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見てみたいから〈1〉


 四月下旬には、クラスの親睦を深めることを目的とした遠足が予定されている。行先はクラスごとに決定できるため、HRの時間を使って話し合いが行われた。

 圭太のクラスでは、テーマパークや自然系レジャー施設といった案が次々と出されていったが、最終的に水族館に行くことが決まった。


「次、圭太の番だぞ」


 女子は前方、男子は後方、と綺麗に分かれた車内にて。

 後方男子グループでは、トランプ大会が開催されていた。


「お、おぅ」


 圭太は身を乗り出して、離れた席に座るクラスメートのカードを取る。その時、ちょうどバスががくんと揺れて、前のめりになった。


「あっぶね」

「気ぃつけろよー」


 口ぐちに心配してくれる友人に「びびった」と言って笑いながら、圭太は別のことを考えていた。


(白石……)


 バスに乗り込んだとき、席が近いな、とは思った。

 彼女は女子の一番後ろ――つまり男子グループとの境目にいた。圭太は男子グループの前の方に座っていたから、斜め前にいる彼女の後ろ姿が目に入ってきたのだ。

 これまで数えていなかったが女子は奇数だったようで、自然と一つ空席ができる。その、空席の横に白石は座っていた。


(まあ、喋る相手はいないよな)


 バスが動き始めてからはや一時間。隣同士で盛り上がる女子とは反対に、白石は終始無言を貫いていた。

「孤立」――最初はその言葉を想起した圭太だったが、時折視界に入る白石の様子を見るたびに、そうした意識は薄れていった。

 なぜか、寂しそうに見えないのだ。


「おーい圭太、順番」

「お、悪い」


 またしても白石に気を取られていた圭太は、友人の言葉に思考を引き戻された。急いでカードを引こうとしたところ、再びバスが振動する。


「っと」


 今度はうまくバランスを保てたが、カードの方が手から滑り落ちてしまった。目で追っていくと、カードは車内の前方へひらりと落ちていく。誰か拾ってくれても良さそうなものだが、あいにく女子はトークに花を咲かせていて、気付く者はいなかった。

 圭太は「拾ってくる」と言って、席を立つ。座席シートを片手でつかみ、よろけないように前へと進んだ。


 カードを拾って席に戻る途中、通路側に座っている白石の横顔が見えた。ずっと窓の外を見ているので、目が合うことはない。

 何を見ているのか。気になって圭太も同じ方向を見るも、外は相変わらずの山道が続いているだけだった。取り立てて面白いと感じるものはない。


(けど白石も暇だろうな)


 喋る相手もいないし、と思う。孤独を感じているようには見えないが、何もしない時間は退屈だろう。

さりとてトランプ大会に誘う選択肢はなく、圭太は残りの時間が彼女にとって苦痛にならなければいいと思った。



   ※



 バスは海岸を通って、目的地である水族館へと向かった。到着後は自由行動&昼食、午後は海岸に戻って、季節外れのビーチバレー大会の予定になっている。水族館には入館してもしなくても良いが、圭太は入ることにした。

 水族館の名物はイルカショーである。イルカがパフォーマンスをするたびに、クラスの女子から声が上がる。男子も男子で興味深そうにそれを見ているし、中にはデジカメを離さない奴までいる。

 ショーが終わると、客は揃ってミュージアムショップに押し寄せた。


「俺、先出とくわ」


 人がごった返す店内で、圭太は友人にそう告げて店を出た。

 レジには長蛇の列ができている。六組の生徒だけでなく他の団体さんも来ていたようで、店内の人口密度が大変なことになっていた。長時間あの中にいたら、気分が悪くなりそうだ。

 外に出ると、爽やかな風が吹いている。圭太はほっとした。


(あー昼まで時間ないか)


 そろそろ昼を食べ始めないと、ビーチバレー大会に支障が出そうな時間だ。しかしあの様子では、全員が会計を終えるまで何分かかることか。

 圭太は時計と店内を見比べる。


(まあ、ビーチバレーの時間がずれそうではあるけど)


 大半の生徒がショップで足止めをくらっている状態では、時間通りに始めるのは難しいかもしれない。圭太はビーチバレーにこだわっているわけではないので、それならそれでいいけどな、と思った。


 ぶらりと周辺を散策していると、遠くの岩場に人らしきシルエットが見えた。なんとはなしに、片手を額に近付ける。手で日差しを遮ってよく見てみると、確かに人がいた。

 うちの、クラスの。


「白石!?」


 思わず声が出る。

 もう一度、今度は走って近付いて行って確認するも、やはり目に映ったものは変わらなかった。


 クリーム色の、見浜高校指定のセーター。

 間違いない。私服OKな遠足で、わざわざ制服を着てきた女子は、彼女しかいない。


 何処に行こうとしているのか。真っ直ぐに海岸――砂浜ではなく岩場をつたって行く姿に、圭太は言いようのない不安を覚えた。


「なにやって――」


 るんだ、とは続かなかった。なぜなら、その前に足を踏み出していたからだ。




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