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何の因果か魔王の下僕  作者: ラーラララ
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終章 何の因果か魔王の下僕

終章 何の因果か魔王の下僕


「それから30年……だよ」

未来達は言葉を失った。

自分達の生きてきた人生の倍ほどの時間をこの人達は大切な人を助ける為に生きてきたのかと。

「俺達は高校を卒業した後大学に通いながら師匠の導きで向こうの世界に行ってたんだ」

「大学に通いながら?」

「そう。師匠がアークの事を思うならこっちの世界での地盤も固めといたほうがいいって言ってな。最初は俺ももどかしかったさ、こんな事してる暇があったら少しでもスピカを助ける為に……てな。でも気づいたんだ、俺たちはスピカをただ助けたいんじゃない、幸せにしてやりたいんだって。向こうの世界になんか一切関わらずにな。だから師匠には感謝してるよ。で、なんだかんだあって俺は校長、美愛は保険医をやりながらスピカを助けてるって訳。今はもうこっちの世界での研究がメインで向こうの世界での活動は信頼できる人間を使ってるけど、たまに俺たちも行ったりしてるよ」

「ちなみにあたしは無職だから結構向こうにも行ってるけどね~」

ひらひらと手を振りながら笑う環。

「校長の仕事ってそんな片手間で出来るもんなんですか? いくら私立とはいえそんな事は……」

「できないだろうね。そこは色々師匠が手を回してくれてるんだよ。この国のお偉いさんの急所は大体抑えてるから」

未来達の中であったこともない師匠のイメージがどんどん大きく恐ろしく膨れ上がる。

「師匠さんってお幾つなの?」

「さぁ~? でも結構いってるはずだしそろそろ死ぬかもな」

「師匠が死んだらあたしが引き継ぐけどね~」

この少女が日本の影の支配者になるというのか?

いや、この少女は少女ではない。

「えっと……デネボラさんのお年は……」

祐介や美愛と同い年なのだから当然。

「47」

であろう。しかし……

「でもその姿は……」

どっからどう見ても小学生だ。

「これね、呪い」

「呪い?」

思わぬ恐ろしい言葉が飛び出してきた。

「そー、もう5年になるかな? ちょっと油断してこんなの食らっちゃってね~。若返ってラッキーじゃんとか思ったでしょ?」

別に誰も思っていなかったがあえて口にはしなかった。

「ところがそうは問屋が大根卸さないんだな。あと5年で死んじゃうから、呪いで。美味い話ってのはないもんだね、どこの世界でも」

「そ……そんな……」

絶望に涙を浮かべる春輝を見てなんでも無さそうにヘラヘラと笑っていた環が慌てて訂正する。

「ああごめんごめん、大丈夫だから。ただ解いてないだけ、解こうと思えばいつでも解けるよ」

「なんだ……」

安堵のため息を漏らす春輝。

「方法はまだ見つけてないけど……」

「ちょっと環! まだ見つけてなかったの! あれほど探しておきなさいって言ったのに!」

「だぁいじょうぶだってば、すぐ見つかるって」

「あ……あの~……」

環の呪いも気になるが未来はなによりまず“アーク”の話が聞きたかった。

「悪い悪い、お前達話の腰を折るんじゃない」

静かになったのを確認してから祐介は一呼吸置いて話を再開した。

「スピカの刻印はゆっくりではあったけど確実に解けていった。けど、最後の1つがどうしても解けなかったんだ」

「3年停滞したわ」

「そして、春輝が卒業したら仕事を辞めてスピカに専念しようか本気で考え始めた時、君達が封印を解いたんだよ」

「俺たちが……」

「正確には明日風君、君がね」

「何故俺が?」

「君の血が最後の刻印を解除する原因となった事についてはどういう風に呼んでもらっても構わないよ。運命、偶然、あるいは呪いか……」

「呪い……」

呟いて未来は頭を振った。アーク出会った事は決して呪いなんかじゃない。

それはきっと……

「奇跡……」

「……そう呼んでも構わないさ。ともかく君の血がきっかけでスピカの刻印は解かれた。しかし、スピカの記憶と精神は非常に不安定な状態にあったんだ。自分をアニメの魔王だと思い込むほどにね」

「あの……もしかして僕が余計な事を口走ったからこんな事に?」

珍しく廻が冷や汗をかいていた。

「いや、記憶の混濁は予想されてたしどのみちスピカが正しく自分の事を認識することが出来ずに新しい人格を作り出しただろうさ、君のせいじゃないよ」

「そうですか……」

一連の騒動が自分のせいでなかった事に安堵してホッとため息ををついた。

「スピカの心臓は無限の魔力を生み出すこともなくなったけど普通に魔力を生み出すのも難しくなってたの。でもこれはこっちの世界の魔素との関係もあって時間が解決してくれる問題だってわかったの。幸い魔力を供給する手段もすぐに見つかったしね」

