魔王の記憶【四】
アリスが読み取った情報。
意図的に読んだわけではないので不明瞭な点もあるが、魔王の心の中とも言える塔において彼女は多くを見て取った。
四の魔王
ザイード=エルジス
とある町の処刑人だった男。
その職務ゆえに孤独であったが、法を背負う誇りを胸に清く正しく生きていた。
自ら手を汚し、それで己が守るのは尊いものであるのだと。
そんなささやかな矜持に支えられた日々の崩壊のきっかけは、ある時急激に増えた死刑囚であった。
最初こそ怪訝に思いつつも淡々と職務をこなしていたが、役人として働いていた唯一の肉親、弟が送られてきたことで彼の人生に綻びが生ま■る。
自らの職務ゆえに遠ざけてはいたが、それでも彼は大切な弟である。
そもそも処刑人になったのも貧しい中でも弟に教育を受けさせてやりたかったから、学費を稼ぐために忌まれ仕事に手を伸ばしたのであった。
大切な家族を前に内■激しく動揺しつつも、彼は職務を遂行した。
してしまった。
弟の自分は無実だという訴えを、「罪人は皆そう言う」と切り捨てた。
それからやはり淡々と、しかし精一杯苦しみを感じぬように■■したのだ。
そして次の日も、その次の日も彼は平静を装った。
だがある時日々膨らむ悔恨に耐え■れず、町長の家に押し掛け弟の罪状を問いただそうとした。
それは彼のおよそ十二年もの処刑人人生の間、一度もしたことがない行為だった。
地下室で仮眠をとられているからと言う召し使いの制止も押しきり、猛然と部屋に■■■った彼が目にしたのは恐ろしい光景だった。
その部屋では多■の人間が■■されていた。
恐らくは、町長の穢れた欲望を満たすために。
死体を見慣れているとはいえ、余りに凄惨な光景を前にザイードは■■なくなった。
町長を温厚で公平で善政を敷く人物だと思っていたがために、そのショックも大きかった。
すると彼に気づい■町長がねっとりと、貼り付くよ■■視線で振り返り言った。
今見たことは忘れろと。
さもなければこいつらの仲間入りをするか、お前も弟と同じ目に遭わせてやると。
その■■■、■■全■■悟■■。
弟■無■であっ■■■。
■■かの■■■この事■■知■、弾劾しよ■■■■■■町長に■■■■■■■。
弟は、■■知らないと■ろで■■のために■■ていた。
そして、それを■は『悪の手先』として殺した。
その事実は■■■■■■■■彼を■■■■■、気が■■ば彼は目■■の悪魔を■■■■■■■。
使■■の叫び声で我に返■、走■■す。
彼のやったこ■は恐らく■■法で罰せ■■■事はなかったであろうが、彼は■■■恐れる■うに逃げ続■た。
そして近頃急■■増え■死刑囚の■に■■を馳せる。
誰■無■■?
誰■罪人■■■■か?
■■や全■無実■■■■■?
いや、それだけではない。
己が今まで殺してきた人の中に罪人は何人いた?
一度疑い■せばもう止まることはない。
記憶は疑いを■■、疑いは罪■■■■■■蝕む。
際限なく■■■罪に善■な彼はとても■■きれ■■■■。
弟の首が、その死に顔が、完膚なきまでに彼の心を砕いた。
「ころしてくれっ!! ころしてくれっっ!! 俺だっ!! 俺が罪人だっっ!!!!」
正気を■った彼は往来で叫■■。
しか■、■■人々■気味の悪い■■見たように■■■にするの■だった。
自分を遠■きにして、殺す■■■■指一本■れることも■い人々。
それを見て、既■狂っていた彼は一つ■考えを抱いた。
ああ、そうだ。罪が……足りないんだな、と。
誰にも聞こえないような声でそ■呟き、彼は法の番■である証である腰の■■手を掛けて、致命的な間違いを孕■だ一歩を踏み出した。
『北辺の地、ロスタリアにて。かつて大罪を犯した魔王、積み上げた罪がいつの日か裁きに届くことを願う』
罪の、そして不死の魔王。
十五分の間に八回殺さなければ死なないが、討伐による死を望んでいるために本来の能力は抑制されている。
しかし死に、蘇生する度に時限付きで本来の能力を開放する。
十五分が巡る度に罪が足りないという認識を強め、さらに罪を重ねるために覚醒を早くしてしまう。
故に長期戦はあまり得策ではない。
その不死性は正に『万死に値する』ということ。
骸の勇者の推測は外れていたが、最低限の損傷で可能な限り早く多く殺すというその方針に間違いはなかった。
主に二振りの刃による接近戦を好むが、刃の魔法も織り交ぜて戦う。
また、異形の魂を奪いそれを利用して魔法を使うこともある。
そうして放たれた赤は、概して黒よりも威力が高い。
全身がかさぶたに覆われている奇怪な姿。
領域の形は塔。終わることなく積まれる罪を象徴している。
魔王は自らを裁く裁定者を望むが故に、その領域の中では常に裁きの道を辿るべきだろう。
罪を選択すれば自ら処刑人でもある魔王は塔の中限定で力を増し、万が一最大数の罪を重ねたのなら領域内においての討伐は困難を極める。
しかし四層からの攻略は単純な罪と罰では図れず、間違いなく罪人を殺す必要がある。
例えば四層ならば、実のところ罪を抱えていたのはデズモンドではなくメリッサである。
罪人を殺さなければその殺害は裁きとは言えず、故に本来あの階層はデズモンドとメリッサの融合体から逃げつつも街の中で証拠を集め、どちらが罪人なのかを判断する必要があった。
デズモンドを呼ぶのなら攻略者の側が赤子を殺し、メリッサを呼ぶのなら共同墓地まで異形を誘導し、異形自身の手で罪を為さしめるというように。
最後に攻略者のあらゆる行動は、『結審の間』にて明らかにされふさわしい結果を与えられることになる。
そこでは塔の内部においてもそうだが、記憶を通してこれまでに犯した罪をも審判の場に引き出される。
故に罪人が足を踏み入れれば、魔王が強化される一因ともなりうるので十分に注意を払うべきだろう。
四の魔王の領域には『初見殺し』とでも言うべき要素が多々あった。
だからこそ扉や看板以外の手がかりを読み落とさず、一層一層の攻略に時間をかけるべきであった。
なにより、アリスとの意思疎通を念入りにしていれば魔王戦を含め攻略はより容易くなっていた。
また、当代の四の魔王は比較的強力ではあるものの、最大の罪を積んだとて勇者不在に加え大半が使徒ではないというイレギュラーな編成でさえなければ苦戦することもなかった。
殺戮を■■返し、や■■夜を迎えた■■■■は■の願い■叶■■■れる■だ■■う■■と■逅■る。
人な■ぬ■■との契■は、■■永久■苦し■■■た■■■。




