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ロストキルレシオ  作者: 湿った座布団
たとえ灰になっても
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五十四話・撤退後(2)

 


 リリアナの世話をウォルターが引き継いでくれた。

 だからとりあえずは気にかけることもなくなり、俺は肩の力を抜いて食事を続ける。

 お腹が減っていたけれど三十五回噛むのは忘れない。

 シーナ先生が食事はよく噛まないといけないと教えてくれたのだ。


 なので俺はきちんと噛んで、ついでにきれいな食べ方を保つように気をつける。

 そうして食事をしていると、リリアナがおもむろに声をあげた。


「もういいや、おなかいっぱい。ありがとう」


 どうやら食事が終わったようだ。

 なんとなく隣に目をやると、あいつはけっこう残していた。

 彼女は決して食う方ではないけれど、こんなふうに食べ残すのは珍しい。


 だからもしや、本当は満腹ではなく具合が悪くて食べられないのかもしれないと思った。

 心配になったので声をかける。


「傷が痛いの?」


 すると俺の方を見て彼女が答えた。

 見たところ辛そうな様子はない。

 あっけらかんとして言葉を返す。


「ううん。もともとあんまりおなか減ってなかったんだよね」


 俺はそれを聞いて目をまたたかせた。

 お腹が減ってなかったのなら、先に食べさせてくれればよかったのに。


 ちょっとそんな風に思うが、俺はすぐに考え直す。

 そもそもあいつが食べたいと言ってくれなければみんな食事すら取らずに寝ていたかもしれないのだ。

 結果的には良かったのだろう。


「…………」


 食べ過ぎちゃったー、なんて言うリリアナをよそに、ウォルターはいつのまにか食事の残りに手を伸ばしている。

 すでに自分のフォークに持ち替えて、あらかじめ残すのをわかっていたかのような対応の早さだ。

 肉をたくさん食べられて少し羨ましいと俺は思った。


「銀貨ももらっていいよ」

「ほんと?」


 顔に出ていたのだろうか。

 リリアナに言われて俺も彼女のお皿にフォークを伸ばす。

 するとウォルターの食べるペースが早くなったので俺は笑う。


「俺の方が長く世話したんだから、ちょっとくらいよこせよ」

「…………」

「パンはあげるから」

「…………」

「三十五回噛めよ……」


 あの手この手でウォルターの手を止めようと説得しながら、自分の取り分は自分の皿に運んで避難させることにした。

 そして一応リリアナにお礼を言っておく。


「ありがとう」


 すると彼女は気前よく笑ってみせた。

 やっぱり偉そうで、いつもどおりの様子で安心した。


「いいよ。わたしは二人がおいしそうにしてるのが一番嬉しいからね」

「はいはいはい」


 また調子のいいことを言っているので適当に聞き流す。

 それから俺はまた食事に戻るが、今度は少し急いで食べすすめる。

 明日に備えて早く眠るためだ。


「ごちそうさまでした」


 ほどなくして食べ終わり、俺は食後の挨拶をした。

 そして使った食器を片付けることにする。

 せっかくだから全員分集めて洗おうと思った。


「リリアナ、もうお皿もらうよ」


 ウォルターがぺろりと残りを片付けていた。

 なので一応もう何も食べないかどうかを確認した上で持ち去ろうとする。

 だがあいつは首を横に振って、皿を持って行ってはいけないと伝えてきた。


「だめだよ、お片付けなんてしなくていい」

「……なんで?」


 片付けは大事なことだ。

 不潔な軍隊はだめだとシーナ先生も言っていた。