「その手段については予想外だったがな」

「あはは……」

祐介の明らかに不快感を示す眼差しに未来はとりあえず笑っておいた。

「記憶の方も時間が経てば元に戻ると思ってたんだよ。30年待ったんだ、焦りは禁物だが慢心もできない。出来るはずがない。無理やりスピカの記憶を引き出せば心が壊れてしまうかもしれなかったしね。それで俺たちはスピカの心と記憶について調べる事にして、スピカには君達と“魔王”として生活してもらう事にしたんだよ、環の監視をつけてね」

「久しぶりにデネボラになったけど中々楽しかったよ」

環の笑顔はどこか楽しそうでどこか寂しそうだった。

「環の報告では少しずつではあるがスピカらしさようなものを思い出し始めているようだった。」

「料理をしたり学校に興味を持ったり変な物が好きだったり……人の心に敏感だったりね……」

今まで笑顔だった環の顔に少しだけ影が差す。

「タイムカプセルの事を思い出したと聞いて覚醒は近いと確信したよ。でもカプセルを掘り出すと聞いたときは焦ったよ、覚醒が一気に進むだろうと予想してたからね。で、環が俺たちに知らせて駆けつけたって訳だ」

「そうだったんですか……」

「どうして……どうして黙っていたの?」

春輝の声には怒りと、少しの寂しさが入り混じっていた。

「春輝にはいずれ言うつもりだった。しかし、他に2人はできれば巻き込みたくなかった。あっちの世界と関わるとロクな事がないって事は嫌という程思い知って来たからね……」

