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71話 放課後タイム

 

<倉敷>


「じゃー私たちそろそろ帰るね」


 だいぶ日も落ちてきて外も暗くなってきた頃、エマちゃんと美琴たんが言った。散々モデルになってくれた二人は仲良く帰ってしまい、その後すぐに龍神もアニメの放送時間だと言って足早に部室を出て行ってしまった。


「おぉ、いつのまにか7時近いなぁ」


 僕もはっと気付くように顔を上げ時計を見るともうそんな時間だった。僕と加瀬、マリアちゃんは同じ机に向かい合ってどんな話を作るかで話し合っていた。


 なんとも便利なことに龍神はそっちも詳しくて仕上げのデジタルを担当してくれるらしい。


「加瀬はどんなの描くの?」

「んー、そうだなぁ 結構なんでも描いてる 2次創作とかもやるぞ?」


 加瀬はその画力もあって今回は僕の漫画作りを手伝ってくれるらしい。 もちろん僕が作るのだからそのテーマは百合と限定されているが世界観はどうするのか主役はどんな子か ストーリーはどうするかなど結構とんとん拍子で決まらずにいたのは三人が三人ともに色んな意見を出していたからだった。


「私はやっぱりファンタジーがいいです!」


 マリアちゃんはそう言って


「そうだなぁ 初めて作るし簡単な世界観の方がいいかもよ?」


 と加瀬が言う


「これは18Rなのか?」


 と僕が一番大事なところを聞く


「百合って概念的に 恋愛にならなくても百合は成立するぞ?」


 と加瀬が言って


「18R!? それはちょっと……」


 とマリアちゃん


 そう、話はとっ散らかっていた。

 だけど楽しい。自分の頭の中だけでの妄想を三人で共有する楽しさに僕はそれだけで満足していた。しかも僕の案に真剣に答えてくれるってのがすごく嬉しい。


 その時だった


「あ」


 僕は手のそばに置いておいた紅茶の入った紙コップを倒してしまったのだ。まだほとんど手をつけないでいた紅茶は ばしゃぁ と音を立てて机に溢れた。


「わー!」

「おおぅふっ」


 マリアちゃんと加瀬が驚いて僕もやってしまったと顔をしかめた。


「紙がぁあ!!」

「ごめん!! 雑巾ある?」


 加瀬が描いていたラフ画数枚の紙をガバッと持ち上げ僕はワタワタと席を立つ


「そこに掃除道具入れがある! そこに!」


 そう言われてマリアちゃんと僕はそこに向かった。部屋の片隅に置かれた掃除道具入れ まだ道具はそのままらしく僕とマリアちゃんは急いでその道具入れをあけた。その時だった。


 トントン


 部室の部屋の扉がトントンとなる。僕とマリアちゃんは振り返った。


「……加瀬?」


 おろ? この声


 僕はこの声に聞き覚えがあった。

 呼ばれた加瀬がその声に一瞬動きを止めたが紙を抱きしめたまた返事をした。


「ん?」


 その返事の仕方ってのがまたなんかかっこよくて、まるで彼女に返事する彼氏みたいな……いやいやそう言うのはどうでもいいけど、なんかすごく親しい人に返す返事だった。


「加瀬 入ってもいい?」


 扉は未だ開かず彼女は加瀬の許可を待っている。


「んー、 なに?」


 それは許可を濁すような返事だった。 まるで何かあるならそこで話せと促しているように僕には聞こえた。加瀬はそこから微動だにもせず、ただ声がするその扉を見ている。


「あけてもいい?」


 彼女はもう一度聞いた。別に開ければいいのにと思う反面僕はその二人の異様な雰囲気に口を紡いだ。


「……やだね」


 加瀬が言う。僕を始め拒否していたように。


「……まだ だめ?」


 どう言うことだ? 僕もマリアちゃんも掃除道具入れの扉を開けたままそこで顔を見合わせた。


「だから、 もう来るなよ」


 加瀬が吐き捨てるように言う。

 さっきまでの物腰の柔らかさはどこにもなく ただ突き放すような物言いだ。


「なんで?」


 声の相手はきっと猫ちゃんだ。


「会いたくないって言ったし それはこの先もずっとって意味だ」


 僕とマリアちゃんはまたさらに顔を見合わせた。どうやらマリアちゃんも相手が根田南であることに気がついたようだ。二人は仲が悪いのだろうか?


「……今日ね 加瀬が嬉しそうに笑ってたから きっといいことあったんだなって思ったの」


 ……なんだ??

 なんだ なんだ??



「……」


 加瀬は答えない


「加瀬 今 楽しいんだね」


 南ちゃんってこんな喋る子だったんだ。僕はそんなことを思いながら汲み取れるだけ彼女たちの会話を注意深く聞いていた。


「じゃー私 もう走ってても意味ないよね?」


 走る? 意味?


「あるよ 走れよ」


 加瀬の顔が歪んでる気がした。そんな声だった。


「もう、私の為のとかそう言うのやめろよ。ここに来るのもやめろよ。 帰れよ」


 あんまりにもきつい言葉に僕は口を開ける。マリアちゃんも何が何だかという顔をしている。紅茶が机からポタポタと床に落ちる


「加瀬……」

「帰れよ!!」


 それで加瀬の怒鳴った声が部室に響いた。あまりにも急な事でマリアちゃんがびっくりして肩を振らせたそして何故か僕もびっくりして思わず身をのけぞらせてしまい本当に何だかわからないが僕はマリアちゃんを巻き込んで二人して転んでしまった。


「きゃ」「ぬぁ」


 がらーー!!


 その途端 まるでタイミングを合わせたように扉が開く


「加瀬!! あんたどうにかしなさいよ!! 南が面倒くさいーー」


 それで大声で入ってきた千賀ちゃんが僕らをみた。

 縺れ合って倒れる僕ら 紙を抱きしめた加瀬 どよんと沈んだ南ちゃんと あぁ これはーー


「は?」


 眉間にシワのやった千賀ちゃんだった。


 パシャん!!


 そして一度開いた扉はものすごい勢いでまた閉まった。


 えぇ……





同じ時系列で話が動いていきますので

次の回は雫です

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