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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼馴染にクールでかっこいいと言われるけれど、私は卑怯で臆病者だ

作者: 笹 塔五郎

「す、好きです! 付き合ってください!」


 ああ、こんな風に言える子は正直言ってすごいと思う。

 私――木藤優子はそんな風に同じ学校の後輩の子からの告白を受け取っていた。

 人を好きになって、告白することはとても勇気のいることだ。

 私もそれはよくわかっている。

 わかっているのに――


「ごめんね、私……好きな人がいるから」


 素直にそう答える。

 彼女の勇気ある行為と、彼女の気持ちを理解した上で答えてあげることができなかった。

 後輩の子は私の答えを聞くと、ばつが悪そうに笑う。


「いえ、すみません……女の子同士なんて、変ですよねっ」

「そんなこと、ないよ」


 もっとはっきりと言ってあげれたら良かった。

 「これからも時々話をさせてほしい」とだけ言い残して、後輩の子は私の前から去っていく。

 断る勇気は、私にはいくらでもある。

 人は権利を持っていると、その判断を意外にも簡単に決定することができるんだ。


「嫌な奴だな……私――」

「なになに、また告白?」

「……何であんたがここにいるの」

「あいたっ」


 ビシッと振り返り様に背後にやってきた少女の額に軽くチョップを食らわせる。

 頭を抑えながら、少女は涙目で訴える。


「うぅ……不意討ちは卑怯なり……ここは桃源郷なり……」

「何キャラよ、あんた……てか、どうしてここにいるのかって聞いてるの」

「そりゃ、もちろんゆうちゃんが告白されるって聞いたらその現場に駆けつけないわけにはいかないっしょ! ジンジャーエールってやつ?」

「ジャーナリズムね」

「さすがゆうちゃん! 何でも知ってるぅ!」

「常識だっての」


 ……この騒がしい子は、私の幼馴染で、親友でもある佐田明花。

 昔からとても明るく元気な子で、その元気さを体現したような行動――主に奇行も目立つ。

 高校に入ってから髪を茶髪にして、アクセサリーなんかも華やかに身に付けている。

 私とはまるで違う子だ。

 そんな名前にもある通り明るい明花のことが――私は好きだった。


(ううん、だったじゃなくて、今も好き)


 いつからだったろうか。

 そんな風に明花のことを意識したのは。

 正直言ってしまえば、気付いたときには好きだった。

 根暗で人と話すことが苦手だった私を、勝手に「クールでかっこいい女の子」と呼んでそのイメージを定着させたのも明花だった。

 人付き合いは苦手だったので、イメージを定着させてくれたことはありがたいけれど――そのイメージに引っ張られているのか、時折ああして女の子から告白を受けることがある。

 そのたびに、私はそれを断ってきた。

 女の子同士がおかしいなんて思っていない――私は、明花のことが好きだから。


「んふふっ、でも意外ですなぁ」

「……何がよ」

「ゆうちゃんにも好きな人がいることだよ!」

「……ああ、そのこと」

「なになに、その冷たい反応!?」

「いっつもそのことでいじってくるじゃん」

「えーっ、ええやないの!?」

「あんた、生粋の江戸っ子でしょ」

「ええから、はよ好きな子とか教えときって」

「……だから何キャラよ」


 呆れたように、私は明花を置いて帰ろうとする。

 もう放課後だ。

 学校の裏庭に呼び出されて告白されるのにも。良いことではないけれど少し慣れた。

 そのたびに、明花は私の好きな人を聞いてくる。


(言えるわけ、ないじゃない)


 私にはその勇気がない。

 今、こうして明花と仲良く話している関係が壊れてしまうのが怖いから。

 だから、勇気を持って告白してくれた子のことは尊敬する。

 それと同時に――私はどこまでも意気地のない子だと自覚してしまう。


「まー、ゆうちゃんそういうところ、クールでかっこいいから男女問わずモテちゃうよねぇ。あたしのゆうちゃんが誰かに取られたらどうしよう……!?」

「……そういう言い方はやめて」

「なんでなんでよー!? ゆうちゃんをあたしが独り占めにしたらいけない理由があるの!?」

「あんたのじゃないから……」


 正直、こうやって言ってくれるだけでも嬉しい。

 だから、それ以上は求めない。

 私はこのままの関係でいい。

 今の明花との関係を、ずっとこのまま維持できればいい。


(……なんて、本当は思ってもいないのに)


