表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストキルレシオ  作者: 湿った座布団
五章・獣の魔王
295/304

四十一話・願いの果て

 



 炎の翼をはためかせ、魔王が空に浮かび上がる。


「奇跡?」


 誰かが言った。

 紛れもなく、輝く炎の翼は奇跡によるものだった。

 そのまま、まるで戯れのように。

 魔王が軽く左腕を振る。


 腕の先に白い光が収束し、解き放たれた。


 世界が真っ白に染まる。

 空気が熱を持ち、桁の違う破壊に大地が揺らいだ。


 そして、それだけで街が半分。

 跡形もなく消し飛んでいた。


 泥の獣は壊れた街を見て、ゲタゲタと笑い声を上げる。



 ―――



 アリスは、信じられないものを見た。

 魔王の起き抜けの一撃で、全てが消し飛んだ。

 目の前に広がっていた街が、さっきまで確かに在ったはずのものが……轟音と共に、光の奔流に飲み込まれて消えたのだ。


「……そんな」


 足から力が抜けた。

 膝をつきそうになる。

 力の差を思い知るには十分だった。

 絶対に勝てないと、今この瞬間理解できた。


「っ! 来るわ!」


 サティアが声を張った。

 魔王が笑い、彼女へと襲いかかる。

 だが一瞬でカタがついた。

 他の誰かが援護に入るような隙さえもなかった。


 魔王は()()()()をして、サティアの背後に回り込んだ。

 そのまま、埃を払うように無造作な一撃を放つ。

 ただそれだけだ。


 それだけで、あのサティアが吹き飛ばされ、血溜まりに伏してしまう。


「…………」


 誰も、何も言わない。

 獣が濁った声で笑う。

 ゴーストが斬りかかった。

 簡単にかわされ、左腕を引きちぎられる。

 なおも戦おうとしていた。

 魔王が自らの心臓を指で貫く。

 するとゴーストがぴくりとも動かなくなった。


 爪の一撃で、足が細切れに引き裂かれる。

 さらに、追撃の蹴りが突き刺さった。


「ゴースト!」


 キメラが叫ぶ。

 ほとんど反射のように叫び、手を伸ばした。


 それがいけなかったのだろう。


 目立ったことで、次の標的にされた。

 地面から突然、影の刃が現れる。

 キメラの全身を串刺しにし、内臓を引き抜いた。

 ゴミのように地面に吹き飛ばす。


 目も眩むような、あまりに深い絶望を感じる。


「……う、ううぅっ……うぅっ……」


 喉が震える。

 嗚咽がこみ上げてくるのが分かった。

 泣かないように必死で堪える。

 もう、ほかの面々もほとんど同じだ。

 ノインは呆然と立ち尽くしていて。

 シドは杖を構えていたものの、深く青ざめて動けていない。


「…………」


 しかし、アッシュだけは違った。

 彼は気負いもなく歩み出た。

 淡々と、いつも通りに語りかけてくる。


「アリス。全員連れて逃げろ。ここは俺がやる」


 頭が真っ白になる。

 彼は自爆するつもりだ。

 結局、四の魔王の時と同じになってしまったのだ。

 犠牲にならなくても、勝てるようにすると言ったのに。


「いや、です。……わ、私……私は…………もう……」

「いいから、行け」


 強い口調で押し切ろうとした。

 でも魔王は、時間稼ぎさえも許してはくれない。

 人さし指をアッシュに向け、白い光線を放つ。

 胸の真ん中が爆ぜた。


 気づけば、彼は胸に穴を空けて倒れている。


「……アッシュさん?」


 目を疑う。

 状況を理解し、涙が溢れるのが分かった。

 立っていられず、顔を覆ってうずくまる。

 魔王がアッシュにとどめを刺そうと歩いていた。

 なのにどうしても、動くことができない。


「なんで……なんで、わたし、は…………」


 自分を呪った。

 震える手で、なんとか杖を握ろうとする。

 失敗して強く歯を食いしばった。

 弱々しい腕を何度も叩いた。


 そんなことを繰り返していると……魔王の前に、ゆっくりとノインが立ち塞がった。

 アッシュの剣を拾い、突きつける。


「この人を殺すなら……あたしを殺してからにしなさい」


 低い声。

 ノインの背に、魔王と同じ輝きが宿る。

 炎の翼だ。

 奇跡を使ったのだ。


