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剣術の訓練と実戦

 ベヒーモスが現れてからというもの、魔の森に隣接する村によく魔物が現れるようになった。危険度は低く、警備隊の兵士がすぐに倒して被害も少なった。

 けど、こんなに頻繁に魔物が人のいるところに現れるのは何かあるのか、とお父様達が話していたのを耳にした。

 いつまたベヒーモスのような強大な魔物が現れるから分からないから、僕は鍛錬を怠らないようにと、今日もこっそり練習しようと屋敷を抜け出した。

「レオンハルト様、どちらへ行かれるのですか」

 屋敷から少し離れたところで、後ろからリュリウスに声をかけられた。振り返ると、リュリウスの片方の眉毛が吊り上がっていた。

 抜けだしたのがバレちゃった。

「えっと、ちょっと剣の鍛錬をしようかと思って……」

 後ずさりしながら答えた。

「レオンハルト様、鍛錬するのは良いことですが、勝手に屋敷を抜け出してはいけません。せめて声をかけてください。私も鍛錬に付き合いますから」

 リュリウスがため息つきながら言った。

「ごめん。でも、リュリウス忙しいかと思って。それに今日は一人で鍛錬できそうだったから……」

 リュリウスの顔色を窺いながら言った。

「そうだとしても、私に内緒で出かけるのはおやめください。一人で鍛錬してもよいですが、お側にいさせてください」

「分かった。鍛錬するのにちょうど良さそうなところを見つけたから、付いてきて」

 リュリウスは僕の執事でもあり護衛でもある。僕は子供で、領主の跡取りで、リュリウスが心配するのもちゃんと分かっているけど、僕の我が儘でリュリウスの仕事を増やしたくなくて黙って出てきたんだけど、返って仕事を増やしたようなものだ。

「はい、レオンハルト様」

 リュリウスが少し表情を和らげて言うと、僕の近くまできた。僕は気を取り直して目的地に向かって歩いた。リュリウスはすぐ後ろを歩いて付いてきた。


 領内の広場に来た。

 よし、誰もいない。

「リュリウス、折角だから手合わせしたい」

「分かりました。そういうと思って、練習用の木剣を持ってきていますよ」

 リュリウスが近づいてきて、木剣を僕に手渡した。僕は持っていた刀を離れたところに置いて戻ってきた。

 剣を中段に構えた。リュリウスも同じように構えている。

「じゃあ、始めるよ。防御と攻撃の切り替えの練習をしたいから、先に切りかかってきて」

 僕の掛け声とともに、リュリウスが一歩踏み込みながら剣を打ち込んできた。

 それを剣で受け止めると、リュリウスの剣を下に滑らせるように切り返して、今度はこっちが切り込んだ。それをリュリウスが防御して、しばらく打ち合いが続いた。

 剣と剣の押し合いの後、リュリウスが剣を振り下ろしてきたところを、僕が剣を下から上に素早く思いっきり振り上げて、リュリウスの剣を弾いて遠くに飛ばした。

「参りました。お見事です」

 リュリウスが負けを認めた。

「もう一回手合わせして。今度は僕が先に攻めるから」

「承知しました」

 リュリウスが剣を構えた。

「じゃあいくよ」

 掛け声と共に、今度は僕が踏み込んで剣を打ち込んだ。リュリウスが剣を受け止め、押し返してきた。間合いをとったところで今度は居合の要領で一旦左脇に剣を構え、そのまま踏み込んで中段横に切りつけた。しかし、リュリウスが剣先を下に構えて胴に切り込まれるのを防ぐと剣を振り上げようとした。

