4話 《唄編》 高城雫。
<鈴>
なんなの。
なんなのなんなのなんなの。
別に私はピアノのことなんて知らないし、だけど邪魔しているとも思ってない。なのになんであんな言い方されなきゃいけないの?
「鈴どうしたの?」
私は放課後あの女に言われた言葉にムカムカきていた。だから帰る気も起きなくて教室で一人頭をかかえていた。正直本当にムカついている。
私が邪魔ってなに?
私と唄の関係がなんなの?
言ってることが意味わかんない。
しらばっくれるところが嫌い?なんなのそれ。
わからないならそのままわからないでいろ?
なんなのあいつ!なんなのなんなのなんなの!
「おーい、鈴?」
そこで私は気づく。志田翔太私の幼馴染にして私の弟のような存在、そして私の元カレ。まぁ、付き合ったことはすぐに間違いだと気付いて別れたわけだけどその後も私たちはの関係は幼馴染という間柄で収まっていた。
「なに?」
私は不機嫌を隠すことなく翔太にあたる。
「うわっなに?めっちゃ機嫌悪いじゃん」
「あんたに関係ないでしょ」
私は怒りの矛先を幼馴染に向けた。
「まってまって!どうしたのさ?」
「別に!わけもわからず突っかかってきた女がいて腹がたつのよ!」
「突っかかってきた女?」
私は鼻を鳴らして頬杖をするとまたあの光景を思い出し一人ムカムカとした。あの後、唄は私にごめんとだけ言って逃げるように帰ったし、あの後輩君もなんかの?最近よく見かけるけど。
そこまで考えて自分が一番蚊帳の外でいることにさらに腹が立ってくる。
「ねぇ、私って唄のなんなの?」
私は自分の怒りを翔太にぶちまける
「へ?唄?親友じゃないのか?」
そうよ!親友よ!私が親友!
あのピアノ女じゃないわ!私が唄の親友。
「私、唄の邪魔してるかな?」
私はまだ翔太に詰め寄る
「邪魔?それはわかんないけど・・」
「私、唄の邪魔した覚えない!」
「なにをそんなに怒ってるのさ?」
「なんかわかんないけど知らない人に私は唄にとって邪魔だって言われたのよ!」
翔太がそこまで聞いてふーんっと声を漏らす。
「なに?」
「誰が言ったのか知らないけど、唄とピアノで繋がってるその人に言われたなら案外そうなのかもよ」
そう言われてまた腹が立った
「はぁ?なんなのあんた、どっちの味方よ」
「いや、俺はただ、事実を・・・」
そんなの事実じゃない!
私は唄を困らせた覚えはない。
「唄が実際いまピアノのレッスンに毎日通ってるのは知ってるだろ?春休みにそう言ってたってお前言ってたじゃん。唄は忙しいんだよ、邪魔だって言われてるなら距離をおきなよ」
「なんで?なんで私が邪魔?」
私は翔太の言葉に食い下がる。
ピアノに四六時中時間割いてるんだからたまには私といて気晴らししたっていいじゃない?なんなのそれ。
「ていうかなんでそんなに必死に怒ってんだよ」
「必死に?なにそれ」
必死って言葉がどこか棘があるようで私は眉をひそめる。
「必死だよ、お前は必死だよ!幼馴染の俺が見てもお前は唄に必死に見えるよ」
翔太はそう冷たく言い放つと教室を後にした。
私はそう言われた意味と翔太の態度にどうしようもできない感情が押し寄せてきた。
「なによそれ・・・」
気になっちゃダメなの?
唄を気にしちゃダメなの?
親友なのに?
なんなのそれ。
ーーー
<倉敷>
帰り道はもうだいぶくらかった。
唄先輩は毎日来てもいいかと聞くと仕方ないなぁと苦笑いを浮かべながらでも二人でいるよりはマシだからいいよと言ってくれた。
「唄先輩はまだ鈴先輩が好きなんですか?」
僕は何となくその話を振ってみた。
あの告白以来そんな話をするのは初めてだった。
「んー諦めたっていうのとは違うけど私の中ではもう終わりにしたつもり。あそこで答えを出したし私はそれに満足してるよ」
彼女はそう言った。
「高城先輩は何であんなに唄先輩にキツくあたるんでしょうね?」
僕がそういうと唄先輩はキョトンとした。
「高城先輩?あの子二年生だよ?君と同じ」
なんと、あの子は同級生なのか。
「えぇ?!じゃああのタメ口は・・?」
「あはは、馬鹿にされてるのか嫌われすぎてああなのかは知らないけど子供の頃からずっとあんな感じ。今更先輩面するつもりもないし別に気にはしてないけどさ」
そうなのか、心広いな唄先輩。
「でも、ピアノの腕は確かだよ?すごく誠実なピアノをするの。そういうのは私にはないかなー」
誠実なピアノ。僕にはよくわからないけど演奏の仕方が違うってことだろうか?
