四十二話・日々の続きを
まず、痛みを感じた。
その苦痛で意識が鮮明になる。
「……けほっ」
起きてすぐ咳き込んだ。
口の中が血まみれで、呼吸をする度にざらつくような不快感を感じる。
全身がずきずきと痛み、強く熱を持っていると分かった。
だが、手当てをされていないというわけでもなさそうである。
包帯の締め付けを感じるし、おそらくは敷物の上に寝かせてくれている。
「起きましたか、アッシュさん?」
すぐ上で声が聞こえた。
泣いていたような鼻声だ。
同時に語尾が上がり、喜色が滲んでいる。
「…………」
ゆっくりと目を開くと、アリスが顔を覗き込んでいるのが見える。
さらに後ろには星空だ。
戦いは昼だったはずだが、もう夜になっていたらしい。
「ああ」
起きたと答えたつもりだ。
するとアリスは笑った。
無駄に品のいい座り方で、背筋が伸びている。
手袋をつけた指で、涙を拭うような仕草を見せた。
もしかすると、彼女はアッシュを心配していたのかもしれない。
いま頭を乗せているのだって、彼女の膝だと分かっていた。
気が重くなって、ため息を吐く。
「……はぁ」
アッシュはそれを好ましいとは思わない。
首輪を使っていた自分は、復讐を受けるべきだと思う。
それができないなら、彼女の人生から排除されるべきだとも。
「よかった……本当に、よかった…………」
そんな気も知らず、何度も同じ言葉を繰り返す。
複雑な気分で見ていると、不意にいつもの調子に戻って声を上げた。
「あっ。ところで、そうですよ! おめでとうございます!」
「なにが?」
「なにって、魔王を倒したじゃないですか〜! 夢が叶ったんですよ! さぁ、やったぜ〜いぇーい……って、喜んでくださいよ!」
完全におちょくっていると分かる。
呆れて何も言えずにいると、アリスは楽しげに言葉を重ねた。
「実感が湧きませんか? 仕方ないですね! ……ここは一つ、キスでもしてあげましょうか」
「意味が分からない」
なぜ、魔王を倒したからといって口づけをするのか。
因果関係が見えなかった。
しかも、偉そうに言ってくる意味も理解できない。
疑問にまみれていると、彼女はくすくすと笑って答える。
「あら、知りませんか? 勇者が魔王を倒したら、お姫様がキスをするんです。書庫の本で読みましたよ」
アッシュはさらにため息を吐いた。
色々と言いたいことはあったものの、まず大前提を指摘する。
「お前はお姫様じゃない」
「あなたも勇者じゃない」
それから、アリスはまた笑った。
本当におかしそうに。
少しの間それを見ていると、彼女は小さくため息を吐いた。
「まぁ、魔王は本物でしたが」
本当に、どうしようもない事実である。
勇者もお姫様もいないのに、魔王だけは本物だ。
人生はいつも、英雄譚の世界には遠く、何もかもがかけ離れている。
肩の力が抜けた。
「…………現実は厳しい」
「もう、地獄絵図ですね」
すると、何がおかしいのかアリスは笑い続ける。
手を強く握って、ずっとくすくすと笑っていた。
アッシュはしばらく、彼女が落ち着くまでそれを見守る。
―――
幸いなことに、今回の討伐で死者は出なかった。
しかし皆、程度の差こそあれど傷を負った。
生死の境に踏み入った者もいる。
だから、魔物であるアッシュは後回しにされていた。
最低限の処置を施したあと、膝で寝かされていたのはそれが理由だ。
……と、いうような話をアリスから聞く。
「なるほど」
ゆっくりと、立ち上がってアッシュは呟く。
また魔物化が進んだものか、少し休むと普通に立てた。
ややふらつきながらも歩き出す。
魔力の感覚を探ると、やや遠くに強い力……つまりは他の面々の存在を感じる。
「遠いな」
ぼそりと呟く。
別に文句があるわけではないが、わざわざ遠くに運ぶのは不思議に思えた。
すると、ぎくりとした様子でアリスが立ち止まる。
「……どうした?」
「いえ」
