第12章 悪魔の性
驚いている縁に極夜は望乃のことを話し始めた。
「なんか、よくわからないんだが、こいつには俺たちの姿も見えるし、話もすることができる。それに、俺たちにさわれるんだぞ。それで縁の傷も治すことができたんだ。でも、こいつよくわかんないんだよな。俺たちが悪魔だって言っても怯えるわけでもなく、お前の手当てまでするし。俺は未だにこいつのことがわからん」
極夜はため息をついた。縁は後ろにいる望乃を見て、まだ信じられないようだった。望乃は縁を見つめ微笑んだ。
「初めまして、縁。私は望乃っていうのよ。よろしくね」
望乃に話しかけられ、縁はビクッと体を硬直させた。そして、極夜を激しく揺すりながら怯えた目で言った。
「極夜!はやく違うところに行こう!はやく!!」
極夜は縁のようすに驚いた。
「なんだよ!どうした!」
「いやだ、いやだよ!僕、怖い!」
「縁、私はあなたに何も怖いことなんてしないわ。大丈夫よ。安心して」
望乃は縁を刺激しないように、その場に立ったまま声をかけた。縁は極夜につかまったまま、怯えるように望乃を見て言った。
「だ、だって、さっきの話、聞こえてたでしょ・・・?」
「ええ、聞いていたわ・・・。縁、ごめんなさい。2人を見ていたらこの場を離れられなくて・・・」
「そうじゃなくて、話を聞いてたんでしょ?僕は人を殺したんだ。殺したんだよ!!」
縁の体がまた恐怖で震えだした。それに気づいた極夜は縁の腕をつかんだ。
「縁、落ち着け。落ち着けったら!」
縁は極夜の言葉を聞いていなかった。ただ怯えるように望乃を見ていた。望乃は縁を見つめたまま、ゆっくりと話し出した。
「縁が誰かを殺めてしまったのは聞いていたわ。でも、それを後悔しているのも聞いていた」
「後悔したって、どうにもならないんだ!それに、もう一人の僕がいつまた動き出すかわからないんだよ。そうなったら僕は真っ先にあなたを殺すことになる!」
「そうね、そうかもしれない。でも、私はたとえ縁に殺されてしまったとしても、縁を恨みはしないわ。でも、縁はきっと後悔するでしょう?私は、縁にこれ以上そんな思いはさせたくない。だから、私は殺されないように気をつけるわ」
望乃は縁に微笑みかけながら言った。
「なんで?なんでそんなことが言えるの?僕はもう嫌なんだ。絶対にもう人を殺したくない。それに、それに、あなたの前にいるのも嫌なんだ。僕のことが見える人間なんて・・・」
「縁は本当はしたくないことをしてしまったのよ。私を見てその後悔を大きくさせることはないわ。縁は、本当に優しい子。自分の感情とは別のものを生まれ持ってしまったのに、それに立ち向かい、あんなに傷だらけになりながら戦ったのよ」
望乃は悲しい目で縁を見た。
「前に極夜が言っていたの。悪魔は人を苦しめるために存在してるって。私にはよくわからないけど、きっとそれが悪魔の性なのよ。私は、悪魔が人に対する感情を否定する気も、拒絶するつもりもないわ。人は人の好きに生きているもの。悪魔だって悪魔の生き方で生きる権利はあると思う」
望乃は縁にそっと近づき優しく頭をなでた。
「人を苦しめ、殺めることが悪魔の性だとしたら、縁が人を殺めてしまったのも、悪魔として行動した結果だと思う。だから、縁がそこまで自分を追い詰めなくてもいいと思うわ。縁はこんなにも後悔しているんだから」
そう言うと縁に微笑んだ。縁はじっと望乃を見つめたまま動かなかった。
「なっ?訳がわからないだろ?俺にはこいつが何を言ってるんだかまったく理解できない」
極夜が望乃を見ながら言うと、望乃は極夜を見て微笑んだだけだった。
「なぁ、縁、どうする?ここが嫌だったら、違うところへ行こう。お前も元に戻ったんだ。光の場所にはもう用はない」
縁が極夜を見て、不思議そうに言った。
「光の場所って?何のこと?」
「俺にもよくわからないんだ。縁に魔笛を吹いてから半年くらい過ぎたころに、いきなり死魔が現れた。そして死魔はお前を連れてたんだ。俺にお前を投げてよこすと、縁の心は死にかけてるって、縁を元に戻したいなら光の場所を探せって言われてさ」
「なにそれ?」
縁は首をかしげた。
「意味がわからないだろ?俺も死魔が何を言ってるかわからなかった。だけど、とにかく光の場所ってところを探そうと思って飛び回ってるうちにここにたどり着いたんだ。縁も感じないか?ここは人の闇がまったくない。人間界にあるはずの闇が、まったく漂ってないんだ」
「うん、僕もなんか変な感じしてた。すごく穏やかな気持ちになれるね!」
「俺は居心地悪いったらないぞ。あんまり長居はしたくないな。なぁ、縁、違うところに行こう。お前が人間に近づきたくないなら、人気のないところを探すからさ。もう少し、闇の濃いところに行こうぜ」
縁は極夜を見てから、望乃のほうを見た。そして、気まずそうに口を開いた。
「あの、あのさ、もう少し、ここにいてもいい?」
縁は気まずさから望乃を直視することができず、目を伏せていた。そんな縁に望乃はにっこりと微笑み答えた。
「ええ、いいわよ。ここでよかったら好きなだけいてちょうだい。私もまた一人になるのは寂しいしね!」
縁は喜び、にぱっと笑い極夜を見た。縁の目を見て、極夜はもう諦めた。
「わかった、わかったよ!縁の好きにしろ」
縁は嬉しそうに笑った。




