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ロストキルレシオ  作者: 湿った座布団
たとえ灰になっても
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二十八話・対抗戦(2)

 


 クリフを倒し、進んだ先では乱戦が行われていた。

 ぱっと見てウォルターたちは生存した二人で変化はない。

 また、リリアナのところも欠員なし。


 最後にクランツくんのところが……魔術師と斥候の二人が落ちて三人になっている。


 このまま潰し合いを見ていてもいいのだが、遅かれ早かれ気づかれるだろう。

 すると温存できている俺たちが標的になる可能性もある。

 有利な内に動くのが正解か。


 そんなふうに考えているとニーナが口を開いた。


「警戒してください。私たちが到着した時点でなにか仕掛けてきます」


 その言葉からは主語が省かれていた。

 誰が仕掛けるのかは決まりきっているからだろう。


 俺たちの到着、つまり均衡が崩れるのと同時に、リリアナはもう一度なにかやろうとしている。

 そうでなければこの状況に持ち込んだ意味がない。


「ハルトくん、『杭』の詠唱を。リリアナさんの部隊に撃ち込む」

「了解」


 ハルトくんがニーナの指示に答える。

 詠唱を始める前に、本当に嫌そうな声で小さくぼやいた。


「……あいつ、次はなにすんだろ。やな感じだ」


 それから、俺たちはリリアナの方へと進んでいた。

 接敵の前にニーナが淡々と指示を重ねる。


「これから斬り込みます。なにもさせずリリアナさんの部隊を蹴落とす」


 もう目と鼻の先にリリアナたちがいた。

 そして攻めようとしたところで、同じく彼女の部隊と小競り合いをしていたウォルターと視線が合う。

 戦うことになるかと思って俺は少し身構える。


「……っ」


 彼の装備は、遊撃手ということでおおむね俺と同じだ。

 革の鎧とフード付きの白の外套がいとうを身につけている。

 だが体格は俺よりも良くて身長も少し高い。

 また手に持つ武器も、木でできているとはいえ重く長い大剣だった。


「…………」


 いつもどおりのすまし顔で、あいつは俺を見ている。

 彼も彼でなんだかんだ変わらず大きくなったと俺は思う。

 しばらく身構えていたが、どうやら彼はこのままリリアナを攻めるようだ。


「七対五……どうするのかな。リリアナちゃんは」


 そう言ってエルマが視線を鋭くする。

 ウォルターたちとの共通の狙いはリリアナだ。

 今や追い詰められているのは彼女のはずだが、特に焦った様子もなく指揮をしていた。


「もう下がれない。ここでやろう」


 そう言って彼女は足を止めた。

 すると即座に他の四人も動き出す。

 その動きは……意外にも密集ではなく散開だった。

 四人それぞれがバラバラの方向に散っていく。


「なんだ……あいつら」


 完全に予想外の行動に対応が遅れた。

 あれでは近い順から各個撃破されるはずだ。

 ……とはいえ、どうしても嫌な予感がする。

 それはニーナも同じだったのか、ハルトくんに杭を使うように言う。


「撃って、ハルトくん」

「……ああ」


 ハルトくんが杭の魔術を放った。

 水なので殺傷能力はないが、例のごとく訓練上の判定なら即死だ。

 しかし誇らしげな顔で立ち尽くすリリアナを倒すはずだった杭は突然に霧散むさんしてしまった。


「……『障壁ウォール』」


 遮ったのは土の魔術だ。

 空気をすら硬化させる魔術師の防壁だ。


 そしてルーンを刻んだ盾でそれを使用したのは、筆頭重装兵のクランツくんだった。


「悪いやつだな、リリアナ」


 重装兵の鎧。

 さらに重々しいランスと大盾。

 かなりの重量であるはずだが、クランツくんはそれでも軽く動き回る。