 だから俺が眉をひそめると、あいつも同じように眉間みけんにシワを寄せた。

 そして落ち着いた口調で俺をせにかかる。


「まぁ、お片付けは大切だよね」

「うん」


 当たり前のことだ。

 だから俺はうなずいた。

 するとあいつはちょっとまばたきをしたあと話を続ける。


「……そういえば、いつもなんでもしてくれるよね。ありがとう」


 確かに俺は雑用はする方だが、なぜ今お礼を言うのだろう。

 ちょっと話が飛んだ気がするけど一応頷いておく。

 言われて悪い気はしない。


「うん」

「でも今日はゆっくりしよう」


 今日はゆっくりしよう、というのが言いたかったことだと理解した。

 俺は少しその意味について考える。


 すると、すぐになんとなくの意図には思い当たった。

 つまり明日は大事な戦いがあるのだからゆっくり休めと言っているのだ。

 確かにお皿を洗っている場合ではなかった。


「そうだね」


 俺は頷いて同意を返す。

 今日は休んだほうがいいだろう。


 それに、今日はミルクを作る以外の調理をしなかったし、乾いた保存食だけの食事だったので食器はあまり汚れていない。

 朝まで置いていてもほぼ臭わないはずだ。

 お皿はどこか目につかないところに隠してしまうのがいい。


「じゃあちょっとそのへんに置いとくよ」

「うん!」


 あいつは笑って返事をした。

 俺は改めて彼女のお皿を手に取り、他のやつらのぶんもまとめて洞窟の片隅に集めた。


 そして歯を磨いて寝るために水を調達することにする。

 溜めていた雨水を煮沸しゃふつすれば安全な水になるだろう。

 いつもなら魔術で水を出してもいいのだが、今は魔力の節約が肝心だ。

 飲み水はともかく生活用水はこれでまかなう。


「…………」


 焚き火の上に鍋を吊るして煮えるのを待つ。

 そうしてぼんやりと火を見ていると、熱にあてられて眠くなってきた。

 だがなんとか意識を保って煮えた水を冷まし、俺は洞窟の入り口で歯磨きを済ませて戻ってきた。


 するとリリアナの周りでニーナ以外の四人が集まって話しているのが見えた。

 きっとミルクを飲みに来たのだろう。

 中々雑談が盛り上がっているようだが、明日に備えて早く寝るべきではないのかと不安になった。


「おーい、寝なくていいの……?」


 あんまり楽しそうなのでちょっと気が引けたが聞いてみる。

 しかしみんな気にした様子もなく楽しそうにしている。

 リリアナが俺の言葉に答えた。


「いいの。銀貨もミルクを飲もうよ」

「うーん……」


 悩むまでもなく答えは決まっていたものの、俺は困ってしまって頭をかく。

 あいつのことだからなにか考えがあるのかもしれないが、今は休むのが最優先ではないのか。

 だから皿洗いを切り上げさせたのではなかったのか。

 少なくとも俺は休むべきだと思うので、輪には加わらずに眠ることにした。


「いい。俺は寝る。歯磨きしたし……」

「え〜……」


 残念そうな声を背に寝床を整えることにする。

 敷物を重ねて敷いた地面の上で、厚布をかぶって眠るのだ。

 ベッドのような柔らかさは到底ないが、これでも野営の寝具としては上等な方だ。

 装備によってはマントにくるまって眠るようなこともある。


「…………」


 とはいえ地面は固いので、俺は楽な姿勢、背中が痛まない寝方を探りつつ目を閉じた。

 不安は多いが、なるべく休めるように早く寝なければならない。


 これから交代で起きて夜の見張りをするはずなので、先に決めていた順番からしたら俺が目覚めるのは五時間後くらいだろう。

 一応見張りのあとにも少し眠れるが、負傷したリリアナを休ませるために彼女の受け持ちは他の人の時間に足される。

 だからそこまで長く休めるわけではないのだ。


