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日本国転生  作者: 北乃大空
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62話 ドイツとの外交交渉 その3


 翌日の朝


 ベルリン市内 総統府建物内 大会議室にて



 会議室にはヒルラー政権の閣僚達が会議室テーブル席に並んで座っていて、出入口ドアに対面して反対側の壁には、正史地球ならばハーケンクロイツが描かれているタペストリーが掲げられているはずだが、そこには鈎十字ではなくケルト十字の形をした紋章のタペストリーであった。

 タペストリーの下に豪華な装飾を施された革張りチェアで、一目でその椅子が総統用であることが理解出来た。



「三木特使一行は、コチラになります」



 侍従に案内された席は普通のシンプルな布張りチェアであったが、問題はその席次であった。

 一番上座の総統席とその左側横に正史地球ならば『エヴァ・ブラウン』が座っていたのだろうが、PW地球では『アリス・グレイ』でありその真の姿は『サタンことルシファー』である。



 三木の座る席は総統席とその左横がアリス・グレイ女史の席で、これが中破首相ならば総統席の右横に並んだ席を用意されるが今回は三木が外交特使であるため、総統席に直交してテーブルが設置され来賓側である総統席の右側に三木の席が用意されていた。


 次に三木の席とテーブルを挟んで向かい合わせの席がカトリーナ・リリア(ガヴリエル)であり、三木の右隣が玲美の席でガヴリエルの隣位置で玲美の向かい合わせの席は蘭子であった。

 残りのドイツ側の閣僚は順に我々の後に続く形で座っていた。



 三木達が席に座った時点では総統席とその左横の席は空いていたが、程なくするとヒルラー総統とアリス・グレイ女史ことルシファーが会議室に入室した時点で、席に座っていた閣僚は一斉に立ち上がり、三木達も閣僚に合わせて席から立ち上がっていた。


 そして総統が自分の席に座り総統が座るように手で指示をすると、閣僚達はその指示に従って座ったが三木達は席に座らず立ったままであった。

 それは、総統に対しての挨拶と自己紹介を行うためであった。


「初めまして、ヒルラー総統。

 私、日本国全権特使『三木 隆』と申します」


 三木は自己紹介を終えて、日本流に頭を下げて会釈すると同時に右手を総統の前に差し出したところ、総統は三木と握手をしながら返答を始めた。


「うむ、遠路はるばるご苦労であった。

 しかし、三木特使の手は実にゴツイのう。

 鍛え抜かれた武人みたいで、外交官を務める文官の手とは思えぬが」


「ハイ、私は以前は陸軍特殊部隊にいましたが、総理に引き抜かれて外交官の真似事をしております」


「やはりそうであったか。この身体付きは只者ではないと思っていたが、ワシの目に狂いはなかったな」



 正史地球の『アドルフ・ヒトラー』は、小柄で貧相な体格と、二八分けの髪型にちょび髭で、チャップリンが苦虫潰したような顔付きであった。

 だが、正史地球での真実のヒトラーは身長175cm、体重100kg超で恰幅が良く、小柄で貧相な体格は小物と思わせたのは当時の情報操作によるデマである。


 しかし、三木が対面した『アルムス・ヒルラー』という人物は、三木の身長185cmと同じ位の背丈で、逆三角形のボディービルダーみたいな頑強な肉体であり、三木の身体がスリムに見えてしまうほどであった。


 顔付きはプロイセン王国宰相『ビスマルク』を若返らせた感じで、カイゼル髭を生やして如何にも豪傑そのものと言えた。

 さらにこの体躯に軍服を着ていたため、威圧感タップリであった。


 ヒルラーは右手で握手しながら左手で三木の背中をバンバン叩き、何処ぞの居酒屋の親父かと思える感じで力任せに叩くものだから三木は少し背中が痛かった。



 三木はヒルラーとの握手を終え、次に『アリス・グレイ』に挨拶を交わしていた。


「初めまして『フラウ・グレイ』、私、三木と申します」


「三木さんですか、私の名前は『アリス・グレイ』です。

 グレイは堅苦しいので『アリス』と呼んで下さいね」


「分かりました、アリスさん。今後とも宜しくお願い致します」


 アリス・グレイの姿格好は、緑色のローブ・モンタンテを着用して、髪型はロングヘアを結い上げて頭上でお団子状にし、髪色はガヴリエルのゴールデンブロンドの金髪とは違って、プラチナブロンドと称する銀髪であり、目の色はエメラルドグリーンであった。