 今割り込んだ動きを見てもそれは明らかだった。

 そして、その彼が目の前に立ちふさがっていた。


「手段は選べないわ。成績落ちたら休業だもん」

「あー…………あれこれ金取るのやめろよ、お前」


 状況にそぐわない軽いやり取りを交わしつつ、クランツくんの部隊が俺たちに向き直る。


「停止」


 ニーナが止まるように言う。

 見ればウォルターたちも止まっている。


 多分、リリアナはあの土煙の混乱の中でクランツくんと話をつけたのだろう。

 最後に立っているのはいずれにせよ一つの部隊。

 俺たちとウォルターが一時的に組んだように、一応こういうのもアリではある。


 と、考えていると違和感を覚えた。


「…………」


 クランツくんのところの脱落は二人だった。

 その脱落はおそらくリリアナによるものだと思っていた。

 しかし組んでいるのなら、彼女が攻撃したとは思えない。

 もちろん倒したあとに組んだ可能性もあるが……そこに大きな違和感を感じる。


「『水杭ウォーターステーク』」


 唐突に聞こえた詠唱は背後からだった。

 そしてそれは、俺の違和感への明白な答え合わせだった。


「伏せて!」


 ニーナが反応した。

 声に従って俺は地面に倒れ込む。

 さらに転がりながら背後を見た。


 するとそこには倒れたはずのクランツくんの部隊の魔術師と斥候がいた。


「あ、なるほど……」


 俺はようやく納得した。

 彼らは土煙の中で行方をくらまし、脱落したふりをしていたのだ。

 さらに大胆にも今までずっと隠れ続けていたのだろう。


「うわっ……ごめんなさい!」


 伏せていたエルマが矢に撃ち抜かれた。

 先を丸めた綿わたの矢は首に当たっていた。

 これは首なので五点、つまり脱落だ。


「…………」


 伏兵に気づけなかったのが悔しくて歯を食いしばった。

 そして周囲を見ると、気づけば囲まれてしまっている。

 リリアナの部隊はバラバラに走って行ったあと、俺たちを囲む準備をしていたのだ。

 さらに間をおかずクランツくんの部隊も加わって包囲がより強固になっていった。


 容赦ない殲滅が始まる。

 雨あられと魔術や矢が飛んでくる。


「クソっ……!」


 エルマに続いてハルトくんが脱落した。

 次にウォルターの部隊の重装兵が倒れた。

 さらに今度はケニーも脱落……ではなく勝手に倒れた。


 理由は謎だが、俺の目には立ちくらみしたように見えた。

 口数が減ったかとは思っていたが……まさか、戦闘前からずっと鎧兜を身に着けていたからバテてしまったのか。


「ケニー!」


 俺が名を呼んだところで、追い打ちのように水の杭が飛んでくる。

 これは即死だ。

 立ち上がれるかは分からないが、多分シーナ先生が脱落者の誰かに頼んで回収してくれるだろう。


 ……なんて考える余裕も本当はなかった。

 あまりに苛烈かれつな包囲だから生き残るので精一杯だった。

 しかもそれすら限界を迎えようとしていた。


「くっ……!」


 魔術に巻き込まれて腕を負傷した。

 さらに足を矢が貫く。

 もうこうなっては動き回ってしのぐこともできないだろう。

 逃げ場を失った

 足を使えなくなって倒れた俺を狙って、リリアナが弓を引いていた。

 脱落を覚悟するが、なんと幸運にもその矢は外れて俺の股の間に落ちた。


 思わず彼女を見返す。

 すると恥ずかしそうに目をそらしてしまった。

 頬をふくれさせてそっぽを向いている。


「…………」


 とはいえ俺が動けない状況は変わらない。

 流石に諦めかけた、その時……唐突に攻撃が止んだ。

 不思議に思って周囲を見回すと、すさまじい速度でウォルターが敵を倒すのが見えた。

 敵も応戦しているのに全く抵抗できていない。

 二人倒れたところで残りが逃げ惑い始める。


 明らかに強化魔術を使っている、人間離れした動きだった。