それとなく視線を外される。
別に探ろうとは思わなかったものの、向こうから理由を伝えてくる。
「私、泣いていたんです」
振り向いた。
アリスがじっと見つめてくる。
彼女は唇を引き結んで、顔を俯けていた。
「それで、恥ずかしかったので……少し遠くに行きました」
「……そうか」
アッシュは再び、うんざりするような気分になった。
なんとなく、彼女はもう自分のことを嫌っていないと実感したのだ。
しかしそれは間違いだった。
アッシュはいつか、彼女にそのことを話さなければならない。
「行こう」
けれど、今は先にノインたちの無事を確かめるべきだった。
だから何も言わず、血まみれの体を引きずって、先へと足を急がせる。
―――
他の仲間たちは、崩れた建物に集まって治療をしていた。
明かりが漏れた一角を訪ねると、かろうじて屋根がある場所に布を敷き、キメラ以外の全員が寝ている。
そして治療と言えばキメラだが、もう手が回らないのだろう。
シドやサティアも治癒魔術を使っている。
彼ら自身も寝転がったまま、杖を持って自分に魔術を行使している様子だ。
やつれた顔で治療をしていたキメラが、アッシュに気がついて顔を上げる。
「あら、おはようございます……アッシュさん」
返事をしようとしたところで、シドの悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁぁっ! おい、危ないだろっ!!」
目を向けると、身体に包帯を巻いたシドが寝転がっている。
「あ、そういえばあれ私が巻きました」
包帯について、横でアリスが謎のアピールをした。
無視をして視線を巡らせると、鎧を脱いだ姿のサティアが目に入る。
彼女はシドの隣に寝ていて、真顔で口を開いた。
「ごめん……間違えて、そっちに火ィ出ちゃった……」
「どう間違えたんだよ! クソがっ! もぉぉぉぉぉ!!!」
「ほら、私ぃ……魔術、下手だから……」
アッシュは目を瞬かせる。
キメラに状況を聞くと、呆れ顔で彼女は答えた。
「シドくんが、サティアを魔術で馬鹿にしたんです。……そんなこともできないのかって」
「ああ」
アッシュは納得する。
自分も前に似たようなことを言われた覚えがあった。
サティアは子供にムキになる性格ではないから、ただからかっているだけなのだろうが。
「うわぁっ!」
また、二人がはしゃいでいるのが分かった。
今度はバリバリと雷の音が聞こえる。
「もう謝るから! ごめんなさい本当。おい、やめろって!!」
「やめない。だって……暇だもん…………」
サティアがやはり真顔で言う。
そんな二人に、額に青筋を立てたキメラが微笑みかけた。
「あなたがた。暇なら自分を治して、さっさと治療を手伝ってくださいね」
「……なんで僕まで?」
サティアやシドは問題なさそうである。
なので視線を外し、キメラが治療している二人を見た。
ゴーストとノインだ。
彼らの内、杖を向けられているのはノインである。
「二人はどうだ?」
問いかけると、キメラはまずゴーストについて語る。
「ゴーストは、おそらく大丈夫でしょう。傷は深かったですが……改造していますし、刻印が効いています」
刻印、というところがアッシュには理解できなかった。
それを察してキメラが説明をつけ足してくれる。
「ああ、刻印は師団の慣習です。彼らは身体にルーンを刻むのですが、その内に治癒のルーンがありまして」
ノインと似たような事情である。
身体に刻まれた魔術がひとりでに傷を癒しているということだ。
よく見ればゴーストは、呼吸もかなり安定しているように思える。
「…………」
しかし一方でノインは、か細く苦しげな呼吸で横たわっていた。
意識さえ戻らないままに。
「……治せるか?」
そばに座り込んでアッシュは聞いた。
何も言わず、アリスも同じように座る。
よく見たわけでもないが、また泣きそうになっているのが分かった。
