第6章 手当て
極夜は縁が眠っているのを見て、縁が闇に戻ってしまうと思った。しかし、今のところはそんな様子もなく、縁はぐっすりと眠っていた。
縁が闇に戻ってしまわなくて本当によかった。このままいなくなってしまうかと思った・・・。でも、何で闇に戻らないんだろう。悪魔は自分の中の闇が尽きると、眠くなる。人間界で眠くなると悪魔はただの闇に戻ってしまうはずなのに。縁の中の闇がまだ尽きていないということなのか・・?それとも、光の場所と何か関係があるんだろうか。
極夜はそっと縁の頬に触れた。すると、少し温かくなっていた。縁のぬくもりが戻ってきたことに安心した極夜は縁の手を握った。
「ねぇ、少しは落ち着いた?」
極夜の後ろに立っていた少女が声をかけた。極夜はまだ少女のことがわからず、睨みつけた。
「そんなに睨まなくても、私は何もしないわ」
少女は優しく微笑みながら極夜に言った。
「あなた、ケガをしたことがないって言ってたけど、治し方は知ってるの?」
極夜はもうこの少女と話をしたくなかった。何をどう話したらいいかわからなかった。極夜は何も答えず少女から目をそらした。すると、極夜の態度で少女が怒りだした。
「ちょっと!私の話聞いてる?あなたは治し方を知ってるの?知らないの?どっち!?」
少女は極夜に顔を近づけながら詰め寄ってきた。極夜は驚いたが、口は開かず、目をそらしたまま首を横に振った。
「そう・・。でも、傷をそのままにしておくのは良くないと思うの。悪魔の事はわからないけど、人間がケガをした時のように手当てしてあげてもいい?今のままじゃ、あまりにも可哀想だわ」
少女が心配そうに縁を見た。その少女の目を見た極夜は、少し警戒を緩めた。縁を見ると、確かに体中が傷だらけで痛々しかった。
「人間の手当てって何をするんだ?」
極夜は縁の傷を治してやりたいと思ったが、少女の事はまだ信用できなかった。極夜が疑うように少女を見ると、少女はにっこりと笑った。
「何も痛いことはしないわ。この子の傷をタオルで拭いて、薬草を塗るの。そして、きれいな布を傷に貼るのよ」
「それで治るのか?」
「ん~、人間はこれでだいぶよくなるけど、悪魔にも効くのかしら・・。とりあえず、やってみましょう!やってみないことにはわからないわ!」
極夜の答えも聞かず、少女はいきなり腕をまくり、またタオルを濡らし、縁に近づいた。極夜はもう邪魔する気はなかった。少女が手当てするのを黙って見ていた。
「あなた、この子の事がとても大切なのね」
少女は縁の腕の傷を優しく拭きながら極夜に言った。極夜は返事をしなかった。それでも少女は、ふっと微笑むと言葉を続けた。
「あなたを見ていればわかるわ。悪魔って言われて最初は驚いたけど、この子の為に必死になってるあなたを見たら、そんな事どうでもよくなってきたわ。この子の傷、早く治るといいわね」
少女は手を休めず縁の傷を拭き、次は薬草を塗り始めた。極夜は驚き、つい話しかけてしまった。
「おい、そんなもの塗って本当に大丈夫なのか?」
少女は驚いた顔をしたがすぐに笑った。
「あら、大丈夫よ!少し匂いはきついけど、すっごく効くんだから!本当にこの子が心配なのね。ねぇ、私もこの子を縁って呼んでもいい?この子、縁っていうんでしょ?」
極夜は何も答えることができなかった。人間に名前を呼ばれるなんて想像もできない。縁の名を人間に呼ばれるのも嫌だった。
「もう決めた!縁って呼ぶわ。いつまでもこの子じゃ、話しにくいもの。早く縁の傷がよくなりますように」
少女はそう言いながら、縁に布を貼っていた。
「さぁ、これでいいわ!本当に早くよくなるといいわね」
手当てが終わり少女が言った。極夜は手当てが終わった縁を見て、なぜだかとても安心した。あの見るたびに痛々しかった縁の傷が、布を貼られただけなのに本当に治るような気がした。早く手当をしたいと言っていた少女の気持ちがなんとなくわかった。
少女は縁の頭を優しくなでると、極夜のほうを見た。
「私、まだ自己紹介してなかったわね。私の名前は望乃。あなたの名前は何ていうの?」
極夜は答えようか迷った。しかし、やはり嫌だった。答えない極夜を見て、少女はそれ以上何も言わず、手当て道具を片付けながら言った。
「まぁ、無理には聞かないわ。でも、そのうち教えてね」
少女は極夜に微笑んだ。
「この家には私一人なの。だから、何も気を遣わなくていいわ。縁が気がつくまでここにいていいからね」
少女はそう言うと部屋を出て行った。
極夜は出て行くつもりはなかった。ここが光の場所だと確信していた。そして、縁の頭をなで、つぶやいた。
「縁、ここが死魔の言っていた光の場所だぞ。これでお前は元に戻るのか?なぁ、縁、早く目を開けろ」
すると、突然望乃が部屋に顔を出した。
「ねぇ、お腹すかない?昼ごはんも食べないまま、もう夕方よ。あなたも何も食べてないんでしょ?」
「悪魔は腹は減らない。何も食べない」
極夜は望乃のほうも見ず、ぶっきらぼうに答えた。
「あら!そうなの!悪魔の体って便利ね」
望乃はそう言うと、さっと頭を引っ込めた。極夜は望乃とどう接していいか未だにわからず、ため息をついた。




