第4章 戸惑い
極夜の部屋は寝るための台が真ん中にあるだけで他にはなにもなく、部屋全体が血のようなどす黒い赤だった。極夜と世話を任された悪魔の2人が部屋に入ると極夜は台に座り、目の前に椅子を1つ出した。悪魔は出された椅子におどおどしながら座った。
ここで初めて極夜は悪魔の事を正面から見た。髪は茶色、目はクリクリと子犬のようだ。体もまだ成長しきっていない子供のようで、160cmもないだろう。本当に悪魔なのか疑いたくなる容姿だ。
極夜は見れば見るほど目の前にいる者が不思議でじっとただ見つめていた。その様子を見ていた悪魔が先に口を開いた。
「あの、・・・やっぱり僕っておかしいですか?」
うつむいて気まずそうに悪魔が言った。
「あ~、いや、お前なんて名前だ?」
「縁」
「よすが、か。俺は極夜だ。百鬼にはどこまで教わった?」
縁が大きい目をさらに大きくして驚いた表情をしたので、極夜はすぐに言い直した。
「百鬼様にはどこまで教えてもらった?」
「え~と、あの・・・え~と」
縁は目を泳がせながら焦っていたが、極夜はただただ驚くばかりだった。こんな悪魔は他にはいない。皆ふてぶてしく、いつでも喧嘩腰に話をする。まるで人間のような雰囲気さえ感じさせる。これは百鬼が変わってると言うだけあるなと思った。
「イラつかせるな、はっきり話せ。」
「はいっ!申し訳ありません!百鬼様には何も教えてもらっていません!」
「何もってことはないだろう。3日はあいつといたんだろ?」
「いえ、百鬼様にお会いしたのは1日だけで、あとは自分の部屋から出るなと言われていました。お会いした時も、百鬼様はただ僕を見ていただけでしたし。僕が口を開くと、その、不思議そうな顔をしたり、怒ったような表情をするだけで、特に何も話していません・・」
語尾をだんだん小さくしながら気まずそうに縁は言った。
もう極夜はなにから話していいかわからなくなっていた。極夜も生まれてから教育という教育をされたことがない。今思い返せば、百鬼には何も教えてもらえず、ただ悪魔の中に放り出され、戸惑っているところを音波に助けられた。この時から音波にはなんでも話すようになったのである。
極夜は音波を呼ぼうか迷ったが、音波になんて説明するか考えただけでめんどくさくなったので呼ぶのはやめた。
「いいか、まず、俺たち悪魔は闇でできてる。人の負の闇だ。悪魔は元はただの闇だが、魔羅様がその闇で俺たち悪魔を作ってくださる。そうして生まれた悪魔は魔界四魔の誰かに預けられ、教育をうけて、人間界に行き、人を闇に染める。その闇は魔羅様のもとにいき魔界の力になる。人間界では小悪魔をうまくつかえばなんとでもなる。魔界の中は勝手に回ってこい。これがすべてだ。わかったか?」
極夜は早口で話し終えると、台に横になり、速く出て行けとばかりに部屋を開けた。しかし、縁は動かなかった。こぶしを固く握り、歯を噛みしめたまま黙って座っていた。
「何してる。もう話すことは話したぞ。出ていけ。」
それでも縁は動かない。
極夜は起き上がりながら怒鳴った。
「さっさと出ていけ!」
縁は震え下を向きながら声を絞りだすようにつぶやいた。
「僕が皆と違うから、そんな風にしか話してくれないんですか!僕は・・僕は・・」
極夜はなんと言っていいかわからず縁を見つめた。
その時、後ろから声がした。
「それは違うよ。」
極夜と縁が開きっぱなしだった部屋の入口を見ると音波が立っていた。
「音波、なんでそこにいる。」極夜が言った。
「極夜の怒鳴り声が聞こえたから来てみたら、ん~と、君の名前は?」
音波が縁に少しほほえみながら聞いた。
「縁です。」縁はまたおどおどとした声になりながら答えた。
「話はわからないけど、きっと、縁が思っていることは極夜が一番わかってる。」
極夜は気まずさを隠すように椅子を出し、音波を部屋に入れた。