ともかく、キメラが答える。
「分かりません。治癒魔術をかけても……効いている気がしなくて」
詳しく話を聞く。
彼女によると、魔術をかけるとその時だけは傷が塞がるらしい。
でもしばらくすると開いてしまう。
そんなことの繰り返しで、少しずつ治ってはいるものの、安心はできない状態だという。
「……ノイン」
アッシュは呼びかけた。
でも言葉が出てこない。
自分のせいでこうなったということが分かっていたからだ。
戦いに縛り付けて、彼女をここまで傷つけてしまった。
そんなクズに、なにかひと言でも許される言葉があるはずがない。
「…………」
膝の上で拳を握っている。
治癒魔術を使えないアッシュは、この場においてあまりに無力だ。
しかし、そうしていると弱々しい声が耳を打つ。
「……みんな、生きていますか?」
声の主を見る。
ノインだった。
細く目を開いて、アッシュたちを見ている。
言葉を詰まらせていると、アリスが答えた。
身を乗り出して、まるで飛びつくような勢いで。
「ええ。もちろん。私たち、勝ちましたよ」
「そう、ですか。よかった…………」
本当に安心したと分かる声だった。
ゆっくりと目を閉じて、寝息が少し安らかになる。
熱があったので、時々寝汗を拭いたりしながら横で見ている。
それから、また長い時間が経った後。
ノインはもう一度だけ目を覚ました。
「あの、あたし……そういえば、ずっと、言えなかったんですが…………」
唐突な言葉だった。
虚ろな瞳でこちらを見ている。
少し躊躇うような間を開けて、バツが悪そうに続きを口にする。
「新しい、洋服が欲しいんです……」
目を瞬かせる。
どういうことなのかは全く分からない。
ノインはいま修道女の服を着ている。
それでなにか困ることがあったのかもしれない。
なんにせよ、服を買うのはいいと思った。
でも罪悪感が口を縫い付けてしまう。
答えられず、代わりに答えてもらおうとアリスを見る。
「…………」
じろりと睨まれた。
逃げるなと言われている気がした。
アッシュは目を伏せて、視線を合わせることもできず、細い声で彼女に答える。
「分かった。買いに行こう」
するとノインは口元を緩ませた。
目を閉じる。
すやすやと寝息を立て始めた。
「……洋服」
アッシュは呟いた。
今まで一度も願いを口にしなかった彼女が、洋服が欲しいと言った。
その意味を考えながら、自分が彼女のことをなにも知らないことに気がつく。
洋服を欲しがった理由も、服の好みさえも。
「ノインは、どんな服が好きだろう?」
アリスに問いかける。
すると、彼女は呆れたように鼻を鳴らす。
「自分で聞きなさい」
アッシュは頷いた。
本当にその通りだと思いながら。
「そうだな」
そして、その日ノインが目を覚ますことはなかった。
静まり返った夜に、かすかな寝息が途切れぬことを確かめながら。
アッシュは一晩中、彼女のそばに座り込んでいた。
―――
結局、療養には二日を費やした。
キメラの力をもってしても、ある程度の状態に戻すにはそれだけの時間がかかった。
特にノインは、意識こそあるが熱が引かず、寝たきりの状態が続いている。
治癒魔術も決して万能ではなく、人間には限界があるのだと思い知らされる。
……しかし、ひとまず魔王討伐は成ったのだ。
早朝、全員で召喚獣の馬車に乗り込む。
痛みの書庫をあとにするために。
「……僕たち、本当に魔王を倒したんだな」
馬車の後部から顔を出し、シドが言った。
まるで確かめるような言葉に、サティアが答える。
「ま、喜んでばかり、いられないけどね……『卵』はガーレンの手に、渡っちゃったし」
まんまとミケリセンにしてやられた結果だ。
魔獣を生み出す装置をガーレンが手にしてしまった。
どう転んでも悪い結果になるはずだった。
「…………」
一気に全員の空気が重くなる。
シドも窓から顔を出すのをやめて、アッシュの隣に三角座りで縮こまった。