 そのまま、アッシュの目の前で戦いを始める。


「…………」


 ノインは、すぐに傷だらけになった。

 でもほかの標的と違い、彼女は勝手に損傷を塞ぐ。

 それに気づいた魔王は、楽しむように彼女をいたぶった。


 何度も何度も、傷つけて。


「……すまな、かった」


 アッシュの声が聞こえる。

 ノインの背中を見て、立ち上がろうとしていた。

 けれど崩れ落ちる。

 血まみれでもがきながら、アッシュはまた謝罪をした。


「すまない。全て……俺の、せいだ」


 アリスは、胸が抉られたように痛むのを感じる。

 彼はずっと、謝り続けていた。


「俺が、一人で……自爆を、していればよかった。最初から、そうすれば……よかった…………」


 アリスは、もう駄目だと思った。

 心が砕けそうだった。

 弄ばれ、血まみれのノインと、謝り続けるアッシュを見て。


 もう耐えられない。

 死んでしまいたいとさえ思った。


「本当に……すまない。……俺は」


 アッシュは一心に詫び続ける。

 血吐いて咳き込みながら。

 自分を憎むような強い声で。


 けれど、その声に、ほんの少し……躊躇うような色が混じった。


「俺は……俺は……………………」


 アリスは顔を上げる。

 不思議と、意識が絞られて、他の全ての音が消えた。

 彼がようやく、躊躇っていた言葉を声にする。


「負けたくない……」


 それは、本当に 小さな声だった。

 聞き違いかと思うくらいに。


「……!」


 アリスは目を見開く。

 彼は、負けたくないと言った。

 そんなこと、今まで一度も言ったことはなかったのに。


「……アッシュさん」


 無意識に涙が溢れる。

 なぜ、いま……彼がこんなことを言ったか分かった気がした。


 それは、みんなで努力をしたからだ。


 毎日ずっと、一緒に。

 魔王を倒すために協力して、努力を重ねてきた。

 ずっとひとりだった彼にとって、それはどんな風に映ったのだろうか。


「…………」


 唇を噛む。

 アリスは、ぼたぼたと涙をこぼしていた。

 そして考える。

 彼は今まで、どんな思いで……どんな孤独の中で、戦い抜いてきたのだろうと。


 負けたくない、とさえ。

 そんな言葉すら、誰にも言えないくらい……一人だったのだ。

 悔しいことも、つらいことも。

 全て諦めて、一人で、ずっと戦ってきたのだ。


 なのに、やっと言えたのに。

 あんなにも頑張ったのに。

 目の前には、どうしようもない絶望が立ち塞がっている。


「……負け、ませんよ」


 アリスは言った。

 泣きながら言った。

 反射的に、杖も持たずに立ち上がる。

 ふらつく足で歩いて、アッシュの隣に跪く。


「負けるわけっ……ないでしょう……!!」


 涙声で叫んだ。

 手袋を外す。

 立ち上がろうとして、へたり込んでいたアッシュの手を握った。


「…………」


 すがりつくように両手で包む。

 そして、自分が何をできるのかを考えた。

 もう召喚獣ごときでどうにかできる戦況ではない。


 ならば、可能性はたった一つだ。


 アリスが全てを解き放つ。

 彼の魔物の力を全て、欠片も残さず御し切ってみせる。


 そうするしか手はなかった。


「…………」


 また考える。

 もうキメラの支援は望めない。

 一人でやる必要があった。


 果たして、そんなことが可能なのだろうか。


「……アリス、か?」


 虚ろな声でアッシュが言った。

 もう意識が保てないのかもしれない。

 強く手を握り、決意を固める。


 キメラの強化がなくても、同じだけの力を使えばいいのだと。

 アリスがいま、最強のテレパスになってみせればいいだけの話なのだから。


「アッシュさん。右腕の力を使ってください」


 微笑んでそう伝えた。

 同時に精神を繋げる。

 魔物の狂気がなだれ込んでくるが、不思議と恐怖はない。

 一秒ごとに自分が強くなっていくのが分かる。

 どれだけでも強くなれそうな気がした。


「…………」


 それはもうおかしなくらいである。

 どこまでもどこまでも感応能力が引き上げられていく。

 いや、逆かもしれない。

