二十四「スタッフ」
社長だという男性が、僕の自己紹介を聞き終えて言った。
「よし、きみ、採用!」
面接開始10秒。
(この会社、大丈夫?)
アルバイトを探していたら、けっこう時給がいい募集を見つけた。失業保険がちょうど終わりで金の心配をしていた僕は、さっそく連絡。即面接で結果がこれだ。
仕事内容は、イベント企画と運営。初めは荷物搬入や誘導など、社員のサポートをするそうだ。体力には自信があるし、まずは働いてみることにした。
最初の現場は、金曜夜のショッピングモールだった。
夏休みイベントで、土日の二日間、ミニコンサートや抽選会がある。僕たちアルバイターは、せっせと荷物を運び、社員のリーダーが次々と設営していく。周りを通るお客さんが、何かあるのという目で見ていく。
イベントは大成功だった。僕、この仕事向いてるかもしれない。
次の現場は、 日曜昼の森林公園。婚活パーティーの仕切りだった。森コン、ていうやつだね。
バーベキューして会話して、カップルができそうなできなさそうなところを、ずっと見ていた。前言撤回、心折れそう。
他には、商店街にゆるキャラが来るとか、リアル脱出ゲームとか、町おこしっぽいイベントの運営が主な仕事だった。
アルバイトとはいえ、場数を踏めばスキルが上がる。 僕は徐々に、司会などの仕切りまで任されるようになっていった。
「今日は僕と出張ね」
社長の運転で、隣の市の大きな病院に着いた。
「ここ、去年移転して閉めたんだよね。今度リアルお化け屋敷するために借りられることになったから、今日は下見」
「へー、そうなんですか」
築何十年だろう。外観はたしかに古い。4階建てで、2棟がつながっている。上から見たらきっと、Hの上がふさがってる造りだ。広くてひび割れて草が生えた駐車場が、またいい雰囲気を出している。
「あとね、今日僕たちより先に、他社のスタッフ入ってるから。誰か見かけたら声かけてくれる?」
「分かりました」
病院の中は、古い感じはするものの、けっこうキレイだった。ベッドやカーテンなどの備品は十分使えそうだし、不潔な感じもしない。ぐるりと1周しては、上の階へと進んでいく。
(なるほど、こういうところを使うとリアルだろうな)
手術室や霊安室など、そうそう入れない場所も見られて楽しい。いろいろなアイディアがわいてくる。社長と構想を話し合いながら1階のロビーに戻った時には、すでに2時間ほど経っていた。
「後は帰るけど、何か気がついたことはない?」
「いやー、古いですけど思ったよりキレイですね。テレビでいかにも、って感じで血まみれだったり汚れがある演出より、これがリアルですよね。ほんとに今も使ってそうな病院、ってのがいいと思います」
「そっか。じゃあ帰ったら、みんなでアイディア出しやろう」
駐車場に戻ると、社長の車一台しかなかった。あれ、来たときに他の車、あったかな。
「他のスタッフの方、けっきょく会いませんでしたね」
「そうだねぇ、すれ違ったかもね」
がらんとした駐車場をもう一度見回し、車に乗り込む。
「ねぇ君、正社員にならないかい」
思わずシートベルトを引く手が止まる。
「え! いいんですか!?」
「いや、君はなかなかの人材だよ。だいぶ場数も踏んだし、真面目に仕事してくれるしね。この仕事が終わってからになるけど、考えておいてくれる?」
「はい、ありがとうございます!」
フリーター生活から脱出できるかもしれない。僕はウキウキ気分で家に帰った。
3ヶ月後、実現したリアルお化け屋敷は大成功だった。ローカル局だがテレビのニュースに取り上げられ、それを見て来た客がSNSで拡散。ほぼ毎日行列ができた。計画よりだいぶ儲かったようで、全員に臨時ボーナスが出た上、ホテル一泊で打ち上げパーティーまで開かれたくらいだった。
「君が良かったら、来月1日付けで正社員に登用したいんだけど、どうかな」
改めての社長の申し出に、僕は一も二もなく頷いた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「そうか、よかった。なかなか君みたいな人はいないからね」
ニコニコと僕を見つめる社長の視線に、ちょっと照れて、でも気になって聞いてみた。
「あの、僕みたいな人、というのは」
「うん、君ねえ、あんなウジャウジャいるところで何も感じなくて、影響も受けない。素晴らしい才能だよ」
「ウジャウジャ? え、虫とかいましたか? あ、すっごい人だったから」
「いや、違う違う」
変わらずニコニコしたまま、社長は言った。
「幽霊」
「幽霊……?」
「あそこさあ、集まりやすい場みたいでね」
「んっと、あれですか、地縛霊とか心霊写真とか稲川淳二とかですか」
「そうそう」
人生においてただ一度も感じたことがない世界の話なので、さっぱり思考のピントが合ってこない。
「じゃあ、なんか写ったとか見えたとか騒いでた人たち、あれは気のせいとか演出じゃなくて」
「うん、リアルお化け屋敷」
「リアル、ってそういう」
「そういう意味」
記憶を掘り返してみると、放置していた違和感が浮き上がってきた。
「下見のとき、他社のスタッフなんて」
「いなかったよ」
「じゃあなんで」
「場の影響で、君の感度が上がって素質が開花する可能性もあったし」
「素質」
「君には、霊に対する感受性が備わっていない。霊感0。才能がない」
「それ……才能ですか?」
「しかし『影響を受けない才能』があるとも言える。僕らの仕事にはピッタリだ。だから君が欲しい」
「えっ……と……お化け屋敷以外にもヤバい現場ってありましたか……?」
「だいたいヤバいよ」
社長はいつの間にか真顔になっていた。
「光があれば影があるんだ」
僕は、これまでの現場を思い出していた。楽しむ人々の傍らに「影」があったというのか。
「だからうちは、それに対抗できる社員を揃えているんだ。君は貴重な人材だ」
提示された書面には、手取りでアルバイトの2倍以上になる給与、プラス賞与の数字。
「……待遇のいい『ブラック』企業ですね」
「黒にもいろいろあるのさ」
ふっ、と社長は笑った。