 このままでは勢いで剣が弾かれる。

 咄嗟に後ろへ飛びのいて、体制を立て直して、再度踏み込んで今度は下から切り上げようとした。リュリウスが剣で上から抑えた力に抗えず、剣を落としてしまった。

「ふぅ。今度は僕の負けだね。もうこのパターンはリュリウスには通用しないね」

「そうですね。何度もお相手を務めていますからね。下からの攻撃は意外性があって、初見の時は躱せませんでしたから、魔物相手なら十分じゃないでしょうか」

 リュリウスが苦笑いしながらフォローしてくれた。でももっと強くなりたい。皆を守れるぐらいに強くなりたい。次は違うパターンで下切を効果的に使ってバリエーションを増やしてみよう。実戦で使うのはまだまだ先かな。木剣だから当たっても痛くないし死ぬことはないから、思い切って剣が振るえるけど、真剣だったらこうはいかない。

 持ってきた刀での練習もしないと。

「リュリウス、剣を振り回すから、少し、じゃないや、かなり離れたところにいて」

 リュリウスが頷いて、かなり離れたところで見ていた。

 僕は始祖様が使っていたらしい剣というか日本刀という刀を左手で脇に抱えて腰を落として構えた。心を落ち着かせて気を集中させて、刀を鞘から一気に引き抜いて斜め上に空を切った。そして両手で刀を持って右上から左下へ振り下ろし、手首を切り返して左下から左上に振り上げ、また返して左上から右下、体を回しながら中段を横切り、今度は逆の順番に続けた。そのまま刀を頭上に振り上げ真下に振り下ろし、手首を切り返して真上に切り上げ、手を止めずにしばらく空を切り続けた。

 一旦刀を中段に構えなおして息を整えた。神経を研ぎ澄まし、静から動をスムーズに、複数の敵をイメージしながら、もっと体全体の動きと刀を一体化させるような感覚で、走りながら相手を一撃で切り倒す。

 始祖様の本に書いてあった通りに刀を振り回し終わると、息が上がっていた。

 鞘を拾って、刀を納めると、地面に座り込んでしまった。

「レオンハルト様、大丈夫ですか?」

 リュリウスが駆け寄ってきて、声をかけてきた。

「うん、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」

 息を整えながら言った。

「それにしても、流れる剣捌きですね。まるで剣舞のような美しさです。思わず見惚れてしまいました。その剣も剣術も珍しいもののようですが、また始祖の本に書いてあったのですか?」

 リュリウスが興味津々に聞いてきた、

「そうだよ。剣は日本刀といって、片刃だから、剣の扱いも普通の剣とは違ってくるみたい。でも、使いこなせば普通の剣よりかなり切れ味がいいみたいだよ。始祖様が使っていたらしくて、本棚の裏から見つけたんだ。かなり錆びていたけど、鍛冶屋の親父さんに頼んで研いでもらったら、この通り」

 鞘から刀を半分ぐらい出して見せた。

「私にも少し触らせていただけませんか?」

 リュリウスが目を輝かせて言った。

「いいよ」

 一旦、刀を鞘に納めてからリュリウスに渡そうとした、その時――

「キャー!」

「誰か!」

「誰か! 誰か、助けてください!」

 少し離れた林道の方から、複数の悲鳴や、悲鳴のような助けを求める叫びが聞こえてきた。

 僕とリュリウスは顔を見合わせえると頷いて、声のする方に向かって走り出した。


 林道の近くまで行くと、二台の馬車とその外に何人かが争っているのが見えた。

 よく見ると、馬車の護衛の者と盗賊が剣を交えて戦っているようだった。護衛が五人に対して、盗賊が八人。護衛側は杖を持って魔導士のような恰好をしている人が地面に倒れて体には弓矢が刺さっていた。残り四人は胴体に防具を付け、剣や槍で応戦していたが、怪我をしているようで、不利な状況みたいだ。

装備はうちの警備隊の兵士達より軽装みたいだ。盗賊側は最低限の防具で軽装、弓矢を持っている者はいなくて、短剣や剣で襲っていた。弓使いはどうやら林道のどこかから狙っていると思われる。