 三木の挨拶の後、ガヴリエル、蘭子、玲実の一連の挨拶と紹介が終わると、閣僚達の定例報告があり、その後リヒター外相から三木と昨日議論した議題を報告していたが修正無く議題が承認されていた。


「(ありゃ?昨日、リヒター外相と話したことがスンナリ決まったぞ。)」




 会議終了後、三木一行は総統とのランチに招待されていた。


 ランチ会場は、総統府敷地内中庭に設置されている日本では『東屋』で、欧米では『ガゼボ』と呼ばれている建物で昼食を取る形になった。


 その席には総統、アリスの他、昨日のリヒター外相が座っていた。



「さあ、席に掛けたまえ」



 総統の指示に従い、三木達は総統側と対面する形で着席した。



「三木殿、先程の会議で君の提案がすんなり決まったことに驚いただろう」


「ハイ、半分以上は拒否されると覚悟していましたから」


「フフフ、リヒターがワシのところへ提案を持って来た時点で大体は決定しているようなものだから。

 外交関係全般は彼に一任しているし、全てを任せるだけの才覚を持ち合わせているからね」


「総統からの過分なお言葉、痛み入ります」


「リヒターと再度話し合いをしたのだが、三木殿が考えるドイツが取るべき道をこの場で語って欲しいのだ」


「分かりました。コレは一応私の参考意見として下さい」


「ああ、それは承知している」


「まず、ドイツは現在英国とル連の二正面作戦を取っています。

 これでは軍の主力を二分され、占領政策が中途に終わってしまいます」


「それをいうなら日本とて中国、南方面、ル連、そしてアメリアを相手にする二正面どころか四面楚歌状態ではないのか?」


「ハイ、確かに我が日本は総統のご指摘の通りで以前は四面楚歌状態でしたが、一昨年に中国と講和して既に撤兵していますし、南方面は東南アジア各国とオセアニア諸国を既に占領統治後、日本連邦に加入済です。


 残るはル連ですが、昨年末に沿海州からカムチャツカ、ベーリング地方等を占領統治し、現在シベリアへ進攻中で今年中までにシベリア全土を占領統治し、来年春までにウラル山脈まで到達してエカテリンブルク攻略に取り掛かる予定です」


