愛佳と俺
コンッ
愛佳の部屋のドアを軽く鳴らす。
「愛佳、開けていいか?」
そう問い掛けるとドアが内側からゆっくりと開いた。
「お兄ちゃん……」
どうやら泣いていたようだ。大きな瞳が潤んで赤くなっている。
「……愛佳。これ、熱いから気をつけて食べて」
ポンッと愛佳の手に、持っていたものを渡す。
「カップラーメン?」
「………うん、ごめん。これしか料理できない」
「あははっ」
愛佳が涙目で笑う。
「これ、料理って言わないよお兄ちゃん」
「そうかな」
少しは元気出たみたいだ。……よかった。愛佳は笑っているほうがいい。
「ごちそうさまでした」
愛佳はカップラーメンを食べ終わると、椅子から降りて地べたにいる俺の隣に座った。
「お兄ちゃん、ヤケドさせちゃって、ほんとにごめんね」
愛佳は目を下に落として悲しそうな顔をする。
……そんなに落ち込まなくていいのに。
ヤケドは全然たいしたことないし、もしも痕になってたとしても男だから気にならない。
それよりも、こんなに元気のない愛佳を見るのは辛かった。
「愛佳、謝られるよりもありがとうって言ってもらうほうが俺は嬉しい」
愛佳が隣にいる俺を見る。
「ありがとう?」
「そう、たとえば………、油から庇ってくれてありがとうお兄さま……とか」
愛佳の大きな瞳がますます大きくなる。
……うう。言ってて恥ずかしくなってきた。
「あ、いや、あの……」
冗談だと言おうとした瞬間愛佳が口を開いた。
「うんっ、庇ってくれてありがとうお兄さま。……大好きっ!!」
愛佳が全開の笑顔で笑う。
「………っ」
今度は俺が大きく目を開く番だった。
―――……なんて、可愛く笑うんだろう。
俺は顔全体が赤くなった。
「だ、大好きって……」
「うん、大好き。お兄ちゃんはあたしのこと好きじゃないの?」
「え…っ。い、いや……だ、大好きだよ」
俺は焦りながらもそう言った。愛佳が嬉しそうに笑う。
言って良かった。元気が出たみたいだ。
……しかし、恥ずかしい。大好きなんて言葉、ここ数年誰にも言ったことないぞ。でも、言われるとかなり嬉しいものなんだな。しかもこんなに可愛い義妹から。少し……いや、けっこうドキドキしたぞ。
「お兄ちゃん、あたしやっぱりお母さんから料理教えてもらう!だからお兄ちゃん、上手になったらあたしの手料理食べてね」
「うん、楽しみにしてる」
愛佳と目を合わせて笑い合う。
愛佳はもういつもの明るい表情に戻っていた。
俺は愛佳のこういう素直なところに関心する。
……アニキと正反対だからだろうか。
―――本当に可愛いよな。義妹になったのが愛佳でよかった。
「お兄ちゃん。あたしね、翔良より料理上手になって絶対に見返してやるんだ」
愛佳はぎゅっとこぶしを握りこむ。
「…………」
愛佳、もしかして俺がヤケドをしたことより、アニキに言い負かされたことで泣いていたのか?……悔し泣きか?
俺は笑ってため息をつく。
まぁいいか、そのほうが愛佳らしい。この調子だと本当に料理が上手くなりそうだな。楽しみだ。