108/250
プロローグ・最後の手紙
親愛なる先生へ。
少し、久しぶりですね。
お体に障りはありませんか?
先生がまだ生きていらっしゃると聞いたので、僕はこうして手紙を書いています。
今までのお礼を言いたくて、お別れをしたくて書いています。
しかし筆をとるとそれもあまり上手くはいかず、書いては消してを繰り返してばかりいます。
こうしていると昔、先生が孤児院を去った時、みんなでよく手紙を書いていたことを思い出します。
あの頃は紙の余白が足りないと嘆いてばかりいたのに、今は少しも書くことができません。
それを思うと本当に、何もかも変わってしまったのだと思います。
いま改めて思い返すと、先生と過ごした時間は僕たちにとって幸せなものでした。
雪の降る廃墟から始まったあの日々は、終わりを迎えた今でもかけがえのない物だったと思います。
初めて出会ったあの日。
死にかけていた僕は痩せた孤児で、先生はいつも難しい顔ばかりしている人でした。
……ねぇ、先生。
覚えていますか?




