊を組むように仕向ける予定です」
「以前の帝国軍ではここまで敵国に対して策略、謀略を仕掛けることが出来なかったな」
「新日本の情報省には外国人で日本に帰化した者や外国人混血種の帰国子女を多数雇用しており、それらの者をスパイとして潜入させていますから敵国の情報はすぐ入手出来る他、諜報活動による情報操作もお手の物です」
「博士、メキシカ侵攻の敵を撃退するのに相当の日数が掛かるのか?」
「皆様は最低でも1カ月位掛かると予想しているのでしょうが、技術力の差で早くて1日以内で、遅くても3日までは掛からないと思います」
「そんなに新日本の兵器は強力なのか?」
「光学迷彩機能付きステルス素材の陸上兵器や航空機達を、アメリア軍は発見できるでしょうか?
それに電磁バリア機能に守られた兵器類や兵士達に、アメリア軍は砲弾や銃弾を撃ち込んだとしても日本軍を倒すことが出来るのでしょうか?」
「確かにそれらの技術はル連を壊滅に追い込んだ実力から立証済みではあるが、それにしてもアメリア軍の数は強大過ぎる」
「帝国軍将官の方々は戦術論でいう数の論理、ランチェスターの法則に基づいて話をしていますよね。
確かに少数は絶対的な多数には勝てないというのは真理といえますが、それは同じ武器、技能が持つ同士が戦う場合の話。
コレに新技術が導入された味方部隊だとします。
例えるなら光学迷彩機能と電磁バリア機能を搭載した兵士1人が、敵1個大隊相手に味方兵士が何人で相手を出来るかということです。
その兵士に普通の銃弾を撃ち込んでも敵の銃弾を弾き返します。まして12.7mmの重機関銃の掃射を5分間浴び続けてもビクともしません。
ましてその兵士は光学迷彩機能で姿が全く見えないのです。
そんな兵士って、幽霊を相手にするみたいに凄く恐怖感がありますよね。
さらに防御の最大な要である電磁バリアは、敵攻撃を完全に防御するのに味方からの攻撃は完全通過する他に、敵攻撃エネルギーをバリア層で溜め込んで味方からの攻撃エネルギーに溜め込んだエネルギーを付加するというチート的特質を持っています。
そんなバリア機能を持つ兵士1人は、バリアの電池が続く限り敵の攻撃等を防御して弾丸がある限り敵を倒すことが可能なのです。
そして、それらの新機能は兵士だけでなく全ての兵器類に搭載されているのです。
この新機能を搭載した軍隊ならば、仮にアメリア軍1,000万人を10万人の日本軍でも充分対応可能で、上手く行けば味方に一人の死傷者を出さずに勝利することが出来ると思います。」
「博士、開戦から今までの死亡者数はどの位なのか?」
「ハイ、ル連との戦闘では関東軍の部隊でバリア機能を支える電池の充電忘れのミスで、戦闘中にバリア機能が停止して敵銃撃をモロに受けたことで約100名の死者が出たと聞いています。
次に真珠湾攻撃、その後のハワイ上陸占領、アラスカ上陸占領共に新日本の軍が主体となって帝国兵士を指導したお陰で、コチラの戦闘では死者は0人になります。
他、南方方面とオセアニア方面は、ワクチン接種を怠った部隊がマラリアで殆ど死亡し、病死者が100人程度で直接戦闘で死亡した者は0です。
この数と先のルーシア戦との死者を合わせて200人位ですか」
「戦争の死者が200人ちょっとだと?
あ、あり得ぬ。自分らのミスで撃滅した部隊ならば同情する余地は無いが、この数ならば戦死者0と言っても過言では無いな」
「ハイ、過去前世界の先頭で死亡した帝国兵と市民は約300万人で軍犠牲者数は約230万人ですが、その半分以上は餓死、病死であり、直接戦闘で死亡した者は100万人程度です」
「な!何と、前世界の戦争で兵士の大半が餓死や病死だと?」
「ハイ、兵士に根性と精神論のみを押し付けて、満足な補給線、兵站システムを確立しなかった故の結果です」
「うう、前世界の我々と似た人物達は如何に無能だったというわけか」
「戦闘継続能力は兵士交代要員を確保出来る充分な兵力、食料、医療、武器、弾薬、資機材等を後方で供給出来るだけのシステムを確立出来ていることなのです」
「つまり、それが補給だけではなく兵站システムなのか」
「そのとおりです。それが故に西海岸地域を補給基地することが肝要で、日本からの供給では遠過ぎて効率が悪くなるし身近に補給基地があることで速攻で補給線を確保出来、西海岸地域を拠点として東部に攻め込めるわけです」
「そのための占領ではなく、統治なわけだな」
「そうです。言葉の綾かも知れませんが『占領』は敵撃退後にその地域を一時的に支配下に置くが、軍隊が立ち去ったら以前の国に戻ってしまう可能性が極めて大です。
そのため『統治』とは占領した地域をその軍隊の国のモノにすることで、継続的に支配することであり占領した国の領土なのです。
西海岸地域を3カ月前後掛けて統治することは補給前線基地にすることでもあるが、将来この地域を永久的に支配するためでもあるわけなのです」
「それが故に統治に時間を掛けるわけなのか。博士の遠大な戦略、ワシを含めたボンクラな帝国幹部達の頭におぼろげながらも理解出来てきたわい」
「お褒めの言葉、有り難うございます。畑陸相」
「5カ月後のメキシカ侵攻のアメリア軍に対する反攻作戦は、後日博士と作戦参謀連中が協議して改めて立案すると思う。
だが、それとは別にアメリアを相手にどのように戦うのか博士の戦略というか、今後の展望について聞かせて欲しい」
「分かりました、長官」
斉藤は山元長官の求めにより、今後の軍略について語り始めた。




