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8話 《唄編》 握手。

 



 惹かれないわけない。

 だって最初から私には特別だったから。


 でもほら、特別って凄く曖昧な表現じゃない?

 特別って沢山が意味があるのよ。相手に好意を抱く瞬間だって曖昧でしょ?嫌いになる瞬間だってそう。生きてたら沢山の曖昧に出会うの。でもその曖昧さに時には助けられたり、苦しめられたりもするんだけど。


 でも、心地よかったりするのよ。

 曖昧な感情をそのままにしておくことって。


 ーーーー


<倉敷>


 春、桜は淡く彩りそれは晴天、青く青く。突き抜けるような空の下。柔らかい風が僕を撫でる。

 ーーーあぁ。百合が爆発してる。


「あーた毎日放課後どこいってんのよ!ねっシマ子」

「そーよそーよ!どこほっつき歩いてんのよ!」


 久しぶりのシマ子カマ子コントだな。


「ばかめ、僕がしてることなんて一つだろ」

「犯罪の匂いがするわ」

「えぇ、するわ」

「そのカマ口調いますぐやめろ」


 2年になったからって僕はまだ教室にいる人間がどんなものが全く把握してなかった。正直そんなことよりも唄先輩との放課後百合タイムが忙しくて日中はほとんど白目だ。


「でもさ、本当になにしてんの?」


 シマが聞く。それに相槌をうつ鎌田。僕は少しため息混じりに話し出した。


「放課後は至高の百合タイムなんだ、邪魔しないでくれ」

「なによ!あーしだって今回も沢山出たいのにあーたが放課後野外活動を一人でしてるから全くでれないじゃないのよ!」

「そーだそーだ」


 僕の返事にブーブーと文句を垂れる二匹の豚を眺めながら僕は目を細めた。こいつら本当暇なんだな


「ところでもうすぐテストだけど勉強してる?」


 僕は話を変えるためにそう返す


「「ぎくっ」」


 ぎくって自分で言う奴いたんだな。しかも二人も。


「あー俺、用事思い出したような・・」

「あらー奇遇ね、あーしもよぉ?」


 こいつら・・

 僕がお説教をしてやろうと身構えたそのときだった。


「倉敷くーん」


 僕を呼んだのは唄先輩だった。教室のドアのあたりでもじもじと隠れながら僕を呼んでいた。な・・・、もじもじ系なんですか!そこはもじもじして呼んじゃうタイプの女の子だったんですか?唄先輩!


「え、あの人佐々木唄じゃん」

「あら、ほんと」


 シマと鎌田が唄先輩を見る。やっぱり有名なのは本当のようだ。僕は二人から離れ唄先輩の下へ向かう。


「どうしました?」

「練習いくから、呼んだんだよー。君音楽室こないんだもん」


 え?あぁそうか。三年生は今日二年生より早めに終わったんだろう。だけどもだけどわざわざ僕を呼びに来るなんて、可愛い!! 彼女できたらこんな感じなんだろうか!! いや、彼女というより酒井先生がいい!! 酒井先生と乱れたかんけ・・なにを考えてるんだ僕はぁあああ!! 百合に全てをかけると誓っただろおおお僕はぁあ!! 豚戦士なんだぞ?! スパルタ戦士なんだぞ?! もうスパルティなんだから!


「どうしたの?」

「あ、すみません。神への懺悔が思いの外深いところまでいって・・・」


 僕は懺悔し悔い改めることで気持ちが高ぶる。だからその想いをつらつらと吐き出すことにした。


「先輩」

「?」


 唄先輩がキョトンとする。


「ちなみに神聖隊についてはどう思われますか?」

「は?」

「僕はね神聖隊の男版より女版がみたいです」

「なに?」

「あぁ、でも戦いは良くない。戦争反対」

「倉敷くん?」

「だけども神聖隊っていう響きがぐっときます。なんせ神聖つまり神秘、僕が言いたいのは・・」

「私やっぱ今日一人で行く・・」

「だめぇ!絶対、だめぇ!」

「・・・・」


 ーーー


<唄>


「いいですか、今日はとりあえず謝ってください」


 そう倉敷君は言った。


「だよね、昨日のは良くなかったよね・・」


 私も後悔してる。だってピアノにはなにも関係なかったのにあんな勢い任せみたいに言っちゃうなんて、私もどうかしてた。


「いいですか!怒りそうになったら握手するんです!」

「は?」


 また、わけわかんないこと言い始めた。


「頭に血が上り出したら手をギュッと握るんです!いいですか、しずぴょんは敵じゃないんです!!」


 しずぴょん・・


「そんな・・嫌われてるのに、手なんか・・」

「先輩は先輩でしょ?こういうのは年上の役割ですよ!踏み込むなら年上です!」

「でも・・」

「でももだっても聞きませーん!割り切ってください!これはプライベートな握手じゃなく連弾を成功させるためのもの!って」


 な、なるほど、若干乗せられてる気はするけど。うまくいくためだ。私だって喧嘩したいわけじゃないし・・


 そのまま酒井先生宅に着き私と倉敷君は部屋に入る。そこには当然のように雫ちゃんがピアノを弾いていた。これは私との連弾曲。彼女は一人弾いている。

 倉敷君に促され私はおずおずと雫ちゃんの下へ向かう。


「し、雫ちゃん」

「うわっ!なに?」


 集中してたのだろう。私たちが入ってきたことにも気づいていなかったらしい。雫ちゃんはびっくりしたように私を見上げていた。なんか、こうやってまじまじと顔を付き合わすのは初めてかもしれない・・


「あの、ごめん、驚かして」

「・・・」


 そのまま雫ちゃんは私をひと睨みすると何も言わずにまたピアノに向き合った。うわぁ、嫌われてる。完璧に嫌われてる。


「雫ちゃん、あの、昨日はごめん」


 私はとりあえず謝ることにした。私を見ていても見てなくてもいいとりあえず頭を下げて謝罪する。


「・・・」


 彼女はなにも答えてくれない。


「雫ちゃん?」

「・・・」


 あぁ、これは・・完全なる無視だ。


「ごめーん遅くなったぁ、練習進んでる?あ、倉敷くん今日も来てたのねっ」

「はいぃ!」


 そこにやってきたのは酒井先生。凍りつきそうな空気を緩和してくれ酒井先生に私は涙ぐむ。なにも状況を把握できない酒井先生が首を傾げる


「なに?また喧嘩?」


 ぴしっと空気がまた張り詰めた気がして私は雫ちゃんを見る。雫ちゃんはピアノに向き合ったまま身動き一つしない。そうか、彼女はもう話したくないんだ。ただ練習をするだけ、そう考えてるんだ。でも待ってよ!昨日のは確かに私も悪かったけど雫ちゃんだって・・私は頭に血がのぼりだしてきて、ふっとさっきの言葉を思い出す。手を握る。私も喧嘩や言い合いはしたくない。私は倉敷君を見る、倉敷君も私を見て優しく微笑んでいる。


 そうだ・・雫ちゃんは敵じゃない。私は、頭に血がのぼる前に、握手をする!


「雫ちゃんっ!」


 私は彼女にぐっと寄り彼女の手をぎゅっと握った


「昨日ごめんね!ほんとごめんっ!」


 私が急に手を握り締めたものだから雫ちゃんが大きく目を見開く。私はもうここまできたらやけだと彼女をしっかりと見る。彼女の淡い目に私がいっぱいに映って・・


「・・・私もごめん」


 彼女は目を背けてボソッと答えた。


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