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ロストキルレシオ  作者: 湿った座布団
三章・黒炎の騎士
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三章おまけ・二章の奇跡と三章の魔術

 


『聖縛のフリッツ』


 金色の鎖の封印。

 目もくらむ星の輝きは、しかし近しい人を守りたいという少年の身の丈の願いの発露であった。


 故にその鎖は彼と共に成長を重ね、いつしか魔王をも封じる最強の枷となる。


 当代の一の魔王、与奪の魔王との決戦にて戦士ガーランドは死に至った。

 そして彼に代わり最前線に立ち続け、全ての攻撃を引き受けた勇者フリッツもまた大きな代償を背負う。

 すなわち目を、声を、神の鎖を、その全てを奪われることとなったのだ。


 けれど暗闇に閉ざされた彼の生には友と伴侶が寄り添った。

 光がなくとも、声がなくとも、力がなくとも、彼の手はずっと大切な人に握られていた。

 優しい声の語りを受けていた。


 穏やかな平和の時間。

 フリッツはその余生を治癒士ローザリナと共に聖教国のある片隅で過ごしたと伝わっている。

 そしてそこには、魔術師ルシスも時に忍んで訪れたのだとか。


 全ては古い時代の物語。

 口伝を重ね、色あせた物語ではあるけれど。


 それでもロスタリアには、今もフリッツを称える石碑がある。



 ―――



『断罪のグレゴリウス』


 全てを撃ち抜く断罪の光。

 世にはびこる不浄、その一切を許さないという強い意志を秘めた魔術。


 勇者のみが使える神聖魔術。

 初代勇者グレゴリウスのそれは、今をもって並ぶもののないほどに苛烈な力を誇っていたという。


 グレゴリウスの生涯については多くが謎に隠されている。

 時の流れによるものか、彼については殆ど伝承が残されていないのだ。

 けれど二つだけ確かなことがある。

 それは彼が教会の基礎を築き、また何かに対して常に憎悪を向けていたということ。


 だが後者は、人倫と救済を説く教会の、その礎としてはあまり相応しくない逸話である。

 故に聖職者の間にあっても語られることは少ない。

 ただ常に微笑み、優しく勇ましかったと、人々の間にはそれのみが伝わる。



 ―――



『万軍のアルス』


 聖炎の力、その片鱗を顕す奇跡。

 比類なき剛力を与える御業は、しかし聖炎の力のほんの一欠片に過ぎない。

 本来その炎は、十の祝福をアルスに与えていたという。


 聖炎の勇者は特に人気の高い勇者である。

 そしてグレゴリウスとは対象的に逸話が多すぎるが故に、その人物像を捉えることは至難である。


 曰く武人であったと。

 曰く優雅たる貴人であったと。

 曰く純真な少年であったと。

 曰く、実は可憐な少女であるとか。


 眉唾なものも多くはあるが、しかしその人柄を貶めるような伝承は一つとして存在しない。

 それは肥大した正義像の成れの果てなのか、あるいは教会の情報操作によるものか。


 真相は定かではないが、勇者アルスは美しい青年として語られることが多いようだ。



 ―――



『空絶のロウエン』


 『雷鳴の勇者』の固有聖剣術式を模した奇跡。

 聖剣とは神聖魔術の真髄であり、勇者の切り札でもある。

 そしてその、ロウエンの聖剣の名は『広域聖剣バルムンク』である。

 一度顕現すれば聖剣は超広範囲を一度に薙ぎ払い、生半なまなかな敵なら塵も残さないと伝わる。


 彼個人はあまり強い勇者ではない。

 だが彼の聖剣は特に強力なものであるとして、今も多く語り草にされている。


 ロウエンは幼少期を不遇の中で過ごした。

 双子であった彼は常に兄よりも劣り、故にその家に生まれると言われた予言の勇者は兄であると周囲も疑っていなかった。

 両親の関心を得られず、孤独の中で彼は過ごした。

 彼に話しかける者など、家の中には誰一人としていなかった。

 愛を渇望しながらも、一度もそれを口には出せなかった。


 けれどある時ロウエンは勇者の力に目覚め、その事実はまもなく彼の家族も知るところとなる。

 愕然とした表情で震える兄を押しのけ、両親はこれまで一度も見たことのない満面の笑みでロウエンを迎えた。


 そしてその瞬間、あれほど欲しかった愛の価値はロウエンの中で地に堕ちた。


 そのせいだろうか。

 彼は戦役の後姿を消し、二度と人々の前に現れることはなかったという。



 ―――



神守かみもりのアナスタシア』


 特に古い時代の治癒士、知性を持つ蟲毒の魔王の前に立った少女の奇跡。

 光り輝く壁は……いや壁『たち』はあらゆる害意を遮断し、三日間の猛攻から街を守ってみせた。