サティアは咳払いをし、取り繕うように言葉を重ねる。
「ごめんね、やっぱ、喜んどきましょ……こんな機会、もうあるとは、限らないものね……」
確かにそうだった。
こんな風に、誰も欠けずに魔王を倒せるような日はないかもしれない。
サティアはさらに言葉を重ねる。
「ところで、行き先はどうするんだっけ?」
ひとまずの行き先は決まっているはずだった。
同じく把握しているキメラが言葉を返す。
「一度、大きい街に出ます。足りない薬品などを買い足したいので」
「ふーん、その後は?」
「私とゴーストは、しばらくアッシュさんたちについていきます。ノインさんの治療が終わっていないので」
とのことだ。
「ありがとうございます……」
馬車の真ん中で寝せられているノインが言った。
しかしすぐに目を閉じてしまう。
「…………」
シドはどうするだろうかと考えた。
君は、と促すように視線を向ける。
すると彼は、バツが悪そうに三角帽子のツバを握った。
「僕は……分からないよ。ミケリセンに途中でさらわれたし。あいつらも、もう待ってないんじゃないかな……」
確かに、自分の国の使徒がさらわれたのだ。
ロスタリアも大騒ぎだろう。
けれど、最低限として合流地点には人を残しているはずだ。
そう思い、アッシュはシドに語りかける。
「待ち合わせがあるなら寄ってみたらどうだ?」
「……いや、いい」
やはり断る。
不思議に思い、まじまじと見つめる。
やがて彼はそっぽを向いた。
しばらくして、つんとした口調で言葉を返す。
「…………少し、ノインが気になるんだ。あいつが治るまで、一緒にいるよ」
アッシュは頷く。
そういうことなら異論はない。
サティア以外の話を聞いたところで、アッシュに質問が回ってきた。
「みんな、ついて行くらしいけど……あなたはどうする?」
しばし悩んだ。
行き先は決めていないのだ。
正直、帰りたくはないと思う。
三の魔王を倒したところで、聖職者と揉めるのは分かりきっていた。
殺し合いになっては下らないので、身を潜めることも考えている。
「もしかして、行き場ない?」
事情を見透かしたようにサティアが言う。
しかも嬉しそうに笑っていた。
アッシュは次の言葉を察する。
「……なら、帝国に、来なさいよ。ちょっとは、落ち目だけど……不自由はさせないし、尊重するわ」
ノインの治療だって手配する……と、サティアが言う。
それにアッシュは少し考えて、首を縦に振った。
だが、一つ条件を加えておく。
「ありがたいが、表向きは聖教国の軍属を続けたい」
するとサティアは意外そうに目を見開く。
それから、少し不満げに首を傾げた。
「どうして?」
「聖教国にも派閥はある。あまり、均衡を崩したくない」
要は内戦を危惧しているのだ。
ただでさえ聖職者が力を取り戻しているのに、アッシュが去るわけにいかない。
機を得た聖職者が争いを仕掛け、多くの人間が死ぬことになる。
ある程度の均衡を保ったまま、少しずつ負けていくほうが死人は減るものだ。
「なに? 聖職者が……気に食わない?」
サティアは、アッシュが彼らを勝たせたくないのだと捉えたようだ。
しかし、そういう訳でもない。
この件について言えるのは、ただ一つだけだ。
「無駄な争いを避けたい。負けるにせよ……死ぬべき人間が死ねば、それでいいだろ」
一人だけ思い浮かべながら、アッシュは言った。
彼女はまだ不満げだったものの、やがてため息を吐く。
どうやら折れてくれたようだった。
「まぁ、いいわ。でも、ちゃんと……働いてね?」
「うん」
それから、今後についての話題に変わる。
とりあえずアッシュたちは、サティアが向かう場所に同行することになった。
行き先は帝国の属国の一つ。
かなり大きい街で、なんでも【半灯】の祝祭を執り行うとのことである。
「半灯とはなんだ?」
ゴーストが言った。
