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日本国転生  作者: 北乃大空
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47話 日米交渉結果 その2


ホワイトハウス大統領執務室にて



 大統領の緊急呼び出しに対して、約1時間後には陸軍長官、陸海参謀、飛行機メーカー技術者等が執務室に集まり、大統領の机上に置かれた写真を眺めながら協議を始めていた。



「コレは随分滑らかな機体ですね」


「コレなら直ぐに爆撃機に転用できるな」


「一応、民生用に武装は外してあるのだな」


「往復5000マイル(約8050km)位飛ぶのか」


「なかなか凄い性能だな」


「コレは我が社が開発中の爆撃機より、性能が上かも知れません」


「大統領、コレは日本という国を舐めて掛かってはいけませんね」


「どういうことだ?スチュアート陸軍長官」


「つまり、大統領が日頃イエローモンキーと馬鹿にしている日本人達が、この写真の飛行機を造っていることに他ならないからです」


「馬鹿な!奴らは我々と外交を開く100年程前は、着物にチョンマゲ、腰に刀を差した下等な猿みたい人種だったじゃないか」


「だが、その100年で我々の技術に追い付き、モノによっては追い越されているかも知れませんよ」


「ま、まさか。我々の猿マネばかりしている国が、我が国の科学技術を追い越すというのか?」


「日本には、我が国でマネの出来ない技術もあります」


「それはどのようなものだ?」


「例えを挙げるならば、城や金物、カラクリ人形、それと日本刀ですね。

 あの恐ろしい切れ味と美しさを兼ね備えた刀剣は見たことはありません」


「そういえば、スチュアート長官は刀剣マニアだったな」



 スチュアート長官は大の刀剣マニアで、若い頃に外交官として大使館勤務の経験があり、英国、フランス、中国等と世界中の国を渡り歩いて刀剣蒐集(しゅうしゅう)していたが、日本の大使館勤務時代に日本刀を知ることになる。

 このスチュアート長官は、優れた刀剣を造り出す国は、それらを支える基礎技術があり、その国の技術レベルを計る自分の指針としていた。



「大統領、ドイツのゾーリンゲン地方の刃物は御存知ですか?」


「おお、その地方の名は知っている。ウチのワイフが凄く切れ味の良い料理用ナイフを手に入れたと言っていたが、ナイフに書かれていた文字を調べてみるとドイツのゾーリンゲン地方のモノだったな」


「現在のドイツは、Uボートを始めとする様々なモノを開発しています」


「それでは大統領、コレを見て下さい」


 スチュアートは、背広の内ポケットから懐刀を大統領の目の前に出した。


「コレは、江戸時代の日本女性が護身用のために持っていた小刀です。

 切れ味を試してみますか」



 スチュアートは机の上にあった紙を半分に折り、次に懐刀を鞘から抜き出して刃体を上に向けて半分に折った紙をそっと刀に乗せたところ、その紙の重さで紙が真っ二つに切れて床に落ちた。



「な、何だ?その刃物の切れ味は?」


「日本刀の端くれの『懐刀』(ふところがたな)というもので、コレは私が日本に外交官で訪れた際、刀鍛冶から贈呈された品物です。

 コレでも彼等に言わせれば二流品の価値しかないそうです」


「ちょっと見せてみろ」


「慎重に扱って下さいね」


「分かっておる、取りあえず貸してみろ」


 大統領は、長官から一旦鞘に収めた懐刀を受け取ると、鞘から刀を取り出して上にかざした。


「模様みたいなモノが刀に浮き出ているぞ」


「それが刃文というモノです」


「見た目よりも意外と重い物だな。うわ!手が滑った」


 ルーズベルトは右手から左手へ懐刀を持ち替える時、手を滑らせて自分が乗る車椅子の左車輪に懐刀の刃が当たった。

 その瞬間、ゴムタイヤが一瞬で破断されて中に入っていた圧縮空気が吹き出して懐刀を吹き飛ばし、宙を舞う形で回転しながら落ちて木製フロア床に刃先を突き立てる形で刺さった。


 ルーズベルトが乗っていた車椅子の左車輪はゴム部分が無くなってバランスを崩す形で左側に倒れ、ルーズベルトも車椅子と一緒に床に叩き付けられた。


「おお!何が起きた?」


 側近達はすぐにルーズベルトを起こして抱えて、代わりの車椅子が来るまで別の椅子に座らせ、車椅子が壊れた原因を探ったところ、車椅子左車輪のゴムタイヤが破断しており、ルーズベルトが手を滑らせた刃物でゴムタイヤが一刀両断されたものと判明した。


「な、何じゃその刃物の切れ味は?魔法でも使っているのか?」


「いいえ、あくまで刃の切れ味が抜群なだけです」


 ルーズベルトは刃体が短く、若干鞘に装飾が施してある程度のあまり見栄えがしない懐刀に驚愕し、と同時に全身に怖れと悪寒が生じ、身体全体が身震いしていた。

 そして、ルーズベルトはこんな魔剣を造り出すような国は、魔物に愛されているに違いないと確信しながら、ようやく口を開いた。


「ちょ、長官。早くその突き刺さった刃物を片付けてくれ」


 床に突き刺さった懐刀は、陽の光を反射させ、キラリとした輝きを放ちながら椅子に座っていたルーズベルトの顔を照らしていた。


 スチュアートは、床に突き刺さっていた懐刀を抜き、陽にかざすと刃体には一片の刃こぼれもなく、鞘から取り出した時の美しさを保っていた。

 彼はそれを確認しながら、丁寧に刃物を鞘に収め背広の内ポケットに仕舞い込んだ。


「長官。つまり君の主張したいことは、ドイツのように優れた刃物を造れる国は、工業技術が優れているというわけだな」


「そのとおりです、大統領。決して日本を侮ってはいけないということです」


「よし、分かった」


 ルーズベルトは、改めて日本がどの位の技術力を持ち合わせているのか調査するよう部下に命じていた。


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