59話 サタン失踪の真相
1942年1月某日
「ガイア様、地獄世界を管理中のサタンが所在不明になりました」
「分かった、サリエル。天使全員を招集せよ」
「ハッ!直ちに」
月裏側のラグランジュポイントに停泊している神々の巨大宇宙船は、人類が地球に発祥する以前から地球及び太陽系を見守ってきた。
なお、この巨大宇宙船の形は円盤状のクッキーみたいな形で、大きさは直径100km、高さ10kmであるが、当然地球上に着陸出来る陸地はなく、海洋上でマリアナ海溝付近の深海でも1万mを超す深さは一部分で、周囲の海底海盆の深さは5,000m前後で、海上に宇宙船を着水させると5,000mの平らな山が誕生してしまうため地球上の自然環境に影響を与えることが大きいことから、この宇宙船が地球上に降下したことはガイアが地球を管理する以降は一度もなかった。
この巨大宇宙船の置き(停泊)場所は、人類に気付かれることなく地球から近い場所として月裏側のラグランジュポイントを利用していた。
近年、人類が宇宙進出する技術を持ち月にも有人飛行を行うようになり、月の裏側も探査する対象になりつつあり巨大宇宙船も発見されるのは時間の問題と思われていたが、光学迷彩機能付ステルス素材は当面の間は巨大宇宙船を人類の眼から逃す技術として役立っていた。
だが、人類の科学技術が進むにつれて宇宙空間の重力の歪みを計測出来るようになり、当初ガイアは月裏側のラグランジュポイントから別の場所に移動しようと考えていたが、中央管理局が開発した亜空間潜行技術により宇宙船をその場の亜空間に隠匿することが可能になったため、月裏側から移動せずに済んでいた。
「人類がワープ技術を持つようになれば、この場所からの移動も検討しなきゃならないのだけど」
ガイアは人類が年々科学技術を向上させ、神族に近づきつつあることを少し嬉しそうにしながら独り言を呟いていた。
因みにこの光学迷彩機能付ステルス素材の技術は、先年日本軍の兵器に利用されて無敵の軍隊として世界中を席巻しつつあった。
その巨大宇宙船に、久しぶりに7人全員の天使が集まっていた。
「サリ姉、非常招集って、一体何が起きたの?」
「え?サタンが地獄から居なくなったって?」
「へー、任務放棄じゃん」
「皆、静かに。ガイア様が入室します」
ガイアが会議室に入室する時点で、ガヴリエルが気を利かして天使達に声を掛けてお喋りを止めさせていた。
「知らない者もいると思うので、ここで正式発表する。
サタンが地獄世界から居なくなった。と言っても、居なくなったのは今から15年程前だがな。
実はサタンことルシファーは妾の命を受けて、地獄から別の場所に配属先を変えただけの話だ」
「ガイア様。サタンは地獄世界の管理者でしたが、その管理者が居なくなると地獄世界に住む亡者共が騒ぎ出すのではありませんか?」
「サリエル、このラファエルとウリエルに地獄の様子を説明してやれ」
「ハイ、ガイア様。
現在の地獄世界は人間社会でいうプラント。そうですね、化学工場みたいなモノと思って結構です。
今の形態が確立したのは約1万年前で、私が人類の霊魂を選別するのに日数が経つにつれネズミ算並に数が増えることに音を上げ自動霊魂選別システムをレミエルに製造してもらい、それを導入した時点からです。
そのシステム導入以前は中世の錬金術師の工房みたいなところでした」
「ガイア様、サリエルが説明する地獄世界は人間達が語る地獄の責め苦の数々や悪魔や化け物等がいる世界とは随分違う気がするのですが」
「フフフ、人間達が語る地獄世界は想像上で思い描いたモノで、あくまで脳内イメージでしかなく実際はサリエルが説明しているモノが正しいな」
「だけど、サタンは地獄という名の工場管理者なのでしょう。その管理者が居なくなったらその工場の業務が止まるのではないですか?」
「そうでもないぞ、ラファエル。そうならないことは順に説明する。
実はサタンことルシファーは妾が配置転換したのだ」
「なぜ、そのようなことを?」
「うん。まあ理由は2つあるが、1つ目は彼女の救済措置だな。
元々サタンはルシファーと呼ばれた頃、神々に反旗を翻しミカエルが率いる天使の軍団に破れたのはガヴリエルから聞いているよな」
