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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

砦に眠るドラゴン伝説

作者: 紅 茜

砦に眠るドラゴン伝説


ジャンル:異種間交友。SF


男:2 女:1 不定:2


ナレーター(不定

今回の語り部。伝説を語り継ぐ


冒険者 ♂

今回の主人公その1

物事の真理をつかむことに長けており、疑問はすべて解消しないと気が済まない性格

廃墟になった砦に住み着いたドラゴンを討伐しに砦に赴く


雌ドラゴン ♀

今回の主人公その2

廃墟になった砦に住み着いたドラゴン。争いを好まない性格だが。毎日のように討伐者がやってくるので自分と卵を守るために

致し方なく迎撃している


冒険者ギルドのギルドマスター ♂

主人公の所属するギルドのマスター。高い戦闘能力と状況判断力を持ち、部下からの尊敬も厚い


同僚(不定

主人公の所属するギルドの冒険者。ドラゴンを討伐して一山儲けようと画策している







ナ「これはこれは皆さま。ようこそおいでくださいました。これよりお話し致しますのは。とある砦に眠る。一頭のドラゴン死骸とと、それに寄りそう一人の人間の遺体

  その物語でございます。どうぞ。最期までご清聴をお願い致します」







ナ「今より。数百年ほど前。まだ、冒険者ギルドが存在し、道に魔物があふれていた時代。一つの廃砦に、一頭のドラゴンが住み着いておりました」


ド「最近・・・私の命を狙う冒険者が増えて来たな。だが。卵を産み落とし、孵るまではここを離れるわけにはいかぬ」


ナ「ドラゴンのお腹の中には一頭の命が宿っており。出産のためにと住み着いた砦でしたが、人間たちはそんなことはお構いなしに、自分を狩りにやってきます

  そんなある日。一人の冒険者が、またドラゴンの討伐にやってきました」


冒「さて・・・この辺のはずだが」


ド「また・・・人間か。懲りないものだな。哀れな」


冒「おっと。お出ましか」


ド「人間よ。お主に一つ問いたい。お主らはこれまでに一体何人が私に殺された?そこまでしてなぜ私を殺しにくる」


冒「お前が。俺の仲間を殺したからだろう」


ド「違うな。私を殺しに来たから。返り討ちにあったのだ」


冒「違わないさ」


ド「いや。お主らが来なければ。私はお主らを殺しはせんかった。」


冒「命乞いか?伝説のドラゴン様が」


ナ「ドラゴンがいくら説明をしても。冒険者は聞く耳を持ちません」


ド「聞け!人間よ!私は争いたくなどないのだ!」


冒(どうして。ここまで?命乞いなら意味がないとわかったはずなのに・・・)


ナ「あまりにも意味のない行動に冒険者の心は揺れました。なぜ?なぜここまでこのドラゴンは。戦いを避けたがるのだろう?

  もう何人も殺しておいて。今更命が惜しくなったとでもいうのだろうか?」


ド「私はもう。命を奪いたくはないのだ!もう。私を・・・放っておいてくれ!」


冒「・・・」


ナ「冒険者は。剣をおさめ。ドラゴンに近寄ります。そして・・・」


冒「見定める。お前が、本当に戦いを望んでいないのか。それともただの命乞いなのか」


ド「感謝するぞ。人間よ」


冒「このままじゃ俺が気に食わないだけだ。例を言われるようなことじゃない」


ド「それでも。命を救われたことに変わりはない」


冒「・・・そうか」





ナ「それから。数ヶ月がたった頃・・・そこには。出産のために動けないドラゴンのために、魔物を狩る。冒険者の姿がありました」




冒(ここで。あいつと過ごして数ヶ月。相変わらず討伐にくる冒険者は減らないが。一つだけわかったことがある。

  あのドラゴンは、本当に戦いを望んでいない。自分の身を脅かす者しか殺さないのがその証拠だ)


ナ「冒険者はドラゴンが討伐者以外は必ず殺し、逃げる者は決して傷一つつけないことを知りました。そして。自分の行いを深く反省したのです」


冒(罪滅ぼしのために、こうやって魔物を狩ってはいるが。他に何かしてやりたいな)





ナ「それから。数日の時がたちました」


ド「どうした?人間よ。浮かない顔をしておるな」


冒「そう見えるか?」


ド「うぬ。悩み事か?」


冒「いや。心配はいらねえよ」


ド「そうか・・・」


冒「・・・」


ド(そういえば。あの人間がここに来てから。人間の町に戻ったのを見ておらぬな。ホームシックというものか)