 好きと一言、言えたらどれだけ楽なんだろう。

 ううん、きっと楽じゃない――明花にも負担をかけてしまう。

 クールでかっこいいなんてイメージは私には合わない。

 臆病者で、心配性で――ずっと意気地のないままだ。

 けれど、それでいい。


「あ、そうだ。帰りにクレープ屋さん寄っていこ?」

「また? 太るよ?」

「ちょっと、太るとか直球で言わないの! ふくよかになると言いなさい」

「意味自体は一緒でしょ……昨日も食べて帰ったのに」

「昨日は昨日、今日は今日ってね。デートだよ、デート」


 デートという言葉に、私は少しだけ反応してしまう。

 明花に他意はないのだろう。

 けれど、そういう言葉を口にされると、嫌でも意識してしまう。


「デートとか気軽に言わないでよ」

「えー、いいじゃん! あたしとゆうちゃんの仲でしょ?」

「そういう関係でも、ないわけだし」

「そういう関係?」

「な、何でもないっ」

「もう、ゆうちゃんが何でも隠したがるんだから。あーあ、ゆうちゃんの好きな人があたしだったらなぁ」

「――」


 不意に、明花がそんなことを口にした。

 ビクリと思わず身体が震えて立ち止まる。

 明花が少し驚いたような声をあげた。


「わっ、どうしたの? ゆうちゃん」

「あ、あんたが変なこと言うからでしょ……」

「変なことって……ゆうちゃんの好きな人があたしだったらなぁってこと?」

「二回も言わなくていい……けど、そういうこと」

「別に変じゃないと思うけどなあ。あたし、ゆうちゃんのこと好きだよ?」


 違う――明花の言う好きはきっと、私の考える好きとは違う。

 私は、明花を恋愛対象として好きなのだ。

 明花はきっと、私を友達として好きだと言っている。

 そんな決定的な隔たりがあるからこそ、私はその一歩を踏み出せずにいた。

 それなのに――どうして明花は、そんな風に言ってくるのだろう。


(……私の気持ちも知らないで)

