1話 《唄編》 高城さん。
僕は倉敷一馬。
今年の春、無事高校二年生になる。
好きなものは女の子。いや厳密に話すと女の子同士のきゃっきゃっうふふ。
そう僕は三度の飯より百合好きな百合豚野郎なのだ。
去年の春桜並木の道を新品の制服を来て歩いたことがなんだかもうだいぶ昔のことのように思うのだけど、今ここに一年の歳月を経て立っているわけだ。
え?ここはどこって?
いや、桜並木のあの道じゃないさ。
ここはそう……
「倉敷!やった!俺ら同じクラスだよ!」
隣に歓喜に震えた声を上げる嶋崎光輝、黒髪短髪で一見爽やかな顔立ちをしていて運動が好きで勉強が嫌い。絵に描いたような男子高校生だが、なかなかどうしてこんなにもキャラが立たないのかというくらい地味な位置に立っている。だけど根っこから優しい性分と誰とでもすぐに打ち解けられるコミュニケーション力はいつも尊敬している僕の相棒だ。そして僕の高校初めての友達にして僕の百合友。(のはず)
「……」
そう、僕らはクラス替えの張り出しがしてある掲示板の目の前にいた。
僕はそんな嶋崎ことシマの歓喜に答えることもできずその張り出された掲示物を、名前の羅列と組み分けをただただその場で立ち尽くしみることしかできなかった。
「どうー?あーし何組だったー?」
そこに鎌田がやってくる。
鎌田雄二それは苗字からの因果なのか鎌田でありカマ口調で両鎌なこいつ。『男?女?そんなのどっちでもいいのよ。好きになったら別に体がどんな形であれそれが好きなのよ』鎌田はいつの日かそんなことを哀愁漂わせて言っていた。イケメンにして人類の敵、あらゆる女とあらゆる男とあらゆる人類を網羅してきた鎌田は亜空間の住人と言ったところか。僕にとっては宇宙人だけど僕にとって大事な友人。そう、百合友だ。(のはず)
「あ、鎌田!おはよ! 今見てみるよ」
シマがそう言って鎌田を探し始める。
「あ、鎌田も一緒じゃん!」
「え、やだーん!もうあーしら腐れ縁じゃなーい?」
「……」
それはすごく喜ばしいことなんだと思う。
あぁ、本当さ。だってまたこいつらと仲良くやれるんならって思えば……でも……
ーーーー
馴染みのない顔、見たことがある顔、去年もいたなあいつ的な顔。そしてなぜか今年も同じクラスになったシマと鎌田。僕が唯一仲良くしているだろう学校にいる時大体こいつらといる的な顔ぶれ。だけどそこに彼女たちはいなかった。
「うぅ…うぁあ……あ"あ"あ"あ"あ"」
「もう諦めなってー、そんな声出してもあの子たちとクラスが同じになることはないのよ?」
「あ"あ"あ"あ"ーー」
「うるさいわねー」
僕が悲しみにくれて机に伏せている間鎌田はめんどくさそうに僕をなだめるシマは何処かに行ったみたいだ。知らない人ばかりだからきっと友達の輪を広げに向かってあるんだろう。コミュ二ケーション化け物だから。
「あんたもさっさとこの環境に馴染みなさいよ」
鎌田がそういう。
いやだいやだいやだぁあ!
せっかく百合百合を眺められるって思って好感度バロメーターマックスで全ての百合エンドまで持って行ったのに!!
もうこの後のイベント百合セックス観覧だけなのに!ここまできて!ここまできてえええええ!!!
「あーたは高感度なんて少しも持たれちゃいなかったし、あの子たちのそういうとこを観覧できるイベントなんてありゃしないわよ」
「僕の心を読むなぁあ」
僕ら百合豚男子は一括りにまとめられ二年二組となった。もはや豚しかいないこのクラスは養豚場という名前に変更した方がいいだろう。
「はいはーい。今年から君たちを担当します有川佐江といいます。知ってる人は知ってるかなー?今年からよろしくね!」
担任が挨拶をする。
去年は担任なんて苗字しか出てこない究極のモブだったのに今回はフルネームだ。僕は先生が女性ということで、彼女を眺めた。
有川佐江
確か陸上部の顧問をやってる先生だよな。
健康的な肌色に力強い瞳自身に溢れる姿勢髪を一つ結びにしていかにも活発そうな有川先生はハキハキと話し出す。
はぁ、でも先生が目に止まったからってなんだっていうんだ。僕は僕が望んでるのは今まで課金しまくった育成ゲームの究極体なんだよ。毎日誰の背中を眺めて百合妄想を膨らませればいいんだよ。誰も目に入りはしないんだよぉ。
ーーー
始業式も終わり僕ら放課後なにをするでもなく教室に残っていた。
「今日部活とかあるの?」
シマが聞く。
「僕、みんなになにも行ってないから多分無いと思う」
と、僕。
「みんなって、あーしたちはそのみんなじゃないわけ?」
と、鎌田
「僕は女の子がいない部活なら廃部になればいいと思う」
と、僕
「この豚ぁああ!!」
鎌田が怒り狂い出す。僕は怒るポイントがわからず受けて立つことにした
「なんだよぉお!」
「いつまでもうじうじうざいのよ!」
「煩いな!半月くらいうじうじさせろお!」
ぎゃーぎゃーと喚く僕と鎌田に仲裁に入るシマ。ここはいつもの風景なんだけどそこに冷たい眼差しで僕らを見るあの子たちは居なかった。僕はもう立ち直れないかもしれない。そうおもった時だった。