「……強い」


 そうつぶやく。

 実際、ウォルターの戦闘能力は孤児院の中でも突出している。


 強靭な肉体。

 誰一人並ぶ者のいない、異常なまでの光の魔術への適正。

 そしてとどめとばかりの神がかりの剣才まで持っている。

 完璧な戦士だった。


 しかし一方で欠点もある。

 それは魔力だ。

 彼は魔力が、魔力だけが……それこそ抜け落ちたように少ないのだ。

 だから、強化魔術の効果はもって二分だろう。

 時間以内に決めきれるかどうか。


「いいわ。予定通りよ。次の作戦に移りましょう」


 リリアナの声が聞こえた。

 すると彼女の配下が動き出す……というよりはすでに包囲をやめて逃げてしまっている。 

 それにクランツくんは呆けたような声を漏らした。


「は?」


 なぜならリリアナの部隊が引いたことで、彼の仲間だけウォルターの前に取り残された形になるからだ。


「聞いてないぞ、リリアナ。俺の仲間を囮にしたな」


 多分、リリアナはウォルターが強化魔術を使いそうになった時点で包囲をやめるように仲間へ合図していただろう。

 だから、退避が遅れたクランツくんの部隊が大剣の餌食になっている。

 完全に騙されてしまったのだ。


「えへへ、おかげさまで三位確定ね」


 リリアナはごきげんに笑ってそう言った。

 しかし、今の状況でクランツくんは彼女に攻撃をできない。

 だってリリアナの周囲は彼女の仲間が固めていて、今さら俺たちに寝返るのも無理だからだ。

 部隊の順位を上げるなら彼女に従うしかない。

 そして、もちろんこれが分かっているから彼女は澄まし顔だった。


 クランツくんは行き場のない怒りを吐き出すように悪態をつく。


「……クソっ! 引け! ここまで戻って来い!」


 遠くに孤立した部隊の仲間に言った。

 でも目の前にニーナがいるから彼はカバーにも向かえない。

 味方を守るという重装兵の役目を果たせない歯がゆさか、彼の声には焦りと苛立ちがにじんでいた。


「悪い。みんな……」


 おそらく、リリアナの目的はウォルターに本気を出させることだったのだろう。

 そしてクランツくんの部隊を囮にして、本気……つまり強化魔術のタイムリミットを削りたかったのだ。

 一人一人がウォルターに抵抗できる時間は短いが、包囲のために散開しているから最大限に時間を削れる。


 包囲を作戦に選んだのはそのためで、多分俺たちに行った殲滅せんめつすらそのおまけだ。


「さぁ、次はニーナちゃんをやっつけちゃおう。クランツの仲間ががんばってる内にね!」


 もうクランツくんの部隊はもうほぼ壊滅している。

 でもあと二人、走って逃げ回っているからウォルターをもう少しだけ足止めできるだろう。

 片方は強化魔術を使った上で逃げているからなおさらだ。


 そして、リリアナはその間にニーナを六人で倒そうとしている。

 完璧な状態で、強化が切れかけたウォルターを迎えるためだ。


「お前……ほんと、性格クソだな」


 クランツくんが絞り出すような声でそう言った。

 そしてこっちに来る。


「…………」


 俺はもう手と足が動かないから、リリアナたちの眼中にすらないようだった。

 六人でニーナだけを囲んで戦い始める。

 もちろんあからさまに彼女が不利で、あっという間に追い詰められていった。


「くっ……!」


 ニーナは強い。

 そしてそれ以上に素早い。

 だからまだ、なんとか捕まらずに動けていた。

 しかし反撃すらままならないようで、どんどん逃げ場を潰されていく。


「はぁっ……はぁっ……」


 疲労し、息を乱れさせたニーナはもう今にも敗れそうだった。

 あとひと押しだ。

 だがそこで、またしてもウォルターが流れを変えてしまう。

 なんともうクランツくんの部隊を一掃し、こちらに戻ってきていたのだ。


「!」


 それに、初めてリリアナが焦ったような声を上げる。