祐介達は顔をしかめる。ここに至るまでに、3人には色々な事があったのだろう。本当に色々な事が……

「しかし、結果的にここまで君達を巻き込んでしまった事は本当に済まないと思っている」

「いえ、そんな……」

深々と頭を下げる自分の学校の校長に戸惑いを見せる未来。

しかし廻は、鋭い視線で校長をにらみ、低く鋭い声で問いかけた。

「アークの人格は……どうなるんですか?」

「廻?」

「もしスピカさんの記憶と人格が戻ったとしたら、アークの記憶と人格はどうなるんですか?」

頭を上げた校長の瞳は、星の消えた夜にように暗かった。

「消えるだろうね」

事務的な連絡にように話す祐介。

「パパ!?」

「元々スピカの身体なんだ、悪影響が出ない為にも紛い物の人格には綺麗さっぱり消えてもらうよ」

抑揚も感情もないその声色に未来は激しい怒りを覚えた。

「テメェ……紛い物だと……?」

「やはりな、だから時間を掛けたく無かったんだよ。こうやって偽物に情が移ってしまう恐れがあったからね」

やれやれと芝居染みたリアクション取る祐介。

「訂正しろ! アークは偽物なんかじゃねえ!」

そんな祐介に未来の怒りは熱く燃え上がる。

「構わないよ? どの道消えて貰いはするけどね」

氷のように冷たい視線で怒りに燃える未来を睨みつけた。

「パパ……どうにもならないの?」

春輝が涙ながらに祐介へと懇願する。しかし……

「ならないよ」

我が儘をたしなめるようなその声に春輝は父が別人になってしまような錯覚を覚えた。

「ぐぁぁ!」

「アスカ!」「未来!」

春輝とのやり取りの間にアークを連れ出そうと駆け出した未来の全身が重りをつけられたような重量感に襲われた。

「俺もね、向こうの世界で色々あったんだよ。3つの国で英雄と呼ばれて5つの国でお尋ね者になるぐらいにはね。君の首を捻じ切るぐらい造作もないよ」

「ぐぁぁ!」

未来の首が本人の意識反して右回転を始める。可動域ギリギリで痛みに襲われるが、それでも首はゆっくりと回転を続ける。

「やめて!」

ドアから奥の部屋で寝てるはずのアークが未来にすがりつく。

アークは一部始終をドアの隙間から聞いていた。

「もう止めて! 私は……私はどうなってもいいからもう止めて……」

「ぐぁぁ……はぁ……はぁ……アーク……」

未来の拘束が解かれる。

「ごめんね未来……でももういいの……」

ボロボロと涙を流しながら謝罪するアークへ未来は怒りに顔を歪める。

「いい訳あるか! お前は俺とずっと一緒に居てくれるんだろ!」

「ごめんね……」

「謝るな! お前は魔王だろ! どんな運命だって笑って跳ね返す、恐怖の魔王様だろ!」

「ごめんね……私……魔王なんかじゃないみたいだから……」

「アーク……」

今度は悲しみに未来の顔が歪んだ。

「でも良かったぁ……みんなを困らせる魔王になんか……なりたくなかったもん……」

悲しい笑顔を未来へ見せるアーク。

いや、こんな物は笑顔ではない。笑顔などと呼んでいいはずが無い。

もう1度アークの笑顔が見たい。

未来の中で、何かが弾けた。

「だったら……だったら俺が魔王だ! 魔王になってやる! お前の身体が誰のものだとか校長たちの30年だとかそんな物は関係ねぇ! 俺は俺のやりたい様にやってやる! 魔王様だからな! アーク、今日からお前は俺の下僕だ! 一生こき使ってやるから覚悟しろよ!」

