3話 《唄編》 バッチバチでも百合
「だから!私に合わせてよ!」
「わっわかってる!」
同じピアノ向かい合った二人は声を張り上げて演奏をしていた。僕はそれを部屋の隅で眺めていた。
なるほど。連弾とは二人で演奏をするということらしい。あぁ、なんと百合百合なんでしょうか。
だがしかし、どういうことか。こんなに百合ちっくなのにもう二人は犬猿の仲。きゃんきゃんぎゃんぎゃん喚く喚く。まぁ、それも一つの百合ではなかろうかと僕は考えを改める。
「ちょっと!手、邪魔っ!」
「でも、ここ私も弾かないといけないんだけど!」
なるほど。連弾では手を重ねる場面が出てくるのか。トュクンだなこれ。いや違うな。トュンク?トュンクトュンクだなこれ。
だけどどうしたことだろうか。
二人は油と水触れれば近寄ればきゃんきゃんぎゃんぎゃん喚く喚く。
そこは『あ、ごめん!』トュンク
それで『い、いいよ?』トュンクトュンク
じゃないのか?
もうバッチバッチだよ。バッチバッチ。
「もう!集中してよ!」
あ、高城先輩が爆発した。
「私も頑張ってる!」
あ、唄先輩も大噴火だ。おーこりゃあうまくいかないなぁ。だけどもだけど美女の喧嘩ってまぁとても美しいかな。
「なに考えてんの?」
「なにってどういうこと?演奏のことだよ!」
なんだろう。僕。高城先輩がすーっごく気になる。彼女ってなんだかすごく唄先輩のこと知ってる気がする。なんだろう、僕の感がそう言っている。第六感、そう、シックスセンス。幽霊は見えないけどシックスセンスそう、シックスセンスと言いたいだけのシックスセンス。だけどそんな気がしてならないシックスセンス。
「今日はもう帰る」
「え、ちょっと!」
あら、高城先輩がついに帰ろうとしている。唄先輩がびっくりして彼女を触ろうとしてその手を止めた。
なるほど、犬猿の仲にして水と油、触れることもできない間柄ということか。相当二人は仲良くないのだろう。
結局唄先輩はスタスタと帰る高城先輩の後ろ姿を眺めるだけで終わり、僕はその二人を眺めた。
「あれ、また喧嘩したの?」
そこにやってきたのはここのピアノの先生名前は確かーー
「酒井先生」
そう、酒井先生。この方もまた美人。ナチュラル美人で化粧っ気がないのにとても綺麗な顔立ちをしている。それでいて着飾らないのだから最高に魅力的だ。僕は最近気づいた、僕はどうやら年上フェチらしい。どうやら僕は年上が好みらしい。しかも二、三歳とかの年上ではなく何十も上だ。もう僕は心と体の隅々まで変態が染みついているらしい。きっと僕を構成するD N Aは変態で構成されているのだろう。
「だめじゃーん、仲良くしなきゃさー?」
「私、どうしたらいいんですか……」
弱ってる唄先輩かわうぃ。
「ていうかさ、なんでそんなに仲悪いの?」
このピアノ教室はこの酒井先生の家を改築して作ってあるらしく、一階で唄先輩と高城先輩がさっきまで演奏していたわけだけど、どうもこの連弾は二人でやる演奏な訳で二人は毎日ここで先生の仕事終わりに練習をしていたそうだ。でもこんな感じで毎度喧嘩して終わるらしい。
酒井先生は風呂上がりのようらしく髪をひとまとめにしアイスをかじっていた。その無防備な酒井先生も素敵だった。
「私もわかんないです。だって私がここに通い始めてからずっと目の敵なんです」
唄先輩がしょんぼりと話す。
そうなのか。
「目の敵……ね。本当にそうかなー?」
「どういう意味ですか、どう見たってそうです。なんで私たちを組ませるんですか」
「私が遊び半分で二人を組ませてるとでも思ってるの?」
「そんなことは……」
ふむ。女の人の風呂上がりってなんであんなに色っぽいんだろうか。
「ねぇ、唄?わかってるでしょ?あんたが感覚的にピアノを弾くとすればあの子は全く正反対の人間よ?それがどういうことか。もっと相手をしりなさいよ?じゃないとあんたのスランプは長引くわよ」
「でも、知りたくても私嫌われてるから……」
「嫌われる理由がないならもっと自信持って話しかけてみなさいよ、雫のこともっと知りなさいよ」
ふむ。連弾とはどうやら相当に難しいことなのだろう。僕には二人の会話が全て分かっているわけではなかったけどどうやら唄先輩はスランプ中でそのスランプを抜け出す鍵をあの高城先輩がもっているということらしい。
「ところで君誰?」
「ぼ!僕は!倉敷です!唄先輩のお友達です!」
「ほーう?君も習いたいのピアノ?」
「え……」
「いいわよー?私が手取り足取り教えてあ・げ・る」
ブファファッ!!!!
大人しゅごい……
「は、母にきっきいて…み……みましゅっ!!」
「いいわよぉ?」
「はっはひぃ!!」
それから僕と唄先輩はそのまま帰ることにした。
「なんか、ごめんね」
唄先輩が何を謝っているのか僕にはわからずキョトンとした。
「なんか、雰囲気わるくて見るに耐えなかったよね?」
「そんなことないです。僕、毎日見に言ってもいいですか?」
「えー?なんでよ」
「なんだか気になって」
「?」
そう、なんだか気になったんだ。
高城雫。彼女のことがすごく。
彼女は何か知っている気がする。
そして彼女はなにか隠している気がするんだ。