冒「そうだ。ドラゴン。」


ド「ん?どうした?人間」


冒「明日からしばらく。俺は人里に戻る。仲間も心配してるだろうし、取ってきたいものもあるしな」


ド「ふむ。こちらのことは心配するな。行ってくるがよい」


冒「ああ」




ナ「そして冒険者は。数ヶ月ぶりに、人里へ戻ってきました。仲間たちは彼の帰還を心より喜びました」


マ「やっと帰ってきたか。死んだものかと思っていたぞ」


冒「おいおい。誰に言ってんだ?それより。俺の部屋はそのままだろうな」


マ「当たり前だ。まだ死体も見つかっていなかったからな」


冒「・・・穏やかじゃないなそれは」


マ「ははは!そういうな。無事帰ってきただけでもよかった」


同「そんなことよりさ。ドラゴンはどうしたんだ?あれから何人ものギルドメンバーが依頼を受けて討伐にいったけどことごとく返り討ちだ」


冒「・・・失敗したから。こうなってんだろうが。やっとの思いで戻ってきたんだ。装備を整えたらまた向かうさ」


同「ふーん。のんびりしてたら。横取りしちゃうからな」


マ「ははは。獲物は獲ったもの勝ち。奪われる方が悪い。このギルドの掟の一つだからな」


冒「・・・わかってる。次は必ず仕留める」


ナ「そういうと冒険者は。自室へと入っていきました。後に残された二人はまた談笑を始めます」


同「で、いつあの作戦決行するのさ」


マ「・・・明後日だ。メンバーにもちゃんと伝えておけよ」


同「りょーかい」


マ「あいつにも。まだまだ動いてもらわねばな」


同「おお。怖い怖い。やっぱあんただけは敵に回したくないわ」


マ「・・・」


同「そう睨むなよ。もらった金分の働きはするさ」


マ「ならいい」


同「じゃ、僕は先に休むわ。おやすみぃ」


マ「チッ・・・どいつもこいつも。腹に一物抱えやがって」





ナ「その頃。冒険者は、一つの伝承を探していました」


冒「あった。これだ。《防御の首飾り》・・・魔物の鱗を使うのか。確かどこかにストックがあったな」


ナ「どうやら。冒険者は、ドラゴンに贈り物を考えているようです」


冒「これは・・・徹夜だな」





ナ「そして翌日。冒険者は装備を整え、再びドラゴンの待つ砦へ向かいます」


冒「ただいま。大丈夫だったか?」


ド「一日程度で何か起きるわけなかろう」


冒「まぁ、それもそうか。でだ。ちょっとした土産があるんだ」


ド「別にそんなに気を使うこともなかろうに」


冒「いや。お前は俺の間違いを正してくれた。その礼だ」


ド「これは・・・《防御の首飾り》か」


冒「知ってんのかよ」


ド「当たり前だ。私が一体何年生きてると思うている」


冒「それもそうか」


ナ「冒険者はドラゴンの背中に乗り、首飾りをつけてあげました」


冒「よく似合ってるじゃないか」


ド「おだてたところで何も出んぞ」


冒「本心だ」


ド「・・・そうか」


冒「少し疲れた。俺は寝る」


ド「ああ。気を使わせたな。すまぬ」


冒「それこそいらねえ気づかいだ」


ド「そうだな・・・」


ナ「冒険者は、移動の疲れと心労からか。ドラゴンの背に乗ったまま眠ってしまいました」


ド「本当に人間というのは。どうしてこうも不器用なのか・・・」


ナ「そんなやりとりを、草陰からこっそりとみている人間がいました」


同「聞いてた話じゃ信じられなかったけど・・・あいつ。本当に裏切ってやがったのか・・・」




マ「どうだった?」


同「ああ。本当に裏切ってたよ」


マ「そうか。ならば致し方ないな」


同「どーすんのさ。しょっぱなから計画頓挫してるじゃん」


マ「ん?別に代わりのやつを使うだけだ。何の問題もない」


同「そっか」


マ「メンバーを集めろ。出撃準備だ」


同「りょーかい」


マ(あいつ・・・一体何を考えている?このままじゃ死んじまうぞ)





ナ「そして翌日。冒険者がいつものように魔物を狩っていると、幾人かの足音がすることに気が付きました」


冒(また討伐しに来たのか)


