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昔話:一寸法師(半)

 昔々あるところに、魔法が盛んな村に一人の少女が家族と共に暮らしていました。

 少女の名は鳥塚微々。微々は幼い頃から魔法が得意で、幼いながら有能な魔法使いが多いこの村で一番の強さを誇っていました。

 鬼が徒党を組んで襲い掛かってくることもありましたが、微々を始めとする魔法使い達が守り、村の囲いを鬼達が跨ぐことはありませんでした。

 微々は強かった。妖も鬼も彼女を警戒し、村に危険が迫ることはなくなりました――




 微々がある日、一人で村の外を歩いていたところ、彼女と同じくらいの年頃の少年と出会った。彼は目深にフードを被りそのフードが影を落とし、よく顔を見る事が出来なかった。


「貴方はだぁれ?」


 身元がわからないものと話してはいけないとは言われていたが、微々と年が近い少年に警戒心が薄くなっていたのかもしれない。

 少年は微々の存在に驚き、腰を抜かしたのか這ってその場から逃げようとした。


「ちょっと、待ってよ! まるで私が化け物みたいじゃない」


 微々は少年の服を掴み、引き止めるだけのつもりが強く引っ張りすぎてしまった。


「や、やめっ」


 微々が少年のフードを強く引いたせいで、少年のフードが脱げる。覆い隠すものがなくなったことで、少年の頭上の鬼の象徵が二つ露わになった。


「鬼!?」


 微々は警戒し少年から離れた。少年はもう終わりだと腰を抜かし、手の平を微々の方に向けながら、ただ涙を流し慄いていた。

 この地域に住まう鬼の世界では、微々は鬼殺しとして有名で、出会ったら生きて帰れないと噂されていた。

 恐怖で小さくなってしまった少年を見て、微々のやる気が削がれ、彼の前にしゃがみ笑顔を作った。


「無抵抗の鬼を殺したりなんかしないわよ。貴方名前は? 私は微々」

「殺さない?」

「ええ。貴方が私を食おうとしているなら話は別だけど」


 少年は滅相もないというように首をぶんぶんと振った。


「で、貴方の名前は?」

「僕は……三号」

「三号?」

「三番目に拾われた子供だから……」

「親なしなの?」

「うん。小さい頃に死んじゃって」

「そうなの……」


 微々は無神経なことを聞いてしまったと、眉を下げて。


「じゃあ、拾われる前はなんて呼ばれいたの?」

「昔過ぎて覚えてない」

「そ、そうなの」


 目の前の少年を“三号”などと言う記号のような名で呼んでいいものか微々は迷ったが、「三号って名前僕は嫌いじゃないよ。少し変わってはいるけどね」と、空気を察して少年は微々にフォローを入れた。


