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11話 《唄編》 曖昧模糊。



 

<倉敷>


 えぇ。はい。そうですね。つまりそれは百合です。

 僕たちは彼女の会話を後ろの席で聞いていた。


「ほう、なるほど。女の子同士のきゃっきゃうふふがつまり君の言うところの百合だと」

「そうですね酒井先生」


 僕は頼んだハンバーグオムライスパクパク食べながら酒井先生に話す。


「だけどもだけど、どうしたことか今回は僕にもこの先が読めないです」

「と言うと?」


 今まで僕が育成・・目をかけてきた百合姫たちは基本単品同士の百合だったけど今回はどうもどうも三人の主要人物がいるのだ。これは初めてのことで僕もなんだか不穏な空気を感じずにはいられないわけだ。


「しずぴょんはなんであんなに唄先輩にきつく当たるんでしょうか?」

「そうね、しずぴょんは唄に張り合いたいのよ」

「張り合いたい?」

「ライバルのようなものね、いつだって自分には想像できないようなことをするのが唄なのよ」

「ふむ」

「唄は耳が凄くいいし感もいいわ曲を一回聞いただけで大体のものは弾けるしあの子は音楽理論なんか学ばなくても感覚で曲も作れる。あの子にとって楽器は指先みたいなものよね」

「まさにレジェンド・・」

「しかもあの子は気持ちが乗るととてもいい演奏をするわ。音色だってとても色づく。今はほら枯れ木みたいな感じだけど絶好調の時は私も彼女の演奏に聞き惚れるくらいよ」

「枯れ木・・・」


 僕にはそこら辺よくわからないけど・・・


「逆にしずぴょんは全部理解したいタイプの子よね。唄が感覚でこんなものかなー?みたいなところも彼女はしっかりと理解しようとする。つまり秀才ね。だから癇に障るんじゃないかしら?」


 なるほど、恋でも無く純粋に相手をライバル視している百合ということか。まぁ、それでも百合ですが。


「何してんのあんたら」


 そこで僕たちの声が聞こえたのか雫ちゃんがぬっと現れた。


「あ、しずぴょん。奇遇だね」

「何が奇遇なのよ」

「あら。唄に振られたのね?可哀想によしよし。こっちにきなさいしずぴょん」

「酒井・・ぴょんをつけるな・・」


 雫ちゃんはブツブツ悪態をつきながらキングサイズのオムライスを運んでこちらの席にやってきた。


「あんたホント良く食べるわねー」

「しずぴょんっそれ全部食べるの?!」

「ぴょんつけるなって!」


 あのキングサイズのオムライスは一体あの華奢な体のどこに・・・はっ!! おぱ!おぱか!おぱ大っきいもんね!! しずぴょん!!


「なんでここにいるのよ」

「私たちもここでご飯食べることにしたのよ。ね?倉敷君」

「ハイでございます酒井氏」


 僕がもし百合の映画監督だとすればここはつまり三角関係といったところだろうか?

 僕は鈴先輩とは全く関わってないから今どんな状態かわからないけど、もし前回の一件が終わりでは無く現在進行で進んでいたとすれば唄先輩は鈴先輩を諦めていてだけど鈴先輩はなんか唄先輩気になっちゃってそれから雫ちゃんは・・・


 いやいや、流石にそこまで上手くはいかないだろうけどさ。

 なんにしたって可愛いが三倍になったことに変わりはないのだろう。

 まぁ、鈴先輩に関してはその兆候はあったじゃないか。色々とね。唄先輩を親友は言っていたけど僕にはそれ以上に見えたしもしかしたら僕の妄想は案外外れてなくて今告白の呼び出しだったりして・・・ウオォおお見たいい。


 僕が悶々としていると酒井先生が話し始めた。


「で、少しは話せたの?」

「うん」


 酒井先生に聞かれ雫ちゃんがオムライスを食べながら返事をする。


「緊張したーー」


 ・・・・っ?!

 雫ちゃんはオムライスを口に運びながらそう言った。

 ツンデレ?! つまりツンデレなの?! 君は?!