同「お、こんなとこで会うなんて奇遇だなぁ?」


冒「・・・こんなとこで何してる?」


同「そいつはこっちのセリフだよ。こんなとこでドラゴンと仲良くして、何企んでる?」


冒「・・・あのドラゴンは争いをしたいわけじゃない。俺たちが討伐に来なきゃ、反撃もしてこないんだ」


同「そうだったのか」


冒「ああ。だから――」


同「で?それがどうした?」


冒「何?」


同「事実がどうかなんて関係ない。俺たちギルドのメンバーに関係あるのは、あれを依頼人が殺したがっているってことと、討伐すれば報奨金がもらえるってことだけさ」


冒「お前のそういうところは、昔から嫌いだ」


同「奇遇だねえ。僕も君のそういう甘ちゃんなところは大嫌いさ」


ナ「二人は剣を抜き放ち、ジリジリと距離を詰め始めます」


冒「はぁ!」


同「今だよ!弓隊!撃てぇ!」


ナ「冒険者が突撃した瞬間を見計らって、四方八方から矢が降り注いできました」


冒「ぐぁ・・・」


同「だから。甘ちゃんだって言ってるの。僕たちは正義のヒーローなんかじゃないんだよ?むしろ。お金をもらって対象を殺す・・・悪役なんだから」


冒「この・・・糞野郎が・・・」


同「なんとでもいいなよ。汚れ役は、慣れている」


冒「ドラゴ・・・逃げ・・・」


同「最期まで・・・どこまで君は甘いんだ」


ナ「ドラゴンの元へ這って行こうとする冒険者の背に剣が刺さると、流石に力尽きたのか、冒険者は動かなくなってしまいました」


同「恨むなよ。これも仕事だ」


ナ「同僚は冒険者の服からギルドの紋章を剥ぎ取ると、マスターとの合流地点へ向かいました」


同「よし・・・これで計画の第一段階は完了だね。マスターの援護へ向かうよ!」






マ「てめぇが噂のドラゴンか」


ド「人間達よ・・・なぜお主らはそこまで、私を狙うのだ?」


マ「冒険者ギルドにてめぇの討伐依頼が来た。人里のやつらがお前の存在を恐れてる俺たちの戦う理由はそれだけで十分だ」


ド「愚かな・・・」


同「愚かでも構わないさ。僕たちはそういう人種なんだから。毒矢!放て!」


ナ「不意打ちで放たれた毒矢はすべてドラゴンの硬い皮膚に阻まれ。はじかれてしまいました」


マ「おせえぞ。しかも効いてねえし」


同「さすがだねえ。普通の魔物ならあれで死んでるのに」


ド「どうあっても死にたいか・・・」


マ「ほらキレた。どうすんだよ。てめぇのせいだぞ」


ド「焼きつくされよ!」


ナ「ドラゴンは炎を吐き、それが開戦の合図となりました」


マ「全軍!攻撃開始!目標!敵大型ドラゴン!」


同「遊撃隊は所定の位置へ!タイミングが来るまで待機しててね」


ド「エンシェント・フレア!」


マ「おおっと!こいつは食らったら死ぬな」


同「っていうか。何人かやられてんだけど」


マ「あんな大味の攻撃をよけらんねえやつなんざ知るかよ。どらぁ!」


ド「効かぬ!」


マ「傷一つつかねえとか、反則級の硬さじゃねえか」


同「硬さの秘密は皮膚だけじゃなさそうだよ」


マ「は?」


同「あれあれ」


マ「あれは・・・《防御の首飾り》?なんであんなもんが」


同(あいつの仕業だね・・・最後まで邪魔を・・・)


マ「ちっ!しょうがねえな。じゃああれの耐久切れるまで削り切るかねえじゃねえか」


同「遊撃隊!バリスタ砲の用意を!」


マ「支援部隊は近接部隊全員に火力支援!一気に叩く!」


ド(こやつら・・・しかし、あの人間はどうしたのだろうか?ん?あやつが持っているもの・・・)


ナ「ドラゴンの視線が同僚のポケットからはみ出た一枚の布に止まりました」


ド「貴様・・・貴様ああああ!」


マ(なんだ?あいつを見たとたん、いきなり怒りが増した?一体何が?)


