第5章 対処
少女は極夜の言葉を聞き、驚きを隠せず怯えているようだった。そんな少女を横目で見ながら極夜はやっと静かになったとばかりにため息をつき、縁の頭をなでた。しかし、少女は引き下がらなかった。
「ねぇ、どういう意味なの?悪魔ってどういうこと?」
極夜はまたため息をつき、少女を睨みつけた。
「だから、言葉の通りだ。お前ら人間には俺たちのことは見えないし、もちろん触ることだってできない。あんまりうるさいと、お前も殺すぞ」
少女は極夜の目を見て一歩後ろに下がったが、それでも極夜に話しかけた。
「でも、人間と何も変わらないわ。見た目だってそうだし・・・」
「どこがお前ら人間と一緒だっていうんだ!お前らと一緒にするな!!」
極夜は立ち上がり少女の目の前までゆっくりと歩み寄った。
「お前、黙って聞いてれば好きなこと言いやがって。たかが人間にここまでコケにされるなんてな」
極夜は苛立っていた。
「だって、人間と一緒に見えるんだもの!しょうがないじゃない!」
少女は目の前に立つ極夜に怯えているようだったが、その目は力強かった。少女は極夜の姿を改めて見て、ふと表情が変わった。
「たしかに、人間かと思ったけどちょっと違うみたい。耳は尖っているし、手も足のつめも鋭いのね。でも、それ以外は人間そのものだわ」
そう言うと、少女は極夜に笑いかけた。もうその顔に恐怖はなかった。極夜は少女がこんな反応をするなんて思ってもみなかった。脅そうと少女に近づいたのに、極夜は少しひるんでしまった。
「なんか、信じられないわね。悪魔だって言われてもねぇ」
少女はそう言うと、極夜を見ながら1周歩き、また極夜の目の前に戻ってきた。
「うん。やっぱり、違いがわからないわ。悪魔って人間とそんなに変わらないのね」
少女はまるで人間と話しているかのように極夜に言った。
「お前、悪魔だってわかってもそんな顔で俺を見れるのか?」
極夜は今まで人間に見られたこともなければ、話したこともない。自分の目を見つめ、話しかけてくる人間にどう対処していいのかわからなかった。人間の心に入って、囁きかけたり、自分の存在をわからせたりするのと、直に話すのとではまったく違う。いつもは心の闇に入り、人間を自分の好きに操ることができた。自分の思うように考えさせ、自分の思った通りに行動させることができた。常に人間に対して、自分は優位に立っていた。それが、人間に見られているというだけで、極夜はどうしていいのかわからなかった。悪魔は人間に気づかれないからこそ、自分の好きに操ることができる。しかし、今の状況では極夜ができることは何もなかった。ただ、脅したり、睨みつけることしかできなかった。
なんなんだ。一体こいつをどうしたらいい。
極夜の頭の中はもう混乱しきっていた。
俺は人間に見られたら、何もすることができないのか・・・
極夜はどうすることもできず、ただ少女を見つめていた。そんな極夜を少女がどう思ったのかわからないが、極夜に優しく微笑んだ。
「悪魔だって言われても、私にはよくわからないわ。人間には姿が見えないって言ってたけど、私はその姿を見ることができるしね。とにかく、あの子の手当てをしてあげたいんだけど、いいかしら?」
少女は心配そうに縁を見つめた。
「お前は俺たちが悪魔だとわかっても、そんなに心配そうな顔をするのか?」
極夜は少女にどう対応していいのかわからず、もうボーっと見つめていた。
「それは、だって、あんなに傷だらけの子を見たら放ってはおけないでしょう?悪魔にも薬草って効くのかしら。あなたたちはケガをしたらどうするの?」
少女は極夜が放心していることなど気にしていないように聞いた。
「俺たちは普段ケガなんてしない。俺はしたこともない」
「あら、そうなの!?悪魔ってすごいのね!でも、じゃあ、なんであの子はあんなに傷だらけなの?」
少女は心配そうな、不思議そうな顔をしていた。
極夜は悪魔がケガをするということさえ知らなかった。人間界では飛んでいればすべての物を通り抜けられるし、降り立つのは屋根や部屋の中だけだった。魔界でも悪魔同士は殴り合いなどしない。言い合うだけだ。だから、極夜はケガというものがわからなかった。悪魔の血を見たのも初めてだった。
極夜は縁の傷がどんな風になっているのか見ようと、ベットに近づいた。すると、縁の目が閉じていたのだ!慌てた極夜は縁のベットに駆け寄った。
「縁!おい!目を開けろ!寝たらだめだ!!」
極夜は縁を激しく揺さぶった。しかし、少女がそれを止めさせようと極夜と縁の間に入ろうとした。
「ちょっと!何してるの!寝かせてあげなさいよ!」
「何も知らないくせに、黙ってろ!」
極夜は少女を力いっぱい払いのけ、叫びながら縁を揺すり続けた。少女は後ろに倒れこんだが、すぐに起き上がり、次は少女が極夜と縁の間に力づくで入り込み、縁から極夜を遠ざけた。
「何すんだ!お前はひっこんでろ!縁が、縁が、消えちまうじゃねぇか!!」
極夜は必死だった。それを見た少女は極夜を落ち着かせようと微笑みかけながら言った。
「大丈夫よ。あなたが何を言っているかはわからないけど、この子を見て。とっても気持ちよさそうに寝てるじゃない」
極夜は少女の言っていることがわからず、縁に近寄り、次は落ち着いて縁を見てみた。すると、確かに気持ちよさそうに眠っていた。寝ているのに闇に戻りそうな気配はない。安心した極夜は倒れこむように膝をつき、縁のベットに寄りかかった。
少女は極夜と縁を微笑ましそうに見つめていた。