 むしろ、今までは無意識に力を抑えていたのか。

 他人が嫌いなアリスには、人と繋がる力なんて、嫌悪の対象でしかなかったはずだから。


「……それは」


 アッシュは躊躇う。

 赤い瞳が揺れた。

 その頬に手を添えて、ノインの姿を見せる。


 彼女は今も、ぼろぼろになりながら戦っていた。


「お願いです。ノインちゃんを……私たちの友だちを、守ってあげてください」


 それで、アッシュは踏ん切りがついたようだ。

 彼はやはり、ヒーローなのだ。


「……分かった」


 握った手をゆっくりと解き、ふらつきながらも立ち上がる。

 押し寄せる狂気が、その濁流が激しさを増した。

 右腕の力をいっぱいに使い、なんとか立ち上がったのだろう。


「そうだ、アッシュさん」


 アリスはふと思いついて、立ち上がった。

 火刑の魔人の顔に触れる。

 背伸びをして、そっと頬に口づけを送った。


「…………おまじないです」


 そう言って微笑む。

 嘘ではなかった。

 これはまじないなのだ。

 無事に帰ってくるように。

 何事もないようにと、父の頬に送っていた。

 ……結局、願いは破れてしまったけれど。


「いってらっしゃい!」


 照れ隠しの言葉と同時、アッシュは駆け出した。

 黒い騎士の姿になる。

 右腕の炎が尾を引いて、熱い風を巻き上げた。

 ノインを守るように前に出て、魔王を確かに押し返す。


「…………」


 そして、アリスは耐えられなかった。

 不安に耐えられず崩れ落ちる。


「どうか……どうか、無事で……」


 帰ってきてほしい。

 そう願って、手を組んで祈る。


「……………」


 アッシュは、なんとか魔王と渡り合えていた。

 黒い炎は今や、暴力的なまでの勢いで溢れ出している。

 その代償を完全に抑え込みながら、アリスは戦いを見ている。

 動きを目で追うことはできないものの、精神が繋がっているため、感じ取れることもある。


 アッシュが傷つく度に、胸が引き裂かれそうな気持ちになった。

 同時に、彼の想いが伝わってきてアリスは泣いた。


「…………本当に、バカな人」


 彼はやっぱりみんなを守ろうとしている。

 ノインだけではない。

 世界中の誰もを救うために戦っている。


 でも、そんなことは、アリスに言わせれば無駄なことだ。


「……ねぇ。あなた、騙されているんですよ」


 泣きながら語りかけた。

 そして、それは本当のことだ。


「…………」


 まだ力が足りないのか、アッシュは何度も攻撃を受ける。

 雷の聖剣、その奇跡に臓腑を焼かれた。

 それでも彼は、必死で魔王に立ち向かう。

 傷だらけの姿を見つめながら、また言葉を重ねた。


「……みんな、いい人じゃないんですよ。悪い人の方が、圧倒的に多いんですよ。…………そんなに、一生懸命、守ろうとする価値なんて……ないんですよ」


 これは結論で、はっきりした事実だ。

 心が読めるアリスにとっては、火を見るより明らかなことである。


 ……しかし、アッシュだってそれは同じだ。

 心なんて読めなくたって、彼なら知っているはずだ。

 数え切れないくらい人に騙され、傷つけられてきたはずなのだ。


 なのに、アッシュはまだみんなを守ろうとしている。


 そして、だからこそ彼に焦がれる。

 彼が行く道が、いつか報われること。

 それを夢見ることでしか、アリスはもう……この世の美しさを信じられないのだ。


「…………」


 魔王が空間削りの爪を振るった。

 アッシュの左腕が消し飛ぶ。

 目を覆いたいような気持ちになるが、必死にこらえた。

 ただ魔物の狂気を制御する。

 少しでも彼が力を出せるようにする。


 けれどやはり、不安には勝てずに嗚咽が漏れる。


「……お願い……パパ…………どうか、お願い……」


 気づけば、泣きじゃくりながら祈っていた。

 神にではなく、もういない父に祈る。


 まるで嵐の夜に、幼い少女が震えて親へすがりつくように。


「……どうか、どうか、あの人を……見守ってあげて…………」


 声を絞り出す。

 心ばかりの祈りを紡ぐ。

 大切な人が、どうか生きて帰れるようにと。


「パパ…………お願い。お願い…………わ、わたし…………わたし、は……」