 中位魔獣のこと、リリアナの怪我のこと、全て忘れて俺は深呼吸をする。

 そうして力を抜いているとすぐに眠くなってきた。

 焚き火の熱にあてられたのが良かったのかもしれない。

 体の疲れに引きずられるように、俺はすんなりと眠りに落ちた。


 ―――


「リュート。おい、起きろ」


 俺が目覚めたのは、名を呼ぶ声がしたのと多分ほぼ同時だった。

 尾を引く眠気もなく、俺は反射的に身を起こす。

 なんだかんだ眠りは浅かったのかもしれない。


「うん」


 目をこすりつつ声の主に目を向けると、俺を呼んだのはウォルターだった。

 いつも通りの静かな目で俺を見ている。

 あたりはまだ暗く、俺の順番が来たから起こされたのだろう。

 見渡せばみんな寝静まっている。


「うなされていたな」


 ウォルターにそんなことを言われた。

 心配した様子はあまりない。

 俺は気まずくて頭をかく。


「ごめん、うるさかった……?」


 なんだか久しぶりに申し訳なくなって謝った。

 夜に騒ぐなと不機嫌に言っていたウォルターを思い出したからだ。

 すると彼は少しだけ笑いかけてくれた。


「気にするな、慣れている」

「最近はなかっただろ」

「どうだろうな」


 そんなやり取りのあと、彼はさっさと寝床に入ってしまう。

 きっと五秒で寝るだろう。


「じゃあ、頼んだよ」


 それが最後の言葉だった。

 言い残して、ウォルターは即座にすやすやと寝息を立て始める。

 寝汚いというわけではないのに、彼は本当に眠るのが早い。

 安らかな寝顔を晒していた。

 俺は独り言をつぶやく。


「おやすみ……」


 岩の寝床で寝たせいか、違和感のある体で一つ伸びをする。

 そうして体をほぐすとすぐになんともなくなった。

 痛みの残る右手を軽く握ったり開いたりしつつ、見張りのために洞窟の入り口に向かう。

 魔獣を刺激しないために篝火などの明かりは持たない。

 剣を片手に向かっていると、なぜか見張りの場所にリリアナがいるのがわかった。


「なんで?」


 俺は驚いて足を止めた。

 敷物の上で、毛布をかぶって寝転がったあいつが俺に笑って手を振った。

 毛布があるのは、雨があがったとはいえ焚き火から離れたここの夜気やきが冷たいからだろう。


「痛くて全然眠れなくてさ。見張りに来る人とおしゃべりしてるんだよねー」


 なら一睡もしていないということだ。

 えへへと笑ってそんなことを言うリリアナを前に、初めて俺は違和感を覚える。


「…………」


 寝る前もそうだが、彼女は怪我をしているのになぜ休まないのだろう。

 痛くて眠れないからってこんな肌寒い場所に身を置かず、目を閉じてしっかりと休んでいるべきだ。

 俺はリリアナを助けようと必死なのに、なぜ本人はこうやってヘラヘラしているのだろう。

 みんながどれだけ頑張って連れて帰って、治療したかを分かっていないのだろうか。


 俺はなんだかむっとしてきてため息を吐いた。

 少し腹が立っていたけれど、いま言い合いはしたくなかったので気を落ち着かせる。


「……わかった」


 ただ短く言葉を返して、俺は入り口に座って監視を始める。

 するとリリアナは少し戸惑ったように黙り込んでしまった。

 俺の苛立ちが伝わってしまったのかもしれない。


 かといってほこを収めるつもりはなかったが、喧嘩をしている場合でもない。

 なのでなるべく柔らかい言い方で、リリアナを寝床に送り返す言葉を考え始めた。


「…………っ」


 だがそこで、外から物音が聞こえてびくりと身構える。

 もしかすると魔獣が動き始めたのかもしれない。

 膝を立てて剣の柄に手をかける。

 ここにはリリアナがいるので、奇襲を受けたら戦わなくてはならない。