「未来……」

アークは手を伸ばして未来を掴もうとした、が。

「もういいのかな? じゃあ少し眠ってもらうよ? 魔王様」

祐介の手から生み出された紅い光がを襲う。

しかし、その光は獲物の前に躍り出た人物に行く手を阻まれた。

「ぐぁ!」

「廻!」

光を浴びた瞬間、廻は今まで聞いた事のない悲痛な声を上げてその場に崩れ落ちた。

「君はもう少し賢い子だと思ってたんだがね?」

暗く冷たい声で威圧する祐介。

「はは……それラブキュアに同じ台詞ありましたよ……悪役の台詞でね……」

軽口でそれをいなす廻。

「へぇ、まだ立つかい? 全身が死ぬ程痛むだろうに」

全身の血液が沸騰する様な錯覚を覚えながら廻は怒りに任せて想いを吼えた。

「あんたには逆立ちしたって勝てない事ぐらい百も承知さ……でも友達の為にここで動かなきゃあ男じゃないって事ぐらい分かるだろ! あんたにも!」

獣の様な眼光で祐介を射抜く。

「俺は少し君を誤解していたようだね、謝るよ」

「廻ぅ……」

不安げな声で名前を呼ぶアークに廻は不敵に笑って見せた。

「言ったでしょう? 俺は友達の為なら命だってかけられるって……守る友達が2人もいるんだ……2回だって3回だって死んでやるよ!」

こんな状況でも廻に“友達”と言って貰えた事がアークは嬉しかった。

「殺しはしないさ、ただちょっと眠ってもらうよ?」

「ガァァァ! 」

祐介がほんの少し目を見開くと廻が潰れたカエルの様に地面へと這いつくばった。先ほどの光と合わせて廻には地獄の様な苦痛が全身を襲っている。

「アスカ……アーク……逃げ……ろ……」

それでも廻は、2人を逃がすために立ち上がろうと腕に力を込め続けていた。

未来はアークの手を掴み出口へと駆ける。

しかし、扉のノブは回るがまるで鉄板の様にピクリとも動かなかった。

「クソ!」

怒りに任せて扉を殴る。

「そのくらいの対策はするに決まってるだろう?」

「パパ、もう止めて!」

大粒の涙を流しながら祐介へと懇願する。

「春輝……止めることはできないよ。それにスピカはとてもいい子なんだ、春輝もきっと好きになるよ」

「そういう問題じゃない!」

トンチンカンな返事に怒鳴り声を上げる春輝。

トンチンカンであるという事を分かった上で言っているような気がして怒りは更に加速した。

「ママ! お願い……」

美愛の目を見た瞬間、春輝は自分の願いが聞き届けられない事を悟っていた。

「春輝、私はあなたを愛しているわ。でもね、スピカの事も、そして祐介の事も昔から、ううん、昔よりずっと愛してるの。だから、ごめんなさい……」

美愛は泣いていたが、その瞳はしっかり祐介を見つめていた。

「デネボラさん……」

悲しそうな苦しそうな顔でただアークを見つめている環の足は、半歩だけ前に出ていた。

「目が覚めたら全部終わっているさ」

先程よりも深く紅い光が祐介の手の平でゆっくりと大きくなっていた。

「それじゃあ明日風君、2学期に会おう」

「やめてぇぇぇ!」

「春輝!」

放たれた光に横からぶつかった瞬間、春輝は慣性の法則のなすがままに身体を床に打ちつけながら吹き飛んだ。

娘の蛮行に流石の祐介も声を荒げる。

美愛は廻が気絶した時からかけ続けていた回復魔法を春輝にもかける。

「逃げ…て…お願い……」

すると、あれ程ビクともしなかった扉がひとりでに開いた。

未来はアークの手をしっかりと握り締め、妖館の外へと飛び出した。

「環?」

あの扉の封印を解けるのは祐介か美愛か環だけだ。

美愛が自分を決っして裏切らないということは分かっていた。

「いいじゃない……どんなに遠くに行こうとしたって古鷹君からは絶対に逃げられない……だったら少しぐらい2人の時間をあげたって……ね?」

祐介は悲しい笑顔で笑う環を怒る気にはなれなかった。


「アーク……行きたい所はあるか?」

いつの間にか降り出した雨の中、無我夢中で走った2人はとりあえず駅まで逃げていた。

「海……見てみたい」

「海か……よし! 海行くか!」

未来が買った切符の行き先がタイムカプセルに入ってた切符の行き先と同じである事に気が付いた。

(海……行きたかったんだな……)


「着いた……」

もともとあまり人気の無い海水浴場ではあったが、先程まで降っていた雨のお陰もあり人影は全く見られなかった。

「海……大きいね」

「ああ……そうだな……」

砂浜へと腰を下ろした2人は寄り添いながら沈みゆく夕陽を眺めていた。


「もうそろそろいいかな? こっちも30年待って流石に待ちくたびれた」

「校長……」

そんな気は……していた……

でも、もしかしたら……そんな未来の淡い期待は冷たい一言に打ち砕かれた。

「無駄な事はお互い止めようじゃないか」

未来はゆっくりと近づく祐介からアークを庇うようにして立つ。

「うるせぇ! 無駄だろうがなんだろうがアークの為ならなんだってやってやらぁ!」

右頬に一撃を喰らわそうと渾身の右を放つ。

しかし、わざと拳がかする様に小さく躱した祐介は未来を魔法で組み伏せる。

「ぐぁ!」

「未来!」

「明日風君……信じられないかも知れないが俺にも君の気持ちは分かるんだよ、痛いほどね」

両腕に力を込めなんとか上半身だけを浮き上がらせて自分を睨みつける未来へと優しく語りかける。

「だったら……」

「だが、君にだって分かるはずだろ? 俺の気持ちが」

分かる……分かってしまう……未来にもまた、祐介の気持ちは分かっていた……それでも……

「俺は……魔王……だからな……人の気持ちなんざ……クソ食らえ……よ……」

不敵に笑う未来に小さくため息を吐く。

「そうか……そうだったな……」

祐介は未来にすがりつくアークの頭へ腕を伸ばす。

「アーク君……君は紛れもなく本物だよ……だが……すまない」

瞬間、青く美しい光がアークからほとばしる。

「アークゥゥゥゥゥ!」

未来の叫びが海を震わせる。

しかし……


「馬鹿な……俺はまだ何もしていないぞ!」

何もしていないのに光が上がった事に俺は呆然としていた。

まさか、失敗したのか?

最悪の事態を想像して足が震えだした。

すると……

「ゆす……け……ゆすけ……」

アークから立ち上る青い光の柱から幻影のようなものが現れて玻璃のような透き通った声を発した。

それは、30年間1日だって忘れる事の無かった声。

「スピカ……スピカなのか!」

「うん……そうだよ、ゆすけ。おひさしぶりだね?」

スピカが目の前にいる。

自分に話しかけている。

それだけ俺は頭がおかしくなりそうな程、喜びと興奮に満ち溢れていた。

「ああ、俺もすっかりおっさんになっちまったよ」

努めて冷静に話しているが、今にも駆け寄って思い切り抱きしめた衝動を抑えるのに必死だった。

「うん、でも分かるよ、ゆすけはゆすけだって」

「スピカ……」

この笑顔を見る為に俺達は命をかけ続けたのだ。

その価値は、十分過ぎるほどあった。

「ゆすけ、スピカの為にすっごく苦労してくれたんだよね……ありがとね」

「そんな……いいんだよスピカ」

そうさ、スピカのためならどんな事だってお安い御用だ。

「うん……でもね……スピカ、まだゆすけとは一緒にいられないよ

「え?」

なんだ? どういう事だ? 何を言い出すんだ?