 彼と共に生きたいと願う。

 それが叶うなら、どうなっても後悔はしない。

 苦しい思いをしてもいい。

 険しい道が、痛みばかりの旅路になっても構わない。


 だってアリスは。

 たとえそうだとしても。


「…………もう、あの人が、いないと…………幸せに……なれない……」


 彼がいないと真っ暗だ。

 どうしても、どうしても生きていけないのだ。

 恋の毒は、もう魂までも侵してしまっているのだから。


「うっ……ううぅ……ううぅぅぅ……!」


 ついに、泣き崩れて地面に突っ伏した。

 祈る声はもう、嗚咽に溶けて言葉にならない。

 それでもアリスは待ち続ける。

 かつて父を待った幼い日のように。

 ただひたすらに、一人のことを想いながら。



 ―――



 黒炎を使い、更地と化した街を駆ける。

 何度も魔王の攻撃をもらうものの、立ち上がることができた。


 原因の一つは再生能力を得たことだ。

 右腕の力を使う度、生命の揮発がアッシュに強化をもたらす。

 だが、今やそれだけではない。

 度を越した燃焼は代謝をも異常加速させ、肉を再生する効果をもたらしたのだ。


「…………」


 無言で魔王と斬り合う。

 いま、自分がどのくらい右腕の力を引き出せているのかは不明だ。

 ただそれでも、歯が立たずに押されているのが分かった。


 しかし、構わずあがいていると、やがてどこからか声が聞こえる。


「全く……水臭いわね。私も、混ぜなさいよ」


 サティアだ。

 彼女が戦線に戻った。

 魔王の腕を槍で刺し、一瞬で離脱する。

 そのまま、アッシュの背後に位置どった。


「悪いけど、今の私じゃ……魔王の動きにはついていけない」


 当然だ。

 ただでさえ圧倒的な力を持つ相手に、サティアは死に体で立ち向かっている。


「だから、盾になって? 私は……撹乱に、徹するわ」


 彼女は言葉通りに動いた。

 アッシュと魔王の戦いを遠巻きにしながら、的確なタイミングで阻害を行う。

 魔術を叩き込むこともあれば、音の操作でかき乱すこともあった。

 加えて、未来視でアッシュに危機を教え続ける。


 そして。


「クソ! クソ!! 僕だって……僕だってやれるぞ!!」


 シドの声だ。

 彼も戦意を取り戻した。

 帯電する氷の矢が、魔王の側面に殺到する。


「―――――ッ!」


 しかしそれは、ゲラゲラと笑いながら軽く薙ぎ払われる。

 今や魔王は未来視をも手にしているのだ。

 生半可な不意打ちは通じないと見るべきだろう。


「っ……失礼……お昼寝を、していたようですわ……!」


 今度はキメラが立った。

 血反吐を吐きながら自分に処置を行い、ゴーストとノインを治療し始める。

 さらに、アッシュたちへと触手を伸ばした。


 支援魔術により、体に力がみなぎるのを感じる。


「……ありがとう」


 アッシュは言った。

 声にはきっと、万感がこもってしまっただろう。

 横でサティアが笑う。

 ゴーストも復帰した。


 アッシュを中心に、魔王の攻撃を上手く避けながら、みなが力を貸してくれていた。


「まぁでも……らちがあかないわね、これは」


 やがて、サティアが言った。

 誰も答える余裕がない。

 けれど言わんとすることは理解していた。


 決め手がなく、ずるずると戦いが続けば……やがては魔王に敗れるしかないということを。


「アッシュ……もう一度、最初と同じことをするわ」


 サティアが言う。

 最初と同じ……それはつまり、魔王に各個で撃破されていくということだ。


「それで、その間に……必殺技を使って。あなたが一番、火力あるでしょ?」


 いたずらっぽく微笑む。

 シドの坊やは頼りないしね……と、彼女は言い足した。


「うるさぁい!!」


 やけくそっぷりも板についたような気がする。

 魔術を使いながら、金切り声でシドが怒鳴った。

 ゴーストがくつくつと笑い、一歩前に出る。


「では、まずは俺から行こう」


 アッシュは足を止めた。

 そして、黒炎を全て……本当に全てだ。

 後のことを一切考えずに引きずり出す。

 さらに、魔法も使う。

 魔力を火に変換し、右腕の炎と合わせ……ありったけの熱を刃に叩き込んだ。


