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二章プロローグ・ある少年の死
それは、月がきれいな夜のこと。
『彼』は静かに最期を迎え、眠りにつこうとしていた。
斬り刻まれた体はとめどなく血を流しているが、もう二度と痛みを感じることはない。
だから、それはとても安らかな最期だった。
月に伸ばしていた手が、ついに力を失う。
星の間を彷徨っていた瞳が、やがて光を失う。
そして暖かな暗闇が彼を包み込み、どこかへと連れ去ろうとした。
彼はそれに、抗わなかった。
死ぬことこそが、自らに残された最後の価値だと知っていたから。
でも、一つだけ心残りがあるとすれば……。
――もう一度だけ、声を聞きたかった。
けれどそんな思いも微睡みへ溶かして、彼は目を閉じる。
真っ暗に塗りつぶされた視界の中、闇に身を任せて意識を沈めた。
それから段々音も遠くなって、ついに死が目前に訪れたその時。
彼は、許されない言葉を聞いた。