同「あらら。やっぱこれ持ってきたのは間違いだったかな」


マ「それは。あいつの紋章か」


同「うん。討伐の証拠として持って来たんだけど。どうやら、本当に仲良しになっちゃてたみたいだね」


マ(厄介なことを・・・だが、怒りに我を忘れている今がチャンスか)


マ「全軍!今敵は怒りによって防御がおろそかになっている!今こそ攻撃のチャンス!かかれ!」


同「バリスタ砲。準備終わってるよね!お腹を狙え!撃て!」




ナ「こうして、人間とドラゴンの壮絶な戦いは何時間も続きました」


ド(卵は割られたが。このままなら勝てる・・・が。首飾りが持たなくなってきておるか・・・これを壊すくらいならっ)


マ「魔力が集まっている?何をする気だ?」


ド「人間達よ。私の命はくれてやる。だが、この首飾りだけは。貴様らなんぞに壊させはせん!」


マ「自分の命を魔力に!?」


ド「はああああ!」


ナ「ドラゴンの命を削った魔力により《防御の首飾り》が強化され、《絶対防御の首飾り》となりました」


同「やっと死んだよ。手間かかったなぁ」


マ(・・・このドラゴンには、本当に争う意思がなかったということか・・・だとしたら。俺たちは・・・)


同「どうしたのさ?マスター。浮かない顔じゃん」


マ「なんでもねえよ」


同「ふーん。じゃあ。ここで死のう」


マ「あ?」


ナ「同僚はいきなりマスターに斬りかかりましたが、マスターはそれを無造作にはじきます」


マ「どういうつもりだ?」


同「どうもこうもないよ。生きこったのは僕たち二人だけ。君は傷だらけで僕は無傷。なら君を殺して、報奨金を独り占めするのが得策だろう?」


マ「なるほど。正しいっちゃあ正しいな」


同「でしょ?」


マ「相手が・・・俺じゃなかったらなぁ!」


同「相変わらず。すごい威圧感だねえ」


マ「やってみろよ!すぐに後悔することになるけどなぁ!」


同「後悔するのは・・・君さ。マスター」


マ「な!?」


ナ「踏み込んだマスターの足元に魔法陣が展開されます」


同「君も・・・あいつも。簡単に人を信用しすぎなんだよ。覚えておくといい。人はいとも簡単に裏切るんだ」


マ「てめぇ!最初からこのつもりで!」


同「安心していいよ。ギルドは僕が、引き継いでおくから」


マ「この野郎・・・」


同「フレイム・ピラー!」


ナ「魔法陣から昇る炎に焼かれ。マスターは息絶えてしまいました」


同「さて、後は首を落として持ち帰えんないとね」


ナ「同僚は首に剣を振り下ろしましたが、強化された首飾りによって傷一つつけることができません」


同「ちっ。余計なことを。じゃあ尻尾でいいか」


ナ「同僚は尻尾を切り落とすと人里に帰っていきました」




冒「ドラ・・・ゴン・・・」


ナ「それからしばらくして意識を取り戻した冒険者がドラゴンの元へやってきました」


冒「おそ・・・かったか・・・」


ド「人・・・間か?」


冒「生きて・・・たのか」


ド「お主と同じ・・・瀕死の身だがな・・・」


冒「たま・・・ご・・・は?」


ド「・・・」


冒「そう・・・か・・・」


ド「首飾り・・・は・・・守った・・・ぞ」


冒「ははっ・・・そんなんより・・・自分の身を守れよ」


ド「これは・・・私がお前と・・・共に・・・生きた証だ・・・壊せるものか」


冒「・・・なぁ・・・ドラゴン」


ド「・・・どうした?」


冒「お前の名前・・・聞いて・・・なかったな・・・」


ド「・・・お主の名前も・・・だろう」


ナ「二人が話していると、戦いでボロボロになった砦がとうとう崩れ始めました」


冒&ド「俺の(私の)・・・名は・・・」


冒&ド「いい・・・名前だな・・・」


ナ「崩れる瓦礫の中。一人と一頭は、お互いの名前を呼んで、笑い、飲み込まれていきました」




ナ「こうしてその砦は崩れ、今でもそこには、首飾りに守られたドラゴンと人間の亡骸があるそうです。永遠に朽ちることは無く、永遠に荒らされることもなく・・・

  ずっと・・・ずっと・・・」


ナ「これが今もどこかにあると言われている。砦に眠るドラゴン伝説でございます。皆さま、ご清聴ありがとうございました

  ではまた。次の伝説で、お会いいたしましょう」

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