第8章 違和感
極夜はよくわからなかった。というより、悪魔が理解できなかった。魔界にいても自分は一人だという感覚が常にあった。他の悪魔たちはなんで自分の考えがないんだろう。なんで魔羅にあそこまで忠誠を誓えるんだろう。魔界から出たいとは思わないんだろうか。前に聞いてみたことがある。そいつは不思議な顔をするばかりで何も答えなかった。死魔が怖くて外に出られないんだろうか。でもそういうわけでもないようだった。悪魔は魔羅の道具だということをなんの疑いもなく受け入れている。魔羅に支配されているということを窮屈に思わないんだろうか。好きに生きたいとは思わないんだろうか。悪魔は魔羅に操られているのに。
悪魔同士の意見が食い違うと、とにかくいつまでも話し合いをする。不満があってもせいぜい陰口をたたくくらいだ。これが悪魔のすることだろうか。こんなに体中が憎しみや嫉妬で溢れてるのになぜ思うままに行動しない。殴ればいい、蹴ればいい、自分の思うようにすればいいのに。
極夜は夢魔だということを初めて力を使う前からわかっていた。生まれた瞬間に魔羅が夢魔だとわかったという。そして、百鬼に預けられたがすぐに見放され、周りの悪魔には魔羅様の災いになる、魔羅様にとっての歓喜になると、事あるごとに言われた。そもそも、極夜が魔羅にとって災いになろうと、歓喜になろうとどうでもいいことだった。自分が楽しければそれでいい。しかし、極夜は悪魔たちが魔羅の事を案じて話をしていることに強い違和感を感じていた。誰一人自分の心配をしていない。皆魔羅のことだけを心配しているのだ。魔羅への忠誠心がない極夜は他の悪魔にとってただの異端、頭のおかしい悪魔、災いを持ってくると皆が思うのは当たり前だろう。しかし、自分たち自身のことはどうでもいいのか。俺が自分の事だけを考えているのがそんなにおかしいのかと苛立ちを抱えていた。
そんな中、音波は違った。魔羅の道具ということにはなんの疑いも持っていないが、少なくとも自分の意見がある。音波は、魔羅に絶対の忠誠を誓っている。しかし、他の悪魔のように魔羅を中心とした考えではなかった。魔羅のみではなく、魔界全体、ほかの悪魔全員のことを常に考えていた。忠誠だけで物事を話すのではなく、相手を思って話す。皆が魔羅のことだけを考えて話している中、音波は、極夜は魔羅様、そして私たち悪魔の歓喜になると信じているよ、と言った。極夜にとって衝撃の言葉だった。魔羅のためだけではなく、私たち悪魔の歓喜。その言葉は、皆とは違う者が極夜の他にもいるという気にさせた。しかし、魔羅の支配を逃れて自由に生きたいと思う極夜の考えとはまったく違う。音波は、皆と同じように魔羅に対しての忠誠を求めてきたし、歓喜のために魔羅様の命令を聞けと何度も言ってきた。意見が一致することはなかったが、自分の考えを持っている音波といることは楽しかった。しかし、音波は気が気ではなかっただろう。魔羅や、魔界や、他の者のことも考えず好き勝手にしている極夜を見るのは。
台に横になりながら極夜がぼーっと考えているのを縁は黙って見ていた。
「なぁ、縁。お前、魔羅様をどう思う?」突然極夜が口を開いた。
「ど、どうって言われても。忠誠を誓ってるよ。」急に話しかけられ焦りながら答えた。
「お前も他の悪魔と同じなのか?」
「同じなのかって言われてもわからないよ。まだ、百鬼様と極夜と音波としか話したことないんだから。」
「じゃあ、さっきの話を聞いててどう思った?」
「だからわからないってば。まだ力も使ったことないし、人の闇に直接触れたこともないんだから。人を殺したくなるほど楽しいのかどうかなんて。」
「そうじゃなくて、夢魔の言い伝えのことだよ。」
「ああ、うん。歓喜か災いかなんて言われてもよくわからないけど、きっと極夜は僕たちに歓喜を与えてくれるよ!皆と違う僕とこうやって話をしてくれるしさ。なんか、さっき音波に言われたのがすごく気になっちゃって。僕、極夜から離れたら何されるんだろう。他の悪魔に会わずに済む方法はないの?ん~、おっかないなぁ。」
縁は一人で話し続けてたが、極夜はもう聞いてはいなかった。音波と同じことを縁が言ったことに驚いていた。自分の仲間が増えたような気持ちになり、極夜は少しうれしかった。
「ねぇ、聞いてる?僕なにされるの?」
「うるさいな、何もされねぇよ。奴らは陰口を言うだけだ。」
「それも嫌だなぁ。誰にも会わない方法はないの?」
「そんなもんあるなら俺が聞きてえよ。」やっぱり俺とは違うなと思いながら極夜は頭に手をあてた。
「そうだよねぇ。あっ、またため息ついた!やめてよ。極夜がため息つくとなんかおっかないから。」
本当にこいつはなんなんだ、と思いながら極夜は立ち上がり、部屋の入口に向かった。
「いいか、これから魔界を案内してやる。お前は口を開くなよ。一言話すごとに皆が集まってくると思え。その見た目でさえ目立つからな。」
「あんまり見た目見た目言わないでよ!」
「お前も怒ることがあるんだな。じゃあ行くぞ。」
極夜は手をかざして部屋を開け、2人は外に出た。




