42話 メキシカ及び中南米諸国との交渉 その1
1940年6月下旬
~総理執務室にて~
日本と英国との軍事同盟を結ぶことに成功した三木外交官は、その功績により領事官から参事官に昇任し、その辞令受理と同時に中破総理から次の指令を受けていた。
「メキシカですか?」
「うむ、それと中南米諸国も含めてだ。
各国と同盟までは結ぶ必要な無いが、何らかの条約か協定等の約定を結んで来て欲しい」
「その件は了解しましたが、メキシカと中南米まではどうやって行きますか?」
「そうだな、艦砲外交で行こうか」
「え?艦砲外交ですか?」
「ああ、そうだ。旧日本海軍の『大和』は現在ドックで改造中だから、ここはいせ改、まや改、あしがら改、おおすみ改、補給艦1隻と娯楽艦1隻を同行した艦隊で行ってもらいたい」
「これだけ大掛かりの艦隊だと、アメリアの哨戒網に引っ掛かりませんか?」
「そのための光学迷彩機能付ステルス仕様を備えているじゃないか。
オマケに全艦、転移前にNF炉の換装艦だから長期航海でも燃料切れの心配は無いからな」
「補給艦の同行は理解出来ますが、娯楽艦を同行させるのは何故ですか?」
「それは中南米政府、軍関係者等への接待外交を行って、三木君の負担を軽くするためよ」
「確かにその方法は確実に効きますね」
「三木君も英国への物量プレゼント作戦で、かなり身に染みたよな」
「そうですね。だが、最後の決め手は総理の『真珠のネックレス』でした」
「やはり、女を夢中にさせるには『宝石』と『真珠』が古来からの武器だ」
「ネックレス1本で、爆弾1万個以上の破壊力があったかも知れませんよ」
「確かにそうだな。爆弾1万個を使用しても、戦争が終わらない場合が多い。
しかし、その国の権力者の妃か女王だったら、宝石か真珠のネックレス1本で、その女性権力者をコチラの味方に付けることが可能であり、無駄な戦争をしなくても済む」
「ところで、総理。そのネックレスはいくらしたのですか?」
「アレか、確か仕入値は100万円位で、売値が200万円位だな」
「そんなに安い物だったのですか?王女殿下は10億円以上の物だと思ったようですよ」
「養殖物だから、安定した安価なんだ。その安物でミサイル1発1,000万円よりも遥かに効果が高いわけよ。
金食い虫の戦争と、ネックレス1本で済む外交では、どちらが得策かは一目瞭然だろう」
「改めて勉強になります」
「だからこそ、今回の外交交渉は娯楽艦を同行させる訳よ」
「確かに前世界の中南米諸国は酒、女、ギャンブル、それに麻薬でしたね」
「この世界では『麻薬』は使わせない。その代わりに『精神操作』を実施する予定だ」
「精神操作ですか?」
「今回は、その第一人者に同行してもらう。入ってくれ!」
総理執務室に入って来たのは、天使ガヴリエルことアーノルド補佐官と総理の第一秘書である高田沙理江の2人であった。
補佐官の姿格好はキャリアウーマンと変わらなかったものの、英国滞在中の時とは違って、髪色が黒色でウェーブの無いロングストレートヘアーで、顔形は日本女性の美人顔で、沙理江の顔に良く似ていた。
「アレ?金髪でなく、目も黒くて日本人顔なのですね。
その顔も沙理江さんや玲美に良く似た顔立ちですが、本当にアーノルド補佐官なのですか?」
「三木さん、私もいつまでもアーノルド補佐官というわけにはいきませんから、この日本人顔では『高田 理恵』と呼んで下さいね」
「三木君。君の秘書である玲美と蘭子は、現在は有川外相と共に欧州諸国等を
回っている最中なので、当面の間は両人は君を手伝うことが出来ない。
そこで、今回はこの沙理江の姉君である高田理恵君を同行して中南米諸国を訪問して欲しいんだ」
「え?アーノルド補佐官、否、高田理恵さんを一緒にですか?」
「そうだ!彼女の精神操作は女神様を除いて天使達の中でピカイチで、仮に君が交渉失敗しても、必ず彼女がフォローしてくれるから」
「確かに高田さんの能力は、素晴らしいモノがありますが」
「三木さ~ん。その堅苦しい呼び方は何とかなりませんか?
