第30章 戯れ
極夜は望乃の顔から血の気が引いたのを背中で感じた。極夜は、キッと狂暗を睨みつけた。
「殺した?嘘をつくな!人を殺したら死魔がくるはずだ!!」
極夜の言葉に、狂暗はにたぁっと意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「あなたはね、快感に溺れすぎなんですよ。そこにはやはり、一線が必要なんです。悪魔なら、死にゆく者の最後の苦悩の声を聞きたいと思うのは当然です。しかし、それをぐっと我慢するだけで、いくらでも人は殺せるんですよ」
「はっ?何を言ってる!意味わかんないこと言ってんじゃねぇぞ!」
狂暗はククッと笑うと嬉しそうに言った。
「私はね、あなたのように馬鹿ではない。死魔様がこない、ギリギリのところを見つけたんです!魔羅様は人の心が染まりきったら、それ以上は何もするなと命令されています。要は、私たちが離れた後は、人がどうなろうと関係ないんですよ!」
極夜はハッと気づき、息を飲んだ。
「おや、さすがにあなたも気づきましたか。そう、心が染まりきった瞬間に魔空を解くだけです。しかし、解くまでに死を覚悟させなければならない。一人の人間に長い長い年月がかかります。本当に少しずつ、じわじわといたぶることで人の心にゆっくりと死を植え付けるのです。今回のあなたの父親には10年の歳月をかけました。私の最高傑作ですよ!!」
狂暗は満足げな微笑を浮かべ、望乃を見た。望乃は信じられないという顔で震えていた。
「なんでそんなことを・・・。父さんが、どうしてそんな・・・」
望乃が震えながらつぶやいた。狂暗は望乃の反応を楽しんでいるようだった。
「クックッ、いいことを教えてあげましょうか?最後に父親を追い詰めたのはあなたです。あなたが父親を殺したんですよ?」
極夜は狂暗を睨みつけ、怒鳴った。
「そんなわけあるか!こいつは父親を許していた!むしろ、また会えたことを喜んでいたんだ!望乃が追い詰めたなんて嘘をつくな!!」
狂暗は極夜と望乃の反応を心から楽しみ、目を細めた。
「いやぁ、そうだったんですか。どうりで闇が少し薄くなっていたはずだ。あれには私も驚きましたよ。少し魔界に帰っている間に、あの男が引っ越していましてね。見つけた時には、あれだけ苦労して染めた闇が薄くなっていたんですよ。何があったのかとずっと監視しました。するとね、毎日毎日森に行くんですよ。そして看板をじっと見つめると、また街に帰るんです。不思議でなりませんでした」
望乃が口に手をあて、血の気の引いた顔で狂暗を見つめた。
「父さんが、毎日・・・?毎日森にきていたの・・・?」
「ええ、面白いのなんのって。最高でしたよ。私は何もしていないのに、森に行くたびに勝手に闇が濃くなっていくあの様。笑いが止まりませんでしたよ」
極夜はあることに気づき、狂暗に聞いた。
「お前、その闇に喜ぶってことは・・・。お前、罪魔か?」
狂暗は嬉しそうに極夜を見て、笑った。
「ええ、そうですよ!罪の意識ほど人間が苦悩することはない。本当に最高でした!しかし今日、楽にしてきてあげましたよ。最後の1か月はじっくり囁き続けましたからね。捨てた娘に対する罪をどう償うのかと!!しかしもう、疲れていたのでしょう。最後はあっけなく死んでしまいました。でも、最高だった。あの興奮を忘れることなんてできません!!」
狂暗は興奮で震えていた。極夜は自分もこうだったのかと狂暗を見て、顔を歪めた。しかし、すぐに狂暗を睨みつけ言った。
「じゃあ、父親に魔空を使って望乃のことを知ったのか。それで、こいつには小悪魔をつけただけか?」
狂暗はまだ震える体で極夜を見た。
