第15章 星
縁はどこに行くにも決して望乃のそばを離れなかった。家の中では極夜から離れても大丈夫だと思ったのか、極夜のそばにくることはなくなった。しかし、家から出るときは必ず極夜の手を引っ張り、望乃の行くところ行くところについて行った。極夜は縁に引っ張られながらも、望乃の後ろをついて歩くことにイライラしていたが、縁が嬉しそうにしているのを見て、まぁいいかと思っていた。
今日は湖にきていた。望乃は洗濯をしていたが、縁は湖に入り遊んでいた。そんな2人の後ろに座り、極夜は空を眺めていた。極夜は空を眺めるのが好きだった。暇さえあればよく黒い煙と白い雲が流れている空を見ていた。しかし、光の場所である望乃の家の空は青かった。薄っすらと闇も混ざっていたが綺麗な青い空だった。
「なぁ、望乃」
極夜は空を見たまま望乃に話しかけた。望乃はすぐに振り返った。
「ん?どうしたの?」
「お前は人間から出ている闇とか、空に混ざっている黒い煙も見えるのか?」
「いいえ。そんなの見たことないわ。空には黒い煙が混ざっているの?」
望乃は極夜が空を見上げているのを見て、同じように空を見ながら言った。
「ああ、ここは薄いがな。今まで知らなかった。空ってこんなに青いんだな」
「ええ、そうよ。空はとても綺麗でしょ?今まで知らなかったなんて、悪魔ってかわいそうね」
望乃は極夜に微笑みかけた。極夜はだいぶ望乃に慣れてきていた。
「極夜、夜の空は見たことある?」
「たまに見るけど、夜は何もないからな。ただ黒いだけだ」
「あら!じゃあ、星も見たことないの?」
極夜はずっと空を見ながら話していたが、望乃を見て言った。
「星?たまに見える光ってるやつか?」
「晴れていたら、たまになんてもんじゃないわ!すっごく綺麗なのよ。ここにきてから今まで夜の空は見ていないの?」
「ああ。どうせ黒いだけだからな」
「じゃあ、今日の夜はみんなで外に出て星を見ましょう!空が青く見えるなら、きっと星も見えるはずよ!極夜、きっとびっくりするわよ」
「なになに?どうしたの?」
縁が極夜と望乃が話していることに気づき、近づいてきた。
「縁、今日の夜はみんなで星を見ましょう!」
「えっ?星?なんで?」
「極夜は星をあんまり見たことがないんですって。縁もそうでしょ?」
「ん~ん!僕は星、知ってるよ!すごく綺麗だよね!」
縁の言葉を聞き、極夜は驚いた。
「お前だって見たことないだろ!空にはいつだって闇の煙が混ざってて星なんて見えないんだから!」
「僕、知ってるよ!ここに来てから毎晩見てるもん!極夜も知ってるんだと思ってた」
縁は極夜が知らなかったことにビックリしていた。極夜は毎晩外を見ている縁に気づいてはいたが、黒い空を見て何が楽しいのかと思っていた。まさか縁が星を見ているとは思っていなかった。
夜の空か・・・
極夜はまた空を見て、心の中でつぶやいた。極夜は夜の空などほとんど見たことがない。人間界にくれば、夜こそ快楽の時間だった。人間を追い詰める最高の時間だったのだ。極夜はその時の快感を思いだしたが、自分を抑えられなくなるほど興奮はしなかった。しかし、心と体に刻み込まれている人間の闇、人間を落としたいという欲望はなくなってはいなかった。自分を抑えられるというだけで、人間に対する執着は消えるものではなかった・・・。
夜のなると、縁と望乃が2人してにやにや笑いながらドアの前に立った。
「さあ、極夜!外に出るわよ!ビックリするんだから!」
望乃が言った。
「極夜!目をつぶって!目を開けた瞬間に星が見えるようにさ!」
縁は待ちきれないというように興奮していた。
「いいよ、別に。そんなにはしゃぐなよ」
極夜はめんどくさかった。
「いいから、早く早く!」
縁にしつこく言われ、極夜はしょうがなく目をつぶった。すると、縁は極夜の手をひっぱり、望乃はドアを開けた。極夜は引っ張られるまま外に出た。夜風が気持ちよかった。
「極夜、ここでいいよ!空を見て、目を開けて!」
縁に言われ、極夜はゆっくりと目を開けた。
極夜は驚きと感動で鳥肌がたった。満天の星空が極夜の目の前に広がっていた。数えきれない程の星が光っていて、心の底から綺麗だと思った。極夜は言葉を発することもできず、口を開けたまま星空を見ていた。
「ねっ?すごく綺麗でしょ?」
望乃は極夜の隣に立ち、星を見ながら言った。
「今日は雲一つないし、いつもより綺麗だわ!それにここは山奥だから、街よりもずっと綺麗に星が見えるのよ!びっくりした?」
望乃は極夜を見て言ったが、極夜は星空から目を離すことができなかった。
「部屋の中から見るより、ずっと綺麗!星って本当に綺麗だね!」
縁も感動して、星から目が離せないようだった。
「ずっと上を見ていたら首が疲れるでしょ?寝っころがったら、もっとゆっくり星を眺められるわよ」
望乃に言われ、極夜も縁も草原に寝ながら星を眺めた。望乃はそんな2人を見て微笑んだ。そして、望乃も星空に目をやり言った。
「あのね、人は死んだら星になって、残してきた人を見守っているんだって。夜の暗闇の中で光り輝いて、守ってくれているのよ。きっと、音波も見守ってくれているわ。極夜と縁を想って、優しく光りながら、見守ってくれているわ」
極夜はあまりの満天の星空に感動していたのもあり、望乃の言葉で、思わず涙を流してしまった。縁も極夜の涙を見て、静かに涙をこぼした。
極夜はこの日、人間界には綺麗なものもあると初めて知った。人間界は魔界と同じように、黒い闇が渦巻いている闇の場所だと思っていた。しかし、闇だけではなく、綺麗なものもあるのだと初めて知った・・・