「リュリウス、弓使いの方を頼める?」

「承知しました」

「ちょっと待って。うまくいくか分からないけど、防御魔法かけるから」

 そう言って、リュリウスに身体強化、薬物無効、物理攻撃無効と魔法攻撃無効の魔法をリュリウスにかけてみた。これも始祖様の本に書いてあったやつだ。自分自身には何度もかけて練習は成功しているけど、まだ他人には試したことがないから気休めにしかならかいかもだけど。

「――ありがとうございます。ご武運を」

 リュリウスが何か言いたそうな顔をしたが、一刻を争うので、僕から離れて弓使いを探し始めた。

 僕自身にも防御魔法をかけて、一気に林の中を走り抜けた。護衛側の者たちの顔色が悪い。必死の形相で戦っているが、このままでは勝てそうにない。

「何をしている! やめろ!」

 ありったけの大声で叫ぶと、盗賊達が一斉に僕を見た。

「何だ、このガキ!」

「ガキはすっこんでろ!」

「死にてぇのか?」

「ガキに何ができる?」

 盗賊達は威嚇する者、邪魔されて苛立つ者、嘲笑する者な様々な反応をした。

「やめないなら覚悟しろ!」

 そう言うと僕は、刀を抜き逆さに切り返した。一人、また一人、と急所を狙って切りつけたり、柄で打ちこんだ。不意を突かれた盗賊達は、バタバタと倒れていったが、盗賊のリーダー格の男だけは、他の者が倒れたのを見て警戒し、防御した。