ココには私の他に総理と沙理江、そして貴男しかいないプライベート空間なのですから」
「何とお呼びすれば良いのでしょうか?」
「公のパブリックでは『高田秘書官』で、プライベートでは『ガヴリエル』か『ガヴ』または日本名の『理恵』が一番しっくりくるかしら」
「分かりました。ガヴリエルさん」
「三木さん、私に『さん』の敬称も必要ありませんよ」
「分かりました。理恵」
「総理でも『ガヴリエル』か『ガヴ』なのに、日本名で呼ばれると新鮮で少し嬉しいですね」
「なんだ、ガヴ。俺から『理恵』と呼ばれたかったのか?」
「ハイ、この黒髪の日本人仕様では是が非でも」
「それよりも、俺の他に三木君のも味見するのか?」
「ハ~イ、それが私の務めの一つでもあります」
「総理と俺を味見?」
「ハイ、先日総理と関係を結びましたわ」
「え?沙理江さんがこの場にいて不味くないのですか?」
「流石にガイア様が関係した男性で、沙理江が心底尽くすのが理解出来るわ」
「沙理江さん、理恵があんなこと言っていますが、貴女は大丈夫なのですか?」
「三木さん、大丈夫とは守様とガヴリエル姉様が関係したことですか?」
「ハイ、嫉妬とか憎しみの感情が湧かないのかな?と思ったのです」
「三木さん、キリスト教でいう『七つの大罪』は御存知ですか?」
「ハイ、『傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲』の七つですよね」
「そのとおりです。この七つの大罪は人間の欲望に対する戒めですが、仏教にも煩悩があって、コレも同じようなことなのです」
「それでは、天使達も七つの大罪みたいな感覚を持っているのでは?」
「遥か太古の時代、神々達が争いを起こしたことがあり、それらの争いを防止するために神々達は自らの感情を一部封印したわけです。
その封印した感情が『傲慢、嫉妬、強欲』なのです」
「全ての感情を封印しても良かったのではないですか?」
「いえ、怠惰、暴食、色欲は感情等の欲望ではなく、生物が生きるための本能であり、この他に憤怒の感情が加わることが神々達の人間体を維持するために必要な感覚であるわけです」
「そうか、怠惰とは『睡眠欲』、暴食は『食欲』、色欲は『性欲』で、これらは生物の三大欲求で、『憤怒』は怒りの感情といえますが、コレが何故必要なのですか?」
「ハイ、確かにそのとおりで本能に支配されているのは三大欲求ですが、この3つ以外に生物が生きて行く上で必要なのはズバリ『怒り』の感情なのです。
食物連鎖上の弱肉強食では、弱い生物が強い生物の餌になりますが、と同時に強い生物に対する怒りの感情は、弱い生物の『生きようとする気』であり、つまり『やる気』なのです。
コレは、三大欲求以外に生物が生命を繋げて行くために必要な感情といえるのです」
「なるほど、人間以外の生物にも怒りがあるわけだよな。その生物をデザインした神々達は生物の本能的な欲望は我慢せずに、自由奔放にするわけか」
「ハイ、私達天使は神々達に造られた存在ですが、その神々達の本能的欲望をほぼ同様に受け継いでいるため、その欲望を求めることに忠実なのです。
また、天使達は感情を持っていますが、神々達が封印した感情は与えられていません。
そのため、時には天使達同士で相手に怒ることはありますが、それ以上争いには発展しません。
その理由は『傲慢』、『強欲』、『嫉妬』の感情が一切無いため、互いに愛すべき人物を共有できることは、喜びであり嬉しいことなのです」
「そうなんですか、だけどルシフェルの場合はどうなのでしょうか?」
「それについては、私が後程説明するわ。
そのためには私と三木さんはセフレな関係になってからだけど」
「あ、理恵とは、結局その関係になるわけですね」
「それではガヴリエル姉様、三木さんを宜しくお願いします。
あ、三木さん。貴男は守様によく似た雰囲気をお持ちですね。
帰国したら、私との関係も宜しくお願いしますね」
「ハァ、帰国したら改めて検討させてもらいます」
「三木君、一つ教えておくぞ。天使達を相手にする場合は、人間の貞操観念を持たずに、AV男優かスケコマシになったと思えば、気持ち的に楽だから」
「そんなモノですかね」
「ま、そんなモノだ。それより中南米の件を宜しく頼むぞ」
「了解!」
数日後、護衛艦隊と共に娯楽艦に乗船した三木とガヴリエルの2人は、一路メキシカのアカプルコを目指して航海中であった。
その航海中の間、三木はしっかりガヴリエルに絞られていたことは言うまでもなかった。




