二十五「4階」
うちの斜め向かいにある家がリフォームをして、内覧会を開催するというチラシが入りました。我が家も築20年であちこちガタがきているので、参考にと思い、おじゃますることにしました。出不精な夫も珍しく乗り気になり、土曜日の朝、一緒に出かけました。
そこのご夫婦とハウスメーカーの方が案内してくれ、新築のようにきれいになった家をすみずみまで見せていただきました。
2階の上に屋根裏部屋をつくったと聞くと、夫が食いつきました。秘密基地みたいでワクワクすると。明らかにテンションが上がって、もう本当に、50過ぎた男子、です。
屋根裏部屋は、天井が低いものの、明かりとりの窓もあって、普通に3階と言ってもいいくらいの快適さ。私が子供の頃の屋根裏部屋のイメージといったら「真っ暗・ホコリ・ネズミ・妖怪」。怖くて入れませんでした。
ところで、ひとつ不思議な部分がありました。
部屋の真ん中に、天井に向かって階段がついているのです。
最初は飾り棚かとも思いましたが、それにしては板の幅も広いし、頑丈そうだし、まさに階段です。
私はハウスメーカーの方に、これは上に出る階段ですか、と聞きました。
いいえ、上はただの屋根ですし、上がれませんとの答えでした。
建築関係の仕事をしているご主人が、こういうのトマソンっていうんですよ、遊び心というか、自分の家だから好きなことやりたいと思って、と教えてくれました。
夫が、屋根に出られたら、とか、この上に何かが、って想像するのが楽しいんだよ、と言いました。
ハウスメーカーの方も、僕もこういうの好きですし楽しいです、でも実際には、出ても斜めの部分なので単純に危ないですし、この辺は洪水の危険もないので、屋根に出ることはないと思いますよ、と言われました。
向こうのご主人が、子供の頃ならまだしも、俺たちが出たらすぐに落ちるし、屋根が重みで抜けるかもな、と言って、みんなで笑って、その時は終わりました。
数日後、サイレンに気がついて外に出ると、先日内覧会があったお宅に救急車が来ていました。
驚いて行ってみると、ご主人が救急車で運ばれるところでした。
平日の昼間なのに、会社の作業着姿で、早退でもしたのだろうかと思いました。
意識はあって何か話しているようで、口元に奥さんが耳を寄せて聞いているのが見えました。近所の人が集まってざわざわしていたのもあり、私のところまでは聞こえませんでした。
ご主人は全身を打撲していたそうですが、幸い、命に別状はありませんでした。
上からドンッ、と大きな音が響き、リビングにいた奥さんが驚いて見に行くと、ご主人が屋根裏部屋で倒れていたそうです。
いつの間に帰ってきたのか、全く気づかなかったと言っていました。
本当の不思議は、ここからです。
入院準備のため、奥さんが一度家に戻ると、ご主人の会社から何度も何度も、留守電が入っていたそうです。
内容は「お宅のご主人が行方不明になっていますので、至急ご連絡ください」。奥さんは驚きました。会社に黙って、勝手に帰ってきたのかと。
詫びようとあわてて会社に電話し、主人は家で倒れて今病院におります、と言うと、会社の人が何度も本当ですか、確かですか、ご本人ですかと尋ねるのだそうです。
初めはただただ謝っていた奥さんでしたが、あまりにも念を押されるので少し不快になってきました。早く病院に戻らなければならない、なんならそちらに来てくださいと告げると、会社の人は数秒口ごもったあと、実は……と話し始めました。
ご主人は今日、4階の足場から転落したんです。
その瞬間は何人もが見ています。
でも、下に行ってみると、どこにもご主人の姿がなかったんです。
落ちた音がしなかったという証言があったので、途中でひっかかっていないか、やわらかいものに落ちたか、どこかに嵌まっていないか、動ける全員で隅々まで探したのですが、とうとう発見できませんでした。
本当に、ご本人がご自宅で倒れていて、命に別状はないんですか?
奥さんは思い出しました。
ご主人が、家の中なのにヘルメットをかぶり、靴を履いていて、何か呟いていたことを。
「よん、か……よん……かい……」




