港町からの逃避
男は狂っていた。
少なくとも自分では狂っていると思っていた。
この街に逃げてきたのは二ヶ月前だ。
海を渡り呪われた大地から逃げ出せたと安心していたのに。
この大地も呪われている。もう何処にも清浄な場所は無いと言うのか。
なぜだ。
なぜ、俺より狂った人間しかいないのだ。
俺は狂ってなどいないというのか!
俺ほど人を斬り殺した人間は居ない!
俺が狂っていないなら、俺が殺した家族は!仲間は!誰が俺を狂わせた!
男は泣いていた。
何が正しくて、何が間違っているのか、人の善悪ですら判断がつかない自分に泣いていた。
もう人間を見ていたくない。
わかった人が居ない所へ行こう、弱った気持ちを宥め視界に映った森へ向かう。
自分は何だと自分に問う、自分は誰だと自分に問う。
答えがない自問自答を繰り返して気を紛らわせ、森を闇雲に進んでいる。
遠く先に人の気配を感じる。
気配を殺し急ぎ足で先へ進む。
呪われていない人間が居るかもしれない。諦めに似た希望を見つけようと男は走った。
女が三人走って逃げる。男が五人それを追いかけている。
どちらだ。どちらが狂っている。全員狂っているのか。
女が追いつかれ背中を殴られ倒れ込む。男達が逃げられるよう女を囲む。
「おう、何逃げてんだよ。疲れるだろうが。金払えよ金。」
「そうだぞ。金を取りに家まで送ってやろうか?優しいだろ?」
「だって、でも、あなた達がいきなり腕を引っ張ったから。」
「おおっ?そういや、叩かれたんだった。お前盗賊だろ?殺すとお金貰えるんだよな。」
「そんな悪いのはあなた達が。」
「おや。僕と話すならお金が必要なんだよ。知らなかったで罪はなくならないんだよ?」
「そんなの知らない。だって、悪いのは私じゃない。」
「ん?じゃあ偉い人に決めてもらおう。そうだそうだ。一緒に来てくれるよね?」
「嘘ついてるよね?犯罪だよ犯罪。どんどん罪が重くなるね。どれか一つにしてあげるから自供しちゃいなよ。」
おや?どっちも糞だそ?
みんな呪われているから殺してあげないとダメなのか。
女の方がダメな気がしてきたぞ。
俺は女には優しいけど、犯罪者はダメだろ。
「もういいから。ちょっと来いよ。自分が何したかわかってるんだろ?」
「そうそう、偉い人にお前が悪いって決めてもらうから。」
「やさしく連れて行くから大丈夫だぞ。」
「泣いてても罪は罪だぞぉ?」
なんかむかつくから男から殺して、様子を見よう。
近くの男を薙ぎ払う。豆腐より柔らかい。
すぐさま隣の男へ振り切る。首が落ちた。
全身でバネを効かせ一人二人と切り捨てる。
「おい、とまれ。女を殺すぞ。女を無事で欲しけりゃ止まるんだ。」
人質か。男は殺して良かったな。やっぱり狂っていた。
「なんとか言いやがれ。剣を下に置け。」
剣を置いたら殺されるじゃないか馬鹿じゃないのか。
この剣なら呼べば来るから平気だけど。やっぱりこいつ狂ってる。
男は剣を置き。ダッシュで心臓を撃ち抜こうを狙いを定める。
魔法で女の子と男が気絶した。
腰から短刀を抜き、すくい上げる様に男の頭部を貫く。刃を捻り短刀を戻す。
倒れた女が裸だ。女も狂ってる。殺そう。
「あの、ありがとうございます。」
剣を拾っている間にお礼を言われてしまった。
もう、殺すことが出来無くなった。
仕方ない、諦めよう。
「どうしてこんな事になった?」
「いきなり襲われて、わからないんです。」
女は糞だ。理由が言いにくいといつもこれだ。ワンパターンどもめ。
倒れてる女の胸を鷲掴みにして目を覚まさせる。助けた駄賃はこれでチャラだ。
隣の女が睨む。生命の値段が胸を1揉みより安いとか狂ってるだろ。殺すぞ。
仕方ないのでマントで裸の女をくるむ。
「はやく服を着てマントを返せ」
「マントぐらい下さいよ」
「殺すぞ糞が」
「町まで送ってくれたらマント返すわよ」
「求めるばかりかよ、狂ってるなお前ら」
「一緒にしないでください」
「こっちこそお断りだ、さっさと村だか町だか行くぞ、先に歩けよクソが」
狂ってやがる。1つ貰ったら全部貰えると思ってやがる。
町ごと消してやるわ。
早くマント返せ。
☆
糞女どもが媚を売り、さらに何かを要求するつもりだ。ウザい。
女は生まれたときから狂ってるとか思えん。
くそ。狂っているのは俺なのか。
無視してんだから話しかけんじゃねえよクソが。
☆
「おお、いらっしゃい、旅の剣士様。
この子達はどうされたのかな?」
「男に襲われていたのを助けた。
助けたのに、睨まれてマントを奪われ返して欲しければ町まで送れという。
厚かましいにも程がある。
この町の女は狂ってんのか?」
「おおお、申し訳ない。
チヤホヤされてこの子達は頭が弱いだけなんです。
狂ってはないと思うのじゃが。
許してくれませんか。」
「爺さんに謝られてもな。。。
糞女ども、さっさと服着てマント返せ。」
「そうじゃ、早く行きなさい。
ちゃんとお礼は言ったんだろうね?」
沈黙する糞女ども。礼などされてないしな。
「ありがとうございました。」
「にらみながら礼をするとか、何考えてやがる。
なあ、本当は狂ってるんだろ?」
「まあまあ、この子達頭が本当に弱いんじゃよ。
申し訳ない。」
「見捨てりゃよかったぜ。」
「申し訳ない。
今ここで殺されても文句は言えんわい。
さっさと行かぬかバカ者共!」
爺さんはまともなのか?
まだわからないが、話が通じた、狂ってはなさそうだ。
この町はまだ呪われていないのかもしれない。もっと南に行ってみるか。
早くマント持って来いよクソども。
女からマントを返してもらうまでイライラする男。
「そんな気持ちのない礼などドブに捨てとけ。
さっさとマントを返せ。
斬り殺されたくなけりゃ消えろ。」
マントを取り返すと、男は南へ向け歩き出した。