かなり大々的な祭事なのだが、鎖国をしていたヤクラナでは知られていないようだ。
キメラが説明をした。
「半分……つまり二体の魔王を倒したことを祝い、今後の勝利を祈念する祭りです」
半灯とは、世の中に半分の光が戻った……というような意味を持っている。
ゴーストは納得した様子で、何度か頷いた。
「なるほど。勉強させてもらうか」
「退屈しないわよ、きっと。今回ばかりは、見栄張らせて、もらってるから……」
サティアが言った。
見栄を張る、というのは祭りの内容についてだろう。
主催できるのは光栄なことらしく、基本的にどの国も大掛かりなことをする。
しかし口ぶりが少し引っかかり、アッシュは口を開く。
「君、もう準備をしているのか?」
問いかけた。
すでに段取りが進んでいるような言い方だったから。
すると、サティアはふふんと鼻を鳴らした。
自慢げに答える。
「私がローランを出て……一月経ったら、準備を始めるように言ったわ」
「負けるとは思わなかったのか?」
「別に。勝つために、シドも呼んだしね」
それに、死んだあと笑われたってどうでもいいもん。
……と、サティアは言った。
彼女の豪胆さに呆れるような気持ちだった。
もしかすると、他所に主催国の立場を取られたくなかったのかもしれないが。
「あ、もしかして……なにか、お祭りですか?」
と、御者台から声がする。
アリスだ。
前の幌をくぐって、杖を持ったまま車内に入り込んでくる。
「ちゃんと運転しなさいっ!」
立ち上がり、キメラが叫んだ。
悪びれもせずアリスは舌を出す。
「見てますのでご心配なく」
聞けば召喚獣と精神を繋げて、視覚も共有しているそうだ。
なにかあればすぐに思念で止められる、とアリスは主張している。
このあたりはまだ人里ではないので、アッシュは特に口を挟まない。
「それより、お祭りですか? そうなんですよね?」
わくわくした様子でサティアに詰め寄った。
彼女は少し後ろにのけぞりつつも答える。
「お祭りよ。いい感じの、パーティーもあるわ」
「あっ、いいですね〜。楽しそうです!」
それから、アリスがゆっくりと視線を動かす。
含みのある笑みを浮かべながら。
アッシュを上目遣いでじっと見つめて、彼女は口を開く。
「今の聞きました? ねぇ、そこのお兄さん。聞いてたならぜひ、報酬をいただけませんか?」
アッシュは少し考えて答えた。
ロデーヌでの約束のことなら、今は時期が悪い。
「……悪いが、まだ死ねない」
「ば、馬鹿ですかっ! 命なんか取りませんよっ!」
それから、ふぅ……とため息を吐く。
腰に手を当てて、呆れたような顔でアッシュを見る。
「遊びに行こうって言ってるんですよ。察し悪いですね」
「…………」
「約束ですからね。行きましょうよ、パーティー。絶対」
そこで、寝ていたノインが手を挙げる。
まだ辛いのか、手がぷるぷると震えていた。
「……あ、あたしも行きたいです」
アリスは笑って、ノインの横に寝転がった。
指で頬をつまみながら答える。
「イイですよ? 行きましょう」
「えへへ、やった……」
そうしてしばらく二人は戯れている。
流石に馬車の操縦が心配になってきたので、アッシュは口を開いた。
「少し、周りを見てくる」
一応、念のため……そういうつもりで言った。
後ろの幌の布をたくし上げ、道から外れていないかを確認する。
そこで、アッシュは遠くに魔獣の群れを見つけた。
やはり書庫の跡地にいるせいか、無視できない規模の群れである。
「……おい、寄り道をしていいか?」
剣の柄に手をかけ、問いかける。
サティアが呆れたように笑った。
左手でオーケーのサインを作る。
「悪いな」
言うが早いが馬車から飛び降りた。
アリスの声が追いかけてくる。
「あぁっ! ちょっと! ちゃんと約束して行ってくださいよ!」
答えずにアッシュは走り出した。
黒炎で距離を詰める。
剣を抜いて、いつも通りに魔獣の駆除を始めた。