 街を襲った魔王を、アナスタシアは彼女の眷属、そして騎士団と共に迎え撃った。

 けれど魔王は強く、一人の使徒では到底抑えることができなかった。


 そう、だからこそ。

 神守のアナスタシアはまた、奇跡の作り手としてよく知られる。


 アナスタシアは苦境に膝をつく。

 だがその際、一つの神託を授かった。

 そして神託に従い、彼女は自らのギフトを神官たちに行使させた。

 使用は命と引き換えではあったが、多くの人の命を救うことができた。

 そして、これが後の奇跡の発見に繋がったという。


 やがて救援に来た勇者の到着により、疲弊した魔王は討ち取れた。

 ようやくアナスタシアの戦いは終わりを告げた。

 しかし犠牲はあまりに多く、彼女もまた毒により衰弱死したと伝えられている。



 ―――



『鎚』


 威力を求め、杭を超える魔術という方針で作り出された上位ルーン。

 組み込めば魔力の塊を放ち、またその塊は接触により大きな爆発を起こす。


 この魔術の聖典詠唱の下書きとなったのは、月の瞳が魔獣たちに鉄槌を下す聖書において特に人気が高い一節の文である。

 この魔術を完成させ最初に用いた聖職者の一撃は、確かに杭を超える猛威を得た。



 ―――



『力場』


 ロスタリアにおいて生まれた、物体に働きかける『力』そのものを支配するルーン。

『拘束』や『囚獄』などの敵を拘束する魔術に用いることが多いが、当代の『魔術師』は扉を開けたり本を取ったりすることにも用いている。


 一見それは怠惰な振る舞いにも見え、またその通りなのだがそれは意外にもロスタリアに伝わる精神の具現でもある。

 すなわち骨身を惜しまず動くより、まず魔術でそれを為すことができないかと思考することをこそ尊重する在り方だ。


 これは労力の多寡でなく、いかなる時も魔術から心を離さぬことこそを重視している。

 その精神は「勤労は馬鹿の始まり」などの古い格言によく表されている。


 その格言の意味を履き違える愚か者はロスタリアの市井に溢れているが、魔術師たちは常にその真意を知るものである。



 ―――



『砲火』


 ロスタリアにて見出された上位ルーン。

 帝国の兵器である『大砲』になぞらえられるものの、実際はその遥か上を行く魔術である。


 組み込めば力の奔流を放つ魔術が成立する。

 それは絶大な威力を発揮するが、熟練の術師とて二度は撃てぬほどに負担を強いる。

 故に取り回しは悪いが、使いどころさえ見極めれば戦局を左右するほどの殲滅力を発揮する。


 ロスタリアではいくつものルーンが生み出されたが、その多くは聖典に類する詠唱を持たない。

 魔術の始まりから幾星霜。

 いまや魔術は、教会の手を離れ歩み始めた。



 ―――



『崩天』


 ロスタリアの魔術における秘術の一つ。

『器』と共に用いられる上位ルーン。


 効果としては上空から大量の魔力の塊を降下させ、ひしめく敵その一切を薙ぎ払うもの。

 そしてそれは、やがて来るであろう『魔術師』のために生み出された魔術の一つだった。


 だがそれは人の身では扱いがたく、数百年使い手を得ずにそのルーンには名すらなかった。

 しかしロスタリアはついにシド=テンペストを迎え、秘術は初めて封を解かれる。


 降り注ぐ槍はまるで天が崩れるような美しさだったと言い、故にこの形は『崩天』と名付けられた。



 ―――



『空震』


 空を震わせ、音を操る基礎ルーン。

 ロスタリアにおいても近年見出された形であり、研究はあまり進んでいないらしい。

 シド=テンペストすら探知に用いる程度で、現時点では攻撃や諜報に使える代物とは言い難いだろう。


 しかし『ヴァンゼリア』と呼ばれる一門には熱心な探求者が多数存在しており、このルーンの活用に生涯を費やすと宣言する者が後を立たない。

 故にこの形を用いて発声を成し遂げるまで話さないのだと息巻く者もそれなりにいる。

 会話が通じない彼らには、一門の盟主も手を焼いているのだという。



 ―――



『魔術師』


 ロスタリアにおいて生まれた、人の記憶を司るルーン。

 これは本来人格を操るはずだったため、別の名前を冠していた。

 だが果たせなかったことで現在の名称に置き換わった。


 しかしこのルーンは、書物よりも何よりも知識の継承に適している。

 そのため、元の名前よりもきっと『魔術師』の名こそが相応しいと言えるだろう。


 なにより魔術師たちは知識を好み、それを伝える努力を惜しまない。

 ロスタリアにある多くの格言もそういった試みの一つである。

 死後に広がる無を見据えるからこそ、彼らは後世に知識を広げることを一つの命題として扱ってきた。



 ―――



『追走』