「わっ、もう来てる! 予定変更! ニーナちゃんはほっといていい! 戦わなきゃ!」


 ぞろぞろとウォルターの方に向かう。

 ニーナを放置したのは、消耗した彼女がすぐには戦線に復帰できないと見たからだろう。

 それに、まず間違いなく彼女は俺を治療しに来てしまう。

 ウォルターと共にリリアナを攻撃したほうがいいとしても。


「良かった。隙ができた」


 思い違わずニーナはこちらへと走ってきた。

 そして、仰向けに寝かせられている俺に治療を開始する。


「……多分、二点か三点くらい? 点数的に意識はありそうだし口頭での診断を行う。いい?」

「は……はい」


 気圧されながら答える。

 彼女は俺のそばに座って、見下ろしながら淡々と会話を続けた。

 訓練とはいえ戦地の真ん中で診察とは……すさまじい胆力だと思う。


「負傷箇所と症状、点数を」

「右肩と胸、魔術に巻き込まれて浅い熱傷。骨に異常は無し。二点です。それから足が……」


 全ての症状を伝え終わるとニーナはすぐに頷いた。

 そしてポーチから治療に使う道具を手際良く取り出していく。


「了解。処置を開始する」


 短杖を取り出してニーナが口の中で魔術を唱える。

 すると俺の鎧の裏側が、鎧下との隙間を埋めるように凍りつく。

 魔術による冷却だ。

 下手に装備を脱がさずに冷却して、それから治癒魔術をかける。

 戦場における熱傷への対処の基本だ。

 そして、その片手間に足の矢傷への治療も開始する。


「……ありがとう」


 申し訳ない気持ちで感謝を伝えたあと、俺はウォルターたちの方に視線をやった。

 すると戦っていた。

 リリアナたちは、クランツくんを入れた前衛三人でウォルターの攻撃をしのいでいる。

 さらにその後ろから後衛が杖で攻撃しつつ、残りがなにか縄っぽいものを投げまくっている。


「うわっ……」


 ……ひどい見た目だ。

 勝つためならなんでもするのかリリアナ。

 いや、というよりなんでもしないとウォルターには勝てないのかもしれない。


 だってあいつは格が違う。

 ウォルターの剣は特別なのだ。

 今も、ニーナを追い詰めた六人を圧倒する戦いを見せている。


 ロープをすり抜け、矢と杖の照準をかわす素早い動き。

 ジャンプやステップで縦横に飛び回る身の軽さ。

 大胆に動き正確に仕留める剣の精度。

 絶えず動き続けるその姿は、彼が多人数を相手取る際に用いるパターンに一致する。

 ずば抜けたセンスと身体能力を惜しみなく振るう剣技だった。


「……どんな動きしてるんだ」


 翻弄しつつ様子を伺っていたウォルターが攻めに転じた。

 その姿を見て思わず声が漏れる。


 まず風のような早駆はやがけで前衛の一人の懐に入る。

 相手はリリアナの味方の遊撃手で、彼はすぐさま先手で斬りかかった。

 対してウォルターはごくわずかに体をそらして紙一重で刃をかわす。

 そして振り抜かれた片手剣に大剣の切っ先をそっと触れさせた、瞬間。

 そのたった一瞬で片手剣が巻き上げられた。

 目にも止まらぬ武装解除の剣技だ。


「なっ……」


 持っていた武器を跳ね飛ばされ、彼も流石に動揺を見せる。

 しかしなんとか左の盾を構えようとするも、理不尽なまでの剣速に反応すらできず胴を抜かれた。

 わずか数秒で一人が倒される。


 だがリリアナたちも当然反撃は行う。

 一人落とされると同時、ウォルターの剣に投げたロープをかけるも……いや、届く前に切断された。

 木剣でだ。

 さらに次の瞬間にはもう移動を開始している。

 あの速さでは後衛の攻撃が当たらない。


「一本使えなくなった! 鎖とかにすればよかった!」


 リリアナが悲痛な叫びをあげる。

 あの縄では強化中のあいつを縛ることはできないと分かったのだろう。

 いや、もしかすると縛ることが目的ではないのかもしれない。