「あの子西校に通ってるんだよ」
西校。聞いたことがある。結構遠かった気がするけど
「ここまで1時間かけてきてるの、西校の高城て結構有名だよ?私といつもコンクールでせっているからね?でも最近は全然だめ。私がスランプだからもうコンクールはボロボロ」
「なんでスランプなんですか?」
「さぁね?先生曰くそれを教えてくれるのは高城さんなんだろうけどね」
高城、気になる。
「高城さんって名前が雫さんですよね?」
「うん」
「なんで苗字で呼ぶんですか?」
「え?」
だって子供の頃からコンクールでせっている相手なのに苗字で呼ぶなんて、それに高城さんも唄先輩のことフルネームで呼んでるし。
「そんなの決まってる。仲良くないからだよ」
唄先輩はそういうと苦笑した。
ふむ。
「名前で呼んであげましょうよ先輩」
「え?」
僕は提案してみた
だって連弾って仲良くした方がいいんだよね?
お互いをしれって酒井先生も言ってたし。
「あっちは年下です。踏み込むなら年上の唄先輩からですよ」
「えぇ〜っ」
「頑張りましょう、先輩」
僕はニコッと微笑んだ。唄先輩はそれにつられて困ったように微笑んだ。
ーーー
ーー
ー
<唄>
なんだかなー。
もうピアノ弾きたくないなー。
気持ちがならないし隣に私を嫌っている子が座ってるって思うだけですごくストレスを感じるし、それだけじゃなくて手もすごく近くなる。窮屈だし自由に弾けないから連弾って嫌いだ。
私は昨日のことを思い出しながら放課後また音楽室にきていた。正直逃げていた。ここにいていつのまにか時間が経ってレッスンがなぁなぁになってくれないかなーとか思ったりもしてる。
ピアノを弾くことがこんなに憂鬱だなんて思ったことなかった。でも今日は倉敷君に言われたように彼女を名前で呼ぶことにした。私だってこのままでいいなんて思っていない。
「でも、行きたくないー」
私はだらりと音楽室の隅に座り込みあけた窓の外に広がる空を眺めた。そのままゆっくりと目を閉じる。いい気分だ。気温もちょうどいいし風も気持ちいいこのまま眠ってしまいそうだ。
「唄」
うわっびっくりした。
いつのまにか目の前には鈴がいた。
「ど、どうしたの?」
私は完全に不意をつかれてびっくりする。
鈴が私のとなりにちょんっと座る。
「ねぇ、唄。私って邪魔?」
彼女はそう言った。
ーーー
<倉敷>
昨日の今日で相変わらず慣れない二年二組の1日を終え僕はシマも鎌田無視して早速音楽室に向かった。唄先輩の事だから教室にはもういないだろう。きっと音楽室だ。僕は廊下をかける。すると音楽室の目の前にあの気の強い高城さんがいた。
「今日も迎えにきたのかな?」
なんとも律儀だと思いながら僕は彼女に話しかけようとしてある違和感に気づく。彼女は一向に部屋に入ろうとしなかったからだ。そして彼女はそのままそっと開いた扉を閉めて階段を降りていった。
?
僕は不思議に思って彼女が姿を消してから音楽室を開けた。唄先輩いなかったのかな?
「邪魔だなんて思ってないよ?」
唄先輩の声がした。
「でも昨日」
「あぁ、あれは・・んー私もわかんないけど」
それから鈴先輩の声も。
僕はなぜか少しだけ心臓が早くなった気がした。
高城雫。
彼女は一体何を思ってここを離れたんだ?
彼女はどこまで知っている。彼女は何を思っている?
僕は思わず彼女が降りていった階段を下った。そして玄関口から外に出ようとする彼女を見つけて僕は思わず叫んだ。
「し、雫さんっ!」
僕はそのまま彼女に突進する。高城さんは突進してくる僕をぎょっとしてみた。
「高城雫さんっ!」
「な・・なに・・」
そして僕は彼女の両手をむんずと握りしめて僕は自分の思いの丈を吐き出した。
「君から百合の香りがするうううう!!!」
「・・・はぁ・・??」