 この男だけは、みねうちでは倒せないかもしれない。刀を切り返し、殺してしまうかもしれないことを覚悟した。

「ガキだと思って油断したが、俺を倒すのは百年早いぜ」

 盗賊のリーダーは下品な笑みを見せたかと思うと、雄叫びを上げながら剣を振りかざして僕に切りかかってきた。

「おりゃぁ!」

 胴体ががら空きになったところを懐に入り、胴を軽く切りつけた。

「うっ!」

 呻きながら、男が倒れた。

 まだ息はあるが、傷が深いらしく、血が溢れていて、力が入らず立てないみたいだ。

 他の盗賊達は気絶しているのか、誰も立ち上がって来ない。

 悪人とはいえ、なるべくなら問答無用で殺したくはなかった。

 取りあえず倒れた護衛の人達の様子を見た。弓矢や短剣などの武器に毒が塗られていたらしく、傷よりもそっちの方が危なさそうだ。

 一人一人に治癒魔法と毒をなくすための異常状態解除魔法をかけてみた。するとみんな見る見る内に顔色が良くなってきた。

 馬車に乗っている人達は大丈夫か心配になり、馬車に近寄って覗いてみた。

「大丈夫ですか?」

「ひぃっ――、あ、だ、大丈夫です。え? 子供か?」

 商人らしき人とその助手っぽい人達が、馬車から恐る恐る降りてきた。

「君が倒したのか?」

 商人が驚きながら尋ねてきた。

「はい、ちょうど武器を持っていて、近くで練習していたものですから」

 苦笑いしながら答えた。

 そうだよね、子供が全員倒したなんて普通は信じられないよね……

「ありがとう! おかげで命拾いした。それにしてもすごい腕だな。え? 盗賊どもを殺してないのか」

 盗賊達のうめき声が聞こえてきたため、商人達は後ずさった。

「片付くまで馬車に乗っていてください」

 僕が声をかけると、軽くお辞儀をして商人達は馬車に乗った。

「レオンハルト様」

 リュリウスがいつの間にか林から出てきて、僕の傍まで来ていた。

「ご無事で何よりです。この者達をいかがしましょうか?」

 リュリウスが盗賊達を見て言った。

「そうだね、生け捕りにして、処分はお父様に相談しよう」

「ではそのように。ただ、今は持ち合わせがありません。先程、持っていたロープで弓使いを林の中の木に縛る為に使ってしまいました」

 リュリウスが僕に説明した後、盗賊達の身に着けている物の中からロープを探し始めた。

 僕もロープを探そうと辺りを見渡したら、護衛達が目を覚ましたらしく、起き上がってきた。

「あれ? どこも痛くない。そういえば誰かが治癒魔法をかけてくれていたような気がするが……」

 辛うじて意識があった者はぼんやりと助けられたことを覚えている、という状態だった。

 護衛達のリーダーらしき男が仲間の様子を心配し、中でも弓矢で倒れた魔導士の無事を一番先に確認していた。

 そして一折確認すると、今度は馬車の中をのぞき、商人達の無事を確認しているようだった。そして最後にリュリウスに近づいて声をかけた。

「助けていただいてありがとうございます。俺達にも何か手伝えることはありますか?」

「そうですね、では、この盗賊達をロープか何かで拘束してもらえますか? それと、この者達を倒したのも、貴方達を助けたのも、全てあそこにいらっしゃる私の主人、レオンハルト様が助けたのですよ。私は林の中で弓使いを一人拘束したにすぎません。お礼なら主人に」

 リュリウスが最後に私の方をちらっと見た。

 盗賊達を拘束する手は緩めていない。

「え? あの子供が? 主人? え? 倒した? そう言えばあの時子供の声だったような……」

 護衛のリーダーは敬語も忘れて僕の方を何度も見て驚きを口にした。

「リーダー、俺、見ましたよ! すごかったです! あの子供があっという間に盗賊どもを倒していましたよ! 治癒魔法とあと毒を消すような魔法をかけてくれて、助けてくれました! とにかく早く盗賊の拘束をしないと!」

 若そうな護衛の一人が持っていたらしいロープを使って盗賊の一人を後ろ手に縛って拘束しながら言った。リーダーに向かって興奮した様子で声を張り上げた。

 護衛の人達は、全員男性だけど、年齢はバラバラみたいだ。リーダーがベテランで、中堅と若手といった感じだ。

 盗賊達を全員拘束し終わってから、リーダーと他の護衛が少し離れたところに集まり、何か話していた。

「あの方の主人ということは、子供だけど身分が高そうですよ」

「僕も意識が途切れるまで見ていましたが、かなりの腕ですよ。見たことがない動きでしたが――」

 話している内容が少しずつ漏れてきた。しかし、聞いているのも何なので、取りあえず盗賊のリーダーの息があるか確認しに行った。

 まだ、辛うじて息がある。拘束して動けないだろうから、傷を治しても問題ないだろう。

 男に治癒魔法を施し、傷が消えたのを確認してから離れた。

 護衛達全員が僕の方にやってきた。

「ありがとうございました。おかげで命拾いしました。貴方は命の恩人です。お名前を教えていただけますか」

 全員でお辞儀をした後、護衛のリーダーが代表して言った。

「僕はレオンハルト・アカツキです。彼はリュリウス、僕の執事です」

 リュリウスをちらっと見た。リュリウスが気付いて軽く会釈した。

「え? アカツキ、様? ってことは領主の息子? あ、息子様、ですか?」

 若そうな護衛の一人が驚いて思わず声を上げてしまったみたいだ。

「あれ、アカツキ領の領主って公爵様じゃなかったっけ? え、てことはこの方は公爵令息? す、すみません」

 別の者がそういうと、全員が急に畏まって頭を下げた。

「あの、そんなに畏まらないでください。領民ですら僕にはそんなに畏まらないですよ。領内で盗賊に襲われたこと、警備が不十分だったことを領主に代わって謝罪します」

 軽くお辞儀をすると、皆が恐縮してしまった。

「とんでもない、それは領主様のせいとは言いえませんよ。どんなに警戒していても、盗賊は人知れずに領内に入ってきますから」

 リーダーの男が言うと、他の者も頷いていた。

「この盗賊達は領主に処分を任せてください。皆さんが無事で良かったです。皆さんは見るところ護衛の方達ですよね? 貴方がリーダーで五人チームを組んでいるのですか」

「あ、はい、いえ、俺達、今回は護衛の依頼を受けて雇われましたが、普段は王都やその付近の街で冒険者として、パーティを組んでいます。あ、でも、彼だけは今回人数合わせにソロで依頼を受けたようです」