 魔術を鋭い波に変え放ち、文字通り「追走」する形。

 金糸のフリッツと交友深く、最強の呼び声も高いロスタリアの『魔術師』、ルシス=テンペストにより生み出されたルーンの一つ。


 ルシスの時代は古い時代。

 ロスタリアを敵視する国は未だ多く、けれど彼は圧倒的な実力をもってその存在を認めさせた。


 蛇のようにうねり敵を追う波は、殲滅よりもむしろ強敵との一騎打ちにおいて真価を発揮する。

 すなわち波で追われ、足を鈍らせた敵に杭を打ち込むのだ。



 ―――



『戦士』


 戦士の名を与えられたルーン。

 用いれば全身に魔力を纏わせることかできる。


 ロスタリアの魔術師の異端、『サウスローネ』の一門はこの魔術を起点にし、武の型により始動する特異な魔術を用いる。


 サウスローネは異端にして新興の一門であるが、しかしロスタリアにおいて迫害を受けることはほとんどない。

 何故なら武器を持ってはならないなどという掟は存在せず、また彼らの精神は他の一門のそれとさほど乖離してはいないからだ。


 魔術師の黒衣は、闇においてその姿を隠すための装衣そういである。

 元は外道の魔術師であった彼らだが、闇を歩みながらも闇に魅入られることのないように黒を纏う。

 闇の中には、あるいは魔術師の心の中には、欲望という名の怪物がいるからだ。

 だから闇に取り込まれないように、あるいは自らを戒めるためにこうした習慣を持っている。


 そしてたとえ異端とて同じ黒衣に袖通し、戒律を共有するのであれば、彼らにとっては尊重すべき同胞なのだ。



 ―――



『薄氷』


 技神に入るとまで謳われた稀代の英雄、剣騎士の秘技として伝わる形。

 ほんの一瞬武器に魔術を纏わせ、けれどもそれは『剣』や『刃』の比ですらない。

 あらゆる枷を外し、枷があったことすら忘れて剣を振るう。

 そうして放たれた一撃は、剣騎士の名を伝説の中へと消しがたく刻み込んだ。


 身体強化、魔力収束、魔術強化、範囲拡大、質量操作、その他いくつもの効果を刹那与える一閃のルーン。

 効果は多岐に渡りながらそれらはどれ一つとして既存のものに劣ることはなく、むしろ及びもつかないほどの効果を持つ破格の高位魔術。


『薄氷』の形は人の身を超えた力を与えるが、前提として多数の基礎ルーンへの高い適性がなければ扱えない。

 また、それは人を超えるが故に尋常ならざる危うさを含む禁術と紙一重の魔術である。


 薄氷一閃の剣技はまさに薄い氷の上を渡るが如きものであったが、それを使いこなしてこその英雄だということなのだ。



―――



『炸裂』


 魔力の炸裂を引き起こすルーン。

 威力が強く、だが『杭』よりも消費は少ない。


 このルーンを用いる魔術には『火撃』などがあるが、変わり種の用法としてはこれを刻んだナイフを投げて炸裂させるというものがある。

 数に限りこそあるものの、消費を抑えて高威力の遠距離攻撃を繰り出すことができる。


 効率に優れたその魔術の、担い手はきっと聡明だっただろう。



―――



『防護』


 守り抜く盾のルーン。

 土の基礎ルーンと共に用いられる。


 その力は盾のみならず周囲の空気にすら及ぶ。

 故に発動する魔術は術者の任意の形で大気を硬化させ、壁を生み出す魔術の『障壁ウォール』である。


 最大展開した盾は広く、背後に仲間を庇うことができる。


 傍らにある者を守るその魔術の、担い手はきっと優しかっただろう。



―――



『掃射』


 広義においては『剣』の発展系となる形。

 矢に纏う魔力を分裂させ、魔術による掃射をただ一人で実現する。

 範囲こそ広いものの制御は難しく、また一撃一撃の威力はそう高くはない。


 けれど増えながら飛ぶ矢を回避することは至難である。


 矢を放ち、その一度で多くの敵を倒す。

 ただ一矢いっしにて最大の成果を得ようとするその魔術の、担い手はきっと強欲だっただろう。



―――



『針』


 魔力の針を生み出すルーン。

 とある少年の手になる固有魔術。

 数え切れぬほどに撒き散らされる針は、魔獣などには到底防ぐことはできない。


 少年は知っていた。

 命を奪うための一撃は、膨大な針の中にこそ隠すものだと。


 研ぎ澄まされたその魔術の、担い手はきっと狡猾だっただろう。



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[気になる点] 炸裂...防護...掃射...針... リリアナ...ウォルター...クリフ...ニーナ 人数丁度いいでいやな感じがするのは私だけ?...
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