 本当に、なぜ奥に隠れていないのか……。

 新しい不満を頭の片隅に追いやって、俺は血眼ちまなこで闇の中に魔獣の姿を探す。

 だがそれらしい痕跡こんせきは伺えず、多分普通の獣が横切ったのだろうと結論づけることにした。


 とはいえ山は暗く、見通しも悪く、もう止んだ土砂降りの名残なごりで天候も荒れて風も吹いている。

 絶えず物音が闇の中に響くから、俺はずっと気を張っていなければならない。

 もうリリアナに声をかけることすら忘れていた。

 俺があいつを寝床に運んでいる間、この暗闇から目を離すのが怖くなった。

 なにかがいそうな気配がずっとしているのだ。


 実際に見張りに立ってみないと、この恐ろしさは分からなかっただろう。


「……ねぇ、銀貨。さっきね、」


 集中して見張りをしていると、リリアナが話しかけてきた。

 ちょっと楽しそうな声なので、さきほど盛り上がっていた雑談についての内容かもしれない。

 だがおしゃべりなんてしていたら音を聞き逃してしまう。

 俺は少しだけ怒りを込めて言葉を遮った。


「そんな話する余裕ないよ」


 するとあいつはしおらしく謝ってくる。

 目を向けていないので表情はわからない。


「ごめん……」


 俺はまたその態度が嫌だと思った。

 これでは俺が悪者みたいだからだ。


 しかし、俺も怒りすぎかもしれない。

 あいつはあいつなりに俺を元気づけようとしているはずだからだ。

 それくらい俺にはわかる。

 なのに、なんで腹が立つのか自分でも分からなかった。


 それからまた沈黙が続く。

 黙って外に目を凝らしていた。

 こうしていると俺はだんだん辛くなってきた。


「…………」


 想像以上に……この見張りは心にこたえる。

 月明かりはあるが、木々のせいで少し先すら見通せない。

 なにも見えない闇の中、絶えずうごめく山の音に耳を傾けなければならない。

 ささいな物音一つで精神が本当に揺さぶられる。


 魔獣も夜はにぶくなるとはいえ、朝が近い今は襲いかかってこない保証がない。

 こうして一人で監視していると、恐怖のあまりどうにかなってしまいそうだった。


「……あのさ。ごめんね、銀貨」


 また横から声が聞こえた。

 毛布にくるまったまま、申し訳なさそうに話しかけてきていた。


「わたし、怪我してるからさ……明日もそんなに役にはたてないだろうなって思ってて……だから、今できることしたかったんだよね」

「…………」


 初めてリリアナに目を向ける。

 謝罪にほだされたと言うよりは、純粋に意図を知りたかった。

 俺だって本当は、なんの意味もなく夜ふかしをしたりするはずはないと分かっている。


「作戦を考えてたの……みんなで生きて帰れるような……。まだ全然考えつかないけど……」

「……うん」


 俺は返事をした。

 作戦を考えていた、というその一言だけでどんな気持ちで夜を明かしていたのか分かったからだ。

 痛みも疲れもあるだろうに、みんなを生かすために必死に一人で考えていたのだ。


「それに、みんなと話したかったんだよ。今話さないと、明日ちゃんと戦えないと思って……」


 その言葉で思い浮かんだのは、怯えきっていたニーナのことだ。

 他にも俺には見えていない部分で、みんななにかを抱えていたのかもしれない。


「…………」


 少し考えて謝ろうと思った。

 苛立ちを向けてしまったことはもう伝わってしまっている。

 もしそうでなくても、申し訳ないという気持ちがあるなら謝るべきだ。


「……あっ」


 しかしまた大きな音がして言葉を失う。

 今度は木々が揺れるような音がした。

 オークが歩いてきたのか……いや、ハーピィが枝に掴まったか?