 リーダーが端にいてフードを被っていた男を指すと、彼は軽くお辞儀をした。

 一人だけパーティに急きょ参加しただけなんだぁ。依頼によっては普段一緒に戦わない人達とも連携して戦ったりするってことなんだね。

「そうですか、専属の護衛ではないんですね。冒険者の仕事とか色々聞きたいのですが、任務中ですよね。ここには何日か滞在をしますか?」

 冒険者という仕事についてもっとよく知りたかった。王都や大きい街で冒険者ギルドという施設があって、ギルドに登録している人を冒険者と呼ぶらしいことは聞いたことがある。この領内では冒険者という人には会ったことがなかったから、僕にとっては珍しい職業なんだ。

 他にはどんな仕事とかあるのかな? 報酬は全員で山分けなのかな? 冒険者って儲かるのかな? 話聞きたいなぁ。

「商人の方々が王都に帰るまでが依頼ですので、事前には一日滞在すると聞いておりますが、今回の事件で馬車や荷の状態のこともありますので、確認してみないことには分かりません」

 リーダーがすまなさそうに答えた。

 仕事中なんだから仕方がないよね。こういうところで権力を振りかざすべきではない。

「分かりました。もし滞在することになって、時間ができて都合が良かったら教えてください」

 僕は笑顔でお願いした。

「承知いたしました」

 リーダーが頭を下げると、他の者達も頭を下げて馬車に戻っていった。

 そのまま馬車に乗り込むのかと思ってみていたら、商人が慌てて飛び降りできた。息を切らせて僕の前まで走ってきた。

「この度は、ありがとうございました。公爵である領主様のご令息とは存ぜず、無礼を働きましたこと、お許しください」

 商人が畏まって深く頭を下げた。

「いえ、頭を上げてください。領内であなた方を危険に合わせてしまい、申し訳なく思います」

「そんな――、私はブルリック商会の会頭、キュクット・ブルリックと申します。助けて頂いたのも何かのご縁、是非この機会にうちの商会をご利用下さい」

 商人が笑顔で言った。

 さっきまで命の危険にさらされていたというのに、もう商売の話とは……。商人とはそういうものなのかな? でも領主の息子として、勝手に確約はできない。領内外の商人や商会の取引とか、僕はまだ知らないから、何と返事してよいのか――

「僭越ながら、発言してよろしいでしょうか?」

 いつの間にか傍に来ていたリュリウスが僕に許可を求めてきた。

「いいよ」

 リュリウスの方を見て頷くと、リュリウスは頭を下げた。

「ブルリック様、盗賊達の処分の件もありますので、被害に合われたのがブルリック商会の会頭のキュクット・ブルリック様ということは領主の耳には入れておきますが、それ以降のことは領主や領内の商人、商会にご相談ください」

 リュリウスがニッコリ笑った。

 あ、これ、相手に有無を言わせない腹黒の笑顔だ。

「わ、わかりました。では、荷を確認しましたら、領主様のいらっしゃる街で宿を取りますので、その際は宜しくお願いします」

 商人がペコペコ頭を下げながら馬車に戻っていった。

 ほっとした瞬間、誰かの視線を感じた気がして、林の中の方を見た。

 誰もいなかった。人の気配を感じた気がするけど、気のせいだったのかな。

「どうかしましたか?」

 リュリウスが怪訝な顔で訊ねてきた。

「ううん、今、人の視線と気配を感じたんだけど、気のせいだったみたい」

 僕は首を横に振って答えた。

 気のせいどころか、視線と気配は複数のものだったと、この時の僕は気が付かなかった。

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