耳に心地よいピアノの音色が聞こえる。
僕は鎌田の乳首を捻るの手を止めて唄先輩を思い出した。
佐々木唄、彼女は現三年生の一つ年上な女子。なんでもこの学校でも超がつく有名人でピアノのコンクールでいつも輝かしい成績を挙げている生徒らしい。彼女の権力はすごく、ピアノのコンクールがあった後は朝礼で頻繁に受賞されるだけでなく音楽室を独占できる権利を持っている。現に吹奏楽部は唄先輩が新音楽室を独占的に使用している為、旧校舎の旧音楽室で練習を行う程だ。ではさぞ放課後は唄先輩がその音楽室を特訓場にしているのだろうと思いきや、唄先輩は趣味程度にその音楽室を使う程度でひどい時はピアノじゃなくギターを引いている有様だ。僕が彼女に初めてあった日も彼女はギターを片手に歌っていたくらい彼女はこの部屋を無駄に使っている不良少女なのだ。だが、僕が彼女を敬愛するのは彼女が紛れもなく美人であり、百合を秘めているからである。
さらに言えば彼女の声で歌われるラブソングはそれはそれは素晴らしい百合を奏で僕の心を掴んで離さない。それはまさに神に捧げる賛美歌のように僕の心を清く百合百合に洗い流してくれるのだ。僕は時間ができればよく音楽室に向かい彼女の甘くてちょっと切ない歌を聴くのが好きだった。
あぁ。
唄先輩に会いたい
今、放課後どこを探せばいいかわからない彼女たちを今探して美少女エキスをくんかくんかできる確率はゼロに等しい。唄先輩なら絶対あそこにいる。
「僕帰る!」
「え、ちょっと!?」
僕は走った。
音楽室音楽室音楽室ー!
僕は餌を求める豚のように走る。
はやくっ!はやくぅ!音楽室で君に会いたい!
僕は走った。二階の一番突き当たりにあるその音楽室にいる一つ年上の彼女は不揃いの短い前髪ときつめの瞳がやけに色っぽい。僕は駆け込みすぎて足がもつれそうになりながらもその教室にたどり着く。
そして
大きく開け放った音楽室。
そこにいた彼女は驚いて弾いていたピアノの鍵盤から手を上げる。
「え、なに?どしたの?」
「唄しぇんぱ〜〜い」
僕が先輩を見つけて涙目になると彼女は顔を強張らせた
「怖い怖い怖い……」
「今は、今だけは優しくしてくださいぃい」
「はぁ……?」
僕の悲痛な叫びに唄先輩は目を丸くしながら僕を見た。あぁ。安心する。彼女の顔を見ただけで。
春休み、全くと言っていいほど何もなかった僕には唄先輩のその顔は女神のようにも見えた。
「先輩、癒してください」
「なんなのよ……」
先輩の戸惑った顔なんて気にせず僕は膝から崩れ落ちる。そして両手を床につきうなだれる。
唄先輩は訳も分からず僕に歩み寄りとりあえず僕の背中を撫でてくれた。さすが年上といったところだろうか。包容力満載で僕はブヒブヒ泣いた。
「何があったの?」
僕は話した。僕のクラスに僕の大好きな彼女たちがいなくなったことを。その絶望感を。僕が話している間、唄先輩は何度となく苦い顔をしたが何も言わず最後まで僕の話を黙って聞いてくれていた。
「えーと、つまり、大好きな子が五人いてその子たちと違うクラスになったってこと?」
「はい……」
「君、五人も好きな子いるの?」
「はい……」
「すごいね……」
あれ、なんか誤解が生まれてる気がして僕が訂正しようとした時だった。
「佐々木 唄!」
音楽室の重い扉が大きく開け放たれ、僕と歌先輩はその声のする方に顔を上げた。
「やっぱりここにいた!こんなところで遊んでないで早く練習に行くわよ!」
「えぇ……ここまで来たの?」
「ん?」
僕は見たことがないその女の子に目を点にした。
実際本当に僕は彼女を見たことがないのは事実だろう。
なぜなら彼女はここの制服を着てはいなかったからだ。
美琴たんより明るい茶色の髪で美琴たんより少し長い髪。鎖骨にかかるかかからないかのふわふわした髪でそこにちょんとある小さい顔。大きな目、僕には彼女がとても三年生には見えなかったが歌先輩にタメ口を聞いているから三年生なのだろうか?胸は唯ちゃんくらいあるからもうそれはバインだ。身長は美琴たんくらいだろうか?
正直に言おう。僕は数秒、彼女に見惚れていた。そう彼女はまさしく美少女だったのだ。
「佐々木 唄!こんなところで遊んでないでないでさっさと私と練習しなさい!!」
彼女は吠えた。それはまるで小型犬のように。
「はいはい」
「唄先輩、あの人は……?」
僕は彼女が気になって唄先輩に聞く。
大きなため息をした唄先輩は苦笑しながら僕に言う。
「今、私と連弾を組んでる高城さんよ」
高城ーー。僕は彼女を見る。彼女が僕に気づきすごい顔で睨みつけている。
その顔すらも可愛いそのこに僕は目を輝かせた。
「……大丈夫?」
唄先輩が僕の顔を見ながら僕に聞く
「えぇ。今最高に元気になれそうです」
「……え。なんで?」
唄先輩は僕の返事にキョトンとしていたけど僕は唄先輩を見ることなく高城さんをじっと見た。
そして僕の百合豚としての二年生が幕を開けたのだった。