十三「ボックスティッシュ」
昔から、なぜかこの話をすると記憶が途切れるんだ。数年すると思い出して、また話すと忘れる。
今日は三年ぶりにふっと思い出したから、この機会に話してみようと思う。
私が子供の頃は、まだボックスティッシュは贅沢品だったんだよ。今みたいに次々取り出して使ったりしたら、親にこっぴどく叱られたんだ。
うちでは裏が鏡になっている蓋がついた、立派なケースに入れてたね。母親が化粧するときに一枚、そんな感じで使うものだったんだ。
しばらく前からなくなったみたいだけど、その頃は残り数枚になると、色がついた紙が出てきたんだよ。あれだ、店でレシートが無くなりそうになるとピンクのラインが入ってるのが出てくるでしょ? あんな感じで、赤とか、紫と青の中間みたいなインクで、片側にラインが入ってるんだよ。ピーッと。
あれが出ると、なんだか当たりくじでも出たみたいな気になって、親にねだってもらったりしたんだ。二枚重なってるのを剥がして兄弟で分けたり。取り合いになったこともあったな。
ほんとに、そんな時代だったんだよ。
あるときさ、どうしてもそれが欲しくなってね。親がいないときに、こっそりボックスティッシュをのぞきに行ったんだ。
残り少なければ、丸ごと取り出して抜こうと思ったんだが、まだ八割以上残ってた。これは抜けない。五歳くらいだったかな、ケースから取り出して底を開けて抜く、とまでの知恵はなかった。
でも欲しい。なぜか分からないけど、どうしても欲しい。二枚重ねのまま一人占めしたい、インクが少し移ってる隣の紙も手に入れたい。
私は、夢中で紙を引き出し始めた。
最初は片手で一枚また一枚、次に手に握れる分を連続で抜いては投げ、ついに両手で交互に引き出す。次々投げ上げられる白いティッシュが舞い、私の回りに雪のように積もっていった。
親が帰ってきたら、確実に雷が落ちてお尻を叩かれる。そんな考えも頭の隅の方にあったけれど、もう止められなかった。
とうとう、チラッと赤い色が見えた。興奮したよ。だが、目が違和感をとらえた。おかしい、何かがおかしい。
しかし、脳がその理由を分析する前に、回転を増していた私の手は、既に頭上まで跳ね上がっていた。
勢いで少し浮いたケースが、コトリと音をたてて落ちる。蓋の裏にある鏡に映った私の両目、その前に舞い落ちるティッシュ。
全面が赤い、真っ赤なティッシュが視界をすべてさえぎって……。
……えっと、何の話をしてましたっけね?
私が子供の頃の話? 五歳の頃?
うーん、昼寝して目が覚めたら空っぽの家に一人だったのが最初の記憶なんだけど、その話ですかね? 怖いでしょう、家具も何もない空き家に子供が一人ですよ。
それ以前の記憶はなくて、なんでその家にいたのか分からない。自分の名前も分かりませんでした。
施設に入って育ちましたが、いまだに両親のことも親族も分からないんです。
私、どこから来たんでしょうね?




