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作戦



「グレック、実際のところ。ドラゴンをどうやって倒すつもりなのだ?」


「ん? 道すがら一通り説明したつもりだったんだがなぁ」



 アリアが避難民達を鼓舞した街から少し離れた場所で、俺達はキャンプする事にした。それこそ街中で宿を取る事も出来たのだが。俺達の歓迎で貴重な食料や物資を使って貰うのは決まりが悪い。


 あの演説の直後、そのまま旅立って。日が落ちる前に野営地を探し手早くテントを張ったのだ。まぁ避難民の数を考えれば格好つけ程度の意味しかないが、それが彼らの希望に繋がるのならやって損は無いだろう。



「グレック、貴方の説明は端的で分かりやすいから、普通の人には理解しやすいけれど。そのぶん省略が多くて、分かってる相手には伝わりにくい」



 ぐつぐつとスープを煮たてながら魔女が呟く。鞄から取り出した5人用の鍋で、干し肉と、凍結乾燥させた野菜を煮詰めてスープを作る。この手の乾物野菜は値段が高いのだが、彼女は鼻歌交じりに自分で用意してくれるので非常に有難い。


 魔法の純粋な火力において、黒衣の魔女を超えるマジックスペシャリストは何人か思い出せるが。その応用においては間違いなく1番である。



「ふーむ、じゃあしっかり説明しようか」



 荷物を置き、夜空の下で3人で火を囲むのはほんの少し物足りない。何だかんだでここ数年はずっと5人でパーティを組んで来たのだ。2~3人前ぺろりと食べる猫耳の盗賊が居ないせいで、量が半分以下しかないスープが半分なのが、寂しさをかき立てる。



「基本はこの前のワイバーン狩りと同じなのは分かるか?」


「うむ、魔法で姿を隠し。グレックが牽制、妾が主力を務めるのだな?」



 単純な腕力において平民は貴族に敵わない。子は成せても生き物としての段階が違う。それこそ多少の技量の差など容易に覆す。それこそワイバーン程度なら俺でも倒せるが、本物のドラゴンを倒すなら彼女が前衛を張らなければ話にならない。



「ああ、アリアが実家から持ちだした両手剣にエンチャントをかけ。更に筋力増強の魔法で援護すればそれこそエルダードラゴンでない限り手傷を追わせることが出来る」


「 その、すまない。妾が不安に思っているのは、グレックが行う牽制の方だ。どうにかすると信頼はしているのだが、その方法が思いつかない」



 ああ、と俺は納得する。確かに俺が放つ鉄の矢では竜の鱗は貫けない。いやそもそも鉄の矢じりで竜鱗を貫こうとするならば、それこそ弓を極めた巨人族か、それとも攻城戦用のバリスタを用意しなければ話にならない。



「黒衣の、アレを出してくれ」


「ん、分かった」



 ごそごそと魔女が鞄を漁る。10秒、20秒、30秒…… アリアの顔が徐々に不安に傾いていくが、いつものことだ。彼女にとって整理とは普通の人が考える以上に難事なのである。



「あった、はい」


「ありがとよ」



 魔女の手から渡されたのは、3つの矢じりだ。アリアは一目でそれらに並の魔剣を凌駕する魔力が詰まっているのを理解する。



「これはもしや魔剣ティバンドの破片を元に……?」


「ああ、折れ朽ちた10に砕けたティバンドの破片を削った矢じりだ」



 魔剣ティバンド。それは10年前、俺がドラゴンを倒した時に使った剣である。由来は不明だが非常に高い魔力を持ち、それこそただの人間でもドラゴンを引き裂く事が可能な数少ない武器の一つ。


 もっとも、竜殺しを成し得た後。その刀身は砕け散ったが、こうやって生まれ変わり俺の切り札になっているのだが。



「こいつの他にも幾つか、無銘の魔剣を矢じりにしてる。致命傷になるのはこの3発だけだが、それ以外でも牽制程度の役には立つさ」


「……成程、いや。納得がいった。うむ、有難い」



 彼女は多分、最初俺にすまないと告げようとしたのだろう。けれどそれを止め、あえて有難いと口にした。金額で換算すれば、俺にとってこの仕事は完全に赤字。けれどそれでも、俺は彼女の語った夢物語と冒険を愛おしいと思ったのだ。



「それは、こちらこそ。だ」


「2人とも、スープが出来た」



 魔女の言葉でようやく俺の鼻が、スープのいい匂いを嗅ぎ取った。彼女曰く30種類の野菜を絶妙にブレンドした冷凍野菜は、滋養に良いらしいが。単純に味の上でも優れているのは長い付き合いで知っている。



「ありがとう、じゃあ食べるぞ。明日は早いし、暫くあったかい飯は食えないんだからしっかり腹に詰めておくぞ」


「うむ、そうしよう」



 パチン、と手を合わせて。魔女から器に装ったスープを受け取る。魔女はプリーストとして祈りを捧げ。アリアも貴族として神に祈る。残念ながら俺は何も祈らないが、それでも彼女達を邪魔しないよう、静かに二人を待つ。


 ふと空を見上げると、3つの月が俺達を見下ろしていた。ああ、運が良いと思いながら。俺は祈り終えた二人と共にスープに手をつけるのであった。

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