初めての鬼退治※
太都達は無事に鬼のアジトへと辿り着いた。
森の奥深くにそれはあり、木陰からアジトの様子を伺った。
「ダーリンはあいつら倒すの?」
「そうだね、生きるためにね」
アジトの前には見張りのような鬼が二人いた。
鬼は角がある以外は人間と見た目が変わらないようだった。太都は少し焦った。
明らかに化け物のような見た目の相手ならいざ知らず、人間を感じると本能的に殺す事に抵抗を感じてしまう。
しかし、相手は人を食らう鬼。殺らなければ殺られるのだ。
太都は覚悟を決め、剣を抜いた。
「輝夜はここで待ってて、必ず戻るから」
戦い方などわからない。太都は戦法も考えずに真っ直ぐアジトに突っ込んで行った。
鬼が走り迫る太都へと気が付き、武器を構える。
太都は今の今まで剣など扱ったことがなかったが、驚く事に身体が的確に軌道を描き二人の鬼を一瞬にして斬り付け、戦闘不能へとした。
己の身体の身軽さに驚き、太都は剣を握る手をじっと見つめた。
しかし、呆気に取られる暇もなく、後続の鬼達が中から何人も出てきて太都の事を取り囲んだ。
力はあるのかもしれないが、戦い慣れしていない太都の精神は大人数に怯んでしまう。
そこで頭上から鬼達へ火球が降り注いだ。突然の魔法に鬼は怯み統率された陣が崩れ、その隙に太都は一人一人仕留めて行った。
「ダーリン頑張って!」
「輝夜……」
どうやら魔法で援護してくれたのは輝夜だったらしい。
「ありがとう」
輝夜はぴょんぴょん飛び跳ねながら、太都に手を振っている。
か弱そうに見える少女にこんな能力があったことに太都は感慨深さを感じていた。魔法が使える世界では見た目で強さを判断できないのだ。
太都がアジトに侵入しようとした時、中から二人組の影が出て来た。
「お前、人間の割に強いではないか」
中から三本角が生えた白い短い髪に豪快な雰囲気の女の鬼が従者のような女鬼を連れて出て来た。
「貴方がこのアジトの主ですか?」
「いかにも。私は雪羅だ。横にいるのは側近の時雨だ」
時雨と呼ばれた黒く長い髪の大人しそうな女性は無反応で主の傍らに立っていた。
太都は挨拶する価値すらないのだろうか。
「あの、俺は逸見太都です。一応……勇者らしいです」
「勇者ねぇ。そうかそうか。良いではないか。私は強い者同士が戦い、勝利した上でその肉を食らうのが最高に好きなのだ。私が肉を食らうのに相応しい身分じゃないか」
それまで角以外人間と見た目が変わらない鬼が人肉食をするのか半信半疑だった太都だが、雪羅の言葉で鬼が人を食う生き物だと確信した。
弱肉強食の世界に自分が来たのだと実感し、太都の手は無意識に恐怖で震えていた。
それを敵は武者震いと勘違いし、「やる気満々だな」と喜んだ。
敵は動かない。太都から来いと言っているようだ。
太都は躙り寄るように右足を出し、そこから踏み込み敵へと斬りかかった。
「遅い」
雪羅は鼻で笑い、太都の腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。
その衝撃で太都の身体は吹き飛ばされ樹木にぶつかり、背中が勢いよく叩き付けられた。
「ぐはぁっ」
太都は防御力を突き破るような攻撃を浴び、息が上手く出来ず喉を押さえながらその場に膝をついた。
敵の強さは圧倒的で、太都に勝ち目は感じられない。
このまま倒れているわけにもいかないので、瞬時に太都は回復魔法を使い己の体力を回復する。
回復が完了した途端、雪羅の強力な蹴りが再度お見舞いされ、太都の肋骨を何本も砕かれた。
一般人に比べれば太都も早いが、敵はもっと早く、攻撃に転じる隙も与えられない。
攻撃の隙を突いて回復し、蹴り壊されるの繰り返しだ。
太都はこれは罰なのだろうかと思った。
“彼女”を傷つけ、泣かせた事の……。
もう、やる気もそがれ諦めかけた時、樹木が太都の周囲を取り囲んだ。それがバリアのように太都を守る。
何が起きたのかわからず惚けていると、隠れていたはずの少女が太都の目の前に飛び出して来た。
「ダーリンを虐めるな!」
「輝夜! ダメだ。今すぐ下がれ」
「ヤダ!」
雪羅は輝夜を下から上へ舐めるように見た。そして、嬉しそうにニヤリと笑みをこさえた。
「女か。女の肉の方が私は好きだ」
輝夜を粉々にするため雪羅が蹴りを繰り出そうと足を上げたところ、彼女の足元に巨大な穴が空いた。
突然の大穴になす術なく雪羅は落ちていく。落ちた彼女にとどめを刺すかのように、大量の水が物凄い圧力を持って袋の鼠状態の雪羅へと襲いかかった。
輝夜は手を翳し、水で彼女を襲い続けている。雪羅の従者である時雨は主の危機にも関わらずぴくりとも動こうとしない。それが太都に不安を与えた。
茫然と見るだけだった太都が動こうと思った時、それは起こった――。
輝夜の放出している水が轟音と共に跳ね返され、飛散した。その反動で輝夜の身体はよろけ、魔法も止まってしまう。
穴の中から、びしょ濡れになった雪羅が這い出てきた。その顔は笑っていた。
「女、名は何と言う」
「輝夜。ダーリンに付けてもらったの」
「輝夜か……、覚えておこう」
雪羅はずっと動かなかった従者の方を見た。
「時雨、回復ありがとう。お陰で死なずに済んだ」
時雨は何も言わずに、黙って頷いた。どうやら輝夜に攻撃されている間彼女は何もしていなかったのではなく、雪羅を回復し続けていたようだ。
「今の私ではお前に勝つ事は難しいようだ。どうする、私を殺すか?」
「ダーリンに危害を加えるなら」
「輝夜! ダメだ」
太都は樹木の檻を脱出し、輝夜の傍らに立った。
「雪羅さん。今、死なずにもっと強くなって輝夜と戦いたいですよね?」
「は?」
その場にいる太都以外の皆の頭の上にハテナマークが浮かぶ。
雪羅はどう答えていいか迷いながらも、正直に「そうだな」と言った。
「なら、一旦俺と輝夜の仲間になってください」
「仲間?」
「はい。それで、俺に戦い方や鬼の事は教えてください」
「太都とやら、お前は何を言っているのだ?」
「俺に戦い方を教えながら、雪羅さんも修行して、強くなったら輝夜に戦いを挑んだらいい」
太都はこの世界の事を何も知らない。自分がどんな存在なのかも、本当に鬼が敵なのかも何もかも。
そして、それを判断する程の知識も強さもない。彼は雪羅にその手引きをして欲しいと交渉したのだ。
「わかった。そうしなければ生き残れないだろうからな。しばらくお前らといよう」
「ありがとうございます」
「時雨、そう言う事だ」
時雨はまたも黙って頷いた。主に忠実な家臣なのだろうが、表情が変わらないため機械的な印象を抱いてしまう。
「輝夜、いいかな」
「ダーリンがいいなら、私もいいよ」
「ありがとう」
その場の誰も反対する者がいなかったため、彼等四人は一緒に旅をする事に決まった。
太都は今回の戦いで気が付き始めていた。
勇者がそんなに強くない事に――。