「ええ、そうです。しかし、私にとっては最高のプレゼントでした!やつの娘を見つけたんですよ!?どう闇を囁こうか、よだれが出るほど興奮しました。魔空を使いたかったけれど、お楽しみはとっておくものです。父親を終わらせてから娘にとりかかろうと小悪魔をつけたんですよ」
極夜は狂暗の言葉を聞き、とりあえず望乃のことはばれていないと安心した。しかし、狂暗は望乃を狂った目で見つめ、また高笑いをした。
「どうです?私を受け入れられますか?今あなたの心はどうなっているんでしょうねぇ?闇が生まれているのではないですか?」
望乃は何も返事をしなかった。
極夜は後ろにいる望乃の顔を見ることができないでいた。どんな表情なのか見るのが怖かった。それに今の極夜の頭の中は、どうやって狂暗をこの場から遠ざけようかと考えるのに必死だった。
「狂暗、お前はさっき俺の態度に腹を立てていたが、お前も一緒じゃねぇか。魔羅に忠誠など誓ってはいないんだろう?」
極夜は意味深な笑みを浮かべて言った。狂暗は冷ややかな顔で極夜を見た。
「何を言っているんですか?あなたと一緒にしないでください。私のすべては魔羅様のためにあります。その中で、少し遊んでいるだけですよ」
「魔羅に忠誠を誓っているとは思えねぇなぁ。お前だって自分の力と快感に溺れてるじゃねぇか」
「だから、一線が必要だと言ったでしょう。私は死魔様が現れたら、自ら進み出て消していただくと決めています。でも、魔羅様は心の広いお方です。私の戯れをずっと許してくれています」
狂暗はそう言うと、ギロッと望乃を見てまた興奮し始めた。
「さぁ、そろそろその娘を渡していただけますか?独り占めしなくてもいいでしょう?少し魔空を入れさせていただくだけですから」
狂暗は魔空を出した。
極夜は、ここまで追い詰められても自分の力の出し方がわからなかった。しかし、守るように望乃の前に立ちはだかった時、後ろから叫び声が聞こえた。
「望乃に近づくな!!!」
極夜と望乃が驚いて振り返ると、縁が立っていた。望乃が作った刺繍のハンカチを強く握りしめ、話を聞いていたのか、縁の目には涙が浮かんでいた。
「よくも、よくも望乃の家族を・・・!!望乃が大事にしていたものを奪ったな!!!そして、次は望乃に何をする気だっ!!許さない、絶対に許さない・・・」
縁はゆっくりと狂暗に歩み寄った。しかし、極夜は縁の腕を掴んで言った。
「おい、縁!!何をする気だ!下がってろ!」
しかし縁は極夜の腕を振り払い、狂暗の前に立った。狂暗は縁を見つめ、面白がるように言った。
「これがあの噂のできそこないの悪魔ですか!それで?あなたも人間の肩を持つんですか?」
縁は狂暗を睨みつけたまま、何も言わなかった。憎しみのこもった目で狂暗を睨みつけていた。
「ほう、今の顔は中々いいですよ。しかし、あれですね。音波のできそこないも死魔様に消されたことですし、あなたもすぐに消されるでしょうね」
狂暗は縁を見て、薄ら笑いを浮かべた。極夜は怒りで体が震えた。しかし、すぐに縁のようすが変なことに気づいた。
「縁どうした・・・?なんか、お前・・・・」
極夜は自分の感じている感覚を信じることができず、それ以上言葉にできなかった。狂暗も同じことを感じているのか、縁を見て少しひるんだ。
そんな中、縁がゆっくりと手を上げ、狂暗に自分の手を押し当てた。
すると突然、狂暗が悲痛な叫び声を上げた。極夜と望乃が驚き見つめる中、狂暗は悲痛な叫び声と共に、跡形もなく消え去った・・・。
極夜はこの叫び声を聞いたことがあった。今でも忘れられない叫び声。死魔に消される瞬間、音波が上げた悲痛な叫びとまったく同じ叫び声だった・・・。