「それは破竹の勢いだな。アメリア打倒を口にするのが理解出来る。

 リヒター、其方はどう思うか?」


「私の意見を申し上げるならば、英国と和睦した方が得策かと」


「ふむう、ゲーリングを呼べ!」


「ハイ!直ちに」



 侍従が総統の指示で、ものの3分もしないうちにゲーリング航空大臣を連れて来た。



「ゲーリング、そこに座れ」


「ハッ!」


「其方を呼び付けたのは他でもない。英国との航空戦の状況について正直に真実を話して欲しい」


「ハイ、正直言いますと英国本土への空爆は殆ど失敗続きであり、作戦見直しを検討しております」


「我が軍が失敗続きしている原因は何だ?」


「ハイ、英国側の戦闘機がプロペラが無いのに物凄い速度で飛行して我々の爆撃機を迎撃するのです。

 この戦闘機の登場に、我がドイツ空軍は度肝を抜かれた思いでした。

 三木特使、この優れた戦闘機は日本製なのですね」


「ハイ、ゲーリング閣下のご指摘のとおりです」


「何?そうなのか、ゲーリング?」


「ハイ、自分が総統府に出勤する前にベルリン空港に立ち寄り、日本国の特使が乗ってきた飛行機を拝見しましたが、実に大きな飛行機でした。

 しかもプロペラが無いジェットエンジンの大型飛行機が4機も駐機し、その大型飛行機を護衛する青色戦闘機2機の美しい形に、日本の技術の高さを敬服する次第です」


「何?ゲーリング。三木殿が乗ってきた飛行機がジェットエンジンというのが本当か?ランチが終わったらその飛行機を見に行くぞ!」


「了解です、総統。直ちに準備に取り掛かります」



 ゲーリングは視察準備のため、その場を離れ一路空港に向かった。



「それでは堅い話はこれまでじゃ。ランチを始めるとするか」


 総統がそう言うと、メイドや執事達が一斉に動き出して次々と料理がガゼボのテーブル上に運ばれてきた。

 その料理はフランク料理のフルコースランチであった。

 総統は料理を口に運びながら、三木に語り掛けてきた。


「三木殿、ワシはドイツ人だが美食が趣味の一つでもある。

 祖国ドイツを愛し、ドイツ産のビールとソーセージは最高じゃ。

 だが、ビールとソーセージ以外の自国料理の不味さだけは実に気に入らない。

 だからこそ、真っ先にフランクを攻略したのじゃ。


 しかし、当初攻略目標に掲げていた英国は料理が不味いという話を聞いて完全攻略の気が進まなかったが、とりあえず英国が反抗できない程度に空爆にとどめていたのだ。

 次にトルコ料理が美味いと聞き、戦略方針を変換して東側諸国の攻略に乗り出したのだが、途中にその進攻を邪魔するル連を戦うことになったというのが今までの戦況の流れよ」


「(ウワ!この人、スーパーグルメだな。戦略目標を自分の舌好みにしているとは。昨日C-2改3機を持って来て、その内の1機をキッチンバー仕様にしたのは大正解だったな。

 昨日のリヒター外相の話から美味いモノ好きらしいが、繊細な懐石料理の味は分かるかな?)」


 三木はヒルラー総統のグルメの噂に基づき、事前にC-2改をキッチンバー仕様として用意したことが正解であったと独り言のように心の中で思っていた。


「そうだったのですか、総統陛下」


「む!三木殿。ワシを陛下と呼ぶのは些か気が引けるな」


「いえ、私共の情報筋では近日中にドイツ連邦を宣言し、総統を改め皇帝宣言すると聞いておりますが間違いでしたか?」


「否、そのとおりで間違いは無い。三木殿は良き目と耳を持っているな。

 ただ、まだ即位もしていないのに陛下と呼ばれることに抵抗があるから今まで通り『総統』のみで『閣下』の敬称を付けなくて良い。

 部下の大臣が自分のことを『閣下』と呼ばれているため、区別を付けるためにあえて総統と呼ばせているし部下達もそうしているから」


「分かりました、総統」


「それより三木君。プライドが高い英国王女をどうやって口説き落としたのだ?」


「そうですね、自国料理と王女様への贈答品ですね」


「ほおう、それはどのようなものなのか?」


「カトリーナ秘書官、アリスさんにアレをお持ちして」


「ハイ、只今」


 カトリーナに扮していたガヴリエルは、以前にエトレーヌ王女にプレゼントした真珠のネックレスと同じ物を用意しており、コレをアリスの首に取り付けする時に周りに気付かれない程の小声をアリスの耳元で囁いた。


「(アリス、否、ルシファー、久しぶりね。その真珠、似合うわよ。)」


 アリスことルシファーはガイアからヒルラー総統の愛人として務めるように十数年前に指示され、その時に天使の能力はテレパシーと思考操作等以外は封印されていた。

 彼女自身もヒルラー総統に仕えるようになって幸せな日々を過ごしているうち、総統に対して思考操作能力を使用する以外は自分自身が天使であることを忘れたように十数年間過ごしていた。

