六章プロローグ・遠いあなたへ
拝啓 アッシュ様
まだ寒さの厳しい折ですが、いかがお過ごしでしょうか。
ロスタリアの冬はことに身に染みたと思います。
お体に障りなどはないでしょうか。
かの地でもあなたが奮戦したと伺っています。
どれだけ感謝しても足りませんが、お礼を言わせてください。
本当にありがとうございます。
さて、紙面に余白もありますので、少し私の近況について話します。
私は今、ハルツという街で孤児院を営んでいます。
子供は十一人いて、犬が二匹、猫が一匹、一緒に住んでいます。
近くに来ることがあれば、ぜひ訪ねてみてください。
門番の方に『灯火の家はどこか』と聞けば分かるでしょう。
……まぁ、これは、いつも書いている通りですね。
何度も見ていたらごめんなさい。
ああ、でも、猫だけは新しく飼い始めました。
事故で親と別れてしまったところを、子どもたちが拾ってきました。
みんなよく可愛がっていて、集まって撫でているのを見かけます。
この前はお手や伏せを教えている子もいました。
それと、名付けで揉めたりもしています。
みんな楽しそうなので、私はいいのですが。
聞くたびに違う名前で呼ばれていて……少し猫がかわいそうですね。
ここ数日は、とにかくみんな猫に夢中です。
庭の畑にマタタビを植えるんだって聞かない子もいます。
小さな子たちに魔術を教え始めたのですが、それも手につかないくらいで。
みんな中々コツを掴めず、すぐに嫌がって猫のもとに行きます。
……それを見ていたら、なんだかあなたたちのことを思い出しました。
比べるわけじゃないけれど、あなたたちは立派でしたね。
いつも一生懸命で、教えることをなんでも吸収しました。
本当はもっと遊んだりしたかったでしょうに。
そんな気持ちはおくびにも出さず、常に期待に応えてくれました。
でもそれは、当たり前のことではありませんでした。
きっと、色んなことを我慢して、耐えてくれたのでしょう。
私は今になってそれに気が付きました。
あの頃、たくさん頑張ってくれて、本当にありがとう。
気づいてあげられずごめんなさい。
辛い思いをさせたでしょうに、慕ってくれてありがとう。
私は、もっとたくさん褒めてあげるべきでしたね。
そして、その分まで、今のあなたに伝えてもいいでしょうか。
ずっと戦い続けるあなたの姿は、私には変わらず眩しく映っています。
きっとこんな事を言う資格はないでしょう。
けれど、あなたたちと一緒にいられたことは、私にとっての一番の誇りです。
それだけは、絶対に変わることはありません。
では、そろそろ筆を置くことにします。
これからも、及ばずながら武運を祈っています。
また手紙を書かせてください。
あとは最後に、もう一つだけ祈りを。
いつか、いつしか。
大切なあなたに、ほんのわずかでも。
どうか安らぎがありますように。
敬具
シーナ=エバース




