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貴方が勇者です

 そのまま男達に逆らわずに、勇者として太都は異世界のお城へと連れていかれた。

 その道中に景色を見ると、タイムスリップしたかのような錯覚に陥るような、中世の日本のような景色に彩られていた。

 茅葺屋根の家や、着物を身につけた人々、コンクリートで舗装されていない道、それら全てが太都にとって珍しく、お上りさんのようにキョロキョロと周りを見てしまっていた。


 それから暫く歩いて辿り着いた城は、寝殿造りのような形をしており、太都にとって、城と言うよりはお屋敷という言葉の方がしっくり来た。

 お城では定番のイベントのように、城主に「貴方は異世界から来た勇者だ」と言われ、その後に続くように鬼を退治して欲しいと言われた。


「鬼退治ですか?」

「そうです。鬼は人間を食べる種族です。最近では数も増え、其処彼処で人が食い殺される事案が発生しております」


 自分も餌に成り得る可能性を考え、太都は身震いした。現実的でない話だが、この城に来るまでに魔法や化け物を目撃する事があり、この話も真実なのだろうと抵抗なく受け入れることが出来たのだった。


 断ってしまいたかったが、断ればそのまま放逐、受ければそのための資金援助をしてもらえるとのことで、太都は仕方なく、首を縦に振るはめになったのだった。

 ただそれだけではなく、勇者になれば、輝夜の面倒も見てくれるという条件も付けてもらった。

 行きずりで出会っただけの関係とは言え、太都は記憶喪失と思われる哀れな輝夜を放っておく事など出来なかったのだ。


 そして、太都はお城で一晩休んだ後、適当な武具を渡され手近な鬼の拠点目指して旅に出たのだった。


 ※


「ヘンタイ!」


 さて、行くかと一歩踏み出した時、聞き慣れた声が隣から発せらた。

 声の方を向くと、輝夜が太都の腕に絡み付いているではないか。


「輝夜、駄目じゃないか! すぐ帰りなさい」

「いや、一緒にいる」


 駄々を捏ねるように輝夜は首を横に振った。


「これから危ないところに行くんだから、大人しく待ってないと駄目だろう」

「いや、ヘンタイと一緒じゃないと駄目なの」


 輝夜はそう言って泣き出してしまった。

 泣いてる輝夜を見ると“あの時の光景”を思い出し、太都の胸は強く握りしめられるように、ぎゅっと痛んだ。


「わかった、わかった、ごめん。一緒に行こう輝夜」

「……本当?」


 輝夜は泣き止み、花を散らしたような笑顔を見せた。

 女の子に泣かれるのが苦手な太都は、輝夜の笑顔にほっと胸を撫で下ろした。


「ずっと、一緒なの」


 輝夜は子猫のように太都の腕に絡み付き、頭を擦りつけた。


「でも、本当に危ないところは来ちゃ駄目だからね」


 太都は引っ付く輝夜の頭を二回撫でながら注意した。

 輝夜の髪は細く滑らかで、上質なシルクのような肌触りだった。

 太都に姉はいるが妹はいない。妹が居たらこんな感じだろうかとふと想像した。それと同時に年下の幼馴染の事を思い出し、また胸が締め付けられるように苦しくなるのだった。


 暗い気持ちに落ちてしまった太都は、気を紛らわせるために、城主から授かった巻物を開いた。

 どうやら魔法の施された巻物らしく、念じれば自分の今の強さがステータスとして表示されるらしいのだ。

 太都は巻物を開き、頭の中で強さが知りたいと念じた。巻物につらつらと太都の今のステータスが表示されていく。



 逸見太都:勇者


 体力:999

 魔力:999


 力:999

 速:999

 運:999


 五行魔法 拾、回復魔法 拾、剣術 拾、槍術 拾、杖術 拾

 勇者の奇跡 拾



 昨日ステータスを見せた時も言われたが、どうやら太都の能力は初期から既にカンストしているらしい。

 これ以上強くなりようがないため、城主には「大丈夫、いける」とだけ言われ、何の手解きも受けずに鬼退治へと放り出されたのだった。


 これから戦いに身を投じるのは緊張するが、自分は強いと暗示をかけ何とか気持ちを落ち着かせた。


「ヘンターイ!」


 輝夜が構ってほしそうに太都を呼んだ。

 あれから輝夜は一日で大分言葉を覚え、今では会話に支障がない程度になっていた。


「輝夜」

「何?」

「ヘンタイと呼ぶのは止めなさい」

「駄目なの?」

「うん。初めて聞く人は驚くでしょ」


 昨日は輝夜が太都の事をヘンタイ呼ばわりしたため、周りの人から「あの勇者は変態らしい」と白い目で見られた事があった。

 今後のためにもこの呼び方は直さなければいけない。


「じゃあ、何て呼ぶ?」

「んー、ダーリンとか? というのは冗談で普通に太都でいい……」

「ダーリン!」

「いや、それは冗談だって。太都で……」

「ダーリンにする。響きが可愛い」


 輝夜は余程その言葉が気に入ったのか、太都の事をダーリンと何度も呼んだのだった。

 ダーリンも恥ずかしいが、変態よりはマシかなと妥協し、太都もその呼び方を受け入れたのだった。



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