 剣の周りの、空間が歪み始める。


「……っ。すまん、限界だ……!」


 やがて、ゴーストが言った。

 霧化を駆使し、ゴーストは十数秒持ちこたえた。

 しかし拘束の魔眼に捕まる。

 爪の一撃を受けたところで、サティアが横から躍り出た。


「キメラ、治療を! 可能なら……もう一巡するわよ!」


 サティアが魔王と戦う。

 彼女に霧化はないが、それでもゴーストと同じくらい戦った。

 これは未来視と音探知に、天性のセンスが加わって可能になったことだ。


「……『偽証イグジスト』」


 アッシュは心臓の力を使う。

 灼熱の刃を複製した。

 それを『集積』の魔術で集合させ、一つの炎に束ねていく。


「かはっ……!」


 吐血し、サティアが吹き飛んだ。

 魔王は瞬間移動により先回りし、さらに一撃を加える。

 それきり、彼女はぴくりとも動かなくなった。


「次は、私ですか……!」


 キメラが上ずった声で言う。

 しかし、アッシュはそれを制止した。


「いや、サティアたちの治療を頼む。……もう、十分だ」


 地を蹴った。

 炎の帯をたなびかせ、魔王の元へと駆ける。

 しかし敵はアッシュに気づくと、笑いながら瞬間移動で消えた。


「くっ……!」


 焦りに息を漏らす。

 魔力を探り、魔王を追跡した。

 この剣は長く保たない。


 だが敵はすでに、遠い場所まで転移してしまっていた。

 もしこれが続けば、アッシュでは敵を捉えられないだろう。


「あら。やっぱり、私が必要なようですねっ!」


 見れば、キメラが駆け込んできている。

 手足を魔獣の器官に差し替えて。

 すれ違いざま、一瞬で撃破されるが……左手に結合した砲身で、最後に魔王を撃ち抜いてみせた。


 さらに。


「二層魔術『崩剣カリバー』ぁっ!」


 シドだ。

 杖に雷を纏わせ斬りかかる。

 それで一瞬……さらに一瞬、魔王の足が止まる。

 反撃でシドは気を絶たれるも、アッシュはすでに目前に来ていた。


「……『聖縛のフリッツ』」


 そして、決定打が入る。

 この鎖は……そう、確か、転移をさえ封じる効果がある。

 本来なら当たるはずもないが、キメラからシドまで、奇跡的なタイミングで攻撃が繋がったこと。

 さらにアッシュが目の前に迫っていたことで、三手先の鎖が未来視を凌駕できた。


「…………」


 目を向けると、膝立ちで笑うノインがいた。

 右手で鎖を握り、左手はピースサインだ。

 金色の封印が魔王を捕らえ、一瞬、致命的な隙を作る。


「感謝する」


 アッシュは跳躍した。

 全身の力を乗せて、全ての炎を込めて、ただ一撃に魂を懸ける。


「…………」


 無言で狙いを定めた。

 妙にゆっくりと時間が流れて、どう刃を振ればいいかが分かる。

 柄を握る手に力を込めた。


「…………!」


 やがて、魔王を斬れる、という確信を抱く。

 これは聖剣ではない。

 それでも、アッシュの全てを込めた一撃だ。

 右腕と心臓。

 魔法と魔術。

 その全てを注ぎ込んだ、自分だけの剣だ。


 落ちる勢いをも乗せ、渾身の力で振り下ろす。


「……『魔剣ファイナルアーツ』」


 縦一閃。

 剣に封じた極熱が刃となり、世界に純黒の線を引いた。

 その一撃は地平の果てまでも走破し、無音の内に万物を溶断する。

 まず大地が斬れ、遠景の鉱山が崩れ落ちた。

 さらに、直線上のあらゆる物体が分かたれて、断面に沿い滑り落ちていく。


 最後に、目の前で金の鎖が砕け、魔王の体が両断された。


「悪いな、ミケリセン。……俺たちの勝ちだ」


 着地して、死にゆく敵にそう告げる。

 アッシュはもう意識を保っていることができなかった。

 背を向け、二歩進み、それ以上は動けず……ただ、ぐらりと倒れ込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>四の魔王は魂を喰われても蘇るので、能力をコピーしたミケリセンも大丈夫、という感じで書いてました。 なるほど それでもやはり計画はガバガバという評価は変わらないだと思う 実行前アッシュたちの全能力を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