「スピカね、アークちゃん助けたい」

「お……おい! 何言ってんだよ!」

突然の事態に頭がついて行けない。

アークを助ける? 確かにアークと言う人格もまたスピカとは違う心を持っているのかもしれない……

でも……

「ごめんね……ゆすけや美愛や環や師匠にいっぱいいっぱい迷惑かけてるのにまだかけちゃって……スピカは悪い子だね……でもね、ゆすけならスピカの事もアークちゃんの事も助けられるって信じてる。だからお願い、諦めないで……」

「何言ってんだよ! 俺はお前を助ける事を諦めた事なんて一度も……」

そうだ、俺がお前を助ける事を諦めるはずがないだろう? だから俺は、アークという人格を殺してでもスピカを復活させようとしたんだ。

「未来君」

「は……はい」

事態について行けないのは彼も同じらしい。呆然とスピカを見つめている。

「アークちゃんの事を愛してくれてありがとね? アークちゃんはとーってもいい子だから、いつまでも大事にしてあげてね?」

「はい……」

「何言ってるんだよ! スピカは……お前はどうなるんだよ!」

「スピカはまたちょっとおねんねするだけ……だから、またすぐに会えるって信じてるよ」

「おい、スピカ?」

次第に薄くなるスピカへと必死に伸ばした手は、呆気なく宙を掴んだ。

「だから……またね……ゆす……け……」

スピカが……

俺の愛するスピカ……

30年間ずっとずっとずっとずっと会いたくて……

やっとこ会えたスピカが……

消えてしまった。

「嘘だろ? 嫌だ……嫌だ! 行かないでくれ! お願いだ……スピカ……スピカァァァァァァァ!」

俺は激しい慟哭と共に、この30年間に溜め込んでいた幾つもの涙をいつまでもいつまでも流し続けてた。


エピローグ


みんなおはよう、こんにちは、こんばんは!

私の名前は古鷹 春輝。

どこにでもいる普通の女子高生……だったんだけど、今は違うんだな~。

知り合った子がなんと異世界の魔法使いだったの!

最初は魔王って名乗ってたんだけど……誰にでも黒歴史ってのはあるからね、あんまり詮索しないであげて頂戴。

そして! 私のパパとママもなんと魔法が使えるの!

スピカちゃんっていう子を助けるため修行したんだって

私もちょっと練習すれば使えるんだってさ、すごいでしょ?

そんなパパとママは私が通ってる学園の校長と保険医だったんだけど、今はお休みして魔法の世界を冒険中。

スピカちゃんがアークちゃん(さっきの魔王の子ね)の中で眠っちゃった後、しばらく部屋から出てこなかったんだけど、ある日急に……。


「判ったぞ!あの身体の中にはアーク君とスピカ、2つの魂が同居しているだ!」

「魂が?」

「そう、封印した時に源流はスピカだが別の新しい魂そのものも産まれてしまったんだな、まるでこちらとあちらの世界の様に!無限の魔力の弊害……いや、奇跡だな」

「で、どうするの?」

「環! 最先端のクローン技術で名を馳せた会社があったろ?あそこって……」

「うん、師匠なら自由に動かせるよ」

「美愛! 確か肉体と魂を引き離す魔法の研究をしてる奴がいただろ?」

「イシュカルのね」

「よし! 忙しくなるぞ!」


てな訳でアークちゃんの中からスピカちゃんの魂を抜き出して新しい身体に入れようって話らしいよ。

で、今は魂を引き離す魔法ってのを研究してる人に会いに行ってるの。

手紙によると研究は順調で半年以内にはスピカちゃんを復活させられそうなんだって!

すっごく楽しみ!

それとね、廻って友達がいるんだけど、私と一緒に来年から魔法の世界の学校に留学する事になりました!

パパとパパの師匠って人がね、いつか2つの世界を結ぶ事が出来るようにこっちとあっちの人間を交換留学させるって計画をずっと立ててたんだって。

ちなみに向こうの学校もこっちの学校の理事長も師匠なの、すごいね~。

で、こっちの学生代表として私と廻が選ばれたの。

廻も今から興奮にしっぱなしで……

「呪文の詠唱は……いや、シンプルな方が逆に……本物のエルフが……ホビット……」

私には何言ってんだか分かんない事も多いけど、まぁ嬉しそうで何よりだよ。

そして最後はアークちゃん。

アークちゃんはね……。


「早くしないと遅れるよ~」

「今行く今行く!」

「もう!いっつもギリギリなんだから……」

「悪い悪い、明日は大丈夫だから」

「その台詞何回め?」

「3回目ぐらいかな?」

「数え切れないぐらいよ! 毎日毎日同じ事の繰り返しなんだから……」

「死ぬまで続くから覚悟しろよ?」

「はいはい、覚悟の上ですよ」

「じゃ、明日もよろしくな? アーク」

「しょうがないわね、未来は」


それから2人は、平凡でなんでもない、どこにでもある幸せな人生を送りましたとさ。

めでたしめでたし。



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