be too late
お久しぶり(すぎ)です。
――――――風が、冷たかった。
足のつま先から身体がどんどんと冷たくなっていくような気がして、靴のまま足先を擦り合わせた。
「―――風邪、ひくよな。このままじゃ」
柳ヶ瀬と駅で別れてから、家の前まで来てもう30分以上経つ。
柳ヶ瀬はなにも聞かず、二人で電車に乗って街へ移動したあと、ゲーセンやカラオケで遊んだ。平日の昼間なのに街にはちらほらと学生服の奴もいて、学校をサボってる奴が意外と多いことに驚いた。
そして何事もなかったかのように柳ヶ瀬と駅で別れた。
少し、気持ちが晴れた気がする。
柳ヶ瀬のおかげだと認めるのは悔しいが、遊んでいるあいだに心の中でぐちゃぐちゃになって澱んでいたものが、体の外へと放出されて少し楽になった・・・・・気がする。
柳ヶ瀬のおかげだと認めるのはホントにイヤだが。
ただ、心は少し楽になったものの状況はなにも変わってはいなくて、もう帰っているだろうアニキと愛佳のことを考えると家の中に入るのがためらわれた。
「・・・くしゅっ」
しかし、もう冬に差し掛かろうとしているこの時期に学生服のままで外にいるのは本当に寒く、このままでは風邪を引くこと間違いなしだ。
俺は意を決して玄関のドアを開けた。
バサッ
「お帰りなさい」
―――の声とともに何かが降ってきた。軽い。そして大きい。・・・・・バスタオル?
「はい、これ。そして早くお風呂入ってお兄ちゃん」
ぐいぐいと俺の身体を押す愛佳に戸惑いながらも、渡された服と風呂一式セットをにぎりしめたまま風呂場へと直行した。
「・・・あ、愛佳?」
「早くお湯につかってあったまって。もうきっとお湯沸いてるから。ずっと外に立ったまま入ってこないんだもん、風邪引いちゃうよ」
・・・・・ずっと見られてたってことか?
バタンとドアが閉じられ、愛佳の足音が遠ざかっていく。俺は冷たくなった制服を脱ぐとため息をついた。
「愛佳のことも、きちんと考えないと・・・な」
いつもなら直ぐに外へと俺を呼びに来そうなものなのに、じっと家で待っていた愛佳。
愛佳にもなにか思うところがあるのだろうか。
「・・・・・あったけ―――・・・」
ちゃぽんとお湯に浸かると、ここ二日程考えることを拒否していた脳がゆっくりとだけど回転しだした。
俺を好きだという愛佳。一体いつから?
俺を好きだというアニキ。本当にいつから?
愛佳はともかく、アニキと俺は正真正銘の兄弟なんだぞ。・・・・・全然似ても似つかないけど。
アニキと離れて暮らしたい訳じゃない。
愛佳にもムリヤリ外国へ行かせたい訳じゃない。
今のままじゃいられないんだろうか。
いられないなら俺はどうしたらいいんだろうか。
「・・・・・・・あがろう」
お風呂と不本意ながらも柳ヶ瀬のお陰でリラックスした俺の脳は少し・・・いや、かなり自分勝手な結論を叩き出そうとしていた。
だって仕方なくないか?俺は恋愛初心者で、まだ誰とも付き合ったこともないし、誰かを強く思ったこともない。
だから、今回だけはズルイと思う自分の心にフタをすることにした。
―――――それは後に全ての責任が自分に降り懸かってくることになるのだが、その時の俺にそんなことが予想出来るはずもなかった。