二 「カラス」
小学校のとき、カラスが大好きな子がいたのね。女の子。好きな動物はカラス、好きな色はカラスの羽の色、好きなグッズはカラス口、って知ってる? 線を引く道具なんだって。
その他にも行ってみたいところは京都の烏丸とか、カラス天狗の映画がどうとか、とにかくカラスに関係してることなら何でも好き、っていう変わった子だったの。
カラスの羽根も集めてたな、宝物だって。ときどき落ちてるでしょ? あれを見つけてはキレイに汚れをはらって、大事に箱に入れてた。
見せてもらったことあるけど、カラスって真っ黒じゃないんだよね! すごく濃い紫色なんだよ。太陽に透かすと、本当に綺麗な色なんだよ。羽根みつけたら、よく見てみてね。
で、その子、亡くなったと思うの。たぶん。
誰も知らないの。家族も。
夏休みに体調崩して入院したら、検査で重い病気が見つかったんだって。治療がうまくいけばよかったんだけど、若いから進行が早かったとかで、秋には余命半年くらいだろうって言われたみたいで。
あたしたちはそんなこと知らなくて、面会は難しいからってメールやり取りしてたの。
冬になって、年を越して、春には外泊できるかもって言うから、じゃあ受験終わったら会おうね、って約束して。
二月の最後の日にメールくれたの。
「受験追い込み、頑張ってね!
これから病院出まーす♪」
あ、外泊許可出たんだ、ってみんなで喜んで。
それから一週間、県立の入試までメールしないで頑張って追い込みまくって。
終わって連絡したけど反応なくて、なんだか嫌な予感して家に行ってみたのね。
その子、行方不明になってた。
あたしたちにメールくれた日に、病院から消えてた。
不思議なのは、誰もその子が歩いてるところ見てないの。
面会謝絶の個室にいて、ナースステーションの目の前の部屋だったし、五階から歩いて降りられる体調じゃなかったのに、エレベーターにも乗ってないんだって。
晩ごはんの後だから、出られるのは夜間受付と職員玄関だけなのに通ってないし、どんなに調べてもカメラにも映ってなくて。
まるで、言葉どおり本当に蒸発しちゃったみたいだって。
ただ、病室の窓が十五センチだけ開いてたって。
病院の窓って、体が出られないくらいしか開かないんだってね。
だから、飛び降り自殺も無理だし、実際どこ探しても見つからなかった。
それと、あんなに大切にしてた羽根コレクション、一本だけ残してなくなってたんだって。
あの日のメール、「これから病院出まーす♪」って、ほんとに楽しみって感じだった。
命が残りわずかだって気づいて、最後に宝物の羽根を纏って、大好きなカラスになって飛んでったんじゃないかって、そう思ってるんだ。
信じる?