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昔話



 俺が想定していたより。かなり状況は良くない。まず辺境に竜が現れたという話は、精々郊外に現れている程度の物を想像していたが。辺境とはいえ既に街一つが滅びかけているのは想定外だった。


 街を超え正しい噂が広がるのは意外な程遅い。基本的に旅人か行商人以外に情報が広がる毛色は存在しない。それこそ重要な拠点なら常駐魔術師による通信魔術もあるのだが、特に重要でない場所ならばご覧のあり様である。



「だがまぁ、やれるかやれないかなら…… やれるな」


「本当?」


「ああ、魔力は強いが。あれならティバンドの矢じりで貫ける」



 黒衣の魔女と共に、教会の尖塔から覗き見る竜は見たところ上位には届かない。それこそトップクラスのA級のパーティや、伝説のS級パーティで挑まなければ勝利にならない程の相手ではない。


 強いて問題を上げるのなら、金の問題だ。


 A級やS級、もしくはそれと同等の騎士を雇うには。この領地には金が足りない。以前倒したワイバーンと同じパターンである。



「本当にグレックは物好き」


「なぁに、人間懐に余裕があれば。名誉欲って物が生まれるんだよ」



 尖塔の影から共に、領主の屋敷を伺う魔女の顔を見ないまま軽口を返す。実のところあの家程の大きさのある悪竜を倒したからと言って。大した栄誉がある訳でもないのだが。危険の割にありとあらゆる意味で実入りが期待出来そうもない。



「……そういえば、グレックは。アッシュの事をどう思ってる?」



 魔女からの脈絡のない問いかけで俺は、久々に俺をパーティから追放したイケメンの顔を思い出す。



「そうだな、もうちょっと上手くやれればって。今は思ってるかもな」



 あいつは俺を追い出す時、こちらを嘲る顔をではなく。俺が契約書を書き上げる中、どこまでも苦々しい顔でペン先を追い続けていた。数年前、まだ少年に近かったアッシュがどんな気持ちで俺をパーティに誘って、そして追放したのか俺には分からない。


 けれど、それなりに上手くやっていたつもりで、どこか息苦しかった数年間より。アリアに誘われた冒険を利益度外視で楽しんでいる今この瞬間の方が、ずっと楽しい。


 そんな事を考え、何となく答えを理解する。



「レイナは無口で。チャコはおっちょこちょいだったけど。悪い子じゃなかった」


「お前から見てアッシュはどうだったんだよ?」


「性根が悪い子」



 魔女が口にした、アッシュの評価がツボにハマって。俺は吹き出した。確かにあいつは性根が悪かった。礼儀正しいが嫉妬が強くめんどくさい相手。けれどたぶん、俺はそんなに、あいつのことが嫌いではない。



「ははは、まぁアレだな。あのドラゴンを倒せたら、一緒に一声かけに行こうぜ」


「うん、全力で楽しかった。ザマァみろって煽ってあげる。アッシュが計画するクエストはどれもこれも利益重視で、冒険として楽しくなかったって言ってあげる」



 戦いの後のことを話すのは縁起は良くないけれど。あのめんどくさいイケメンリーダーに、一言物申すのを想像すると、それはそれで楽しそうで。そのまま二人で、ドラゴンの偵察を忘れて、暫く尖塔の上で声を押し殺して笑い合うのであった。

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