「ハイ、その話はあまりにも有名です」
「その後、サタンと名を変えて1万年の間地獄世界の管理者を務めたわけだ。
1万年程前から現在までは自動霊魂選別システムが導入されて管理者が不在でも良い状態で、1万年間同じ仕事をしている彼女を妾が不憫に思い、彼女の罪も薄れた頃と思い妾が皆に内緒で配置転換したのじゃ」
「もう1つの理由は何ですか?」
「今回の歴史改変で、試しに個人の力が何処まで通用するかを確認したかった訳よ」
「それがPW地球の『ドイツ』というわけですよね」
「そのとおりだ、ウリエル。
正史地球では『アドルフ・ヒトラー』は特異点の一つ。
彼を生かそうと救済するも、必ず歴史の流れが揺れ戻り必ず彼を死亡させてしまうわけなのだ。
だから、このPW地球では彼の思想、行動指針等をルシファーに変更させるように指示したのよ」
「その結果、PW地球のドイツは大きく変わりつつありますね」
「うむ、ルシファーには正史地球での『エヴァ・ブラウン』と同じ存在になるように指導したのだ」
「え?ルシファーを女性として?彼は両性具有ではなかったのですか?」
「うむ、実はミカエルとの戦いで敗れた後、その身体の改造を施して女性型アンドロイドとして地獄世界を管理させたのよ。
その戦いの後、ミカエル、ラファエル、ウリエルの3人は地上世界でイケメン男性として約5,000年間浮名を流していたが、地上に超人とその子供達が蔓延り過ぎるのも不味いということで、3人を地上から引き揚げて性転換したのは3人共記憶にあるよな」
「確かにあの時、性転換を受けた際は少々戸惑いましたが」
「ルシファーも以前は両性具有で神々の玩具にされた際に、その時のAI機能が自分の性別を思考して行くうちに回路が暴走したわけよ。
だが、お主ら3人と違い男性として過ごした期間が短かったから、女性型アンドロイド体に造り直した時も何ら問題が無かったわけなのじゃ。
その後、ガヴリエル達をバイオロイドにした後にルシファーもバイオロイドにしたのだが、当然ながら性別は女性体にしたわけなんだ」
「ガイア様、一つ疑問に思うことはこれから行う歴史改変で日本国を国土丸ごと転移させましたが、ドイツだと何故1人でも歴史が変わるのでしょうか?」
「うむ、それは日本が合議制国家であり当時のドイツが独裁制を敷いていたことに他ならないからだ。
独裁や専制君主制はその国の方針や思想を個人や少人数の者に委ね、国家運営をドラスティックに動かし改革も簡単に行うことが可能だが、トップが愚鈍な人物だと国が滅亡しかねない危険性もあるわけだ」
「この世界のドイツを正史地球のドイツとは別な歴史を歩ませるのに、どのような違いを付けさせたのですか?」
「ルシファーをドイツに派遣する時、2つのことを指導者に吹き込むよう指示したのよ。
その指示事項は
・ユダヤ人虐殺を止めさせて、ユダヤ人を迫害しないこと。
・君臨統治すれど、民族浄化は止めて民族融和に努めること。
この2つを最優先事項として伝えたわけよ」
「なるほど。確かにその効果があったようで、ドイツを盟主とした連邦への加入国が増加していますね」
「だがな、ドイツ一国では流石にアメリアと渡り合うには難しく、かと言って英国だとアメリアと手を結ぶ可能性が極めて高くてコレでは歴史が以前と変わらずに進行し、歴史改変が上手く行かないと判断し日本を国土ごと転移したわけよ」
「なるほど、個人の力と一国だけでは限界があるということですね」
「それより、ガヴリエル。現在戦時中だが近いうちに日本とドイツが外交交渉する事が出てくる。その時はルシファーと張り合えるお主の能力が必要になるからな」
「ガイア様、その点は心得ております。近日中に三木特使とドイツに行くことを予定しています」
「それでは頼んだぞ」
「ハイ、お任せ下さい」
ガイアからの説明が終了し、天使達はおのおの任務地に戻って行った。
天使達の任務は、ラファエルがガヴリエルの代わりに英国女王付補佐官に。
ミカエルはルーズベルト大統領補佐官に。ウリエルはスターリンの秘書兼愛人としてそれぞれ任地に赴いていた。
そして残ったガヴリエル、サリエル、ラジエル、レミエルの4人は日本に帰国した。