 だが、ガヴリエルの小声によりアリスがルシファーという天使であったことを思い出させていた。


 そして目の前にいるカトリーナ・リリア女史が天使ガヴリエルであり、高田姉妹が天使ラジエルとレミエルであることを彼女が気付いたのであった。


 次にアリスは天使の能力の一つであるテレパシー能力を思い出し、ガヴリエルと念話を始めた。


『久しぶりね、ガヴリエル』


『こちらこそ久しぶり、ルシファー』


『私は17年前にガイア様の命令でヒルラー総統を正史地球のヒトラーと同様の歴史を歩まないよう彼の性格を矯正して、人々から憎まれないよう総統をコントロールすることでドイツを巨大な覇権国家に成長させたの。

 だけど、総統の補佐の仕事をしているうちに総統と一緒に生活することが楽しくなってしまったの』


『ルシファー、否、アリス、もうすっかり女の子の気持ちなのね。今は総統を愛しているのでしょう』


『ええ、当初はガイア様から指示されて総統と出会う前は自分の気持ちが半信半疑だったけど、彼を一目見て私は変わったの』


『貴女、一目惚れね。ま、サリエルやそこにいるレミエルも貴女と同じようなものだから、案外天使達は優れた男に惚れやすいのかもね』


『え?サリエルは何処にいるの?』


『サリエルは日本にいるわ。ラファエルは英国で、ウリエルはル連、貴女が嫌いなミカエルはアメリアにいて私を含めた残りの天使は日本にいるの』


『そうなの、懐かしいな。ミカエルには随分やられたけどあれから1万年程経った今では憎しみは消えたし、その事が無ければ総統と出会うことが出来なかったから、ある意味では感謝ね』


『貴女、心底総統を愛しているのね』


『ええ、本当は彼と私の間との子供が欲しかったの。

 だけど、この身体だと彼とセックス出来るけど受胎能力が無いから無理な話なのね』


『ルシファー、ガイア様から後日受胎プログラムとブランク卵子体を貰うことが出来るから、貴女でも受胎は可能よ』


『え?そうなの?奇跡みたい。今日ガヴリエルに会えて本当に良かったわ』


『詳しい話は後でね』


『ええ』



 ガヴリエルがアリスに装着したネックレスを見た総統は、その真珠の美しさに驚嘆していた。


「コレは凄い、三木殿。相当な値打ち物ではないですか?」


「いえ、我が日本で産出する特産品の一つですから」


「良いのですか?こんな高価な物を頂いても」


「ハイ、中破総理が総統のパートナーであるアリス奥様は、大変美しい方と聞き付けて美人を引き立てるには美しい物で身を飾ることが第一であると言いまして、このネックレスをアリス奥様へのプレゼント品として持たされた次第なのです」


「中破総理の気持ちは理解した。日本とドイツの友好の証として遠慮無く頂こう」


「それより、総統に一つ質問があるのですが」


「何の質問だ、三木殿」


「ハイ。総統は美食家であると聞きましたが、生もので特に魚料理は口にしたことがありますか?」


「うむ、イタリアでカルパッチョを食べたがなかなか美味かった」


「私達がこれから向かう空港の駐機場に、キッチンバーを備えた飛行機を用意しています。

 総統に食べて頂く料理として焼肉懐石を予定していますが、一応刺身料理も出す予定です。もし魚がダメならば別な物を用意しますが、如何でしょう?」


「ワシは料理で美味いモノであれば、例え生ものだろうが魚だろうが遠慮無く食べるし、どんなに手の込んだ料理でも不味いモノは一口でフォークを置く。

 要はワシの舌は一般のドイツ人に比べても、かなりグルメであるらしい」


「分かりました、総統。その言葉を聞いて安心しました。

 私達も事前に準備したモノが無駄にならないようです」


「総統!移動の準備が出来ました」


「うむ、三木殿も我々と御同伴を」


「ハイ、分かりました」


 総統一行と三木達は、ドイツ側が用意した2台の自動車に乗り込んで、C-2改を駐機してある空港に向かった。


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