 一瞬で意識が張り詰めた。

 また膝を立て、剣を手に闇の中へ視線を彷徨さまよわせる。

 今度こそ何かあったような気がした。

 息をするのも忘れて敵を探っていると、不意にリリアナが笑ったので俺は目をまたたかせる。


「なに?」

「大丈夫だよ」


 大丈夫だと言っている。

 しかし何が大丈夫なのか分からずにいると、彼女はまたくすくすと笑った。


「今の音は風で揺れただけ。ハーピィが木に止まると小さい枝が折れる音がするはずでしょ?」

「確かに……」


 流石に、斥候せっこうの一位にのぼりつめただけはある。

 どんな時でも意見は的確で冷静だった。


 いや、もしかするとこれも見越してここにいたのかもしれない。

 こんな場所に一人でいたら頭がおかしくなってしまう。

 意図していたのかはわからないが、俺の考えが彼女に及ばないということは分かった。

 判断を疑ったことを素直に謝ろうと思った。


「リリアナ、イライラしてごめんね……」

「いいよ!」


 肩を落として謝ると、あいつは明るく返事をした。

 そして自分が寝る敷物のすみを手で叩く。

 ここに座れということだろう。


「…………」


 だがちょっと気まずいので、背を向けた三角座りで彼女の寝床を間借りする。


「寝ていいよ」


 その声に俺は思わず振り向く。

 ちょっと耳を疑った。


「えっ?」


 振り向くと、薄い月明かりの下でにこにこと笑うリリアナが見えた。

 そしてさらにいつも通りの様子で話しかけてきた。


「疲れてるでしょ、休もう」

「う、うん……」


 断るのも変に意識しているようで嫌だったから、俺は横に寝ることにする。

 あいつが少し動いてスペースを開けてくれた。


「ほら、早く寝ちゃいなよ」


 俺の動きはぎこちなかったのかもしれない。

 けらけら笑う声に困り果てながら、俺は彼女の横に寝転がった。

 だが案外寝てみると距離が離れているし、毛布は全部彼女が持って行ってくれた。

 俺は本当に隣に寝そべっているだけだ。

 これなら別に恥ずかしくないと思って安心した。

 まさか、一緒に毛布にくるまるのかと……。


「これ、みんなにしたの?」


 でも一応そう聞くと、リリアナはまた楽しそうに笑った。

 完全に俺で遊んでいる。


「してほしくないの?」

「いや……」


 再び言葉に詰まる。

 すると一層楽しそうにするものだから手に負えなかった。


「クランツは座らせてたよ。クリフも座らせるつもり。ニーナちゃんは一緒に毛布にくるまった。ウォルターは誘ったけど……来なかった」

「そっか……」


 答えながら、ウォルターと同じだということに少し安心した。

 誘われても断ったようだが、扱いが同じなのは嬉しい。

 俺は彼より劣っているので、差をつけられるなら自分の方だという卑屈な考えがどこかにあるのかもしれない。

 二人ともすごく優秀だから、俺なんかとずっと友だちでいてくれるのだろうかと時々不安になることがある。


「…………」


 また沈黙が続くが、今度は別に気まずくはなかった。

 寝そべって、気を楽にして監視を続けていた。

 心情的にも監視の精度の意味でも、リリアナが隣にいることは本当に心強い。


「ねぇ、その石なに? たまに持ってるよね」


 ふと目を向けると、リリアナがまたヘンな形の石を指先で転がしていたので俺は問いかける。

 彼女は時々こうして石で遊んでいるが、楽しいのかはさっぱりだった。


「わたし、石に限らずなんでも拾っちゃうんだよね」

「知ってる……」


 今までもいろんなものを拾ってきた。

 俺が一番嬉しかったのは街で拾った古いブーメランだ。

 ウォルターを誘って三人で投げて遊んで、戻ってくる様子に大興奮した。


「だから気に入ったら拾ってるの。石は……毎回どっか飛んでっちゃうんだけどね」


 どこかというか、俺の知る限りクリフの頭だ。

 でもそれは言わなかった。

 ただ次にクリフが座るはずなので、当たらないように手を打っておく。


「今日はポケットにしまっておいたほうがいいよ」

「そう?」

「うん……そうするとみんなが幸せになれる」


 俺が言葉を選んで伝えると、リリアナが楽しそうに笑った。


「なにそれ」


 真に受けていない様子だったが、一応ポッケに石をしまってくれた。

 それに俺は安心して、また二人で夜闇を監視することにする。


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