「簡単に、言わないでよ」

「ゆうちゃん?」

「簡単に言わないでって言ったの」

「え、ゆうちゃん怒ってる?」

「……怒ってない」

「えー、怒ってるじゃん!」

「怒ってないったら」

「ちょっと待ってよ。あたし何か悪いこと言った? ゆうちゃんのこと好きって伝えただけじゃん!」

「だから……そういうところだっての」

「そういうところってどういう――」


 明花の言葉を遮るように、私は振り返り様に胸元を引いてキスをした。

 どうしてこんなことをしたんだろう――これは勇気でもなんでもない。

 告白された子に触発されたわけでもなくて、明花のことが好きなのに、それを理解してくれないことに苛立った。

 その気持ちが、抑えきれなかった。

 どれくらい時間が経っただろう――こんな状態でも、目を開くことができない私はどこまでも臆病者だ。

 こんなときでも、明花の唇は柔らかいとか、そんなことを考えてしまう私はどうしようもない奴だ。

 私からキスをしたのに、明花を突き放すように離れた。

 少しの沈黙の後、私の方から口を開く。


「……私の好きっていうのは、こういうことなの」

「ゆ、ゆうちゃん――」

「ごめんっ!」


 ――私は臆病者だ。

 明花の答えを聞くのも、今の表情を見るのも怖くて、逃げ出すように走り出した。

 私から今の関係を壊すようなことをして、どこまでも最低――


「ま、待ってよぉ!」

「っ!? な、何で追いかけてくるのよっ!?」

「逃げたら追いかけるでしょーっ!」

「は、速……!? こ、来ないでってば!」

「だったら逃げないでよぉ!」

「く、来るなって言ってるの!」


 きっと追いかけて来ないと思ったのに、明花は追いかけてきた。

 運動が得意な明花の方が足が速くて、すぐにでも追い付かれそうだった。

 何とか校舎内に逃げ込んで、私は階段を掛け上がる。

 どこでもいい――とにかく逃げられたらよかった。


「……はあ……はあ……っ」


 ――私の逃げ込んだ先は屋上だった。

 出口は一つしかなくて、後ろから明花が階段を駆けあがってくる音が聞こえてくる。

 柵に囲われた屋上で、私は肩で息をしながら周囲を見渡した。


「……どこにも……はっ、逃げ場ないんだけど……」

「もう……いきなり走らないでよねっ」


 特に息を切らす様子もなく、明花が後からやってくる。

 逃げ切ることもできず、私はただただかっこわるい姿を晒すことになった。

 その場でぺたんと尻餅をつくようにして、明花と向き合う。


「……追いかけて来ないでって言ったのに」

「ゆうちゃんが逃げたらどこまでも追いかけるよ。妖怪『明花丸』だからね」

「何それ、こんな時でもふざけるんだから……」

「うん、でも……次はふざけてないよ?」


 そう明花が言うと、膝をついて私の前にやってきた。

 明花の顔がすぐ近くにあって、私は思わず目を逸らしそうになる。

 けれど、そんな私を抱き寄せるように――明花は私と口づけを交わした。

 まだ息が切れているから、少し荒い呼吸のままになってしまう。

 それが少し恥ずかしくて、また明花から離れた。


「ちょ、ちょっと待って……!」

「ゆうちゃんからしてきたんじゃん」

「そ、そうだけど……」

「さっきも言ったっていうかさ、いつも言ってるじゃん。あたしはゆうちゃんのことが好きって」

「だって、それって友達って――」

「うん、友達として好き」

「……だよね」


 分かっていた、その答えは。

 けれど、明花は私の言葉に首を横に振る。


「そうじゃなくて……何て言えばいいんだろ。友達としても、好き?」

「っ! そ、それって……」

「えへへ、何ていうか、その……今の関係とか、壊したくなくてね? あたしも好きだって言ったらさ、ゆうちゃんきっと友達として、とか……そういう風に考えてくれるだろうなーって……。卑怯だよね、あたし」


 そんなことはない――好きだって、伝えることすらもしなかった私と違って、明花はずっと伝えようとしてくれていた。

 明花もずっと、私と同じ想いを抱えていたのだというのだから驚きだ。


「卑怯なのは、私の方だよ」

「ゆうちゃん?」

「明花のこと、好きなのに。好きだって言ったこともない。このままでいいと思ってたから」


 友達として好きという言葉すら恥ずかしいと思っていたのだから滑稽だ。

 そんな私に対して、明花は優しげに微笑むと、


「じゃあさ……今度はちゃんと伝えてよ」

「……え?」

「いつもみたいにクールでかっこいい感じでさ。あたしのこと、好きって言って?」

「め、面と向かってそういうこと言う?」

「言うよっ! だって、あたしはゆうちゃんのこと好きだもん!」

(ま、またこの子は……)


 笑顔でそう言う明花に対して、私は思わずくすりと笑ってしまう。

 私は臆病者で、卑怯者だけど――ここで逃げ出すほど最低じゃない。


「私も――ううん、私は明花のことが好き」

「……うん」

「ずっと、出会ったときから、好き……だったかも」

「あははっ、何で曖昧なの」

「だって、いつから好きだったか覚えてないし……」

「あたしは、出会ったときから好きだったよ?」


 そんな風に言ってのける明花はずるいと思う。

 お互いに好きな気持ちを伝えあって、また少しの静寂が訪れた。

 ずっと向き合ったままで、だんだんと屋上が夕焼けに染まっていく。


「さっきはゆうちゃんからで、今はあたしからだったから……今度は二人で、しよっか」

「……またするの?」

「えー、したくないの?」

「……したい、けど」

「じゃあさ、せーのっでいこっか!」

「ちょ、そのタイミングはおかしい――」

「せーのっ!」


 結局、明花の掛け声と共にまた、私と明花は唇を合わせる。

 今度は二人で一緒に、確かめあうようにキスをした。

 二人で動いたから、少しだけ鼻が当たってすぐに離れる。


「……えへへっ、お互い下手だったね」

「練習、しとく」

「真面目だなぁ、ゆうちゃんは」

「まあ、ね」

「じゃ、帰りにクレープ屋さん寄っていこっか!」

「結局寄るんじゃん……」

「いいでしょ? 今度こそ、その、本当にデート、だよ?」


 いつも元気に言ってくるのに、こういうときだけ恥ずかしがるのはずるいと思う。

 今度はもう逃げたりしない。

 明花に対して、明花のように言いたいことは言えるようになろうと誓った。

 ――この日、私はずっと好きだった幼馴染で親友の子と、恋人同士になった。

せっかくなのでこちらでも公開しておきます!

こういう百合が書きたいことが多くてですね……。

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