第13章 仲のいい兄弟
極夜は望乃が縁の傷を手当てするのを黙って見ていた。
「また傷を増やして。もう自分を傷つけるなんて事したらダメよ」
望乃が縁に薬草を塗りながら言った。
「うん、わかった!ねぇ、望乃。これ、すごい臭いがするよ」
縁は顔をしかめた。それを見て望乃は笑った。
「極夜も最初はそんな顔をしていたわ。でも、これは本当に効くんだから!他の傷だってこれでよくなったのよ」
「そうなんだ。じゃあ、我慢するよ。望乃、ありがとう!」
縁は望乃を見て、笑った。極夜は縁を見て安心していた。もういつもの縁に戻っていた。極夜は縁を見て、微笑んだ。
「あら、極夜が笑っている顔なんて初めて見たわ」
望乃が極夜が微笑んでいるのに気づき言った。極夜は慌てて縁から目線を外した。
「極夜っていっつもおっかない顔してるんだ。だけど本当はすごく優しいんだよ!」
「ええ、知ってるわ」
望乃は微笑みながら言った。
「極夜は縁が眠っている間、あなたの側から少しも離れなかった。心配そうに縁を見つめて、ずっと優しく頭をなでていたのよ」
「えっ!?そうだったの!?」
縁は恥ずかしそうに自分の頭を押さえた。それを見て望乃は笑いながら言葉を続けた。
「ええ、そうよ。すごく思いつめた顔をしていたわ。その極夜の姿をずっと見ていたんだもの。優しい人だなって思ってたわ」
「おい!余計なことを言うな!お前はあっちに行ってろ!」
極夜は恥ずかしさのあまり、望乃に怒鳴った。すると縁がすごい形相で極夜を見た。
「ちょっと!極夜!なんでそんな言い方するの!?望乃が可哀想でしょ!それに、お前じゃないよ!の~のっ!望乃ってちゃんと名前で呼びなよ!」
縁に猛反論され、極夜はため息をつき黙った。
「ほらっ、またため息ついた!極夜のため息、僕嫌い!」
「お前は起きたら起きたでうるさい奴だな!少し黙ってろ!」
縁はもう極夜の言葉は無視して、望乃のほうを見ていた。望乃は2人のやり取りを見て笑っていた。
「望乃、ごめんね。極夜ってすぐ怒鳴るし、ため息つくし。おっかないでしょ?」
「いいえ、なんだか2人を見てたらすごく心が和むわ!まるで仲のいい兄弟ね」
「そうかなぁ。じゃあ、望乃は僕のお姉さんだね!」
「あら、私も仲間に入れてくれるの?ありがとう!じゃあ、縁は私のかわいい弟ね」
望乃はそう言うと縁の頭をなでた。縁は嬉しそうに笑っていた。
「なぁ、縁、お前は本当に自分で自分を傷つけたのか?」
極夜が突然話し出した。縁は極夜を見て、少し考えているようだったがすぐに答えた。
「うん。たぶん・・。僕ね、あんまり覚えてないんだ。とにかく自分が怖かった。だから、自分を抑えようと思って、必死に歯を食いしばったし、痛みで気を紛らわそうと思って、あっちこっち引っ掻いたりした・・・と思う」
「じゃあ、死魔が音波の部屋にどうやって入ってきたのかもわからないのか?」
「うん。気がついたらここにいたから、それまでの事は何も覚えてない・・・」
「そうか。死魔って一体何がしたいんだろうな。なんで音波のことは消したくせに、縁のことは助けたんだ」
「確かにそうだよね。死魔、が僕を魔界から連れ出してくれなかったら、僕はどうなっていたのかわかんないよ。極夜にも二度と会えないところだった」
「なんで死魔は俺のところに縁を連れてきて、助ける方法まで教えたんだ。一体なにがどうなってんだ。魔羅は一体なにを考えてる!」
極夜は拳を強く握った。それを見た望乃は暗い顔をしていた。それに気づいた縁が望乃に声をかけた。
「ねぇ、望乃。望乃は極夜から悪魔の事とか何か聞いたの?」
「いいえ。何も聞いていないわ。極夜も話したくなさそうだったし・・・。無理に聞いてもしかたがないから」
望乃は微笑みながら縁に言った。
「そっかぁ。あのね、死魔っていうのが悪魔を消してしまうやつなんだよ。それで、魔羅様っていうのが悪魔の中の悪魔。悪魔の王なんだ」
「そうなの。じゃあ、さっきから話に出ている音波って人は誰なの?」
縁は一瞬悲しい顔をしたが、すぐに答えた。
「音波はね、僕と極夜の友達だったんだ!すごく優しかったよ。優しくてね、僕たちを守ってくれたんだ」
縁は話始めは明るかったが、段々と涙目になった。
「縁、泣かないで。そう、あなた達のお友達だったの。その人が死魔という悪魔に消されてしまったの?」
望乃は縁の頭をなでながら、極夜を見て聞いた。
「ああ、そうだ。俺を守って死魔に消された。それを命令したのは間違いなく魔羅だ。だからわからないんだ。音波を消して、縁を助けた意味が」
「そう・・・。でも、わからないことをいつまでも悩んでいても仕方がないわ!今は縁が無事に目覚めたことを喜びましょう!あんなに心配していた縁が目覚めたんですもの!本当によかったわ!」
望乃は縁を抱きしめた。縁は恥ずかしそうだったが、とても嬉しそうにしていた。
「お祝いをしたいけど、悪魔は何も食べないし、飲まないんでしょ?どうやってお祝いしようかしらね」
「お祝いなんて、僕初めてだよ!お祝いって人はどうやるの?」
「そうねぇ、あんまり私もしたことがないから偉そうに言えないんだけど、ごちそうを食べたり、ケーキを食べたり、かしら。そうだ!縁、もしよかったら、刺繍のハンカチなんてどう?私が作ってあげるわ!でも、男の子だしそんなのいらないかしら」
「僕、欲しい!物なんて1回ももらったことないんだ!嬉しいよ!」
「そう?じゃあ、縁の好きな刺繍で作ってあげるからね!」
縁と望乃が楽しそうに話をする中、極夜はずっと考えていた。死魔のこと、魔羅のこと、そして言い伝えのこと。自分が夢魔である意味を考えていた。




