46話 日米交渉結果 その1
日本国総理大臣執務室にて
「お久しぶりです、総理」
「お、無事に戻っていたか」
「まさか向こうが姑息な手段を使うとは、正直油断していました」
「睡眠薬に電流とはな」
「極めて証拠が残らない方法での、外交官の重体化若しくは暗殺でしょう」
「確かに睡眠薬は病理解剖で体組織を鑑定しなきゃ分からないモノだし、電流は漏電したと言い訳が出来るからな」
「今回は高田姉妹に救われました」
「そうか、俺からも礼を言うぞ。蘭子、玲美、ご苦労だった」
「私からも蘭子、玲美。三木さんを補佐してくれて大変ご苦労様でした」
「総理、沙理江姉様からそのようなお褒めの言葉、痛み入ります」
「蘭子、玲美。次回もアメリアとの交渉があると思います。
引き続いて三木さんを補佐するように」
「「ハイッ!」」
「沙理江、今回の交渉を映像化出来るかな?」
「2人の頭に小型カメラとメモリを内蔵した髪留めを付け、交渉の状況を録画しており、そのデータを映像化しています」
既に沙理江は玲美、蘭子から髪留めを渡されており、後はモニタに出力するだけであった。
「映像、出ます」
映像が出た段階で、三木が映像に登場した人物についてレーザーポインターで説明をしていた。
「あ、この人です。ハル国務長官は」
「フーン、以前の前世界地球のハル長官と変わりないんだ」
「三木君はこの人物について、どう思うのか?」
「そうですね、第一印象は人当たり良い感じはするのですが、話を進めるうちにアメリア側の矛盾を追及されると、表情が豹変して殺気めいたモノを感じる事があります」
「そうだよな、この映像を見ても三木君はコテンパンに長官をやり込めているよな。これなら敵側に一服盛られても仕方が無いかな?」
「総理、冗談は止めて下さい。既に一服盛られて気を失っていたのですから」
「ワハハ!だが、今度は毒を盛られても無効化出来ると聞いたが」
「次回も毒を盛られるのですか?」
「否、交渉次第だが次回は間違いなく、アメリア側は不利になった場合は確実に三木君を消しに来るな」
「え?僕がターゲットですか?」
「そうだ、彼等は今後軍事行動に出てくる可能性が極めて大だ。
沙理江に隠密ロイドを手配する他、ミカエルからアーマドロイド2体借用する予定で、次回の交渉はこれらのロイド達を同行させるように」
「それとSPの人選については俺に任せて欲しい。チョットした策があるんだなコレが。
さらに、もう一つハル長官が原因でアメリア側から軍事行動させる策を情報省諜報部隊が練っているから、三木君が2回目の出発時に資料を渡せると思う」
「その件は総理にお任せします。
それより、次回の交渉時期はいつ頃にする予定ですか?」
「前世界は11月4日だったが、コチラでは11月1日にするか。
それまでは欧州諸国を回って欲しい。日本側の味方を増やしアメリアを孤立無援の状態まで持って行きたいからな」
「了解」
三木は中破総理の指示により、この後欧州諸国の交渉に出発した。
一方、日米会談が終了し数日後のアメリア側ホワイトハウスにて
「大統領。私が提案した四原則を逆手に取られましたね」
「まさか、黄色い猿同士が仲直りするとはな」
「オマケに日独伊三国同盟を締結しませんでした」
「一体、お前は何を交渉していたのだ?」
「大統領、そう言われましても既に日本は中国の勝介石と和平して、派兵した兵士を中国から引き揚げていますし、日独伊三国同盟も結んでいないために、コチラから日本を攻める材料が少ないのです」
「国務長官、何寝ぼけたことを言っているのか?
ほれ、三国何とか協定なんかがあっただろう」
「大統領、『日独伊防共協定』は共産主義に対する協定です。
コレを無理に止めさせると、ル連以外の他の国々が赤化していくことを早めさせることになります」
「むむむ、そうだったか。その協定は仕方が無いから放っておくか。
それより、フィリピン占領が植民地扱いとはな。確かにアメリアが欧州諸国とやっていることに何ら変わりは無いが、それの何処が悪いのだ?」
「日本にすれば、ヒスパニアからの解放後にフィリピンが国を成立させた状態であったのに、武力占領して住民30万人以上を虐殺して植民地化した。
国が成立していたならば、外交交渉して保護国として扱っても良かったのではないかと言うことでした」
「長官、アメリアは土人達の土地を征服しただけに過ぎない。
それを黄色い猿達に文句を言われる筋合いは無いんだ」
「大統領、その植民地主義的な考えは捨てた方が宜しいかと」
「何故だ!100年程前、我々の先祖が黒船で日本に行った時は、チョンマゲと刀を腰に差していた連中だぞ」
「先日、彼等が帰国する直前にウチの情報部員が撮影した写真の画像が出来上がっていますので、コチラをご覧下さい」
「ん、色は緑色で陸軍用みたいな感じだが、胴体の真ん中に日の丸か。
機体は随分滑らかで、かなり丸っこい形だな」
「大統領、この飛行機はプロペラ機なのですが我々の好意である給油を断りました」
「な、何だと?彼等は東京から来たのか?東京~ホノルル間は一体何マイルあるのだ?」
「3860マイル(6210km)ですね」
「それを無給油だと往復で7700マイル以上だぞ。そんな距離を飛べる飛行機が世界中の何処にあるのか?」
「大統領、彼等の飛行機に給油のために近づいた係員に、日本側のパイロットは給油燃料の種類を聞いてきたそうです」
「ふむ、それでその係員は何と答えたのか?」
「ハイオクタンのガソリンと答えたら、日本側のパイロットはそんな燃料は要らない。そんな燃料を給油するとエンジンが爆発する。それに南洋庁が近いから、そちらで給油すると答えたらしいです」
「そうか、日本には南洋の島々を統治していたな」
「一番近いところではマーシャル諸島で、ハワイから2300マイル(3700km)で、倍の距離で4600マイルですか」
「それでも、かなりの長距離を飛ぶ飛行機なんだな」
「そうですね、大統領」
「だが、イエローモンキー共がこんな飛行機を造り出せることは大問題だ。
大至急、軍幹部と飛行機メーカー担当者を呼べ」
「ハ、ハイ!直ちに」
「あ、それとハル長官。チョット待て」
「君は日本の三木特使を別室に案内した時、相手に何かしたのか?」
「特使の飲むコーヒーに睡眠導入剤を混ぜ、別室のドアノブに少し電流を流しました」
「何故、そんなことをしたのだ?」
「相手に少し警告の意味で脅かそうと思いました」
「馬鹿者!日本の中破総理に思い切り皮肉を言われたぞ。
『ハワイのホテルはずいぶん静電気が溜まるのですね。』
と言われ、さらに
『コナ・コーヒーは眠くなる作用があるのですか?』
と電話口で言われて、コッチは訳が分からず平謝りだったのだぞ」
「済みませんでした。大統領、この埋め合わせは次回の交渉で納得の行く成果を出したいと思います」
「もういい、長官。済んだことだから仕方がない。
早くペンタゴンの連中をコッチに来るように手配しろ」
「ハイ、大至急連絡を付けます」
「(あの写真の飛行機を造ったのが、日本であるとは思いたくないがな)」
執務室で一人になったルーズベルトは、巧みに両手で車椅子を操りながら、執務室の窓際まで行き、外を眺めながら独り言を呟いていた。