 なにせ彼女の作戦なのだ。

 縄に当たれば、あるいはかするだけでも恐ろしいことが起こるだろう。

 しかしその、ひとかすりすらウォルターは許さない。


 さらに戦闘は続く。

 クランツくんとリリアナの仲間の重装兵が仕掛けた。

 同じ兵科で、訓練を共にすることも多いからか見事なコンビネーションだった。

 だがウォルターは単体でそれを上回っていた。


 消えるような剣速で、手数で二人を圧倒する。

 動き回って、囲まれないように巧みに立ち位置を変える。

 敵を上手く利用し、リリアナたちが射線を通せないようにする。


 完璧な動きだった。

 やがてクランツくんが()()()()される。

 その瞬間、ウォルターはクランツくんではなくもう片方の相手に狙いを変えた。

 これも見事だった。

 意表をつくタイミングで標的を変えてくる。

 クランツくんを庇おうと動いていたから、もう一人の重装は自分への攻撃に対応できなかった。

 あっさりと致命傷をもらう。

 肩から胸へ、袈裟けさがけに一閃でおしまいだ。


 だが同時にクランツくんが攻撃を仕掛けていた。

 味方がやられた瞬間、その犠牲でウォルターを倒そうとしたのだ。

 シールドバッシュが迫る。

 当たれば、崩せれば、後衛がウォルターを蜂の巣にする。


 しかし、クランツくんは触れることすらできなかった。

 ウォルターの体が大きく傾いて消えた。

 と、思えばもう背後に回り込んでいた。

 こうして遠目に見れば移動したのが見えるが、あの歩法は実際に対面でやられると見失ってしまう。

 卓越した重心操作と強化中の筋力、二つなくしては不可能な力技だ。


「…………!」


 背後を取ったウォルターが剣を振る。

 一瞬で二回、目にも止まらぬ斬撃でクランツくんは倒された。

 それを見て、リリアナは愕然とした表情で座り込んだ。

 持っていたロープを捨てて悔しそうに叫ぶ。


「嘘でしょ!! もう!」


 これで一人も前衛がいなくなった。

 残るは後衛だけ。

 もうほとんど勝負は決した。

 この先には蹂躙じゅうりんが待っているだけだ。


 俺はそばにひざまずくニーナに視線を戻す。

 そろそろ治療が終わるだろう。

 今度は俺たちがあいつと戦わなければならない。


「……ちょうどです」


 彼女が言った。

 どうやら治療が終わったようだ。

 対抗戦のルールだと、傷への処置を模擬的に行ったあと、傷の点数に応じた時間だけ治癒魔術をかけなければならない。

 それが終わったということだ。

 つまり戦いの時が来た。


「ありがとう。ニーナ」

「いえ、気にしないてください」


 もうウォルターも強化が切れるだろう。

 だから勝ち目はある……と、思っていたが、そこでニーナがちょっと申し訳なさそうに声を漏らす。


「あ、でも……今のでもう、魔力が……」


 なくなってしまったらしい。

 でも強化魔術を使って何度も戦い、なおかつ治療までこなしてくれたのだ。

 それは仕方のないことだった。

 むしろ俺が、彼女に負担をかけすぎてしまっていた。


「分かった。迷惑かけたぶん頑張るよ、俺」


 そう言って剣を持って、左手にはダガーではなくメダルを持った。

 使えなかった魔力を使えるだけ使う。

 そうでなければあいつには勝てない。


 そんな俺をじっと見ながらニーナが口を開く。


「魔力がなくても……囮くらいはこなします」

「うん。二人で勝とう」


 答えてからウォルターがいた方に視線をやる。

 するとリリアナたちを全員片付けたのか、だらりと大剣を下げてこちらに歩いてきていた。

 その気になれば奇襲も仕掛けられただろうに歩いて来ていた。


 視線がぶつかると、ウォルターは口元だけで薄く笑みを浮かべる。


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