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宰相現る

「レオンハルト様、ミッシェルト様が応接間に来るようにとのことです」

 僕が部屋で始祖様の本を読み返していたところに、リュリウスが呼びに来た。

「お父様が? 来客中じゃなかったっけ? お客様は帰られたのかな」

「いいえ、まだおられます。レオンハルト様に紹介したいのでは」

「分かった。着替えてすぐに行くよ」

 そう言うと、急いで着替えた。


 応接間に行くと、お父様とお客様がソファーに座っていた。

 お客様の服装で身分の高い人だというのはすぐに分かった。立場を弁えないとアカツキ家が後々困ることになるかもしれない。

「レオンハルト様をお連れしました」

 リュリウスが頭を下げると、入り口付近の壁の前に立った。

「レオン、こちらにきて挨拶しなさい」

「はい」

 お父様の近くまできて、お客様の方へ右手を左胸にあて、軽く頭を下げた。

「レオンハルト・アカツキです」

「私はバルトク・ドルタークだ。ミッシェルト殿から君の事を聞いて会ってみたくなったのだよ」

 ドルターク様が興味津々な顔で僕を見た。

 一体何を聞いたのだろう。

「レオン、ドルターク公爵殿はドルターク領の領主でありながら、王国の宰相として重要な仕事をしておられる方なのだよ」

 お父様が少し緊張した面持ちで言った。

 かなり偉い人なのかな? でもそれだけではなさそうだけど。

「宰相って偉い人ですよね、すごい方なんですね」

 そんなに偉い人がどうして王都から離れた辺境の地にわざわざ出向いできたんだろう?

「いやはや、そんなに気を使わないでくれたまえ。父の跡を継いだだけのことよ。ところで、レンハルト君は王都の学校に興味はないか?」

 突然、話題を変えられてビックリした。

 学校って、確か、魔法とか剣術とか礼儀とか色々なことを学ぶところだよね?

 お父様を見たが、表情が硬い。この話題はあまり良くない話なのかもしれない。

「お父様の手前でこのようなことを発言するのは恐縮なのですが、生憎、アカツキ家はあまり裕福ではありません。学校に行く余裕があれば、領内の運営の手伝いをしたいと思います」

 言ってしまった後でお父様をちらっと見た。ご気分を悪くされてないかな?

 お父様は特に表情を変えてはいなかったが、少しだけ和らいだ気もした。

「本当に聡明な子だ。九歳とは思えないな。貴族の子女のほとんどは学校で学び、王城での仕事に就くことを希望する者も多い。だが、強制ではないのだが、貴族社会にとって、学校での成績はステータスとも言えよう。その選択を敢えて捨てるのか。それとも他に何か考えでもあるのか――」

 ドルターク様がちらっとお父様を見た。

 お父様は少しも動揺を見せなかった。

「ドルターク殿、息子はまだ九歳です。年齢的にも学校に行くのはまだ早いです。ただ、息子の言う通り、このアカツキ領は裕福ではありませんから、十二歳になったとしても、王都の学校に行かせる余裕はないと思います」

 やはりお父様は僕を王都の学校に行かせたくないみたいだ。

「なるほど、一理ありますな。しかし、それなら尚更、王都の学校で成績を残し、王城で働いて仕送りでもした方がよいのではないだろうか。能力次第では重職にもつけるであろう」

 ドルターク様は何故このような辺境の地に出向いてまでも、王都の学校の入学を僕に勧めてくるのかな? さっきの理由では簡単に納得してくれないみたいだ。

 お父様は返答に詰まってしまったのか、難しい顔をしていた。

 二人の思惑が僕には分からない。

「いささか息子を買い買いかぶりすぎかと」

 お父様は少し冷や汗をかいているように見えた。

「レオンハルト君は剣術も魔法も相当な才能を持っておると風の噂で聞いた。それなら私の権限で九歳からでも入学できるよう取り図ろうと思っていたが、本人にその意思がないのならやめておこう。まだ三年ある。その時には状況も変わっているかもしれませんな。なに、才能ある若者を育てて国のために働いてもらおうと思っているのだよ」

 ドルターク様が僕たち親子を見て意味ありげな笑みを見せた。

「ドルターク殿にそう言ってもらえるのは、過大評価だとしてもありがたいことです。しかし、息子はまだ子供、貴殿の期待には添えられないかと思います」

 お父様が必至でドルターク様を躱しているような感じがした。

「ちなみにレオンハルト君は、将来をどう考えておるのかな?」

 ドルターク様が僕をじっと凝視している。笑みは見せていても、目が笑っていない気がした。

「私は、おそらく父の跡を継いで、この地の領主になると思います。領主になったら、領民を守り、領民の笑顔を絶やさないように、誰一人飢えることがないように努めたいと思います」

 緊張しながらも考えて、ドルターク様の目を見て答えた。

 ドルターク様の目元が緩んで笑みを見せた。

「そうか、君なら実現可能な気がするな。今回の視察は十分意義のあるものだった。我の杞憂は晴れたが、煙のないところに噂は立たぬ。十分気をつけるといい。王都を長く離れるわけにもゆかぬから、これで失礼する」

 ドルターク様が席を立った。

 続いてお父様も席を立ったので、僕も慌てて席を立った。


 屋敷の外には、ドルターク様のお付きの人が三人程待っていた。そして馬車が三台待っていて、中に王都の騎士のような恰好をした人達がいるみたいだった。

「大したお構いもせずに、失礼しました。領の外れまでお見送りいたします」

 お父様が頭を下げて言った。

「いや、それには及ばない。護衛もいるから心配はいらない。領内で何かあっても、貴殿の責めとはしないので、気遣いは無用だ。それでは」

 ドルターク様は嵐のように去っていった。

「お父様、ドルターク様は何故僕に学校の入学を勧めてきたのですか? お父様は反対していたみたいですが――」

 疑問に思ったことを聞いた。

「今回の視察は、領地にベヒーモスが出たことが真実かどうかと魔の森の魔物が増えているかの確認などという名目だったが、実際はレオンの事を調べにきたと思われる。どこからかレオンがベヒーモスと盗賊を倒したという話が耳に入ったのかもしれん。王都の学校に入学させることで、レオンの魔法や剣術の実力を測るのと、もし噂ほどの能力を持っているなら監視をしようというところだろう。宰相がレオンの力を利用するということも考えられるが、あの宰相は王の腹心の部下で忠誠心が強い男という話だから、それはないだろう。レオンの能力を恐れて探りを入れにきたのかもしれんな。ここは王都から遠く離れた辺境の地、何かを企んでいてもおかしくないという噂でもあるのかもしれん」

「お父様はドルターク様が不審に思わないようにと心配なさっていたんですか?」

 ドルターク様は一見大らかそうな雰囲気があるけど、抜け目のない人のように思えた。やはり宰相を任されるだけのことはあるのかも。

「そうだ。彼に不審に思われるのは、アカツキ家にとっても、領民にとっても良いことではない。反逆の意思があるなどと邪推されることは以ての外だ。だが、今回もレオンに助けられたな。邪心などない真っ直ぐな心が伝わったと思う」

 お父様が僕の頭をそっと撫でた。

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