「……ごめんなさい」


 微々は己を恥じた。言い淀んでしまってはその名前がまるで悪いかのようだ。単純だろうがそれが彼の名前なのだ。


「じゃあ、三ちゃんって呼んでいい?」

「うん、ありがとう微々ちゃん」


 二人は照れ臭そうに笑い合った。二人の間の空気が鋭く尖ったものから、柔らかいものへと変わったようだ。


「ねぇ、三ちゃん。貴方の家はどこなの? ここは危ないわ。人間に見つかったら殺されちゃうわよ」


 三号は北の方角にある山を指差した。その山はそれ程遠くはない。往復しても日が暮れないだろう。


「なら、私がその山まで連れ帰ってあげる。私と居れば人は三ちゃんを殺せないわ」

「いいよ! 危ないから」

「危ない?」


 微々は少しムッとして、手を腰に充てた。


「私は鳥塚微々。誰にも負けない魔法使いよ! この世に私にとって危険な場所なんてないわ」


 三号は思わず吹き出してしまった。微々を馬鹿にした訳でなく、人族でも有数の能力者が普通の女の子でそのギャップに安堵しておかしくなってしまったのだ。


「何で笑うのよ、信じてないの?」

「ううん、信じてるよ。微々ちゃんは有名だもの。何か、安心したんだ」

「安心?」

「ごめん、もっと残虐な子だと思っていたから、すごく優しくて安心した」

「どんな風に鬼の間で私の事が伝わっているのか知らないけれど、私は鬼を返り討ちにはするけど、自ら襲った事は一度もないのだから」


 鬼は定期的に人を獲物として狙い、襲い掛かってくる。襲われるから仕方なく殺すのだ。微々だって食べもしない生き物を虐殺する趣味はない。


「鬼は人を喰うからね」


 三号は悲しそうに眉を下げた。微々と三号の間に空いた距離を思い出したのかもしれない。


「でも、僕はもう人を食べるのはやめるよ。微々ちゃんに会ったから、もう食べない」


 三号の誓いに微々の顔はパッと花が咲いたように明るくなる。


「ありがとう。三ちゃんとは仲良くなれそうだわ」


 二人は誓いを立て、小指を絡め合った。


 それからというもの、二人はこそこそと村の外で会うようになった。鬼と仲良くしているなんてことが村民にバレれば微々は間違いなく罰を受けるだろう。だから三号と会う時は慎重に他人の気配がないかを気にしながら会ったのだった。微々がそうまでして三号に会いたかったのは、村では特別扱いされ同じ年頃の子とすら気安く遊べなく、鬼と言えど歳の近い友人出来て嬉しかったのが大きいのかもしれない。


「ねぇ、三ちゃん。今日はおにぎりを持ってきたのよ。うちの畑で獲れたお米なの、ぜひ食べて」

「ありがとう、微々ちゃん」


 微々と三号は川辺の石の上で二人並んで座っていた。季節は秋、川の近くは少し空気が冷たく、二人は自然に身と身を寄せ合っていた。

 微々が竹皮を開くと、真っ白い握り飯が二つ光に照らされ艶々と輝いた。微々はそれを一つ三号へと差し出す。


「ありがとう」


 三号はそれを一つ受け取り、口に運んだ。三号の舌上に米がほろりと零れ落ち、新米の甘さが広がった。


「どう?」

「すごく、美味しいよ」


 三号はニコリと花が落ちたように儚く笑った。

 微々は彼の笑顔を見るといつも消えてしまいそうな弱さを感じ、胸がギュッと締め付けられ、抱きしめたい衝動に駆られるのだった。

 その気持ちを抑えて、三号へと微々は笑顔を返した。


「ねぇ、三ちゃん。私嬉しかったんだ。人間の肉を食べないって言ってもらえて。三ちゃんみたいな鬼が増えれば人と鬼は戦わなくて済むのにね」


 三号は空を仰ぎ、少しの沈黙の後「そうだね……」と叶わぬ願いを口にするように同意した。

 彼の時折見せる全てを諦めたような表情を見ると微々はずっと大人な気がして寂しく感じるのだった。

 微々の方が三号より強いが、村で大事に育てられた箱入り娘だ。一方、三号は波乱万丈の生き方をしており、その人生経験の違いが二人の間に差を生んでいるようだった。


 微々は彼が消えてしまいそうな予感がして、三号の腕にしがみ付いた。


「ねぇ、三ちゃん。ずっと一緒にいようね」

「……いれたらいいね」


 微々は約束を、三号は願いを口にする。それがまた微々を不安にさせたのだった。

 彼はいつか消えてしまう。微々は心のどこかでそう確信していたのだ。


 それからしばらく経ち、三号は待ち合わせ場所に来なくなった。微々は待ち合わせ場所に時間の許す限り通い、夕暮れまで彼を待った。

 その日も日が沈みそうになり、微々は一人村へと帰った。

 村に近付くと焼け焦げた臭いと、血の臭いが漂って来て、その不快さに微々は咳き込んだ。

 警戒しながら村へと近付くと家屋はボロボロに破壊され、そこら中に死体が転がっていた。

 微々は敵を探し村中を駆け回り、広場に立っている人影を見つけた。その村の中心に居たのは血塗れの三号だった。


「三ちゃん……」

「ごめん、微々ちゃん」


 彼が微々目掛けて魔法を放つと微々はいつの間にか気絶していた。

 そして、目が醒めると身体は手の平に乗るくらい、小さくなっていた。

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