 ___


<唄>


「どうしたの鈴?」


 私は呼び出された場所に来ていた。そこは鈴の家の近くにあった公園。

 昔はここでよく泥まみれになったものだ。その度に両親に怒られたし指を切った日なんかは凄い怒鳴られてもう公園に行くなと言われたものだ。それでも怒られれば怒れるほど子供の私はそこに行きたくなってこっそりと鈴と翔太と遊びに行ったものだ。


 子供はダメだと言われれば言われるほどそこに行きたくなるものだ。

 鈴はそこにいた。そこの錆びれたブランコに彼女は座っていた。


「ごめん、こんな時間に」

「ううん」


 私は鈴の隣のブランコに座る


「ご飯食べてたんだよね」

「そうだよ?」

「ごめんね?」

「ううん、なんか深刻そうな声だったし」


 私は少しだけブランコを揺らす。彼女はただそこに座っていただけで私を見ようとしなかった。


「何食べてたの?」

「オムライス食べてた」

「そっか」


 何を話したいのだろうか?私は彼女の問いかけに素直に答える


「今日はレッスンじゃなかったの?」

「ううん、レッスンは早めに切り上げてご飯食べに行ったんだ」

「そうなんだ、それってあの子?」

「そうだよ」


 別に何も隠すことじゃない。私は素直に雫ちゃんとご飯に行ったことを話した。


「・・・・」


 急に彼女は無言になってしまい私はまた一人ブランコを揺らした。鈴は不機嫌になっただろうか。だけど私は複雑な心境だった。だってさっきまで彼女と二人でご飯を食べて楽しく話をした後なのだ、そして彼女は私を快くここに送り出してくれた。そんな彼女にもうこの前のような嫌な感情なんてありはしなかったのだ。


「私はあの子嫌いだよ」


 彼女がそう言うけど私はなんて答えればいいのかわからない。だけど鈴に彼女を嫌って欲しくはなかった。


「雫ちゃんが鈴に言ったことは確かに失礼だったと思う。だけど悪い子じゃないんだよ」


 私はなぜかそう言った。

 それから鈴はゆっくりとブランコを揺らし始めて大きくため息をつく。


「あーぁ」


 彼女が急に大きく声をあげるから私は彼女をみた


「やっぱそうだよね、悪い子なわけないよね」


 彼女はちょっとだけ気だるそうに上を向いて言う。


「鈴?」


 私は彼女を呼ぶけど彼女は私をみないまま、まるで空に話しかけるようにいう。


「だってわざわざレッスンだからって、他校の唄を迎えに来るような子が本当に性格悪いわけないよね」


 鈴はくすくすと笑いだす。


「だからきっとあの子があの時私にいったことは本当で私、今唄にとって邪魔なんだろうな」


 彼女はそう言った


「・・・・そんなこと」


 私はなんでそうなるのかわからなくて否定しようとするけど、彼女の言葉に私の言葉は搔き消える。


「唄、あの歌さ、本当は誰に向けた歌だったの?」


 錆びれたブランコが悲鳴をあげるようにキィッと鳴る。外はもう暗い。街灯の光と春の夜風、月の明かり木々の擦れる音、それと彼女の声。


 彼女はブランコから立ち上がる、ゆっくりと私に近づくと私の掴んでいるブランコの鎖を握って私の目の前に立ち私を見下ろすように視線を落とす。


「どうしたの、鈴」


 鈴の目は私の知っている鈴の目ではなかった。その目はもっと深くてもっと暗くてもっと潤っていた。

 その目に特別なものを感じた私だけどそれ以上のことはわからなかった。


「・・・私の自惚れだったら笑ってくれていいんだけど、そうじゃないなら素直に答えて欲しい」


 そう言った彼女は微笑んでいた。


 私は心臓が早くなる気がした。


 それは不安と動揺。触れそうな皮膚の距離と彼女の吐息が生々しくて、心臓を素手で触られるような感覚。

 痛いような、痒いような、ピリピリとした不穏な気持ち。彼女から目が離せないまま私は指先がかすかに震えるのを感じる。

それはもう誤魔化せないとわかったからだろうか。急に彼女がそんな真剣な顔で私を逃がさないよう目の前に立ったからだろうか。わからない。わからないけど、だけど唯一思うとすれば


 その先の言葉を


「あれは私に宛てた歌じゃなかったの?」


 彼女はいつまでも曖昧にしてくれるはずだと思っていた。



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