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旅へ

 太都と輝夜の二人旅に雪羅と時雨が加わり、四人で星の国と呼ばれる領土に足を踏み入れた。

 この国は(セイ)という家が治めている土地で、気候も安定しており農耕が盛んな豊かな国だそうだ。雪羅が言うには“脂がのったこってりとした肉が多く得られる”場所らしい。

 鬼が言うと冗談にならないため、太都は顔をヒクヒクとさせた。


「さて、取り敢えずこの国に来たのは妖と戦うためだ」

「妖……?」


 雪羅から発せられる初めて聞く“妖”という言葉に太都は首を傾げた。


「あれ、太都? 見た事ないか?」

「うん。妖ということは妖怪や化け物の類か何かってこと?」

「そうだ。鬼も人間も妖も何でも食っちまう輩のことだよ。雑魚ですぐやられるものから、魔法や武器が何も通らない狙われたら抵抗する術もなく食い殺されるような強力な物までいる」


 太都と輝夜はどこか現実味のないような表情で雪羅の話を聞いていた。

 実際に出会えば想像しやすいのだが、二人は未だ影も形も見た事がないため実感がわかないのだ。


「えーっと、ということはここにはその妖が沢山いるの?」

「この土地というか、ここにある洞窟だな。妖の住処になっているらしい」

「い、いきなり……」


 太都は怖気づいてしまい、もう少し強くなってからでと首をぶんぶん振った。

 しかし、体育会系の雪羅は太都の嘆願も笑い飛ばし、「情けないぞ」と背中を叩いた。


「強くなるにはこの方が手っ取り早いんだよ。それに輝夜もいるし大丈夫だろう」


 雪羅は輝夜の方を期待を込めた目で見た。当の輝夜は呆けた顔で自分を指差した。


「私?」

「輝夜の強さは規格外だからな。そこらの妖じゃ敵にならないだろう」


 そこまで言われて輝夜は自分が褒められている事に気が付いたのか、自慢気に胸を張った。それと同時に大きな胸がぷるんと揺れる。

 強くて信頼される輝夜と比べ、太都は己の不甲斐なさが身に染みて、一人苦笑いを浮かべた。


 自分は本当に勇者なのだろうか……?

 誰かに騙されているのではないだろうか……?


 太都は雪羅にも輝夜にも敵わない自分の中途半端な強さに打ちひしがれてしまっていた。

 けれど今、太都は勇者の名に恥じぬ程度には強くならねばならない。それが、異世界人で何の後ろ盾もない自分の生きる道なのだ。


「雪羅……」

「どうした、太都?」

「変な事聞くけど、その妖ってやつは食べられるの?」

「は?」


 太都の突飛な発言に雪羅だけでなく、無表情を決め込んでいた時雨までも眉を寄せた。


「洞窟の中で食料を調達する必要もあるから、その妖を食料にするのかと思ったんだけど違った?」

「ああそういう事か。その発想はなかったな。妖を食べなくても食料は調達できる。事前に数日分持ち込めばいいんだからな」

「洞窟探索に数日分も!?」


 数日分の食料を四人分となるとかなり沢山必要になるだろう。それを持ち歩きながら妖と戦う事に太都はどうにも現実味が湧かなかった。


「これを使えばいい」


 雪羅は懐から出した小さな袋を太都へと見せた。

 太都はそれを受け取り、四方から見るも何の変哲もないただの袋にしか見えず、首を傾げた。


「貸してみろ」


 雪羅が袋を手に取りその中に手を突っ込むと、中から大きな斧が出てきた。

 袋の丈に合わない斧がするりと登場する様はまるで手品だった。

 前腕程の大きさの袋にはどうやっても入らない長さの斧が、中から傷一つなく出てきたのだ。斧が折りたたみ式なのかと思ったがそんな事はない。太都は驚き、目を凝らしてそれをじっと見た。


「これは、何でも幾らでも入れて持ち歩く事ができる袋だ」

「すごい。四次元ポケットみたいだ」


 太都は感心しながら袋を手に取った。これがあれば食料の心配はないだろう。


「じゃあ、行くか」


 四人組での旅のリーダーは雪羅が担っていた。時雨は喋らないし、太都と輝夜は何の知識もないからだ。

 そこで、太都は不安を覚えた。信頼し、抵抗する事など考えもしないまでに自分達が懐いたら、家畜のように食い殺されるのではないかと。


「ダメだ」


 太都は眉間に指を当て、頭を振ってそんな考えを吹き飛ばした。

 そうならないように強くなるんだ。

 家畜が嫌なら愛玩動物を目指せばいい、媚びて懐いて愛着を沸かせて殺されないようになればいいのだ。

 太都は現状をポジティブに受け止め、雪羅と時雨にニコリと笑った。二人は不思議そうにしている。


「ダーリン大丈夫?」


 輝夜は心配そうに太都の顔を覗き込んだ。


「大丈夫だよ」


 太都は安心させるように輝夜の頭を撫でた。能力は輝夜より弱い太都だが、精神面では彼女より強くありたかったのかもしれない。

 見栄を張る事で一杯の状態だから、太都はこの時輝夜が残念そうに笑った事に気が付かなかったのだった。






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